▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『誰がために学ぶ』 』
ウィノナ・ライプニッツ3368)&魔女(NPC0734)

「明日からよろしくね。迷惑かけてごめん」
 軽く、頭を下げた。
 銀色の髪が肩からさらりと落ち、ウィノナ・ライプニッツの目に入る。
 ウィノナは郵便屋の仕事を週2,3日に減らし、残りの勤務を仲間に代わってもらうことにした。
 この髪の所為というか、お陰というか……ウィノナは、山奥で暮す魔女クラリスに弟子入りすることになったのだ。
「出れる日は数倍頑張るから!」
 約束をして、職場を出る。
 赤い光が飛び込み、ウィノナは目を細めた。
 もう夕方だ。
「急がないと!」
 夜の山道はとても危険だ。
 今日はウィノナ一人であの険しい山を登らなければならない。しかも、沢山の荷物を背負って。とはいえ、孤児のウィノナには、さほど私物はないのだが。
 大きめのリュックサックに、着替えや僅かな貴重品を詰め込んで、ウィノナは街を出発する。
 仕事をしているときはいい。
 忙しさと人との触れ合いで、自らの思いに囚われずにすむから。
 だけれど、こうして一人で歩いていると不安が押し寄せてくる。
 さほど疲れているわけではないのに、深く息を吐いてしまう。
(ボクらしくない取引内容だよね。たった5年でクラリスさ……先生すら出来ないことをしようなんて非現実的な内容)
 ウィノナは銀色の髪の情報と交換で、魔女クラリスから魔術の基礎と、人間生態学を学ぶことになった。
 興味があって望んだわけではない。
 助けてあげたい人がいた。
 何も知らなければ、きっと一生関わることのなかった世界。
 そんな困難で厳しい世界に、自分は今、身を置こうとしている。
 山麓に着いた頃には、すっかり日は落ちていた。
 ランプに火を点し、山道へと入る。
 魔術を覚えたら、ランプなど持たずに進めるのだろう。
 魔女クラリスほどの力があれば、街から屋敷まで瞬間移動することも可能だろう。
 腕に嵌められた腕輪を見た。
 自分の生命が危うくなるほどの危機に陥ったのなら、自分の体は一瞬で魔女の屋敷に引き戻されるのだという。
 クラリスにとって、ウィノナを手元に引き寄せることなど、いとも容易いことなのだ。
 しかし、現在の自分の立場では魔法で瞬間移動させてくれとは言えるわけがなく、ウィノナはこうして長い道のりを行き来しているのだ。
 ランプの光に照らされる先を、集中して見る。暗くてなかなか把握ができない。けれども、もう何度も通った道なので、目で把握できずとも、大体場所はわかっていた。
 長い山道を歩き、屋敷の門へとたどり着く。
 見上げた門は、昼間より高くみえた。
 ウィノナは額の汗を拭う。
(あんな取引をしちゃったのは……)
 ウィノナは門に手を当てた。
 ノックをする必要はない。ウィノナ自身が鍵になっているのだ。
(早く決めないと彼の自由を奪われてしまうと思ってあせっちゃったからかな……)
 一歩足を踏み入れる。
 屋敷を見上げたウィノナの瞳は真剣だった。
(でも、後悔はあまりない)
 消して破ることのできない取引だが、迷いこそあっても、ウィノナに悔やむ気持ちはなかった。
(ここに来た事で、ボクはボクの知らない部分があることを知った。だから、ここにいたらボクをもっと知ることが出来るかもしれない。……それで、こんな取引をしちゃったのかな……)
 深呼吸をすると、ぐっと腹に力を入れ、ウィノナは屋敷のドアを叩いた。

