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『不法トウキと夏の夜 』
兎月原・正嗣7521






 学食でご飯を食べていたら、向かいの席に、誰かが立った。
 そんなに混んでいるわけでもないのに、とか思って目を上げると、准教授の大阪だった。
 頬にかかるくらいの黒髪を無造作に流し、シャツにパンツという、素っ気ない井出立ちで、トレイを片手に突っ立っている。さほどお洒落に力を入れてなさそうなのに、お洒落に見えたり、様になって見えるのは、本当に意外とお洒落なのか、整った顔立ちのせいなのか、凡人の荻元には、判断がつかない。
 とか何か漠然と考えていたら、何か、「やあ、荻本君」とか言った大阪が、全然やあじゃない雰囲気っていうか、やあとかそんなポップな感じの挨拶したら一番いけない人種なんじゃないんですか、みたいな覇気のない表情で言って、ごと、と座った。
「ねえ荻本君」
「はい」
「あのさ」
「はい」
「うちの実家の庭さ」
 っていきなり庭とか言われて、少し面食らった。「え」と、思わず身を乗り出す。
「え、って、え?」
「え、いや、え? 庭ですか」
「そう、うちの実家の庭」
「はー」
「うちの庭さ」
 カレーを口に運んだ大阪は、咀嚼をしながら、相変わらず面倒臭そうな口調で、続けた。「広いじゃない」
 なんて、いきなり言われても、ちょっとどうしていいか分からなかった。
「いや」と、辛うじて、答えた。「知りませんけど」
「うちの実家の庭って、広いのよ。びっくりするくらい。ほら、俺って、金持ちじゃない」
「いえ、知りませんけど」
「それでね。あんまり広いもんだから、わりと管理の行き届いてないところとかもあって、そういうところにね」
「はい」
「不法投棄とかね、されるのよね」
「はい」
「うん」
 とか、完全に話は終わったみたいだった。荻本は、また思わず「え?」とか、身を乗り出す。
「え、ってえ?」
「いや、え。不法投棄、の話ですか」
「そうなのよ、悩んでるのよね」
 とか、人生の中で悩んだことなんてありません、っていうかむしろ悩みって何ですか、みたいな、人間味の薄い顔に言われても、余り説得力がなかった。
「資料を取りに実家に帰った時に気付いたんだけどね、これまでにもう二回も捨てられてるらしいのよ」
「はーそうですか」
「それでね、相談なんだけどさ」
「はい」
「犯人捕まえるの、お願い出来ないかしら」
 なんて、ただの大学の事務職員に言う事では、全然なかった。
「あれ、何ですか」
「いやだからさ。不法投棄の犯人を捕まえるのをさ、お願いしてるのよ、荻本君に。ほら、誰かに手伝って貰ってさ、捕まえてよ」
「いや、え。いやいやいやいや、あれ? 大阪さん」
「うん、何だろう荻本君」
「僕、ただの、この大学の事務職員なんですけど」
「うん、知ってるよ」
「何で僕に言うんですか」
 とか言った荻本の顔を、じーとか見た大阪は、「じゃ、そういうことで、よろしく。あ、これ、うちの住所ね」と、講師に指示を出すかのように言い終えると、まだカレーの残るトレイを持ちあげ、立ち去った。
「え」
 って、凄い、置いてけぼりにされ、途方に暮れる。
 どうしよう、何だこれは、とか茫然としていたら、突然、とんとん、と肩を叩かれた。
 え、とか思って振り返ると、金髪に染めた短い髪を無造作に散らした、あどけなさというか、あどけなさの原因はきっとその初々しいそばかす跡なのだろうけれど、とにかく、そんな幼さの残る見知らぬ少年が、柔和な笑みを浮かべ、立っていた。
「え、何ですか」
 見知らぬ青年は、本当にもう見知らぬ青年だったので、荻本はとりあえず、そう言った。
 そしたらいきなり、彼は、見知らぬ青年のくせに突然び、とかサムズアップして、「話は全部聞かせて貰いましたよ!」とか、言いだしたので、凄い、何か、困った。
「え?」
「ボク、三春風太といいます。初めまして」
「はい初めまして」
 って頭を下げたら、もう風太と名乗った少年は、隣の席に腰掛けている。
「ねえねえ何かさっきさー」
