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『策士巧妙のフランさん☆ 聖夜の子猫ちゃんいぢり 』
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)


「フフッ。今日のここは居心地がいいな……」
 師走半ばの開拓者ギルドで、そんなことを言いながらすらりと立つ姿があります。
 青いショートカットの髪に白い肌。
 そして、白い男性用の貴族的な衣装。
 細い顎に優雅に右手を添えて広間を行き交う人を見ている姿は、良家のご子息そのものです。
 でも、頬にうっすら乗る紅はどこか女性的です。
「いつもより可愛い子猫ちゃんが多い、どうしてだろうな?」
 そう。
 この人物の名前は、フランヴェル・ギーベリ(ib5897) 。
 男装の麗人で、いろんな意味で幼い少女が大好きとか。
 それでいて、目の前にいる幼い女性開拓者にいきなりちょっかいを出さない程度には分別のある人物のようです。
 いや。
 今、募集中に張り出されている依頼書を読んでいる少女開拓者の傍にそっと近寄りましたよ? まさか、そっと手をつなぐとかいきなり抱き付くとかしてしまうのでしょうか。
「ん?」
 まずは普通に依頼に興味を持って近付いた度を上げるため、少女開拓者の隣に立って依頼書に目を走らせたのですが、ここでフランの目の色が変わりました。依頼書のタイトルは、「サンタ服着て箒に跨って飛んでプレゼント配布」。依頼内容の必然性から、友なる翼を使える迅鷹が朋友の女性開拓者限定であるらしい。
「リィムナ……。この仕事を請けるのか」
 何と、参加者の欄にリィムナ・ピサレット(ib5201)の名前があるではありませんか。
「確かボクの最愛の姪の親友……いやそれ以上の存在とか」
 フランの頭脳がフル回転し、ぶつぶつと独白が続きます。おかげで不審に思った、先ほどまでターゲットだったかもしれない少女開拓者はその内容のヤバさに気付き、そっと距離を取って無事に離れることができると一目散に逃げ出しました。どうやら平和は守られたのかもしれませんね。
 それはともかく。
「よし、決めた。……フフッ、楽しい聖夜になりそうだ」
 フランは何か閃いたらしく、長い睫毛の目尻を怪しく緩めるのでした。

 そして、クリスマス・イヴ。
「いやっほ〜っ!」
 清らかな夜空を、光の羽根を生やしたリィムナが両足を伸ばして箒に跨り飛んでいます。真っ赤なミニスカサンタワンピが似合ってますよね。
「さて、この依頼もあと一件。頑張ろう、サジ太!」
 リィムナは飛びます。まさかあんなことになろうとは知らずに。
「あ、れ? あのお屋敷空き家じゃなかったっけ」
 巧妙な罠が待ち構えているとも、知らずに。