 ウィノナに与えられた部屋は、2階の一番奥の部屋であった。
 初めての夜は気持ちが高ぶってよく眠れなかった。
 緊張とは違う。
 5年の歳月でどれだけのことができるのか――それを考えると、少し不安になる。
 彼の為だけじゃない、自分の為にも。
 そう強く思い、ウィノナは朝日が昇ると共に、ベッドから飛び降りた。
 身支度を整えると、部屋を出る。
 向いの図書室に入り、明りを点した。
 ウィノナの場合、基礎知識がないため、まずは自主勉強で一般的な学力を身に付つけなければならない。
 生物学の本を手に取ってみるが、内容が難しすぎて、さっぱり理解ができない。
 単語の意味、文章が表している事柄、そして、頻繁に出てくる数式。専門用語。
 何もかもがわからない。どう学べばいいのかも。
「あら、早いのね」
 淡い髪色の30歳前後の女性が図書室に入ってきた。
 強い意志を感じる瞳をしている。
「私達、クラリス様にあなたの面倒を見るように言われてるの。だから、何でも聞いてね」
「はい。えっと、早速ですが……」
 ウィノナは少し躊躇したが、ありのままを話すことにした。
 つまり、何をどうしたらいいのかわからない、と。
 女性は少し笑って、ウィノナを図書室の端の方へと導いた。
 隅のコーナーの低い棚には、子供用と思われる本が並べられていた。
 勧められるまま、ウィノナは算術の本をとってみる。
「まずは、初級の算術と生物を学ぶといいわ」
 五歳以下の魔女達が学ぶ本らしい。
 ウィノナはここからスタートする必要があるようだ。
 早速学習を始めることにする。
 本の内容はなかなか面白い。しかし、次第に難しくなっていくのだろう。
(でも……負けない)
 固い意志を持ち、ウィノナは時間があれば図書室で勉学に励むのだった。

**********

 魔術の基礎に関しては、最初から直接魔女クラリスの指導を受けられる。
 取引では、基礎知識と情報提供時の対処法の指導のみだが、その先の応用は街の学校で学ぶこともできるだろうし、多少なら自分で学ぶこともできるだろう。
 クラリスの指導は厳しい……というより、痛かった。
 まず、地下にある魔術の訓練部屋という部屋だが、ここに入った途端に体に激痛を感じた。
 クラリスが言うには、この部屋では自身の魔力を痛みとして感じ取れるらしい。凄く痛いということは、相応の魔力があるということだ。自分の中に、自分の知らない力がこれほどあることに、ウィノナは驚いた。
 最初に指示されたのは、自身の魔力を感じ取り、制御すること。
 否が応にも、必死ならざるを得ない。とにかく痛いのだ。
 つづいて、屋外の訓練場では、周囲の魔力を感じ取るよう命じられた。
 動植物や、魔道生物が溢れている空間である。
 こちらでは、魔力を感じとり、生物からの自分への干渉を断ち切らないと、体に電流が走るような衝撃を受け続けることになる。つまり、全く魔法の習練経験のないウィノナはここでもかなりの苦痛を強いられた。
 歯を食いしばり、必死に耐えるウィノナを、魔女クラリスは壁に寄りかかり、薄ら笑いを浮かべながら見ている。ウィノナの意識が他に向いた時には、即座に衝撃が飛んでくる。クラリスの神経攻撃だ。殴られたわけでもなく、外傷もできないのだが、これもとにかく痛い。
 ただ、先輩達に聞いたところ、魔女クラリスの素材提供者への指導は、とても甘いとのことだ。自分達に教える際には、つきっきりで見ていることなどなく、クラリスが作り出した幻影との実戦で学ばせることが多いらしい。
 パーツ提供者であるウィノナはこれでも特別扱いされているようだ。

 魔術の訓練を受けた後は、とても勉強できる状態にない。
 危険地区の配達でヘトヘトになった時でさえ、こんなに疲れを感じたことはなかった。
 食事もほとんど喉を通らない。
(だけど、これはとっても重要。身体の知識だけでは、きっと何もできない。対処する技術もないと……。それに……)
 ウィノナは日々、自分の中の世界が広がっていくことを感じていた。
 体を引き摺るようにして部屋に辿りつき、ベッドに倒れこんだ途端、深い眠りに誘われる。

 明日は配達の日だ。
 そうだ、本を借りて持っていこう。
 そうすれば、手が空いた僅かな時間にも学ぶことができるから――。


●ライターより
この屋敷でウィノナさんは、自分の知らなかった自分を知っていくのでしょうね。
自分が多くの可能性を秘めていることも!
ご依頼ありがとうございました。(川岸満里亜)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2007年06月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.