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『『 闇夜の骨の狂宴 』 』
三島・玲奈7134)&ティース・ベルハイム(NPCA030)

 
 自然、足が速くなる。
 アスファルトは冷たく靴音を反響させるだけで、それ以外の何物も伝える物とは成得ない。ただでさえまばらに立つ外灯の照明は暗いのに、今夜は闇が深い。濃密な闇は脆弱な外灯の明かりに陵辱される事もなく、逆に光りを飲み込んですらいる様に思えた。
 そう。深い闇の中に差し込む外灯の明かりすらそれは異質な何かを照り出すようでまともに眼を向けることさえ躊躇われた。
 そんな夜だから、皆、寡黙だった。昼間あった面白い事や、部活の話、恋愛の話、家庭の話、日常のなんら特別な事じゃない事だってこの年代、女子高生の頃は夢中になって喋れるのに、皆、口を噤んでいた。
 ただただ皆、早く帰って、家の錠をかいたい。
 だって、深い闇は全てを覆い隠して。
 そんな夜は、いつもと違ってよそよそしくて。
 そして、ほら、そこ。あなたの後ろ。そこに、いつの間にか何か居て、後ろから手が伸びて、ほら、あなたに絡みつく…。


 闇が手を出して、引き寄せられて、飲み込まれて、全てを台無しにされる………。



   ―――闇夜の骨の狂宴―――


 闇から逃げ遂せれた女子高生の証言。
 それはここ最近補習のために帰りが遅くなっていた彼女たちを襲う怪奇現象の話であった。
 彼女たちを毎夜襲う何かの視線。
 その視姦にも似た気持ち悪さ、気味悪さから逃れるために彼女たちは毎夜早足で帰っていた。
 学校の教師には言えなかった。そもそも真面目に授業を受けていれば補習など受ける必要も無いのだ。それを受けねばならないのは彼女らが素行の悪い生徒たちであったから。本来彼女らが補習を受ける事さえ珍しい。その理由はいたって簡単。進級する事が難しいからだ。授業出席日数はぎりぎり。補習をサボればそのペナルティーで謹慎処分を食わされ、自動的に出席日数が足りなくなり留年するから。言ってみれば自業自得。
 けれどもそれを自業自得と取れないのがゆとり教育世代の甘ったれている子どもの特徴であり、彼女らはそれを大人の汚い行為だと主張して、さらには甘ったれた子どもの馬鹿親までもが学校に抗議をしたために、学校、教師との確執は深くなっており、
 故に、そんな闇の中の視線云々は、真面目に教師に取り合ってもらえないと嫌になるほど理解できていたから。
 そう。自業自得なのだ。
 言うなれば因果応報。
 真面目にこつこつと前にむかってさえいれば良い運気というのはやってくるもの。
 まあ、世知辛いニュースを見ていれば、子どもの容態が悪くってパートを休んだ主婦の代わりにシフトに入った女子高生が深夜の帰りに生きる価値も無い馬鹿な不良どもにからまれて殺されるという、ただただ真面目に生きている優しい娘が不幸な目に遭う悲劇もあるのだけど………。
 けれどもまあ、この女子高生たちはなるべくしてなった不幸。
 そう。怪異は、闇に引き寄せられる。
 怪異から人に寄るのでは無い。
 寄るのは人。
 人の持つ咎が、咎が生み出す因果が、闇を引き寄せる。



 こっちの闇は、甘いぞ。



 授業をサボって、煙草を吸って、万引きをして、ただただ今を無為に過ごしている癖して、そのくせ、未来は光り輝くものが良い。
 今の努力と言う代価無くして、そんな対価は有り得ないのに。
 けれどもそれを望むのが人間。特にこういう輩。
 愚痴を言いつつ通った昼間。夜の帰り道は寡黙。
 行きは簡単。帰りは凶凶。
 怖い。怖い。
 けれども、怖くても、サボれない。
 因果応報。自業自得。
 くすくすくすくす。
 闇夜が見ている。
 視線が突き刺す。
 ほら逃げ惑え。踊れ。闇のキャットウォークがお前らにはお似合い。
 ほら、踊れ。
 闇は、闇から覗く視線は、そう哂う。
 ゆとり教育世代のガキはゆとりの無い帰り道で、恐怖に襲われる。外灯が怖い。だって、その外灯の下には、何かが居る。
 逃げ惑う。
 そして辿り着いた地下への入り口。
 そこが何なのかはわからない。ただ誘われて。
 そして降りていった少女たちは悲鳴をあげた。




