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『大切な人 』
犬神・勇愛5488)&一条・くるみ(5501)

 今日は珍しく、遅くなってしまった。
 ほとんど人のいない教室内に、犬神勇愛は帰り支度をしながら窓の外を見た。
 さすがに部活が終わるにはまだ早い時間で、校庭の方は運動部の掛け声で賑やかだった。
「くるみもさすがにもう帰ったかな」
 いつもの様子を考えると、待っている可能性の方が高いと思いつつも、呟く。
 カラリ、と。扉の音と人の気配が入ってきて、勇愛はぱっと表情を明るくして振り向いた。
 一瞬くるみかと思ったのだけど、そうではないことにすぐ気がついて、勇愛の表情から笑顔が消えた。クールに、誰にでもするように微笑んだ先には一人の男子生徒。
 目の前の男子の様子に、嫌な予感はしたのだが……。彼を無視して出ていける状況でもなく、仕方がなく、話しかける。
「遅いんだね、今帰り?」
 辺り障りの無い話題を向けて、すぐに「また明日」とでも言うつもりだったのだが……。
 勇愛が口を開くまでのほんの僅かなタイミングに、彼が、滑り込むように言葉を挟んだ。
「犬神さんのことが好きですっ。付き合ってください!!」
 ぐっと深くまで頭を下げた彼の真剣な態度はよくわかる。彼が真面目なのもよくわかる。
 の、だが……。
「え、あ。その……ごめん、ね」
 返せた言葉はただそれだけ。
 勇愛は恋愛事が苦手で。外見の可愛さと内面のクールさのギャップが受けるのか、よく告白されるのだが、何度告白されても、どうしても慣れないのだ。
 顔を真っ赤にして、謝罪という形での断りの言葉を告げる勇愛に、彼は、あっさりと諦めてくれた。
 すぐに引いてくれて良かったと、心から思いつつ彼の後ろ姿を見送って。ちょうどその彼と入れ替わりに、よく会う顔が入ってくる。
「ごめんね〜、聞こえちゃった」
 にこりと笑うのは、一条くるみ。勇愛の親友だ。
「聞こえたって、今の……」
「ユメちゃん、もてるね〜」
「くるみ……っ」
「……そういえば。最近、この辺で起きてる殺人事件、知ってる?」
 赤く染まった顔をそのままくるみに向けると、くるみはすぐに話題を変えてくれた。多少、不自然であったけど。
「ニュースでもやってるし、話には聞いてるけど」
「なんだかねぇ、悪霊の気配がするの」
「悪霊の気配……」
「そぉ。現場にね、悪霊の気配が残ってるのよ」
 くるみの言葉は気になったが、今ここでどうにかできる問題ではなし。二人はその話題は軽く話しただけで打ちきって、共に家路へとついた。


□ □ □


 その同じ日の夜。勇愛は街中へと足を向けていた。
 夜遊び……というわけではなく、父から昼にくるみとの話題にのぼっていた悪霊の退治を任されたのだ。
 勇愛の一族は代々犬神の力を持っているけれど、勇愛の力はその中でも飛び抜けている。どういう遺伝か知らないが、勇愛だけが、真祖・銀狼の力を持っているのだ。
 意識を集中し、悪霊の気配を探って街を歩く。しかし敵も動いているためか、なかなかこれといった場所を見つけられない。
 歩きまわって、偶然遭遇するのを待つしかないのだろうかと考え始めたその時。
「やっほ〜、ユメちゃんっ」
 ひらひらと手を振り、満面の笑みを浮かべるくるみの姿を見つけて、勇愛は驚きの表情を浮かべた。それは微かなもので、すぐに冷静に戻ったけれど。
「こんな夜中に、どうしたの?」
「それはあたしの台詞だよ〜。ユメちゃん一人だと大変でしょ? 幽霊とか見つけるのは、あたしのほうが得意だよ」
「…………」
 くるみの言うことは確かだけれど、くるみに戦う力はない。
「あっちの方だよ」
 勇愛はしばし迷ったが、しかしくるみはにこにこと笑ったままで、街の一角を指差した。
「……わかった」
 最終的に勇愛は、くるみの押しに負けた。くるみを護りながら戦う――そのくらい、こなしてみせる。そう自分に言い聞かせながら、歩き出す。
 くるみの案内は適確で、すぐに勇愛でも気配を察せるほどに近づいた。くるみの話によれば、悪霊はひとつの巣を持っていて、そこを拠点に動いているらしい。
 二人は悪霊の気配を追って、段々と人気のないほうへと移動していく。最終的に辿り着いたのは、寂れた廃ビルだった。
「この先だよ」
 くるみが指差した、その途端。
 黒い霧のような何かが宙を滑って向かってくる。見つけられたと思って攻撃に転じたのだろう。
 突然の襲撃に、しかし勇愛は動じることなく爪を伸ばし、腕の一閃で黒い霧を打ち払う。
「……もう終わり?」
 あまりにもあっけない終わりは少々引っかかるが、しかし気配は感じられない。くるみに尋ねてみようと振りかえったその時、くるみの表情が緊張に強張った。
「ユメちゃんっ!!」
 その警告は。
 ほんの一瞬だけ、遅かった。
 予想外の方角から放たれた攻撃に反応しきれず、勇愛の身体が大きく吹き飛ばされて壁へとぶつかる。
「ユメちゃ――」
 二度目のくるみの言葉は、最後まで告げられることはなかった。
 勇愛が立ち上がった時には、くるみは、悪霊の攻撃によって倒れ気を失っていたのだ。
「くるみ……よくも……」
 ぽつりと、呟かれた言葉。
 瞳が獣の如き様相を纏い、周囲の空気が一変する。悪霊が発するものとは比べ物にならない、強い、意思。
 敵を倒そうとする――それは、殺気だ。
 悪霊も勇愛の変化に気付いたらしい。その意識が勇愛へと向けられたが、その時には、勇愛はもうそこにはいなかった。
 一秒とかからぬその間に、勇愛は悪霊の背後へと移動していたのだ。
 音もなく、言葉もなく。
 勇愛の力が悪霊へとぶつけられる。
 圧倒的な力の差に、悪霊は、抵抗することすらできず、全てが塵へと還っていった……。


□ □ □


 目を覚ますと、くるみの背の上だった。
「……悪霊は?」
「え〜? ユメちゃんが倒したんでしょ? 起きたら、もう、悪霊いなかったもの」
 くるみでなければ勇愛しかいない。くるみは戦闘能力がない。
 これは確かなことなのだけど、勇愛は、悪霊を倒した記憶がまるでなかった。
 だがこの日いらい事件が起こらなくなったのも確かで……。
 首を傾げる勇愛を余所に、事件は解決ということになったのだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
日向葵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年08月18日

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