「よっ、と。……こんばんは〜」
 ぎいいいい、と大きな洋風の館の扉を開けたリィムナが、箒と白いプレゼント袋を持った姿で入ってきました。肩には彼女の朋友の迅鷹「サジタリオ」がいます。
「誰かいませんか〜。ご注文の通りプレゼントをお届けに……」
「フフッ。ようやく来たね」
 声を張るリィムナを、覗き穴からこっそり見ていたフランが満足そうに呟いてます。はぁはぁとわずかに息が荒いのはこういうシチュエーションだからでしょうか。頬が上気していつもより赤く染まっています。
「ボクの最愛の姪の親友……いやそれ以上の存在だったか。元気で可愛らしく、是非ボクの子猫ちゃんにしたいと狙っていた。そしていずれは最愛の姪と三人で……いや何でもない。苦労したんだよ。空き家となってた洋館を借り、中を改造……」
 ここで、長かった呟きをぴたり止めるフラン。
「この肖像画の裏の覗き穴など、あまり改造する手間がなかったのだがね」
 もしかしたら同好の志が建てた洋館なのかもしれないと思いを巡らせる。ちなみに覗き穴は、ちょうど肖像画の目辺りがくりぬかれているようです。まさかね、とかくすっと笑う。
 その時でしたっ!
(ぎくっ!)
 きょろきょろするリィムナと一瞬、目が合ってしまったのです。
「ん? ‥…あっ。張り紙がある」
「ほっ」
 さすがリィムナは開拓者。部屋の奥にある張り紙に気付いてそちらを調べに行ったようです。フランはどきどきする胸に手を置き息を吐くと、今のスリルを反芻しながらうっとりするのです。
 それはそれとして、リィムナ。
「どれどれ。『箒はここに置いてください』? へえっ。丁寧だね〜」
 そんなことを言いながら素直に手にした箒を置いています。
「そうそう、子猫ちゃん。……フフッ。素直だから言う通りにしてくれてるね」
 フランは事前に思い描いたとおりに動くリィムナに興奮しています。自らの才能にも酔っている節もあるようですね。
「これで、精霊武器の「疾風の箒」を手放し魔法が使えなくなった計算だね」
 一枚一枚着ている服を脱がしていくのに似た感覚に気分も高ぶっているようです。
 一方のリィムナ。
「そして、『箒を置きましたか。置きましたね? では、こちらへどうぞ』? ……何だかなぁ。行こっ、サジ太」
 クエッ、と翼を広げるサジ太を連れて、素直に進みます。
 フランも次の覗き見ポイントに移るのでした。
 そして。
「え? 『朋友の方はここでお寛ぎください』?」
「サジタリオ……きみはサジ太と呼ぶのだったかな、迅鷹は肉料理が好きみたいだから作りたてのステーキを配置したんだよ。さあ、これで裸同然の無防備さ」
 リィムナが「仕方ないか」といいつつ、張り紙の指示通りにサジ太をここで食事させて順路通りに進みます。
「『外套はここ置いて下さい』……。なるほど、確かに暖炉で温かくなってきてるし」
「え〜っ。『お好みの口紅を引いてください』?」
 次々リィムナに注文をつける張り紙。
「フフフッ。最高だよ、リィムナ。……さあ、ボクは仕上げにかからないと」
 ぶつくさいいつつ指示に従うリィムナの様子を愛しそうに覗いていたフランでしたが、やがて急いで先回りするのでした。


 リィムナは最後に、階段を下りて地下室に辿り着きました。中央にはベッドがあり、誰かが寝込んでいるようです。ごほごほ、と咳も聞こえます。
「あっ。大丈夫? サンタがプレゼントを持ってきたからねっ!」
 慌ててリィムナは大きなギフトボックスを取り出し一直線に駆け寄るのでした。
「今だ!」
 そう言ったのは、隠れるように毛布に包まり寝込んでいた人物です。同時に、地下室の薄暗い闇のように朧な色の荒縄を引きましたっ!
「うわあっ!」
 何とその荒縄は、踏み込んだリィムナの足元に輪となって仕掛けられていたの出す。
 見事に両足を捕らえ、リィムナを天井から逆さ吊りにしてしまいました。
「フフッ……。リィムナ、ボクのクリスマス洋館にようこそ」
 ばさーっ、と毛布を跳ね除けベッドから姿を現したのは、もちろんフランでした。
「誰かと思えばフランさん。最も逮捕に近い女……」
「ああ……サンタ服のスカートがめくれ子供ぱんつが露わに……はぁはぁ」
 リィムナは呆れましたが、フランはまったくの無視。逆さ吊りのままへそまでスカートがめくれ、へにゃりと崩れた輪郭ながらそれが可愛い猫柄の純白子供ぱんつに釘付けです。
「フランさんっ。あたしはプレゼントを届けなくちゃいけないんだってば!」
「フフッ。でも、中身は軽いはずだろう?」
「それは軽いけど。……あっ、ダメ」
 近寄ったフランがひょい、とリィムナの抱えるプレゼントを奪うのです。
「配達ありがとう。『リィムナを自由に出来ます券』確かに受け取ったよ。……では頂こう!」
 なにやらリィムナは抗議の声を上げているようですが、策がピタリとハマってご満悦のフランの耳には届きません。
「いきなり縛るのは無粋。罠を解き……抱えて自然な動作でベッドに横たえ、両手を左手で掴み押さえ付け……そして右手で超絶技巧で体をなぞり、服をずらしていく。さて生れたままの姿に……」
 優雅に、例えて芸術品のその素晴らしさを解説するかのような口調とともに、ゆっくりとリィムナを料理にかかるフラン。途中でリィムナが暴れそうになった時には、芸術に対する無理解を叱責するような鋭い眼光で押さえつけ――いや、理解してもらいました。理解してもらったのですっ。
「……あっ……ひゃあっ……ダメっ……」
 その証拠に、リィムナは喜びの声を上げつつ身悶えています。顔を振ったり海老反りになったりと、体全体で歓喜を表している――と、フランは思っているようですね。リィムナとしては、絶妙のタッチで触れられなぞられ全身に震えが走る感覚に戸惑っているのでしょう。
 しかし。
「さあ、もうすぐ胸のふくらみが露に……」
 フランがそう言った時でしたっ!
「って、あれ?」
 何と、床から蔦が生え伸びてきてフランをがんじがらめにしたではないですか。この隙にがばりと元気に起き上がるリィムナ。
 そして、白くおっきな手袋を外します。そこには精霊甲が……ああっ、すでにリィムナの右手は魔法の光を帯びています。そのままがしっとフランの額を鷲掴みにしました。
「シャイニングアイアンクロー! 続いてエレキハンド!」
 叫ぶリィムナの口から犬歯が獰猛にチラリと見えてますっ。そのままホーリーコートで強化した五指でフランの額を締め付け、零距離アークブラストをぶっ放つのです。
「え? 魔法? そんなずるい……あぎゃああああ!」
 何という大逆転でしょう。
 フランは薄れゆく意識の中で、「悪人じゃないみたいだけどお仕置きはしないとね」というリィムナの声を聞くのです。


