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『Fortunate Christmas 』
観巫和・あげは2129)&丈峯・楓香(2152)&夕乃瀬・慧那(2521)

「嗚呼、聖夜 今年もあたしは 一人だな」
 指折りながら口にする丈峯楓香に、
「クリスマス 今年も仲良し 三人組……字余り」
 と、笑いながら返す観巫和あげは。
 彼氏のいない者同士、天使と遭遇したクリスマスから一年……、今年もまた、クリスマスがやって来た。
 何処へ行っても流れるクリスマスソング、テレビで紹介されるデートスポット、そこらそうじゅう煌めくイルミネーション。そして、気が付けば今年も独り身。
「あーあ、今年こそはあっちの仲間入りするつもりだったのに〜!」
 と、楓香が指差す方向を見ると、大きなファイバーツリーの下に立つカップル達。
 今年は彼氏と一緒に食事に行って、デートスポットで写真を撮って、プレゼントを交換して……と、心密かに思い描いていたのだが、今の自分を見れば悲しくも女二人。
「あ!あげはさんと慧那ちゃんと食事するのが詰まらないとかそう言う訳じゃないですよ!」
 慌てて言う楓香にあげはは頷き、時計を見る。
「まだ来ない 慧那ちゃんは どうしたの?」
 約束の時間を20分ばかし過ぎているが、もう一人の寂しい仲間である夕乃瀬慧那がまだ来ていない。二人との約束の前に、彼女が陰陽術を見て貰っている五歳年上の男性と会うと言っていたから、それが長引いているのだろうか。
「罰ゲーム 決定しました 慧那ちゃん」
「あら怖い 遅刻しなくて 良かったわ」
 二人で指折りながら話すのも、何だか少し寂しい。
 今日は三人でクリスマス一色の町を歩いた後、あげはが予約したレストランでディナー、その後にカラオケに行く予定になっている。楓香と慧那が未成年の学生だと言うことで、時間に制限を付けてあるので、集合時間が遅れれば遅れるだけ、時間が押してしまう。
「罰ゲーム 何にしようか 迷っちゃう」
 と、楓香が幾つか思い浮かべているらしい罰ゲームを選別していると、人混みを押し分けて走ってくる慧那の姿が見えた。
 温かそうな白いマフラーで顔が半分ほど隠れている。
「ごっめーん!」
 肩で息をしながら走り寄り、第一声で謝罪する慧那。
「じゃ、まずは一句どうぞ」
「え?」
「遅刻した 理由をどうぞ 慧那ちゃん」
「は?」
「罰ゲーム ありますどうぞ お楽しみに。あ、字余り」
「ええっ!?」
 一句と言われて訳が分からない慧那も、罰ゲームと言う言葉にはすぐに反応した。
「ちょっと待って、理由を五七五で言うの?ええっと、」
 左手を上に上げて、慧那は口の中でもごもご言い始める。
「地下鉄で おじいちゃん転んで……あ、 困ってる 人を助けて 遅刻です?」
 孫に会いに行く途中だと言う老人が人に押されて階段で転び、クリスマスプレゼントの紙袋が破れて困っていたので駅員に頼んでテープを借り、修繕を手伝ったのだと慧那は言った。その間に電車を二本逃し、遅刻してしまったと。
「なーんだ、それじゃ仕方ない」
「そうね、良い事をしたんだもの。罰ゲームもナシね」
 残念、と肩を竦める楓香と、ほっと安堵する慧那。
「良かったぁ、楓香ちゃんの考えた罰ゲームって何だか怖そうだもん」
 クスクスと笑って、あげはは時計を見て二人を促す。
「そろそろ行きましょうか?デートスポットで、カップル達に混じって女の子三人で記念写真撮るのよ」
「あげはさん、念写はしちゃ駄目ですよー」
 クリスマスのデートスポットで念写をしたら、一体どんなものが映るのだろうか、想像すると少し怖い気がする。

