『Dream World【炎想】 』

アスラ・ヴァルキリス（ha2173）

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　初夢に沈む世界はひっそりと静まりかえり、年末の喧噪が嘘のようにさえ思える。
　故郷に帰る者、まだ微睡んで夢の世界に浸る者。
　様々な景色がそこにある。
　新しい一年、最初の風景。
　そのなかで微睡むのは、アスラ・ヴァルキリス（ha2173）とエヴァーグリーン・シーウィンド（ha0170）――。

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　あと数刻もすれば新たな年を迎えるという夜、宿屋『止まり木』の従業員食堂に皆は集まっていた。
　その面子は、宿の主人、食堂の主人、要塞警備の休暇が取れたアスラの両親、毎年年末になると来る主人の弟夫婦、そしてアスラ。ご来光を見に行く客を見送ったあと、起きていた面々。
　ただ、いつもここにいるはずのエヴァーグリーン――エリは、ブリーダーギルドのパーティーに出ており不在だった。
　静かに過ぎゆく時間、エリがいないのは少し寂しいが――アスラにとっては、長年の疑問を大人達に訊く絶好の機会だ。
　皆の話題が一区切りつく頃を見計らい、アスラは少し躊躇いがちに口を開いた。
「あの……何故エリは実の両親の亡くなった地を、知らないのですか……？」
　その言葉に、大人達は一瞬にして表情を変えた。
　――ついに訊かれる日が来たか。
　そんな表情を浮かべ、アスラの顔をじっと見据える。
「遺体を持って帰らなかった訳は……そして、母親の親友だった父上がエリを育てなかった訳は？」
　決して遠慮することなく、アスラはその疑問を口にする。
　ずっと気になっていたこと、そしていつかは知らなければならない真実。
　自分のために――そして、エリのために。
　アスラは決意を込めた眼差しで、大人達を見つめた。
　そして彼等は語る。
　あの日の――炎に揺れる、想いの形を。

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　一同がそこに駆けつけたとき――誰もが目を疑った。
　その光景は静かで、魔力の粒子となって舞い上がる鳥の姿だけが、そこに現実を映し出しているように感じる。
　息絶えた友と、消えゆく鳥――そして、遺体を抱き締めた、友の夫。
　彼は目だけを動かして仲間達を見ると、低く、そしてひどくゆっくりとした口調で言葉を紡いだ。
　――俺が死んだ時、別れるのは嫌だ。妻は俺が連れて逝く。
　そしてコンバートソウルを解くと、彼にすり寄るパートナーに何かを言い残す。だが仲間達にはもう何も言うことはなく、彼はその背を向けた。
　――どこへ……っ！
　妻を抱いたまま歩き去る彼を仲間達は追いかけ、手を伸ばす。
　しかし、その手は――爆炎の壁に遮られて決して届くことはなかった。
　彼が事前に仕掛けていたと思われるファイヤートラップが発動し、一気に彼の体を覆い尽くした。そう、抱いている妻の体ごと――。
　それは静かな悲しみと怒りと、それからあらゆるものを内包しているかのように青白く揺らめき、凄まじい熱で周りの木々をも発火させ、彼等をその骨までも焼いていく。
　ちりちりと何かが焦げる音。
　そして……燃える、異臭。
　仲間達に吹き付ける熱波は絶えることなく炎から発せられ、波打ちながら広がっていく。
　炎に包まれて彼は尚も妻を抱き締める。
　決して離しはしないと、離れたりはしないと、一緒に逝こうと――。
　彼を包む炎が、その想いを反映するかのように一際強く燃え上がる。
　誰も近付くことができない。
　止めることさえできない。
　そして、声を上げることさえ――。
　仲間達はただ、友が変わり果てていく様を、その炎の葬送を見届けることしかできなかった――。

