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『六花、舞う。〜聖なる、生なる 』
兎々(ga7859)

 ふい、と思わず足を止めた。きょろ、と立ち止まって辺りを見回したセシル・ディル(gc6964)に、兎々(ga7859)はちらりと彼女を振り返り、それから眼差しを追うように同じく辺りを見回してみる。
 けれどもそこには誰も居らず、ただ、輝くように冷たい空気の中を泳ぐように、身をちぢこめた人々が足早に歩き去っていくだけで。不意に立ち止まった恋人達のことなど、知らぬ顔で通り過ぎていく彼らの中に、誰ともつかぬ誰かを何となく、捜す。
 けれどもそんな宛のない相手など、見つかるはずもない。兎々は細く白い息を吐き、それからもう一度セシルを振り返った。

「どうしたの、セシルさん」
「ううん」

 兎々の声に、ぱっと振り返って首を振ったセシルの表情は明るくて、幸せの輝きに満ちているかのようだった。ぎゅっ、と兎々の手を握る、暖かな手に力を込めて、微笑む。
 そうして再び歩きだした彼らを、やっぱり街は素知らぬ風情で通り過ぎていった。あるいは自分自身のことに精一杯で、誰も彼も、周りのことなど気にしている余裕もないのだろう。
 とはいえ、クリスマスも近いとなれば、それも無理からぬことだった。宗教的には神の子が生まれた聖なる日かも知れないけれど、それが大事な人と過ごす日という意味を持つようになって、久しい。
 兎々とセシルだって、元々はといえば、クリスマスパーティーの準備のために買い物にやってきた。パーティーグッズや料理の材料の入った買い物袋は、これからセシルの家でその成果を発揮する予定で。
 街を彩る、色とりどりのイルミネーション。その光を受けて輝きながら、あくまで冴え冴えと白い雪が、次から次へと地上に舞い降り、街を白く染め上げようとしている。
 積もるだろうか。積もったとして、それほど長くは持たないだろう。せいぜい、明日の朝に人々の目を楽しませるか、長くても昼前にはすっかり消え失せてしまうに違いない。
 どれほど降っても儚く消えゆく定めを持つ、雪。何気なく手のひらで受け止めれば、ただそれだけであっさり溶けて水になってしまうのに。
 そう、それはまるで、兎々が今まで見送ってきた数多の命のように――

(――‥‥‥)

 消えていった命を思い、無意識にセシルを振り返ると、目が合った彼女がぱっと幸せそうに顔を綻ばせた。その笑顔に、まるで太陽を見てしまった人のように兎々は知らず、目を細め。
 ぎゅっと、繋いだ右手に力を込めた。

「――綺麗だね」
「うん」

 絞り出すように、呟いた言葉に強く頷いて、セシルの左手にもまた力が籠もる。そうして降り続ける雪の白い帳と戯れながら、セシルの家へと歩き続ける。
 けれども兎々の脳裏からは、いつものように、答えのでない悩みが消えることはなかった。





 辿り着いたセシルの自宅で、彼女と2人、パンパンに詰まった買い物袋の中身を広げ、ああでもない、こうでもないと言い合いながらパーティーの準備をした。
 キッチンで普段は買わないような食材と格闘し、レシピと睨めっ子しながら料理を作っている、セシル。そんな彼女の気配を感じ、時々は覗きに行きながら、兎々はきらきらとしたモールやクリスマスツリーを飾り付ける。
 オーナメントを枝に結び、ライトと見比べながら壁にモールを留めて。テーブルにクロスを広げ、食器をセットする。
 そんな風にパーティーの準備に勤しんで、どう飾ればより雰囲気が良くなるだろうと考えていたからだろうか。ついにセシルの料理が出来上がり、ホームパーティーの準備がすっかり整った頃には、兎々は雪の中で感じた憂いなど消えてしまったように、すっかりハイテンションになっていた。
 窓の外は暗くなっていて、雪はまだまだやむ気配はない。テーブルの上にはセシルが作った美味しそうな料理が並び、シャンパンの琥珀色がライトの光を受けて、きらきらと煌めく気泡を幾つも弾けさせている。