 ツリーと言うツリーの前で写真を撮り、クリスマス限定の化粧品やクリスマス時期にしか着られない派手な洋服を物色し、明日にはお正月商品が並ぶのであろう雑貨店を見て周り、予約した7時ぴったりに三人はレストランに到着した。
「可愛いお店!それに静かで、とっても良い雰囲気」
 窓際の席に腰を下ろし、店内を見回してから慧那は言った。
 広々とした各テーブルの周囲に沢山の置物が並べ、店内全体を北国、テーブルを家に見立てているようだ。床には雪のつもりだろうか、白く厚い絨毯が敷いてある。
「昨日と今日はメニューが決まっているの。飲み物しか自由に選べないんだけど、良かったかしら?」
 あげはに言われて、楓香は手元のカードを開いてみた。前菜からデザートまでの名前が並び、一番下に飲み物のメニューが書いてある。
 ノンアルコールのシャンパンと食後のコーヒーと紅茶を注文してから、慧那はバッグから紙包みを三つ取り出した。一つは深い緑のリボンが結んであり、もう一つには赤いリボンが結んである。そして最後に取り出した小さめの紙包みには白いリボン。
「これ、あげはさんと楓香ちゃんにプレゼント。こっちは、あげはさんとこの犬と猫に!」
「あたしも!これがあげはさん、こっちが犬と猫、んで、これが慧那ちゃんに」
 一瞬騒がしくなった三人のテーブルに周囲の視線が集まり、慌ててあげはは指を唇に宛てた。
「ありがとう。楓香ちゃん、今年もうちの子達にプレゼント用意してくれたのね。慧那ちゃんまで……、気を遣わせてしまったみたいで悪いわ」
 言いながらあげはは二人からのプレゼントを受け取り、自分も用意してあった二人へのプレゼントを取り出す。
「私から楓香ちゃんと慧那ちゃんに。何だか変な組合せになっちゃったけど……」
 店で使えるようにと選んだ朱色と赤の布袋に入った箸と、それだけでは少し寂しいと言う理由で付け加えた香水の小瓶。そして、二人は気付かないだろうが、あげはがサンタクロースから預かったプレゼントを、密かに。
「MYお箸!あはは、これから毎日持ち歩かなくちゃ」
「有り難う御座います、あげはさんっ。ねね、私達のプレゼントも開いてみて下さい」
 言われて、あげはは手近な慧那のプレゼントを開いた。
 縁側で丸くなって眠る猫の飾りがついた置き時計。猫は、あげはの家の猫に似ていた。
「可愛い、有り難う。何処に飾ろうかしら……」
 次に、楓香のプレゼントを開く。
「素敵。お店で使わせて貰っても良いかしら?」
「勿論どうぞ、そのつもりだったんです」
 楓香が選んだのは、所々に古布を使った和風のエプロンだった。あげはは胸元に宛てて、窓に自分の姿を映した。
「あげはさんて、不思議なくらいエプロンがよく似合うんですよねー。お店で見る度に、何時も思ってたけど」
「私もそう思ってた!エプロン姿のあげはさんを見ると、何だかちょっと安心するんだよね!」
 頷き合う二人の言葉に照れながらも、あげはは嬉しかった。
「お店の名前が『和』だから、そう言って貰えると本当に嬉しいわ。こっちのプレゼントは、本人達の前で開くわね。きっと喜ぶわ」
 犬猫へのプレゼントを大切そうにバッグに仕舞い、あげはは二人のプレゼントも開いて見せて欲しいと言う。
「それじゃ、開きま〜す」
 言いながら、慧那がリボンを解く。
 白い箱から出てきたのは、クマの形をしたアイピローだった。その脇に、小さな瓶が付いている。
「それ、安眠を誘う香りなんだって。だからって、寝過ぎないようにね」
「あはは、テスト前には使わないことにする〜。アリガトね、楓香ちゃん」
 次に、楓香が包みを開く。
「新学期に使ってね」
 と、慧那が楓香に選んだのは、苺づくしのステーショナリーセット。
