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『■激走! 障害物競走 』
千影・ー3689


 スポーツ大会といえば、スポーツと名のつくものならばどの競技もねじ込‥‥げふんげふん、執り行ない、競い合う事のできる大会である。かつては多くの小中学校で運動会と呼ばれ、今また呼び変えられたその名‥‥スポーツの祭典の競技から、世界大会まで行われるようなスポーツ種目までさまざまに‥‥そらもうごった煮に、なんでもチョイスできる便利な大会。
 そんなスポーツ大会に出場する選手たちの前に、新たに登場した関門は‥‥これだぁぁぁぁぁっ!!


 目の前にそびえる数多くの障害を乗り越えてたどり着いたゴールこそ、真の栄光を冠されるという‥‥障害物競走である。
 障害物の内容は以下3種。

(1)ネットとか色々越えますってか、くぐります
 コース内の地面の上に網が広げて置いてあり、その網の下を潜り抜けていくという至ってシンプルな障害である。競技者は、その網と地面の間を進まなくてはならない。コースを覆うほど大きい網であるため、全体を持ち上げるわけにはいかず、目が粗いので体が網にからまってしまうちょっと大変な障害。からみつく網をよけつつ進んでネ♪

(2)落とさず、運んで、例のブツをっ!!
 コース中にスプーンが置いてあるので、スプーンを使って決められた区間とあるものを落とさず運んでもらう競技。
 ポピュラーな鶏卵、ピンポン球から果ては、落とすと危険な物品まで、組み合わせはさまざま。出発する時に、自分で決めた番号(1〜6の選択制、選択しないとランダムさっ)が書かれた箱の中の物を運んでもらう事になります。落としてしまった場合は落とした地点からやり直しダゾ☆

(3)飴玉探して、パン食って
 コース上に、小麦粉か片栗粉で満たされた深めのトレイが設置されている。競技者はその中から飴玉を探しだし、ゴールに持ち帰る。
 飴玉を取るのに手を使っちゃいけないのはお約束☆
 テラスポでは、粉に息を吹きかけて飛ばして探すのは販促だぞっ!
 顔が真っ白けで昔の「おじゃる〜」という貴族っぽくなるのが嫌な競技者には、コース途中に吊り下げられたパンをゲットする方を選んでも可。
 パンを取る際に手を使ってはダメなのは、飴と同じ。パンをつるす高さは、走者が直立した状態でわずかに口に届かない程度に設置されてるのもお約束♪
 飴かパンか必ず口に入れて頂戴っ!



 どの競技かに全てを賭けても良い。
 平均的にこなしてもいい。
 自分が熟くなれる思いと覚悟と信念を胸に、いざ、スタート!!


●スタート前の。。。
 軽快なBGMが流れるグラウンド。次の競技は障害物競走だ。
 出場者達は、トラック内への入場に備え整列していた。
 その中に、障害物競走に向けて張り切っている少女がいた。千影である。
 もうすぐ競技が始まるアナウンスが流れるのを聞きつけ、千影はよしっと気合を入れて‥‥決めた事があった。
「チカはにゃんこでいくの!」
 千影がくるりんと身を翻すと、可愛らしい少女の姿が忽然と消え去る。
 代わりにその場に現れたのは、翼の生えた黒い子猫だった。「うにゃん♪」と、同じレース出場者に尾を揺らす。
 その愛らしさに、レース前にも関わらず、ほんわり笑顔になって緊張が解れる出場者がちらほらと。けれど、心動かされるわけにはいかない人もいた。
「いやいやいやっ、ダメだよ。何でもありなのが、テラスポの良いところだけど、この障害物競走は皆人型で一応揃えておかないと‥‥」
 公平さもさることながら、競技そのものがなりたたないのだろう。
 進行役の係員の説明に、千影はあっさりと頷き、くるんと巻く黒髪が愛らしい少女の姿に戻った。
「わかりましたなの〜」
「うん、それじゃそのままで競技スタートまで待っててね」
 聞き分けよく千影が頷く。係員は安心したように干影に笑み返すと別の参加者達へまた別の注意に行った。