「ん……。おや、これは……」
 次にフランが正気を取り戻した時、体は地下室にあった鎖でがんじがらめにされていました。
「あ。おはよう、フランさん。ここで頭を冷やしてね」
「ああっ。まさか子猫ちゃんにお姫様抱っこをされることになるとは。……悪くはないのだけれど、願わくばボクのこの腕の中で子守唄のように」
「じゃ、またね〜」
 どぼん。
 リィムナの言葉を無視して陶酔して美学を語るフランでしたが、無常にも洋館近くの川に投げ入れられたのです。
「じゃ、サジ太。帰ってお姉ちゃんや大好きな……ちゃんと一緒にクリスマスパーティーをしよっ」
 橋の手すりに鎖をつなぐとスッキリしたように言うリィムナ。サジ太と友なる翼で同化し、箒に跨り夜空に飛んでいくのです。
「何だって。姪と一緒に!」
 橋の下では、ぷはあっ、と顔を上げたフランが飛び去るリィムナを見上げています。
 でも、すぐに気を取り直したようですよ。
「してやられたね……流石だよ。だが今度は必ず頂くよ、フフッ」
 肩から川に漬かった状態で、リィムナと姪を同時に子猫ちゃんにしている様子を想像しうっとりするフランでした。
 が、「くしゅん!」とくしゃみ。
「だ、誰か通り掛からないかな。夜の川は流石にきついや……」
 いかに志体持ちの開拓者とはいえ、身に染みるようです。
 と、その時でした。
「まあっ、大変。男の方が溺れているわっ!」
 運良く女性が通り掛かったのです。近くで竹竿を見つけて、上手く川岸に引き寄せることに成功したようです。
「どちらの殿方かは存じませんが、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。……小さな可愛い、天使のような悪魔に悪戯されてしまってね」
「自宅は近くです。ぜひ今夜はウチでゆっくり温まっていってください。私と小さな娘がいるだけですので遠慮は要りませんよ」
 どうやらフラン、温かい聖夜を迎えることができたようです。
 ついでに、いろんな意味で幼い少女が好きな性格の彼――もとい、彼女も、やはり芯は貴族のようで、誰でも襲い掛かるとかはないようで。
「フランさん、また遊びに来てね」
 翌日には、楽しく健全にお話などした幼い少女の無邪気な笑顔に送られるのでした。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib5897/フランヴェル・ギーベリ/女/20/サムライ
ib5201/リィムナ・ピサレット/女/10/魔術師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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フランヴェル・ギーベリ 様

 こちらでははじめまして。そしてギルド依頼ではいつもお世話様になっております。
 ああっ、ついにフランさんが本気にっ! と思いつつドキドキしながら発注文を読ませていただきました。ラストは、せっかくの聖夜なのでフランさんにも少しはいい思いをしてもらいたくこんな形に。実際、ひどい目にあっても逞しく、何だかんだで巡り合わせのいい幼少期を送ったんじゃないかな〜と感じました(ゆえに、現在のように自分に都合良く考えがちになった、とか)。真相は不明ですけどね♪。

 注文の多い罠屋敷というアイデア、とっても楽しかったです。

 お届けが遅くなってしまい申し訳ありません。この度はありがとうございました。
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2012年01月12日

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