 ピンクと赤と小さな緑の苺がプリントされたペンケースにシャープペンシルとボールペン、消しゴム、定規、と苺型のキーホルダー。
「可愛いわね。お勉強頑張って」
「はーいっ頑張ります〜。お互いにね、慧那ちゃん!」
 プレゼントの披露が終わった所で、シャンパンと前菜が運ばれて来た。
 慌ててテーブルを片付けて、三人は空腹を思い出す。

「美味しそう!」
 まずはシャンパンで乾杯してから、三人は目の前の料理に取り掛かった。
「去年のお店も美味しかったけど、今年も美味しい〜!幸せっ。でも、これが毎年恒例になっちゃったら嫌だなぁ」
「あー、嫌なコト言わないでよ楓香ちゃん!」
「来年のクリスマスまで、丸一年あるんだもの。来年は、三人別々のクリスマスよ」
 自分より四歳若い少女達が一生懸命になっているのだから、頑張らなくては。店内を見回し、自分と似た年齢のカップルを見て、あげはも決意を新たにする。
「ところで、あげはさんサンタクロースに会ったって本当ですか?プレゼント貰ったの?」
「私達のプレゼントもお願いしてくれたんですよね!サンタクロースに会ったり出来るんですか?」
 次々運ばれてくる料理に手を付けながら、あげはは昨夜から今日にかけて体験したサンタ助手の話を始める。二人にプレゼントをお願いしたことも、それを代理で受け取り、目には見えないものの、既に二人に渡してあると言うことも話した。 
「サンタクロースにも、信じていれば何時かきっと会えるわ」
「サンタクロースかぁ」
 しみじみ呟いて、楓香が子供の頃、サンタの格好をした父親が子供達にプレゼントを配った後、階段から落ちて救急車で病院に運ばれたと言う思い出話しをすると、慧那も幼稚園で初めて会ったサンタが、バイクに跨って帰って行くのを見てショックを受けたと話した。あげはは幼い頃、買い物に行く先々の店にサンタが居ることが酷く不思議だったと話した。
 サンタが実は両親や商店街のおじさんや、アルバイトの学生達だと気付いてからの笑い話に花を咲かせていると、ふと楓香が首を傾げて隣のテーブルを見た。
「どうかしたの?」
「隣の人、一人だなぁと思って」
 そっと目配せをする楓香に倣って隣を見ると、クリスマス一色の店内には不似合いな和服の老女が一人、花が飾られただけのテーブルでぼんやりと座っている。三人が店に来た時には既に席に着いていた筈だ。となると、随分長い待ちぼうけだ。
「あっ、すみません!」
 視線に気付いたらしい女性が三人を見たので、慌てて慧那が謝る。と、老女は首を振って小さく笑った。
「約束を忘れられてしまったみたい。そちらは三人で楽しそうね」
 食後のデザートを残すだけとなったテーブルを見て、三人は苦笑する。彼氏がいないと凹んで嘆いたりしながらも、食欲だけは旺盛でしっかりディナーを楽しんでしまった。
「約束って、御家族ですか?」
「実はね、初恋の人なのよ」
 少し恥ずかし気に言う老女に、思わず三人は反応する。
「初恋の人!?すっごい!」
「本当。素敵ですね」
「初恋って、何時ですか!?」
 訊ねると、老女はクスクスと笑って今の慧那と楓香の年頃の話しだと言った。老女の年齢は70代に見えるから、随分昔の話しだ。
「ずっと憧れていた人で、年頃になった時、縁があって結婚の話しが出たのだけれどね……、ほら、戦争があったでしょう?あの人は戦地へ行ってしまって、亡くなったと言う話しだった。私は他の人と結婚して、それなりに幸せな生活を送っていたけれど……」
 ある日、偶然に再会を果たしたのだと老女は言った。それが丁度30年前、このレストランだった。
「お互い、家族と食事に来ていたの。だけど、一目で分かったわ。その時にね、ほんの少しだけお話をする時間があって、子育ても終わって、老後の生活を楽しんでいるであろう30年後の今日、一緒に食事をと言う話しになったの。だけど、忘れてしまったかしらね……」