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「……エリの実のお父さんは、娘のことは如何でもよかったと」
　話を聞き終えたアスラは、そう呟いた。エリを残して逝ってしまった彼等の真意を計りかねているかのように。
「……というより、恋人が一番だったんでしょうね」
　エリの親代わりのプリーストが瞼を閉じる。
「あの腹黒性悪狐は天使の欠片も私達に残さなかったんだ！　エリは顔は母親似だが、色彩は父親譲りなんだ。……色の所為で虐待しないか自信がなかった」
「私達にはアスラもいましたしね。当時から貴方は『エリをお嫁さんにする』って言ってたんですよ」
　アスラの両親は、エリを育てられなかった事情を告げる。
　父も母も、それぞれに理由は違うが、そこに込められる深い事情はアスラではどうすることもできないものであり、決して否定することもできないものだった。アスラはそれらを正面から受け止める。
　特にアスラの「父上」は……尚更、だろう。
「僕達は２０歳前だったし」
　そう言うのはエリの叔父。
「俺達には絶対に子供が生まれることはないからな」
　そして、その言葉はエリの親代わりのウォーリアーのもの。
　それでも彼等はエリを見守り、そして彼女をこれまで育て続けた。あらゆる方法で、あらゆる愛情で。
　そしてアスラも――その、深き想いで。
　だからこそ彼女は今、あのように真っ直ぐに物事を見ることができるのだろう。
　そのとき、窓の外に花火の音が鳴り響いた。
　新年を告げる――鮮やかな華。
　皆は席を立ち、窓からそれを見上げて新たな一年の訪れを出迎える。
　きっとエリもギルドからこの華を見上げていることだろう。
　――エリ。君はボクのことをどう思っているのかな。
　アスラは花火を目で追いながら、ぼんやりと考える。
　――エリ。今まで、幸せだった？
　アスラはエリのことが幼い頃から好きだった。だが、エリにとってアスラは幼馴染で、仲も良くて――突き詰めればそこに好意もあるのだろうが、本人は未だ自覚がないという状況だ。
　いつかエリがアスラへの好意に気付くことはあるのだろうか。
　そしてアスラの想いが――届くことは。
「それでも」
　アスラは唇を結ぶ。
　――彼女は、ボクが守る……！
　アスラその決意を新たにする。
　真っ直ぐに、いつも前を見て進むエリ。彼女はその意志の強さでいつも周囲のために動いている。
　その小さな体で大きな剣を持ち、癒しの力で全てを覆い。
　最前線の戦場で、小さな事件で、どのような場所にあっても常に全力で。
　アスラにとってそんなエリは、誇りだった。そして守るべき存在だった。
　自分も彼女に負けないよう、そして守ることができるよう、いつも必死だった。
　それはきっと、これからも変わらない。
　これまでも、そしてこれからも。
　自分が彼女を守り抜いて、ずっと……一緒に。
　天に咲く華を見て、今頃彼女は何を考えているのだろう。何を思っているのだろう。
　自分のことを少しでも考えてくれているだろうか。
　だけれど、今この瞬間、別々の場所にあっても同じ華を見ている。
　それは紛れもなく自分とエリが同じものを共有して、共感している証でもあると――アスラは、そう思わずにはいられなかった。
「アス、もう寝なさい……」
　そう言われ、アスラは素直に頷いた。
　最後の花火が消えるのを見届けると、自室に戻るべく食堂の扉を開ける。
　後ろ手に閉めるとき――大人達の囁きが聞こえてきた。

　――自分のパートナーを兄貴と呼ぶことがあったとか、最後のファイヤートラップ、コンバートソウルもせずに詠唱しなかったか、とか……。
　――その日にエリの家もファイヤーボムらしい不審火で焼失してしまい、二人の遺品はないとか、過去を語ったことがないとか……それに、最後のファイヤートラップの威力とか……エリの父に対する疑問は山のようにあるがな。
　――それでもあの娘は、お前達の娘だ。
　――アスラがお前達の子だと同じ位にはな。
　――昔の事故で私達は子供を持てませんからね。

　それは誰に向けてのものなのか。
　何を求めるものなのか。
　大人達の囁きの意味をアスラはつらつらと考える。
　まだ自分にはわからないことが多い。
　いや、自分だけではない。大人達にも……わからないのだ。
　その真相を明らかにしたいとか――そういう感覚よりも、アスラのなかに湧き起こるのは先程と同じ、エリを守るという感情。
「何があっても、ボクはずっとエリを守るよ」
　アスラは呟き、就寝するべく自室へと向かった。
　もう、大人達の囁きは聞こえない。

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「ただいまー、あけましておめでとうございます♪」
　翌日の昼過ぎ、パーティーを終えたエリが笑顔で帰宅した。
「おかえり、あけましておめでとう」
　アスラは真っ先に笑顔で出迎える。親しい面々もまた、笑顔で。
「今年もよろしく、エリ！」
「よろしくね、アシュ！」
　そしてアスラとエリは互いに笑顔を交わし合い、手を繋いで食堂へと向かった。

　――宿屋「止まり木」。
　新年最初の営業は、もうすぐ始まる――。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ha2173　／　アスラ・ヴァルキリス　／　男性　／　10歳（実年齢20歳）　／　狙撃手】
【ha0170　／　エヴァーグリーン・シーウィンド　／　女性　／　10歳（実年齢20歳）　／　プリースト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■アスラ・ヴァルキリス様＆エヴァーグリーン・シーウィンド様
いつもお世話になっております、佐伯ますみです。
「ＷＳ・新春ドリームノベル」、お届けいたします。
今回、エヴァーグリーン様のご両親についてということで、このようにお二人ご一緒に書いて、このライター通信も個別でお届けではなく、ご一緒にさせいただきましたがいかがでしたでしょうか。
　お二人の発注内容から、エヴァーグリーン様目線の描写を一切無くす方向へ持って行かせていただきましたので、ご了承くださると幸いです。
　普段、表立って動かれているエヴァーグリーン様ですが、今回はアスラ様の強い意志が前面に押し出される形で、当方としましても新鮮な気持ちと緊張感を抱きながら書かせていただきました。
　少しでもお二人のお手伝いができているといいのですが……。

この度はご注文下さり、誠にありがとうございました。
お届けが遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
とても楽しく書かせていただきました。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
まだ寒い日が続きますので、お体くれぐれもご自愛くださいませ。
２０１０年　２月某日　佐伯ますみ

ＷＳ・新春ドリームノベル

佐伯ますみ

The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜

2010年02月25日