 とか何か、わりと馴れ馴れしく、話しかけてきた。「面白そうな話、してたよね」
「面白そうな話?」
 そんな記憶は、朝まで遡っても全く思い当たらなかったので、小首を傾げる。「してました?」
「うん、面白そうな話、してたよ」
「いや、してないんじゃないですかね。人違いとか」
「いや今だってもう、すぐそこで話してたのを聞いてたんだって。間違いないよ。秘密と神秘の匂いが、ぎゅんぎゅんしたもん」
「はー」
 って、そのとりあえず何か、にこにこ幸せそーみたいな顔を暫く眺め、荻本は「そうですか」とか、さっさと話を切り上げ、「じゃあ、僕、忙しいんで失礼します」とか、もう、絶対何か面倒臭い匂いがしたので、早々に立ち去ろうとした。
 した。のだけれど、思いっきり手首を掴まれ、失敗した。
 柔和な少年は、特別逞しい体つきにも見えなかったけれど、わりとしっかりとした力があったようで、ちょっと、驚く。
「ボク、これでも、アメフト部に所属してるからね」
 無害そうな笑顔が、言った。
「あ、そうですか」
 つられてにこにこしそうになり、ちょっと顔を引き締めた。
「不法投棄しにくる犯人とか、捕まえちゃうんだよね」
「え?」
「話してたじゃない、さっき」
「もしかして、面白い話って、それですか」
「それですよ」
「あ」
「不法投棄しにくる犯人捕まえるなんて、ドキドキっていうかむしろ、わくわくだよね! 面白そうだし、ボクも協力してあげるね」
 あげるねって、何でそんな若干押しつけがましく言われなきゃならないのか、ちょっと全然分からなかった。
「いえ、そんなあの何か別に面白くもないし、そもそも捕まえちゃわないんで、協力とかあのー」
「大丈夫だ。遠慮はいらない」
 さ、と目の前に手を翳してきた風太が、言葉を遮る。「って、ねえねえ、これも一回言ってみたかったんだけど。ヒーローみたいで格好良いよね、大丈夫だ、遠慮は要らない。ふふふ」
「いや、ふふふはいいですけど、ほんともう大丈夫なんであのー、いいです」
「いやあ運命だなあ。ちょっとアメフトの試合の見学に来ただけで、こんな秘密のかほりのする話に出会えちゃうなんて、ボクって凄いわ」
「あのー人の話聞いてないですよね」
「ん?」
「だいたい、見学ってことは、君、ここの大学の人じゃないの」
「うん、違うけど。高校生だよ、ボク」
「あ」
 途端に荻本は、若干ちょっと強気になって、「君ね。高校生がこんな所で遊んでないで、もっと他にすることがあるでしょ。勉強とかさ」とか、言ってみたら、それまで凄いにこにこしていた少年の顔から、突然、笑みが消えた。
 真顔になっただけなのに、何故だかやたら、怖かった。
「すいません、謝りますから、いきなり真顔になるの、やめてくれますか」
「やな感じだよね。子供って分かった途端、そういう態度するとか、やらしーっていうかむしろ、エロい」
「いや、えろ。エロくはないですよね、エロくはないでしょ、だって」
「エロいエロい。やだ、この人エロい〜」
「誤解を招く言い方やめて下さい」
「やめて欲しい?」
「はい」
「じゃあ、手伝っていいよ、って。言え」
「そんなマイルドに命令されるなんてどうしよう」
「あとさっきから凄い気になってたんだけどさ」
「え?」
「あそこに座ってる眼鏡の女の人がさ」
「え?」
 風太の指が指し示す方を振り返る。するとそこに、頬杖を突きながら座っている小柄な女性が、居た。
 ふんわりと整えられた、顎元くらいの長さの黒髪が、柔かそうで可愛いな、って一瞬思ったけれど、それより何より、まず気付かなければならなかったのは、彼女がめちゃくちゃ明らかこっちを見ている、ということだった。
「あのー何か凄い、めちゃくちゃこっち見てますね」
「見てるね。あれはきっと何か知ってるね。あ、来たよ来たよ、こっち来たよ。わー来た」
「ちょっと。人のことバケモノみたいに言わないでくれるかな」
 とことこ、という擬音が似合いそうな感じで歩いて来た女性は、風太の向かいにポスン、と座り、言った。
「あ、でも、ゾンビなら、いいよ」
「え、ゾンビ?」
 何でここでいきなり、そんな単語が出てくるのか、もう全然分からなかった。