口約束を覚えているのは自分だけかも知れない。けれど、もしかしたらと言う期待を捨てられず、娘夫婦の誘いを断って、今日ここにやって来たのだと言う。
「時間を決めていた訳ではないし。きっと会えないわね」
 流石に30年も前の約束となると、フォローのしようがない。言葉に詰まる三人に老女は詰まらない話しをしたと詫びた。
 三人のデザートが運ばれたところで話は途絶え老女はテーブルに肘を突いてまだ来ぬ初恋の人を待つ。
 帰り際には軽く頭を下げて別れるだけになったが、一人で来るか来ないか分からない人を待つクリスマスは寂しい。それから比べれば、三人で賑やかに過ごすクリスマスは楽しいものかも知れない。

「よっし!腹ごしらえも済んだし、歌って歌って歌いまくるぞーっ!」
 レストランを出るなり、楓香がガッツポーズを取って宣言した。
 店内の雰囲気は良かったが、大きな声が出せなかったのが少しストレスだったらしい。
 クリスマスの混雑を予想して、こちらもあげはが予約をしてある。
「切ない想いの丈を歌に込めて、若い娘が歌います〜」
 と、妙なナレーションを入れる慧那。
「あら、演歌でも歌ってくれるのかしら……?」
「歌いますよー!演歌でも何でも!あげはさんも歌って下さいね!今日はあげはさんの歌を楽しみにして来たんですからね!」
「初披露。何を歌おうかしら」
 きゃあきゃあと三人並んで騒ぎながら歩いていると、慧那が擦れ違い様に一人で歩いている老人にぶつかってしまった。
「あ、すみません!」
 謝って、老人が落とした紙切れを拾い上げてから慧那はあ、と声を上げる。
「さっきのおじーちゃん」
 老人の方も慧那に気付いたようで、ああ、と言った。
 慧那が地下鉄で手伝ったと言う老人らしい。
「丁度良いところで会った、実は道に迷って困っていたんだが……、この店を知らないかね」
 と、老人は慧那が拾い上げた紙切れに書かれた地図を見せる。
「このお店なら……」
 ついさっき、自分達がいたレストランだ。
 老人はレストランで人と会う約束をしていたのだが、先に子供の家に寄って孫にプレゼントを渡し、道に迷ったせいで随分遅くなってしまったのだと言う。
「もしかしたら、もう帰ってしまったかも知れないが……」
 三人は顔を合わせて老人をまじまじと見た。
 きっちりとしたスーツを着た姿は、さっきの老女と同じ位の年頃ではないか。
「このお店なら、そこの角を曲がったところですよ。すぐ分かります」
 と、楓香は進行方向を指差してにこりと笑う。
「約束した方はきっと、ちゃんと待っていらっしゃいますよ」
「うん、絶対待ってる」
 と、あげはも笑い、慧那は紙切れを老人に返した。
 老人は不思議そうな顔をしながらも、三人に礼を行って急いで歩き始めた。
「やっぱり、演歌はやめ!ハッピーな歌にしよう!みーんなが楽しくて、幸せになれるような!」
 老人が角を曲がるまで見送って、楓香は言った。
「30年振りで初恋の人と再会出来た喜びを歌う?」
「そうそう」
 クリスマスは誰もが幸せになる要素を持った日。だから、明るく楽しい歌を歌おう。
 三人は予約時間の迫ったカラオケボックスへと急いだ。



end
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
佳楽季生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年12月27日

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