●れっつスタート
 ――パァン!
 青空の下、スタートを告げる乾いた音が響く。
 一斉にスタートした出場者の中で、真っ先に最初の障害に挑み始めたのは千影だった。
 瞬発カ抜群な千影は、もともとの素養もあるのだろう‥‥あっという間にネットの海にダイブした。
 あとからもぐり始めた出場者の体格差は様々で、大きな者が進むために網を掻き分けるたびに、コースを覆う網が大きく蠢き、他の参加者が絡めとられていく。
「おっさき〜♪」
 先んじていた千影は比較的あっさりとクリアし、スプーンが並ぶ場所まで駆けていく。
 並べられていたのはカレーライスなどを食べるような普通の大きさのスプーン。
 スプーンを取り、並べられていたカードのうちの1枚を手に取った。
 くるりと返すとそこに書かれていたのは‥‥
「ラッキーね、比較的簡単よ。はい」
 係員がにっこり笑顔で渡してくれたのは、鶏卵だった。ただし生なので落としてしまうと大変な事になる。追いついてきた他の出場者などは、お約束のピンポン玉だったり、うずらの卵だったり‥‥バスケットボールだったり、ダチョウの卵だったり、ら(略)だり。
 重さや軽さに声にならない悲鳴をあげながら運ぶ人達を横目に、干影は鶏卵をスプーンの上に乗せる。
「あら上手。頑張ってね?」
「チカ、まだまだいけるよー?」
「え?」と係員が止める間もなく、某雑技団も真っ青な妙技が繰り出された!
 乗せるのは1つでいいのに、幾つも重ね、ゆらゆらとゆれる揺らぎすら干影には関係ない。絶妙なバランスだった。
 コースの周囲に座る観客からの拍手喝采。
 皆が喜んでくれるのがちょっと嬉しくて更に重ねようとした千影に、慌てた係員の声が掛けられた。
「あなた! 早く行かないと!!」
 係員が示す先を見ると、次々と先に進んでいる他の参加者達。
「‥‥あれれ、チカおいてかれちゃった?」
 ぱちぱちと瞳を瞬かせ干影は、はた、と我に返った。
 ひょいと手首を返し、余分な鶏卵をスプーンを持つ手とは逆の手で掴むと、中空を転がすように係員へ戻してやって、次の障害目指して走り始めた。
 先ほどの技を持つ千影には1つだけ乗せて走ることなど造作も無い。
 観客たちは、自分たちを魅せてくれた少女へ次々と応援の声を投げかけた。


●分かれ道に彼女は‥‥そして
 スプーン運びをクリアした千影は、岐路に立っていた。
 事前に心の中で選択をしていても、いざ目の前に立つと迷うのが人というもの。その一瞬の躊躇いが秒単位で遅れに‥‥という人々を横目に、千影はあっさり選んだ。
 選ぶというより目標一直線。まさに猫まっしぐらな先は、パン食い競争ではなく飴拾い。
 白く染まる事に躊躇うことなく、潔いまでにばふっとバットの中に顔を突っ込んだ。
 ぼふぼふ。もがもが。
 格闘する事しばし、顔を上げた千影は真っ白に染まっていた。
「チカ、白ネコさんになっちゃった?」
 元々白い肌の持ち主だったが、艶やかな黒髪まで舞い上がった小麦粉で白く染まっている。
 ふるふると頭を左右に振って粉を落としながらも再び走り出した干影の口の中には、お目当ての甘い飴がしっかり入っていた。
「苺ミルクとべっこう飴〜、甘くておいしいの♪」
 1つで良かったのに、しっかりとお目当ての甘い飴を両頬に1つずつ。まるでご飯を蓄える栗鼠のように2つの飴玉を口の中にゲットしていたのだった。
 粉の中にも拘らずの鼻のよさは流石だった。効率よく、しかも好きなものをゲットした干影は、ご機嫌でるるんたと残り僅かなトラックを駆け抜けていく。
 小さな身体で、ちょこまかと元気にトラックを走りぬけた千影がゴールヘ駆け込むと、迎えてくれたのは見ていた観客から温かな拍手だった。
「うにゃんv」
 拍手に応えるように、にっこり笑った千影は、見事入賞を示す旗を手にくるりとターンを決めてみせるのだった。

 fin。。。


●参加PC
・千影
TSF・PCスポ魂ノベル -
姜 飛葉 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年12月04日

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