あなたは、行かなかったの?
 玲奈はそう訊ねた。
 彼女は俯く。
 長い髪に隠れた彼女の表情はわからなかった。ただ、ほつれた髪はごわごわで、校則違反のはずのパーマはみすぼらしくとれかけていた。手入れをしていないのが丸わかりだった。きっと、シャワーすらもここ数日は浴びていないはずだ。それがわかるほど彼女は臭った。
 仲間を失った彼女はここ数日引き篭もっていた。それが、急に彼女は玲奈を頼ってきたのだ。
「………」
 玲奈は心の中だけでため息を吐くと立ち上がった。
 それから、ティースに思念で彼女の身体の浄化、つまりお風呂に入った後の状態になる魔法をかけるようにお願いする。
 だって、女の子がこれじゃあ、あまりにもでしょ?
 玲奈のウインクにティースは苦笑を浮かべ、それを実行した。


 件の地下入り口。
 そこの階段を降りていく。
「これって…」
 地下一階。そこは廃棄された誰かの研究室のようだった。
「マッドサイエンティストの秘密の研究室、って訳? 笑えないね」
 引きつり気味の顔でうめく玲奈。
 けれども、あまりこの場所から嫌な気配は感じない。
 怪異、が居る事は確かなんだけど…。
 そこは随分と広い部屋で、地下室という息苦しさ、狭さは感じなかった。否、これは…
「空間転移魔法。それもかなり高度な」
 そう。階段を降りて、部屋のドアを開けて、ここに足を一歩踏み入れた瞬間から、彼女らはどこか別の場所に飛んでいた。
 それが身体ごとなのか。
 それとも意識だけがここに飛ばされたのかは不明なのだが。
 部屋の特徴としては、恐竜の骨が並んでいた。
 玲奈もよく知っている有名どころから、マニアックな物までかなりの数がある。
 今にも動き出しそうなそれら。
 空気はひやりと冷たく、それに愛撫される素肌にはじっとりと鳥肌が浮かぶ。
 鼻腔をつく臭いは、かび臭く………
「かび臭く?」
 そこで小首を可愛らしく傾げる玲奈。だって、何かがおかしい。
 何かがおかしい。
 でもそれが何なのかはわからない。
 いや、それはこの場であってはとてもおかしいもの…。
 ふわっと、その時、玲奈の後ろから彼女の首に誰かの腕が回された。
 誰か? そんなのわかりきっている。ここに一緒に来た彼女だ。
「玲奈って、死なない身体だっけ?」
 くすりと笑う彼女。言って、舌なめずり。
 べろりと首筋を舐められる。
「いやぁーッ!」
 玲奈は強引に彼女の腕を外そうとはしない。ほんのわずかな体移動だけで彼女を投げ飛ばした。合気道の技だ。
 きゃっ。
 悲鳴。
 揺れる空気。
 それでわかる。このかび臭い空気に感じた違和感。
 そう。それはかび臭い匂いじゃない。料理の匂いだった。
「玲奈さん、あれ!」
 ティースが指差す場所。
 それまで何故だか意識から外されていた場所、否、魔法で意識を外されていたが、魔法の素質を持つティースに指摘されたからそこにそれがあるとわかったのだ。そこにある物。大きな鍋。ぐつぐつと煮られる何か。鍋から飛び出してる物。恐竜の骨。
「「骨ぇー!?」」
 玲奈とティース。声がはもった。
「ほ、ほほほほ骨、って、恐竜の骨だよ? 鶏がら、豚がらじゃないよ?」
 がくがくぶるぶると震えながら言う玲奈。
 異様な光景に彼女、すっかりと気が動転している。
 よくよく見れば彼女ら、がつがつと鍋を食べている。
 しかもものすごい太っている。
 制服は所々破れていて、スカートのホックは外されていた。
 口の周りといわず、顔中が油でぎとぎと。口の端から汁を零しながら彼女らは鍋を食べていて、それは本当に異様だった。
 自分が投げ飛ばした女子高生を見る。
 彼女はきゅるきゅると鳴るお腹を押さえて、笑っていた。
「玲奈、死なない身体なんだよね?」



 だったら、煮ても、死なないよね? 良いダシが出そう♪



 あなたの目的、それー?