「っていうか、ゾンビならいいってどういうこと」
「こう、いやあ。ゾンビ来たー、みたいな感じなら、いいよってこと」
「ん、あれ? 益々分からない。どういうこと、ゾンビ来た? みたいな感じ?」
「うんあたし、ゾンビ好きだし」
「え、ゾンビ好きだしって、どういうことなの」
 目をぱちくりとさせた風太をちらりと見て、うふ、とか何か、意味不明な笑みを浮かべた彼女は、「あたし、歌川百合子」とか何かいきなり、名乗った。
「あ、どうも。え?」
「っていうかさ、あたしさ。その不法投棄してるオッサン、知ってるかもなんだけどさ」
「え。知ってるんですか、っていうか、オッサンなんですか」
「うんあのー、多分、オッサン」
「え、どうして、知ってるんですか」
「あたし、あの人知ってるよ。大阪さん。わりと、変人で有名な人だよね、あの人」
 それはもう、紛う方なき本当のことだったので、荻本は思わず食い気味で「はい」とか、力強く、頷く。
「荻本君、だっけ? あたし、君が、ここの事務に来る前にさ、ちょっとここの事務やってたことあって」
「あ、そうなんですね。それはどうも、御苦労さまです」
「だから、あの人のこと知ってるの。実家とかも。噂とかで、耳に入ってくるんだよね」
「はー」
「それでね。こないだ、あの人の実家らしいと聞いてた場所に、ゴミ捨てに行くオッサン、偶然見ちゃって、あたし」
「えー、そんな偶然」
「あるんだよねえ。あたしも、驚いちゃったよ」
 って、さほどでもない感じで、百合子が、わりとクールに言った。
 そしたら、「おおすごおい。話はやあい」と、風太が、凄いもう簡単に、いや絶対そんな簡単に乗っかってはいけないんじゃないかな、くらいに単純に身を乗り出し、食いつく。
「ねえねえ、そしたらもうそれ、あれじゃない? あとは、そのオッサンとこ行って、ビシと言ってやってさ。不法投棄やめさせたらいいじゃん! ねえ、そのオッサンのこと、行こうよ! ほら、早く!」
「いやせめて、話聞いてからにしませんか」
「じゃあ、お姉さん、さっさと話しちゃってよ」
「んーとね。何か、あたしが、こないだ家の掃除してた時なんだけど」
 百合子が、のんびりと話しだす。




  × ×




「ホント、あれだよね。意外だよね」
 とか何か、ソファの上で、寝転がりながら、漫画本を開いていた兎月原・正嗣が、言った。
「何がよ」
 一心不乱に部屋のちょっとした模様替えと整理整頓を敢行する百合子は、その、普段は隙のない高級出張ホスト兼経営者の美形の顔を、でも今はびっくりするくらいだっらだらなジャージ姿の、けれどやっぱり美形の顔を、面倒臭そうに、振り返った。
「だってさ、百合子って物とか捨てられなさそうな女子に見えるのに、意外と分別得意なゴミだし職人だしさ」
「ねえ兎月原さん」
「うん、何」
「何っていろいろ言いたいことあるんだけどさ」
「あ、そう?」
「まずさ」
「うん」
「半年ぶりにいきなり訪ねて来てさ」
「うん、会いたかったよ、百合子」
「いや、漫画読みながら言われても」
「だって、俺が半年ぶりに訪ねて来た日に限って、掃除とかしてんだもん、百合子。今日帰ってくるって、言ったじゃない」
「言ったけど、あたしだって毎日を生きてるんだから、兎月原さんに合わせて生きてらんないもん」
「あら、悲しい」
「だいたい、ジャージ姿でいきなり、ただいまーとか言っちゃう男を待つなんていう、悲しい女だけには、なりたくないの、あたし」
「だからさー。俺はついこないだまで、海外に出張行ってさ。向こうでは、いろいろセレブの相手でさ、疲れちゃってんだからさ。癒してよ。いやむしろ、癒されてるよ」
「あ、そう、良かったね」
「良かったよー。あーびのびのするー」
 漫画を開いたまま胸元に乗せた兎月原が、んーとか背伸びする。
「つかさ、何やってんの」
「え、漫画読んでんの」
「分かってるよ! 苛々するなあ、もう」
「なに。なにがよ」
「ちょっとは、手伝ってよ。もう、こっちは朝からずっと、こう、いろいろ整理整頓に忙しいんだからさ!」
「俺はね。体より、頭を使うのが、得意なの」
