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『変化が、彼に齎すもの ─side:JG─ 』
杠葉 凛生(gb6638)

●Side:JG
『お前は必ずこの手で殺す』
 強い憎悪が渦巻く中、不思議と感覚は冴えていた。
 あの男は、ただ真っ直ぐ、俺だけを見ていた。
『僕は、貴方を殺さないのに』
 恐ろしい程美しく整った笑顔が、どこか愉悦の色を浮かべていたのを覚えている。
 ──満たすのは、強烈な嫌悪感。

 ラバトでの戦いで、いつ意識を失ったのか、正直なところ覚えていない。
 あの男の苛烈な攻撃は、生死の淵ギリギリの所で強制的に意識を奪い去って行ったのだろう。
 ただ、赤い爪が身体に刻んだ印の事だけは、焼けつく痛みや熱と共にはっきり覚えていた。
 あの後、練成治療による回復を施されたものの、その傷は完全に癒えてはおらず、数日の間、満足に動く事は出来なかった。
 しかし、あの戦いで瓦礫から自分を抱えて助け出してくれたのも“彼”ならば‥‥今、自分を世話してくれているのも“彼”。
 俺は、この青年の優しさに付け入っているのだろうか?
 ‥‥いや、そうじゃない。
 彼に救われ、復讐に取りつかれた自分に気付かされて。
 いつしか死に場所を求めるように、激戦地に身を置き続けるようになった自分自身。
 それが、今では変わったと感じている。
 彼に与えられた光が、余りに穏やかで温かかったから。
 随分長い事忘れていた気持ちを、思い出したような気がしたから。
 だからこうして、今、彼の優しさに甘んじているのだろうと思う。
 何故かと言われても解らないが、光を感じる。あの深い鳶色の瞳の奥に‥‥。

 ラバトでの戦いの後、杠葉 凛生(gb6638)は直ちにラストホープへと帰還した。
 あのヨリシロに与えられた傷は思いの外深く、重体に陥った身体を癒すには現地の治療だけでは足りなかった為だ。
「‥‥悪いな」
 少し倒した車の助手席のシートに横たわりながら、窓の外を眺めていた。
 運転席に座るのは‥‥
「‥‥直、病院、デス」
 言葉少ななムーグ・リード(gc0402)だった。
 ムーグが車を走らせる先は、ラストホープの大病院。
 直ぐにでも凛生の治療を始めてもらいたい想いと、凛生の身体を労る気持ちは表裏一体。
 車両の速度を上げきれずにいる青年は、端正な顔に読みとれない表情を張りつけたまま、ただ黙ってハンドルを握っていた。
 凛生は、青年の顔へと視線だけを投げかけてその様子を伺う。
 ムーグと共に過ごす時間が増える程、気付く事も多く、察せられる事は増えていった。
 あまり感情を表に出さない表情の奥に、激情を秘めている事も。
 アフリカと言う故郷の地への渇望と、掲げる願いも。
 そして今、その端正な顔に陰りを感じるのも、気のせいではないと思う。
(また、自分のせいだと思っているのだろう)
 凛生は、気付かれないよう、密やかに嘆息する。
 ムーグは恐らく、責任を感じているのだろうと思う。
 彼の志すアフリカ解放を手伝ったが為に、凛生が苛烈な戦闘に巻き込まれ、そしてまた倒れたのだ‥‥と。
 凛生の負った傷から目を逸らす事がでいないが故に、痛々しい姿を見て苦しんでいるのだろうと感じられる。
 これは、思い上がりではないと思うし、そう感じるだけの時間を重ね、共有してきた。
 だからこそ感じられるムーグの見えない痛み。そんな想いを抱かせてしまう自身を、凛生は不甲斐なく思った。
 自分にとって、ムーグはただ信頼を寄せる相手というだけでなく、救いを齎した人であり、そしてかけがえのない大切な存在でもあったから。
「‥‥そんな顔をするな。まだ、アフリカは解放されていないんだ」
 こんなところで倒れる訳がないだろう。
 そう言って、懐から取り出した煙草を何でもない風に口に銜え、シルバーのジッポで着火。
 心配をかけないよう傷の痛みを押し隠し、何でもないと言う風にいつも通りの態度をとる。
 どんなに身体が悲鳴をあげても凛生は表情を崩さなかったし、ムーグへの気遣いはそんな痛み如きに折られはしなかった。

●生と死
 病院で検査の後、治療を終えた凛生はムーグの元へ歩いていく。
「‥‥待たせた」
 その時、ふと顔をあげた青年の瞳がいつもより不安げな色をしていたのに気付いたが。
「終ワリ、マシタ、カ‥‥?」
 それを問う間もなく、ムーグは立ち上がって傍に寄る。
 治療を済ませて戻ってきた。
 これでもう怪我は安心だと開き直る訳ではないが、凛生には治療を受けたと言う事実が必要だった。
 その事実が、ムーグを安心させることに繋がるのであれば‥‥
 身体の痛みなど放っておけばいいものを、わざわざこうしてきたのにはそういう理由が無いわけでもなく。
 なのに、先の車内での様子より、青年の表情は沈んで見えた。
 一体、なぜ?
「ああ。もう、問題ない‥‥」
 そんなに心配するな‥‥違う。
 お前がそんな顔をしなくても‥‥これも違う。
 自分がいつも通りにすればするほどムーグが自身を責めるように見えた。
 本来は穏やかな光に満ちた深い鳶色の瞳が、こんなときばかり辛そうに翳るから、余計に言葉が出て来ない。
 戦場での立ち回り。研ぎ澄まされた感覚。掌に握る銃から寸分の狂い無く放つ弾丸。
 それをやってのけるはずの自分の手先と比べて、感情はこんなにも不器用で、拙い。
 途切れた会話を無理に繋ぐでもなく、沈黙を両肩に乗せたまま凛生はムーグと共に病院を後にした。
 こんな傷など‥‥精神の受ける痛みに比べれば、何でもない事なのに。何度も、何度も思う。
 それを伝えたところで、彼の表情から陰りが消える事は無いのだろうけれど。

