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『母と子、距離は近くて遠い 』
赤羽根・灯5251)&赤羽根・円(7013)&黒崎・潤〈暗黒騎士化〉(NPCA051)

 彼女達の距離は誰よりも近い。
 だけど『心』がそこに無いだけで、距離は果てしなく遠い。
 捕えられた娘、助けようとする母。
 平行線のように違う道を行く二人が交わる時は来るのか‥‥?

「ふぅ、寒いな‥‥流石にクリスマスが近いと寒さも酷い」
 呟きながら赤羽根・円はタクシーから降りて、体を掠める冷たい風に身震いする。
「それにしても灯は何をしてるんだ、電話しても出ないし‥‥」
 円はため息混じりに携帯電話で再び娘である赤羽根・灯に電話をするが相変わらず灯が電話に出る事は無かった。
「今日、私が来る事は伝えてあったのに‥‥バイトで遅くなってるんだろうか」
 円は多少の不安を拭い去れぬまま、灯の住んでいるマンションの部屋へと向かう。バイトで遅くなった時の為に、灯は円に部屋の合鍵を渡していた。
「バイトで疲れて帰って来るだろうから、温かい昆布茶と持ってきた和菓子で疲れを取らせてやろう」
 ふふ、と円は笑みながら合鍵を使って灯の部屋の鍵を開けて部屋へと入る。
「‥‥? 何だ、この妙な感じは‥‥」
 部屋に入ると同時に感じる違和感、それと体を襲う不吉な何かに円は浮かべていた笑みを止めて厳しい表情へと変えた。
 誰かが部屋に侵入しているのかもしれない、円はそう思って警戒を強めながらゆっくりと一歩、また一歩と歩いていく。
 そして円の視界に入った者――――それは。
「灯!!」
 パソコンの前で倒れている我が子を見つけて、円は慌てて駆け寄る。
「灯、灯! しっかりしなさい、灯!」
 何度呼びかけても意識を取り戻さない灯に円は体中が冷えていくのを感じる。
(もしかしたら目を覚まさないのではないか)
(何があってこんな事になっているのか)
 円は一度大きな深呼吸をした後、灯の様子を見てみる。何時から倒れているのか分からないが、血色が悪い様子は無い。ぐったりとはしているけれど、何処かが悪そうにも見えない。
「‥‥‥‥眠ってるみたいだ」
 ポツリと円は呟く。まるで眠っているような灯に円は余計に怖くなった。
「灯、目を覚ますんだ、灯っ!!!」
 灯を抱きしめながら円が叫ぶが、灯の意識は遠い場所にある事をまだ彼女は知らなかった。

