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『すれ違いの午後 』
シャロン・マリアーノ0645)&クレイン・ガーランド(0474)

 都市マルクト。
 セフィロトの塔奥へ探索に赴く『ビジター』達が足がかりにするため多く住まうここは、都市が制定されてから住み暮らす者達にとっても住めば都と言うわけにはいかないようだ。皆、どこかしら皮肉な笑みを浮かべながら、それでもほんの少しの愛着を見せる、そんな街。
 それが、マルクト。

*****

「――ん…?」
 ちかりと、ほんの少し光を感じたと思ったら、足元に小さなカードが落ちていた。人の流れを邪魔しないよう気を付けながら、クレイン・ガーランドは身を屈めてそれを拾う。
 そこに刻まれているのは、1人の女性の記録。――と言っても、強力な身分証明書になる程のものではない。何しろ、自己申告のみで済んでしまうビジター登録証で、本人の顔写真が付いている訳ではないのだから。
 尤も、それを言えばマルクトの中で効力を発揮する身分証明書などはほぼ皆無だった。唯一、この街でそれなりの権力を有するビジターズギルドのメンバーくらいのものだろう。次いで街を取り仕切っていると言われているマフィアが身分証明書など持っている筈は無いし。
 落とした当人は、紛失届を出し再発行を願えば、ギルドの規則では発行してくれる筈だが、ここにひとつ問題がある。
 毎日毎日大量の新規登録者がギルド受付に来る事実と、ごく少数の人間だけで回している現状。
 ――更に、探索中の事故で再発行を余儀なくされる者も少なくは無い。
 結果、新規登録がメインとなり、どうしても再発行者は後回しで、下手をすると数日から2週間程待たされる羽目になる、と聞いた事があった。
「仕方ありませんね。本人も気付いているのでしたら、困っているでしょうし…」
 クレインがその女性名をちらと見ながら、
「知己であれば、立ち寄り先が分かって良かったのですが…仕方ありません。探しますか」
 もしここが自警団寄り合い所の近くだったなら、迷わず届け出ていたかもしれない。けれど、ここは人通りの多い道の真ん中。
 どうして彼女を――カードの記録にはシャロン・マリアーノとあった――探し、このカードを渡そうと思ったのかは良く分からない。
 手が空いていたから?
 気が乗ったから?
 後日、彼女に聞かれたクレインはほんの少しだけ微笑を浮かべてこう答えた。
「なんとなく、ですよ――」
 と。

*****

「…あ、れ」
 ぱたぱたと両手が忙しなく動く。そのダンスめいた動きに、通りがかりの人々に興味深い顔をされるも軽く睨んで追い払い、ぱたぱたと服の上からポケットを叩いて行く。
 ここは、ゲートの前。
 丁度組もうと思ったパーティは先に出払ってしまい、1人で行くなら居住区がぎりぎりかな、と思いながらも足を運んだゲートの前で、シャロンはちょっぴり固まっていた。
「どうした?」
 ゲートを守る男が、いつまでたってもそこから動き出そうとしないシャロンに声をかける。
「…いえ、なんでも」
 平静を装いつつ、たまたま偶然ここに通りがかったような顔をして、くるりと踵を返した。
 そうして少し眉を寄せる。
 ――困った。
 ゲートから中に入るための登録カードが無い。家を出る時にポケットのどこかに入れた記憶はあるから、途中で落としたのだろうと思う。
 となると――家から今まで辿った場所を歩きなおすしかないか。
「仕方ない」
 軽く溜息を吐くと、くいと顔を上げてすたすたと歩き出した。まずは自宅から出たところから、と。
 そんな彼女が去った後に、銀髪の男がゲートを訪れたなど誰が知ろう。ましてや、彼女も彼も互いの顔も名も知らないのだから。
「そうですか。心当たりは無いのですね」
「ああ。尤もこっちはそんなに真剣に名前を覚えたりはしないしな」
 登録カードの有無にしか興味が無いのだから仕方ない話なのだが、ゲート前で門を守っている男たちは口を揃えてそう言った。
「ビジターがこの辺りに来たなら、近くに良く寄るバーはあるが」
 ゲート付近で合成酒を飲ませる店の名を上げられたクレインが、丁寧に礼を言ってその店へと向かう。――そろそろ夕刻、一仕事を済ませたビジター達で賑わい始める頃合だろう。