 ふーん、みたいにじとっとした目で、そんな兎月原を眺めていた百合子は、暫くしてソファの傍に蹲った。
「ねえねえ兎月原さん」
 ちょこん、とその腹に顎を乗せる。
「うん」
「力こぶとか作ってみて」
「えー何いきなり」
「いいからいいから」
「えーはい」
 と、腕を折り曲げた瞬間、むき、と細身にも見える腕に、力こぶが現れる。すると途端にそこにぱし、と平手を喰らわせ、百合子は立ち上がった。
「この力こぶは何なの! 飾りなの! 手伝ってよ! ちょっとは!」
 とか憤慨する百合子を、あー何だろうこの小さくて可愛い生き物、みたいに薄っすら笑いながら見つめていた兎月原は、「はいはい。分かった分かった」とか何か言いながら、よっこらしょ、と起き上がる。
「で? 何したらいいの」
 とか言った美形の顔を暫し眺めて、はあーとか何か、百合子はため息を漏らす。
「え、何それ。俺がやる気になってあげたのに」
「いや何か、久々の再会なのに、びっくりするくらい全然緊張感ないな、とか思って」
「え、何。緊張したかったわけ?」
「そりゃあ何かさ。こう、もじもじしたりさ。ちょい気まずくなったりさ、ちょっとくらいはさ、あってもさ、いいじゃない。半年ぶりなんだよ」
「あー」
 全く気のない表情で、全く気のない返事をした兎月原は、「じゃあ、何かごめんね」と、全く申し訳なくなさそうに、謝った。
「うん、もういい」
「拗ねるなよ」
「拗ねてないよ」
「じゃあ、もう一回やり直す? 俺何かあの、あれ、ちょっと着替えてくるし」
「いやもう、その時点で何か違うし、いいよ」
「あ、そう」
「はい、じゃあ。やりましょう。兎月原さんは、そこのゴミ、捨てて来ちゃって下さい」
「え、どれ、あれ?」
 とか何か立ち上がった兎月原が、部屋の隅を指さす。百合子はまた作業に戻りながら、「うんうんそれそれ」とか何か振り返らず言って、手を動かす。
「はいはい、じゃあ、高級ホスト様が、今からゴミを捨ててきてあげますのでね」
「口を動かしてないで、手ぇ動かして」
「おお、怖」




 そして暫くして、部屋中に、百合子のぎゃーという悲鳴が響き渡っていた。
「え、何どうしたの」とか、びっくりするくらい覇気のない、むしろもうちょっと慌てたらいかがですか、みたいな口調で兎月原が言う。
「な、何。なんで! 何でここにあった本捨てたの!」
 百合子がばたばた、と手を振り回す。
「え」
「え、じゃないよ。ここにつんであった本、捨てたでしょ!」
「うん」
「いや、うんでもないからさーちょっともー」
「だって、ぼっろぼろだったよ」
「ちがもうあれは、表紙はぼっろぼろでも、あたしにとっては凄い価値のある本」
「ちょちょちょ、ねえねえ、百合子」
「何よ」
「ぼっろぼろだったよ」
「煩い! あのね。ゴミとかとそういうものは見方次第で、人から見たらゴミでも、持ち主にとっては宝物だったりする場合だってあるんだからさ。逆に、すっごい捨てたいけど、何か捨てられない物もあるし」
「そこで何か俺のことじーっと見るの、何かやだな」
「捨てたいのに、捨てられないもの」
「もう一回言うなよ」
 とか言いながらも、若干愉快そうな彼は、「じゃあちょ、分かった分かった。あれじゃない。拾いに行けばいいんじゃないの」とか何か、続ける。
「あ」
「百合子怒ると怖いから、仕方ないし、俺様が行ってきてあげますよ」
「駄目」
「え、何で」
「絶対違うの、拾ってきそうだもん。だから、あたしも行く!」
「はいはい。では、行きますか、姫」
 洒落た仕草で、兎月原が手を差し出してくる。ジャージでそれやられてもな、と思った。




  × ×




「で、拾いに行ったんだけど。そしたら何か、今しも車に積んで走ろうとしてるオッサンが居るじゃない! それで、兎月原さんに車出して貰って、追跡したわけなんだけど」
「ふうん。そしたら、ここに辿り付いたわけだ」
 風太が、ゴミやらガラクタの積まれた、あやしげな空き地をきょろきょろと見渡している。
 空き地の端に、それもまたゴミのような四角い二階建の建物が、あった。