●今ここに在る決意
 止めてあった車に乗り込み、帰途につく。
 病院からの帰り道、二人の間を支配するのは車のエンジン音だけだった。
 伝えたいと言うより、恐らく伝えるべき言葉は色々あるのだろうけれど
 どういった言葉に纏めればいいのかが解らず、自分に言い訳するように頭に浮かんだ英国人思想家の言葉だけが頭に浮かんでいた。
 ”Speech is silver,silence is golden.”
 果して、沈黙は金なのだろうか?
 下らない事を考えていると、小さく心臓に響く音がした。
 柔らかいスモークの張られた車窓の向こうに鮮やかな光を見たのだ。
「花火、だな」
 遠くに上がるそれは、暗い闇夜を華やかに照らす。
 恐らく、あの花火の下にはたくさんの人々が居て、幸せに笑っているのだろうと思う。
 暗く苦い感情に俯いてしまう気持ちも一緒に空へと打ち上げてくれるかのように、皆、光の広がる空を見上げて。
「‥‥祭り、デショウ、カ?」
「興味があるのか」
 ふと運転席から聞こえてくる声に、凛生はからかうでもなく穏やかに尋ねる。
 だが、青年は静かに首を左右に振った後にぽつりと呟く。
「デスガ、気分転換ニハ‥‥良いカモ、シレマセン」
 呟きが空気に溶けて無くなってしまう前に、ムーグはハンドルをきる。
 その先は、ラストホープ郊外の高台。
 凛生はぼんやりと、シートに背をもたれながら考えていた。
 あの場所なら花火が良く見えることだろう、と。
 そして、この切欠は何かを齎してくれるのだろうか、と。

 高台の上、車を停めると何も言わずにムーグが助手席側にまわる。
 青年はドアを開けると、凛生の乗降を助けるように肩を貸す。
 せめて今くらいは、と素直にムーグの助けを受け入れながら、人気のない高台からあがる花火を眺める。
 空に上がった光が、一瞬一瞬を切り取る様に眼下の街を照らしだす。
 様々な人種が、同じものを見て、同じ様に美しいと感じているこの瞬間は奇跡にも近いと思う。
 地球上に生きる人々は‥‥特に、この街にいる者たちの多くは、今や侵略者と戦うという目標を共有する者同士。
 ここにいる人の数だけ、皆それぞれに戦う理由を持ち、そして武器を手に取り立ち上がる。
 戦いへの恐怖も、葛藤も、色んなものを抱えて。
 それでも何かの為に、誰かの為に、或いは自分自身の為にあらゆるものを呑み下して戦いに身を置くのだ。
 ───かたや、自分は?
 花火が、あがる。
 一際大きく光を散らして空中に広がる赤や緑の光は、心の深層まで揺さぶる様な音を立てて消えた。
 照らされた深層に残ったのは、シンプルで明快な感情の塊。
(俺は、何よりも‥‥ムーグの幸せを‥‥)
 願い事、ひとつ。
 それを見つけられた今なら、その塊を手にとって、歩んでいけるのかもしれない。
「‥‥アノ風景、ヲ‥‥取り戻セル、デショウ、カ」
 隣に立つ青年も、大きな花火の下、特別な想いを抱いているのだろうか。
 思い出す故国の地。大切で、かけがえのないあの景色を。
「お前が、取り戻すんじゃないのか」
 他でもない、ムーグ自身の手で。
 少なくとも彼なら出来ると思っていたし、彼だけではなく自分もそれに骨身を削る覚悟は厭わないから。
「明日からまた、アフリカ解放の日々だ。焦らなくていい」
 青年は、何も言わずに首肯した。
 見上げた鳶色の瞳から、翳りが消えたことだけを確認して、凛生は再び煙草を咥えた。
(だから‥‥今ひととき、安らぎの時を)

 花火の煙は風に流れて匂いを運ぶ。
 鼻をつく火薬の香は、慣れた銃の放つそれとは、少し違った匂いがした。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gb6638 / 杠葉 凛生 / 男 / 47 / イェーガー】
【gc0402 / ムーグ・リード / 男 / 21 / エースアサルト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、藤山です。
大変お待たせ致しました‥‥!!
いかがでしたでしょうか? 私にとっても初めてづくしでしたので、緊張しています。
私には、願う事しか出来ませんが‥‥どうか今はひとときの安らぎを。
イメージにそぐわない箇所等ありましたら、お気軽にリテイクしてください。
最後になりますが、この度はご発注頂き、誠にありがとうございました!
(担当ライター:藤山なないろ)
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2011年09月12日

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