*****

 建て付けの悪い扉を軋ませながら開くと、店はもう半分程埋まっていた。
 ちかちかと目に悪そうな色とりどりのライトを身に受けながら、クレインがすいすいと人ごみを縫ってカウンターへ向かう。
「すみません。少々御伺いしたいのですが」
「…何?言っとくけどうちは合法ドラッグまでしかやってないよ」
「ああ、いえ、そう言う事ではなくて。1人の女性を探しているんです」
 そして、カードは見せずに女性の名を告げる。それだけで分かればいいのだが、案の定、
「悪いね、毎日来る客の名前を全部覚えてるわけじゃないから。…見た目の特徴とかがあれば――ああ、ちょっと待って。別の奴にも聞いてみよう」
「お願いします」
 酒は頼まないがチップ代わりに置いた小銭が功を奏したのか、店員がたった今出勤したばかりらしい若い男へと声をかける。すると、その若い男は首を傾げながら店内のとあるグループへと近づいていった。
「シャロン・マリアーノと言ったか?彼女なら今日は来てないが、あんた何者?」
 身体に悪そうな青い色の飲み物を片手に、店員に指差されてグループの1人がふらりとクレインの側にやって来る。
「ご存知なのですね。…いつもこの店に来られるのですか?」
 私はこう言う者です、と自分のビジターカードをちらと見せ、にこりと笑いかける。
「何だ、あんたもビジターか。彼女にすっぽかされでもしたか?」
 少し酔いが回っているらしい男がそのカードの名前は良く見ないまま納得し、
「常連ってほどじゃないな。彼女がいつも来てるなら、あんな印象的な赤毛を店員が覚えてないわけがないからさ。――何か伝言でもあれば受け取っとくよ」
 この店には居ないと結論付けたクレインが礼を言って店を出ようとする。その背中に男が声をかけると、
「そうですね、預かりものをしていますとお伝え下さい。ああそうそう、他に彼女が立ち寄りそうな場所はありますか?」
「普段はどうだろうなあ。…あの店なら買い物してるところを見た事があるが」
 少し先に行った通りを右に曲がって…と道を教えられたクレインがもう一度礼を言い、そして店を出る。
 通りを抜けて――右に曲がり、クレインの姿が消えて暫く経つと、どこに落としたのか思い出せず首を捻り捻り歩いていたシャロンが現れた。
 ふと店の前できょろきょろと辺りを見回し、当たり前だがカードが無い事に少しがっかりしながら店へと入って行く。
 それから少しして、店を飛び出したシャロンが今度は駆け足でクレインの去った方向へと走り去っていった。

*****

「参ったな…」
 疲れた身体を路地の壁にもたれかからせて休みながら、シャロンが呟く。
 結局、時間が経ちすぎていたためか、知り合いが教えたと言った店には既に男の姿が無かった。
 銀髪と黒目の、シャロンと同じくらいの年に見えた線の細そうな美青年から伝言があったぞ、と聞かされた時にはいったい誰の事かと思ったのだが、どうやら自分のビジターカードを拾った人物らしく…しかも律儀な事に、彼もマルクトの中をシャロンに渡すため動き回っているらしい。
 お陰で銀髪と見ればつい顔を確かめてしまうようになったが、未だに自分のカードを持った男には出会えずにいた。
「考えてみたら、ご飯もまだなのよね――ふう、仕方ない。もう少し探しますか」
 ぐいと顔を上げて、今度はどこに、という当てもないまま歩き出す。
 家へ帰るのだろうか、きゃあきゃあと楽しげな声を上げて駆け回る子どもらを避けて――そのせいで反応が遅れ、とん、と右肩が誰かとぶつかった。
「あ、すまない」
 たったそれだけの衝撃だったのに、ふらりと相手の身体が揺れて、思わず手を差し伸べてがしっと相手を支える。
「――いえ、こちらこそ申し訳ありません」
 酷く穏やかな声だったが、その声には隠しようも無い疲労感が滲み出ていた。思わず、
「大丈夫?」
 気遣うような声に、その――銀髪の青年が微苦笑を浮かべて、次にはしゃんと立ち上がった。
「大丈夫です。心配をかけてしまいましたね」
 こんな時間に外を出歩くような人間には思えない、そんな、どこか気品を感じさせるような立ち姿と、透けるように白い肌に、シャロンが目をぱちぱちっと数度瞬きさせて、
「あんた――間違っていたらごめん、あたしのビジターカード持ってない?」
 銀と言うよりは白に近い、輝くような細い髪が街の灯りに映えている。その青年――クレインが微笑んで、ずっと持ち歩いていたカードをすいと差し出した。
「シャロンさんですね。確かに、印象的な髪の色をしています」
 そんな言葉と共に。

*****

「そうか、あれが最初だったわね」
「…そうですね」
 くるくると自分のビジターカードを指先で弄びながら、シャロンが呟く。
「その癖、気を付けないとまた落としますよ?」
「気を付けてはいるのよ。でも気付くとやってしまうのよね…」
 思い起こせば、クレインと出会うきっかけになったカードの紛失騒ぎも、シャロンが道を歩いている途中で何気なくやったこの癖が原因だったように思う。
「まあ、ゲートの向こうで落とさなければ、探しに行けるだけマシですけれど」
「だから、ごめんなさいって言ってるじゃない」
 ――クレインから再び、道に落としたカードを届けてもらったシャロンが、ばつが悪そうにカードをテーブルに置き、人工的に香料を付けた『紅茶』を啜った。本物には遠く及ばないが、これでも充分飲用になる。第一、本物など目の飛び出るような値でしか取引されていないのだから。
「まあ、私が拾えるのなら、またお届けに伺いますよ」
「――その時は宜しくね」
 癖を改善するまでに、何度クレインが拾ってきてくれるのだろう――そんなくだらない事を考えながら、シャロンがくすっと笑い、
「どうかしましたか?」
 泰然と構えているマイペース極まりない目の前の男、クレインが不思議そうに首を傾げた。


-END-
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
間垣久実 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2005年08月08日

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