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『いつか刻が来たのなら 』
ケイ・リヒャルト(ga0598)

 いつの日も、この手を取り合えていればいい。
 そんな願いを、互いに夢見て――


       *+*+*+*+*+*+*

「そろそろご飯できますね」
 ケイは盛り付けにと精を出していた。
 食卓に並ぶのは、色とりどりのおかずたち。
 みずみずしさを残した新鮮な野菜サラダに、香ばしい匂いのベーコンエッグ、甘さを感じずにはいられないスープだ。
「今日も気合が入ってるね」
 新聞を広げながら席へとついたミハイルは、まだ何かを出そうとしているケイを見て微笑む。
 挽きたての豆をフィルターに入れると、キャトルからゆっくりとお湯を注ぐ。
 珈琲を入れるのは、ミハイルの役割だった。
「だって、朝が一番肝心なのよ? ミハイルには、元気でいて欲しいし‥‥」
 おたまを握り締めながら振り返ったケイは、少しほほを膨らませていた。
 レンジが、時間を告げる鐘を鳴り響かせる。
 慌てて取り出されたのは、焼きたてのパンであった。


 二人が住まう家、その居間には写真立てが置いてある。
 その中に写るのは青空の中、肩を寄せ合うように白い衣装に身を包んだ二人。
 ミハイルと、ケイである。
 その純白の衣装はまさしく結婚衣装――ウェディングドレスであり、この二人は晴れて恋人から永遠の絆へと契り交わした仲であった。




「ねぇ、ミハイル‥‥」
 玄関に入ると、ケイがこちらを伺うように見ていた。
 どうやら、帰る前からその場にいたらしい。
「ん? どうしたんだい、ダーリン」
 そっと腰を引き寄せ、額へとキスを降らすと、くすぐったそうに笑みがこぼれた。
 何か様子がおかしいと感じながらも、ミハイルはそのままケイを抱え上げ、リビングのソファーへと下ろす。
 優しく髪を撫でる手、そして見つめる瞳。
 この、幼い妻の異変に気付きつつも、そっと時間を置いてあげる。
 それは、ゆっくりと萎んでいる花が開くのを促すようであった。
 しなやかな身が、寄り添うのを感じた時、
「で、何があったんだい?」
 後ろから耳元にささやかれる言葉に、ケイは意を決したように口開く。
「実はね‥‥あの、えっと‥‥出来ちゃったみたい」
 届いた言葉に驚きを隠せず、ミハイルは思わずケイの肩を掴んで瞳を覗き込んだ。
 驚きつつも、恥じらい、伏せながら再び合わせる視線。
 その仕草で、言の葉が偽りでないことを物語っている。
「そ、そうか‥‥」
 安堵なのか落胆なのか、掴みかねる態度に不安そうに首をかしげると、ケイはくしゃりと髪を撫でられた。
「ありがとう、ありがとう‥‥ケイ」
 とった一房に唇を押し当てると、なんとも嬉しそうにミハイルは微笑を返す。
 その言葉に、ケイはうっすらと涙を浮かべたのだった。


「妊娠したんだね? そうか、では買い物にいかないとな」
 暫く間をおくと、ミハイルは突然拳を握り締めて立ち上がった。
「まだ早いわよ、何を買いにいくというの?」
 今まで見たことのないミハイルの行動に、ケイは思わず笑いを零す。
 拳の所在をどうしようかと、困った顔をする辺り、かわいいと感じてしまうのは何故なのだろうか。

「男の子と女の子‥‥ミハイルはどっちが良い?」
 そこに息づいたばかりの命を確かめるように、ケイは自らの腹部に手を当てた。
 判明した日を考えても、まだ片鱗も見せてはくれないこの存在を、とても愛おしく感じるのだ。
 ケイの様子に、ミハイルは彼女の足元へと跪いた。ケイの手の上へと、手を重ね合わせて目を瞑る。


「名前も考えなきゃいけないね。女の子がカイネがいいね‥‥ケイは男だったら何がいいかな?」
 もう片方の手を取り、手の平にゆっくり『灰音』と漢字を刻む。
「‥‥まだ実感なんて無いけれど‥‥でも、そうね。男の子なら‥‥」
 彼女の言葉が、鈴のように聞こえる中。すくすくと育ったまだ見ぬ姿が、ミハイルの脳裏には思い描かれようとしていた。


「ねぇ、これなんてどう?」
 数日後、二人は街に出かけた。
 立ち寄ったのはベビーグッズ売り場。ミハイルも、ケイも、あの日から約1年近く先になるであろう誕生する新しい家族の話が絶えなかった。
 目に付くものは、みな小さくかわいい。手に取った靴ひとつ、手の平の中に両足が納まるほどである。
「どんな部屋にしようか」
 目尻が下がりっぱなしのミハイルに、ケイは柔らかな微笑を返すのだった。




 ゆったりとした朝は、まだ届かぬ光の時刻に始まった。
 ふと、時刻を見るといつもよりも早い。
 銀の柄を掴むと、そっと目元に視界が明確になるようにレンズが合わさった。
 肌寒さを感じ、布団に沿うようにかけていた羽織に袖を通すと、真横からかわいい寝言が聞こえる。
 ケイだ。
 ミハイルは、そんな彼女を気遣うように視線を時計へと移した。
 しかし、何か違和感がぬぐえない。


「あ‥‥そうなのか」


 違和感の招待は、寝室に飾られている写真立ての中身。
 先程までは、純白の衣装に身を包んだ二人の笑顔で満たされていた。
 が、今は別々の写真が、組み合わさるようにして2人になっている姿。

「夢か‥‥楽しいが少し悲しい夢だったかな? 平和な刻がくれば子供と幸せに過ごしたいものだね。ケイ」
 優しい眼差しで隣で眠るお姫様を見つめながら。
 まだ、夢の中にいる彼女に幸福の時を送る。
 額に落とした刻印は、悪い夢から遠ざけてくれるだろうと願いながら。
 自分が見た夢を、彼女も見ているといいなと願いながら。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga0598 / ケイ・リヒャルト / 女 / 18 / スナイパー】
【ga4629 / ミハイル・チーグルスキ /男 / 44 / ビーストマン】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は発注ありがとうございました。
 時間がかかり、申し訳ございませんでした。

 しっとり大人二人組みが、まさかの夢落ちとのことで。
 このような形に纏めさせていただきました。
 
 いつの日か、このような時がCTSの世界でも訪れることが彼らの未来へと繋がっていくんでしょう。
 お二方の熟練カップル状態があっても、叶うには難しい夢ですが、彼らならいつの日か見せてくれると思っています。

 それでは、またお会いすることを願いまして。

 雨龍 一
HappyWedding・ドリームノベル -
雨龍 一 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年08月16日

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