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『●アヤカシノウタゲ 』
リゼット・ランドルフ(ga5171)

 悪霊払いの為の仮装が世界中に定着し、10月31日には仮装してお菓子を貰い、街を歩こう――というのがハロウィンの(かなり大まかな)楽しみ方である。
 仮装してお菓子が欲しいとせびる子供たちを、同じくこの祭りに参加して街を歩くリゼット・ランドルフ(ga5171)が微笑みながら見送っている。
 彼女は夜の闇のように黒いワンピースといういでたちで、ゆるくウェーブがかった光沢のある金の髪には、黒いマリアヴェールをすっぽりとかぶせられていた。
 外に飾られたジャック・オ・ランタンの口から覗く、無数の蝋燭がリゼットや街の人々を薄く照らし、どこか神秘的にさえ映し出す。
 時折『Trick or treat!』と声をかけられる事もあるので、作ってきた焼き菓子をそっと手のひらに乗せて差し出すと、こう返す。
「Happy Halloween!」
「――Thank you!」
 一人に配ると次は近くから、やや遠くから我も我もとやってくる小さいお化け集団。それらに近づいてお菓子を配る。
 お菓子を貰うと上機嫌に去っていくちいさいお化け達。大きく振られた手に、笑顔と共に小さく手を振って返すリゼットは――はたと気付いた。
(あっ‥‥私、今どっちから来たの、かな‥‥?)
 きょろきょろと周囲を見渡してみても、似たような建物と人の頭ばかり。もとより周りを見て歩いていたわけでもないので、わかるようでわからない。
 数歩よろよろと歩いてみたが、不安になってまた来たところを戻る‥‥はずが、人に押されて脇道に。
 頭の中で整理しようと試みるも焦躁が邪魔をしてますますわからなくなってしまう。
(どうしよう‥‥)
 場所が分からないという情けなさと、戻れなかったらどうしようという心細さで泣けてきそうになりながらも、それを堪えてきゅっと唇を真一文字に結ぶ。
 そうだ、全く知らない土地ではない。大通りを通ってきたのだから、それを辿れば絶対に帰れるはずなのだ。
 知らない人が、心細そうな彼女をちらりと見ては素通りする。魔物‥‥に扮した人々も『何か困った事が?』と時々声をかけてくる。
 それらに『なんでもない』とぎこちなく応じながら、不安ばかりが胸に広がり大きくなった。
 しかし、いつまでもこうしていられない。どうにか自力で戻ろうという気合を胸にともかく歩こうとし――