 思わず変な方向で突っ込んでしまう玲奈。『玲奈、死なない身体なんだよね?』言われた次の瞬間、ショックを隠して、だって、エルフだもん♪ ってかわいくおちゃらけようとした事なんて一瞬で忘れた。



 あたし、スープのダシにされる!!!



 回れ右をする玲奈。
 得体の知れない骨なんかと一緒に煮られるなんて絶対に嫌。
 しかも自分のダシで作った料理を食べられるなんてもっと嫌。
 お嫁に行けなくなっちゃうじゃない!!!

 逃げる?


 否。彼女らは絶対に追ってくる。


 瞬時に思考パターンは戸惑いから戦闘、しかもアサルトに書き換えられた。
 振り向く玲奈。
 左手で素早く前髪を掻きあげる。
 そう。そんな仕草をしても、玲奈の左目は、
「速い」玲奈は勝利を信じて疑わぬ声で言う。
 左目能力を発動させる…意識下でトリガーを引き絞ろうとした瞬間、
 スリッパで憐れなゴキブリを殺そうとする妻を苦笑を浮かべながら諌めて、ちりとりでそれを救い上げて、窓から逃がそうとする夫の穏やかさで、
「彼女らを退治する? 不可能です。共存しかない心構えの問題です。だって、彼女らは餓死したここの主の霊に取り憑かれているだけなのだから」
 そう言って、そして彼は除霊魔法を発動させた。



「いや、ごめんね?」
 眼鏡をかけた気の良さそうなでっぷりとした博士はおちゃめに言った。
 玲奈は拳を握り締める。
 いやいやいやいや。そんなおちゃめな声で謝られても許せるものか。だってあたし、ここに並んでる恐竜の骨と一緒に鍋でぐつぐつと煮られるところだったし! しかも鍋の具は、
「……………まあ、恐竜の骨さえなければ美味しそうだけどさ」
 童話で出てくる魔女の鍋のような大きな鍋に入ってる具は、本気で涎が出そうなレベルの高級食材ばかりで、そりゃあ、たった数日でここまで太れるさ、っていうぐらい夢中になって食べたい物ばかりだった。
 だからってそんな具材と自分が一緒に煮られて美味しいお料理になるなんてまっぴらごめんだけど。
 ティースの魔法で博士は餓死した時の苦しさから解放されて、そして、悪霊から成仏間際の良い霊へと変われた。
 そんな博士の霊がなぜまだここにいるかと言えば、花も恥らう女子高生をここまで太らせた責任を取らせるためだ。
「責任とって、もう一度、あなたが彼女たちに憑依して、踊りなさい!」
 ダイエットはものすごーくきついんだから、その苦しみは責任を取ってあなたが味わうの!!! 彼女たちに身体を返すのは、彼女たちの身体が元の体重に戻ってから!!!
 そんな訳でミュージックスタート♪
 ティースのダイエット魔法の音楽が流れ出して、
 彼女たちの身体が痩せて元の体重に戻るまで、博士は彼女たちの代わりにダイエットの苦しみを味わって、
 そんな博士に玲奈とティースは苦笑して、踊りに付き合う。
 楽しい音楽と、シャッセのステップとか、グレープパインのステップとか、ボックスとかのステップを踏んで、踊る。そんな可愛らしい踊りに誘われて骨たちまで踊りだして、
 玲奈とティースと博士と恐竜たちは楽しく踊る。
 レッツ ダンス!!! 
 光りと闇の戯れは楽しく可愛らしく♪


                ――― fin ―――
PCシチュエーションノベル(シングル) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
東京怪談
2010年11月01日

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