「そう。ここに一旦寄って、ちょっとだけ荷物下ろして、その後であの、大阪さんだっけ。あの人の家に、向かったわけね? 兎月原さん」
 そう言って百合子は、途中で合流した兎月原を振り返る。
「何でもいいけど、匂いが酷いな」
 彼はポケットに手を入れたままの格好で、面倒臭そうに肩を竦める。
「ねえ、本当に捕まえちゃうんですか。帰りましょうよ」
「ここまで来て何言ってんのさー」
 風太が、顔を顰め、荻本を見た。それから、あ、と何かに気付いたようにゴミの山へと駆けよって行く。
「わーこれとかいいよー」とか、何か叫んだかと思うと、ごそごそと何かを引っ張り出し、引っ張り出し方がもう何か凄い乱暴っていうか、不器用っていうか、子供が玩具箱から一心不乱に、目的の玩具引っ張り出すみたいに引っ張り出したので、ゴミの山ががさ! とか崩れたけど、本人全然気にしていない。
 それで引っ張り出したその、びろびろとしたやつを、突然がぼ、と頭にはめた。
「どーん」とか言って振り返る。
 掘り出したのはどうやらホラーマスクのようで、その明らかにちゃっちい怖い顔した怪物的な何かの顔で、「しゃー」とか手を突き出し、鳴き声的な何かの真似をしてきた。
「ね? どう、どう」
「いや、どうってそんな感想を求められても。何だろう。何もないです」
 って言ってる荻本の横で、「えー! いいなあ! あたしもー」とか百合子が言い出したので驚いた。
「え、いいな? あたしも? え?」
 言ってる間にも百合子は、ゴミの山を漁り始めている。
「こういうのをさ、つけてさ、大阪さんちだっけ。張り込んでさ、オッサン懲らしめちゃおうよ。だって、すっごく怖い思いしたらもう二度とこんなとこにごみなんか捨てるか! って気分になるでしょ?」
「いやいや、そんな事で上手くいくとは思えないですよ」
「ああ、張り込みなんて、探偵さんみたいでわくわくするなあ!」
「また人の話聞いてないですよね」
「ん?」
「っていや、そのマスク外して貰っていいですか、ちょっと何か、びくっとするんで」
 とか言ってる間にも、お目当てのマスクを発見したらしい百合子が、「わー。ゾンビのマスクだー!」と歓声を上げ、すぐさま被りだし、「どーん!」とか振り返る。
「どうどう、ねえどう」
「ねえ俺何か、車戻っててもいい?」
「駄目」
「あ、そ」
「あとねあとね、聞いて聞いて。俺、凄いよ」
「うん、何でもいいですけど、マスクをですね」
「俺、水を何か、操れるの」
「水を、操れる?」
「見てて」
 そう言うと、風太は、両手を地面にある水溜りに向け、じーとか、突然、静止した。
 マスクをつけた人間がじーっとしてるのを見るのも凄い変な感じがしたけれど、どうやら、何かに集中しているらしい。とか思ったら、突然、水溜りの中の水が、ぴちょーん、と水が跳ね、水柱が立ちあがった。
「えー! 何あれ何あれ」
 百合子が、やっぱりマスクをつけたままの顔で、風太に駆け寄る。
「えへへ。凄いでしょ」
「きみがやったの」
「うん。そうだよ。ボクはね。水質を様々に変化させたり、水の軌跡とか操ったりできるんだよ。家でお風呂入ってる時にね、このお湯が温泉のお湯になればいいのになぁとか、毎日思ってたらね、何かね、出来るようになったの」
「出来るようになったの、ってマイルドに言ってますけど、わりと、凄いですよね」
「そうなの、わりと凄いの。だから、この能力と、このマスクを使って、オッサンびびらせて、おっさんを懲らしめちゃおう!」
 おーとか、風太と百合子が手を上げる。
 と。そこへ。
「懲らしめる、って何ですか」
 突然、声が聞こえ、え、とか思って四人が振り返ると、何故か虫よけスプレーを片手に持った、ちょい小太りの四角い顔した髭のオッサンが、突っ立っていた。
「あ」
「あのーうちに何か。用ですか」
 オッサンは、自分も凄い明らか不審人物めいているくせに、思いっきりこっちを不審人物かのように、じろじろと、見た。
「いえ、えーっと」
 と、荻本は当然、今まで俄然やる気だった風太の事を見た。
 そしたら驚くべきことに、風太は突然もじもじとし出し、「えーっと」と、隣の百合子を振り返った。