「もし、そこのお嬢さん。安心されよ、私の手を取りたまえ」

 気合の一歩踏み出す前に、彼女は耳馴染みの声を耳にした。
(今の声、は‥‥)
 幻聴じゃありませんように。悪しき魔物が、私を誘ったわけじゃありませんように。
 呼ばれた方角を向くと――細い路地に、豪華な赤い装束の男性を確認した。
 黒髪をオールバックにして、顔の左半分を覆い隠す仮面をしていても。リゼットには彼の蒼い瞳に映された優しげな表情を見まごうはずはなかった。
「っ、シアンさん‥‥!」
 ああ、と感動に似た声を出しながら、その男の名を呼んだ。
「違わないが‥‥せめてファントムと言ってくれ。折角施しているというのに」
 いきなり正体を看破された事に対して、シアン・マクニール(gz0296)は苦笑したのだが、すぐさま彼女へ白い手袋をはめた手を差し出した。
 リゼットは彼の元に駆け寄るとすがるようにその手を取り、彼に気づかれぬくらいに小さな息が安堵の為に漏れ、睫毛をわななかせた。
「しかし、まさかこんなところで会うとは。これも運命と言っておこうか?」
「参加するって教えてくだされば一緒に、って言えましたのに」
 すこし拗ねたような口ぶりでシアンを見やるリゼット。恋人に笑いかけながら、すまんなと笑うシアン。
「恥ずかしいじゃないか。普段と違って‥‥こんなに派手な格好で歩くのは」
 シアンは自分の衣装を見て肩をすくめる。確かに、いつも見る彼は軍服姿‥‥私服もどちらかといえば地味、いや、落ち着いた服装だ。
「そうですか? その仮装もよくお似合いですけど‥‥」
 シアンだったら何でも似合うと言ってくれそうなリゼットの口ぶり。シアンは逆に彼女のいでたちを見、顎に手を当てて軽く首を傾げた。
「違っていたら申し訳ないが、シスターか?」
「えと、魔女です、けど‥‥」
 やはりあの帽子じゃ無ければわかりませんか、と残念そうにヴェールを指す。
 最近の魔女もたくさんバリエーションがあってわからないが、皆と違うのもいいじゃないか、とフォロー(?)するシアン。
 二人は路地の石垣に軽く体を預け、何処からか聞こえる音楽や歌声を心穏やかに聞いていた。
 真っ暗な空には真珠のように丸い満月が、自身の周囲を虹色に輝かせながらその淡く優しい光を放っている。
「そういえばシアンさん、それはそれでさっぱりした感じですけど‥‥マントはつけなかったんですか?」
「つけていたが、踏まれて外れた。きっとどこかで絨毯になっている」
 レッドカーペットですね、なんて二人で顔を見合せて笑い合った。
「私もハロウィンは楽しんでいましたけれど、それよりはやっぱり、ガイ・フォークスのお祭りのほうが盛り上がっていました」
 アイルランドの隣国、イギリスではそちらの方が盛大に祝われるというのは聞いた記憶がある。シアンも大きく頷いた。
 小さい頃の話ですよとリゼットは付け加えて、二人ともどちらともなく小さい頃に参加したハロウィンを思い出す。
「――俺も、ハロウィンが近づいてくると楽しみでたまらなかった。兄と二人でどんな仮装にするかとか良く話したんだ」
 道行く人からお菓子をねだったりして、と言いつつ彼は手を差し出す。それを思わず眼で追うリゼット。
「?」
「ハロウィン。俺も折角だから、お菓子を貰おうと思うんだが?」
 そう言うと、リゼットは大人用のお菓子はありません、特にシアンさんには会うと思っていなかったので‥‥と少々困った顔をした。
 子供用のものでもいいのだが、とシアンは言いかけて自身の口を閉じさせるように指を置く。
「‥‥ふむ。身を守るための物を用意していないというのは、悪戯をしても構わないわけだな。よく誰も言わなかったものだ」
 本当ですねとリゼットもいまさらながらに思ったようだが、余計シアンの眉間に皺が寄る。
「わかった。では、このファントムの館に連れ去るとしよう。異論はないな、魔女よ」
「はい。私のファントム様が御所望なら」
 綺麗な笑みを乗せたままリゼットは返す。それに片眉(どのみち片方しか見えないのだが)を軽く上げ彼女の手を取るシアン。
 そうして、怪人に連れ去られるのは歌姫ではなく魔女となったわけだが――
「あ、ええと。怪人って魔物なんでしょうか?」
「人から畏怖されれば十二分に資格はあるんじゃないか? もともとは幽霊じゃないかと言われていたのだし」
 というほのぼのした会話を交わしながら、ハロウィンの空気ついでにちょっとした逢瀬を楽しんだのだった。

-END-

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga5171 / リゼット・ランドルフ / 女性 / 19歳 / ダークファイター】
【gz0296 / シアン・マクニール / 男性 / 28歳 / エースアサルト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、藤城です。
 今回のHDノベルの御発注、誠にありがとうございました。
 途中からシアンを登場させましたが、いつもと違うシアンとリゼットさんを少しでも楽しんでくだされば幸いです。
 それでは、どうもありがとうございました!
HD!ドリームノベル -
藤城とーま クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年10月25日

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