※※※

「‥‥はぁ、此処も鍵が掛かってる」
 灯はため息混じりにドアノブを回しながらガチャガチャと寂しい音を聞いて肩を竦ませながら呟く。
「まだ逃げようとしているのか? 無駄な足掻きが好きだな」
 ドアノブを回している灯を見ながら嘲笑うような口調で黒崎が話しかける。その手には果物など食べ物が綺麗に盛られた皿を持っている。
「食べろ、腹が減る頃だろう」
 黒崎が差し出してきた皿を灯はチラリと見た後、ぷいっとそっぽを向いて「いらない」と短く言葉を返した。
「やれやれ‥‥衣類も与えた、食料も与える、何が不満だと言うんだ」
 黒崎がため息混じりに呟くと「私は帰りたいって言ってるでしょ!」と灯は黒崎に食って掛かるように大きな声で叫ぶ。
「何度言ったら分かる? ‥‥それ『以外』なら何でも与えると言っている」
 黒崎の言葉に「何で私なの? キミは何をしようとしているの」と灯が問いかける。
「何をしようとしているか‥‥‥‥いや、今は話す事ではないな。そのうち嫌でも分かる」
 黒崎は少し考えるような素振を見せた後に何事も無かったように言葉を続ける。
(「‥‥まともに話を聞いてくれない、ならばやっぱり逃げ道を探すしか‥‥」)
 黒崎が部屋を出ようと背中を向けている時、灯は心の中で呟く――が、部屋から出る前にぴたりと足を止めて黒埼は灯の方を向き直る。
「分かっていると思うが、あんたの『朱雀』は僕が封じている。能力なくしてこの間のように暴れる事は出来ないだろう、くれぐれも軽率な行動は慎むんだな」
 黒崎はそれだけ言い残すと「少し部屋を外す」と言葉を付け足して部屋から出て行った。その姿を見て灯は悔しそうな表情をしながら手近にあったクッションを取って黒崎の出て行ったドア目掛けて投げつけた。
 だけど目的の人物にクッションが当たる事はなく、クッションはドアにぼすんと音を立てながら当たると、そのまま床へと落ちていった。
「‥‥こっちに来てから日付感覚も分からなくなったし、どうすればいいのかな‥‥」
 灯は呟くとベッドに身を投げ出して真っ白な天井をジッと見つめていた。
(「逃げ出したいけど、どうやって逃げ出せばいいか思いつかない。朱雀の力に頼り捨て板つもりは無いけど‥‥朱雀の力が無くちゃ何も出来ないなんて」)
 はぁ、と大きなため息を吐いて逃がした火の鳥の事を灯は考えていた。
 もしかしたら、誰かの元へ届く前に消えてしまったかもしれない。
 もし、誰かに火の鳥が届いていても――相手が分かってくれるとは限らない。
「そもそも何で私がこんなに悩まないといけないの? 勝手に連れられて困っているのは私なのに‥‥」
 考えていけば沸々と怒りがこみ上げてきて可愛いレースが使われた枕をボスンと一度だけ殴る。
「‥‥窓も格子つき、ドアは鍵が掛けられているし‥‥出られる所はない――でも何か考えなくちゃ」
 何をされるのか、何の為に自分がここにいるのか、それすらも分からないけれど『此処にいてはいけない』と自分の本能が告げてくる。
「おい、娘! ちゃんといるんだろうな」
 見張りらしき人物がドア越しに話しかけてくる。
「‥‥いるのかいないのか返事をしろ! 黒崎様は出かけているんだ、何かあったら俺のせいになるんだからな」
 所詮は雑魚、余計な事をぺらぺらと話してくれる。黒崎が居ないと言う事を知った灯は「痛いっ!」と悲痛な叫び声をあげる。
「ど、どうした!」
 灯の言葉に驚いた見張りが慌ててドアを開けて入ってくる。
「いらっしゃいませ」
 灯は手に持っていた花瓶で見張りを殴りつけて、外へ出る為に雑魚達に見つからないようにひっそりと走っていく。
「あぁもう、こんな服なんて着たくないって言ったのに」
 黒崎に「着ろ」と言われて着替えさせられたドレスが走るのには邪魔でふんだんに使われたフリルで躓いてしまいそうだった。
「やった‥‥もう直ぐ外!」
 灯は喜びを隠し切れない様子で門へと走る、しかし外に出た時に頬を掠める風に大事な事を思い出した。
「‥‥朱雀の力、奪われたままだ――このままじゃ、帰っても私は朱雀の力を失ったまま‥‥」
 そう、灯は黒崎によって朱雀の能力を封じられている。つまり黒崎が解除しない限り封印が解けて灯の元へ朱雀の能力は戻ってこない。
「まさか、この事も見越して朱雀の力を奪ったって言うの‥‥?」
 ぎり、と灯は唇をかみ締めながら「まだ、出て行くわけには行かない」と呟いて部屋へと戻っていったのだった。

※※※

「灯‥‥」
 そして現実世界では円が眠ったままの灯をベッドに横にさせて頭を抱えていた。
 もしかしたら目を覚ましてくれるかもしれないという淡い期待を抱いていたが、その期待は脆く砕かれた。
 その時、微弱な朱雀の力を感じて円は勢いよく立ち上がり、その弱々しい朱雀の力の元へと早足でいく。
 その場所は灯が倒れていたパソコンからで「‥‥何でこんな所から朱雀の気配が」と円は呟きながらパソコンを覗き込む。
 すると――灯のパソコンから弱々しく飛んでくる火の鳥が視界に入ってくる。そして火の鳥は円の手に触れるとそのまま消えてしまう。
「‥‥パソコンから灯の鳥が‥‥それに感じ取るのも難しいくらい微弱だった‥‥灯に何が起きてるんだ‥‥」
 円は眠る灯を見ながら嫌な事ばかりが頭に浮かんで、それらを振り払うかのように頭を振ってバッグの中から携帯電話を取り出した。
「私ではどうにも出来ない‥‥母親なのに」
 円は悔しそうに表情を歪めると、携帯電話の電話帳を開いてカーソルを合わせて通話ボタンを押す。
「‥‥もしもし、私だ――夜遅くにすまない‥‥今、話しても大丈夫か?」
 円が電話相手に問いかけると、相手から了承を得て「実は‥‥」と話し始める。

「灯が、私達の娘が何かに巻き込まれている」


TO BE‥‥?


――出演者――

5251/赤羽根・灯/女性/16歳/女子高生&朱雀の巫女
7013/赤羽根・円/女性/36歳/赤羽根一族当主

―――――――

赤羽根・灯さま
赤羽根・円さま>

こんにちは、水貴透子です。
今回はシチュノベ(ツイン)のご依頼をありがとうございました!
毎回、楽しくプレイングを拝見させていただいております。
内容はいかがだったでしょうか?
ご満足いただけるものに仕上がっていれば幸いです。

それでは、またご機会がありましたらご用命くださいませ。
その時は一生懸命執筆させていただきます。
今回は書かせて頂き、ありがとうございました。

2009/2/27
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
水貴透子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年02月27日

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