 えっ、あのつい今さっきまでの勢いは何処行ったの! って凄い、問い詰めたかった。
 しかも、百合子までもが、「えーっと」と、あたし全然知らないんだけど、みたいな白々しい感じで、隣の兎月原を振り返っている。
 どうしよう。これどうしよう、とか荻本が途方に暮れていると、やれやれ、みたいにちょっと笑った兎月原が、「あのね」と、言ったので驚いた。
「何かね。アンタさ。大阪って奴の家に、不法投棄してるでしょ。それ、やめて欲しいのね」
 あんなにやる気なさそうだったのに、何だこの、ばしっとした態度は! と、荻本は思わず尊敬の目で兎月原を見る。
 百合子も、見た。
 風太も、やっぱり、見た。
「え、何俺、凄い見られてるね」
「いや兎月原さん、頼りになるんだね」
「百合子、何その今気付きましたみたいな目。俺は昔から、頼りになると思うんだけど」
「うんそうだね」
「いや、流されないでくれる」
「っていうか、お兄さん凄いね! 何かもう、ボク、抱かれたいくらいですよ!」
 それで皆でもう何か、兎月原凄いんじゃね? みたいな尊敬ーってやってたら、それまでずっと黙ってたオッサンが、突然、言った。
「あ、はい。分かりました」
「え」
 と、四人は思わずまた、オッサンを見る。
「え、何ですか」
「いえ、不法投棄、やめたらいいんですよね。大阪さんちの。分かりました、やめます」
「おっとー。びっくりするくらいさっくりだ」
「え、何で何で、どういうことなの」
「いやもう、そろそろ辞めなきゃなあとは思ってたんですよね」
「いやそんな、辞めなきゃなあとか軽く言ってますけど、不法投棄、犯罪ですしね」
「はい分かってるんです」
 ってやっぱり、全然分かってない軽さでオッサンが頷く。「ただ」
 と、オッサンはそこで一瞬顔を伏せ、それから、「あそこの息子さん、凄い、美形なんですよ、うふふ」とか、凄い気持ち悪い笑みを滲ませた。
「私、ファンなんですよ。会いたいなあ、また見たいなあ、とか思って、思わず何回も捨てに行っちゃって」
「うわー迷惑」
「あのー私これ、やっぱり警察に突き出されたりするんでしょうか」
「いやそれは、どうだろう」
「何なら、今から回収とか行ってもいいですし、むしろ、掃除しに行きますし、許して貰えないですかねー」
 って、オッサンは何か凄い、苛っとする図々しさを見せた。
「あのーもっかい言いますけど、不法投棄、犯罪ですしね」
「はい、分かってるんです」
「嘘くさー」
「でもまあ、とりあえず、捕まえたってことだし、あとは大阪さんとこ行ってから決めようよ」
 そこで、うだうだ話してるのが面倒臭くなったのか、風太が、そう切り出す。
「ま、そうね。煮るなり焼くなり好きにして貰うってことで。俺そこなら、手伝ってもいいし」
 って、凄い笑顔を浮かべながら、兎月原がわりと怖い相槌を打つ。
「じゃあ、これで、一件落着?」
 百合子が、やっぱりマスクのままで、荻本を振り返った。
「えーっと」
 荻本は、兎月原と百合子と風太を順番に見やった。それから、オッサンを見て、また、三人を見た。
「はい、そうですね。じゃあ何か、とりあえずは、一件落着ってことで」
 ぽりぽり、と頭をかく。
「ありがとうございました」
 頭を、下げた。










━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 2164/三春・風太 (みはる・ふうた)/男性/17歳/職業:高校生】
【整理番号 7520/歌川・百合子 (うたがわ・ゆりこ)/女性/29歳/職業:パートアルバイター(現在:某所で雑用係)】
【整理番号 7521/兎月原・正嗣 (うつきはら・まさつぐ)/男性/33歳/職業:出張ホスト兼経営者】



●ゲストNPC●
 大阪・荻本











Midnight!夏色ドリームノベル -
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東京怪談
2011年08月01日

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