「メリークリスマス!」
「メリークリスマス」

 テーブルに向かい合い、ムーディーに絞ったライトの下で、カチン、とシャンパングラスを鳴らした。そうして軽口をつけ、パチパチと喉を弾けながら滑り落ちていくアルコールの感触に、知らず楽しくなる。
 セシルに微笑むと、にこ、と嬉しそうな笑顔が返ってきた。そうしていそいそと、兎々の前の皿に取り分けてくれた料理を、早速口に運ぶ。
 そうしてにっこり、微笑んだ。

「美味しい! すごく美味しいよ、セシルさん」
「本当? 良かった、まだまだあるからたくさん食べてね」

 兎々の言葉に、少し心配そうな眼差しをしていたセシルはほっと安堵したような表情になり、大きく息を吐いた。そんな彼女に「もちろん」と大きく頷き返す。
 セシルが作ってくれた料理は、何より彼女の優しい気持ちが一杯に詰まっていて、口にするだけでその暖かさが伝わってきて、掛け値なく美味しかった。間違いなく、兎々にとっては彼女が自分のために作ってくれた料理が、この世で一番美味しい。
 だから、あっと言う間に目の前の料理を平らげて、早速お代わりを皿に取り分け始めた兎々を見て、やっと心から安心したように、セシルもシャンパンを飲んでから、フォークを手に取った。そうして2人、他愛のない言葉を交わしながら、満たされた気持ちで料理を口へ運んでいく。
 ささやかな、ささやかなホームパーティー。けれどもささやかだからこそ、愛おしく、言葉では表しようのない幸福感が、兎々の胸を満たしていく。
 こうして、セシルとただ、向かい合って。彼女の作った料理を食べて、彼女の笑顔を見つめながら、彼女の紡ぐ言葉を聞く。ただそれだけの、例えようのない幸福。
 やがて、気付けばテーブルの上に並んでいた料理の殆どは、兎々のお腹に収まっていた。さすがに一杯に詰まったお腹を、少しさするとセシルがくすくす笑う。
 そんなセシルを、ちょっと目を細めて見つめた。それから兎々が少し大きめの、綺麗にラッピングしてもらった箱を取り出すと、ぱっと顔を輝かせてセシルも、戸棚の中からプレゼントの包みを取り出して。
 小さなクリスマスツリーの前で。はい、と相手に手渡したのは、同時。

「これ、セシルさんへ」
「これ、兎々さんへ」

 クリスマスと言えば、プレゼント交換。綺麗にラッピングされた箱に添えた、言葉までも被って兎々とセシルは目を見合わせ、ぷっ、と吹き出した。それからお互いに『ありがとう』と微笑み合って、プレゼントの箱を交換する。
 セシルは兎々のプレゼントに、どんな反応をするだろう。少し、イタズラを仕掛けた気持ちで横目でちらりと伺っていると、リボンを解き、丁寧に包装紙を開いて、中の箱を開けた彼女が、うわぁ、と感心の声を上げた。

「これ、プラネタリウム?」
「うん。つけてみようか」

 ぱっと目を輝かせて振り返った彼女に、兎々は頷いて立ち上がると、部屋の電気をパチリと消した。窓からの僅かな灯でプラネタリウムのスイッチを入れる。
 パッ、と天井に一面の星空が生まれた。家庭用の小さなプラネタリウムだけれども、なかなか見ごたえのある星空に、うわぁ、とセシルの感嘆の声が上がってほっと、息を吐く。
 ちらりと天井の星空を見上げ、兎々はセシルからのプレゼントを開封した。中から出てきた、毛糸の長い――これは、マフラー? それもこの感じはもしかして、セシルの手編みだろうか。
 そう思うと嬉しくなって、ほんの少しだけ首を傾げてから、ひょい、と首に巻く。それに気付いて、あ、と目を見開いたセシルに、微笑んだ瞳は輝いている。

「大切にするね」
「あ、うん、あの、その、手編みなの‥‥」
「そうなんだ」
「で、出来については目を瞑ってね! 下手糞なの、自分で解ってるもの‥‥」

 わたわたと弁解するうちに、しょんもり肩を落として目をちょっと逸らしてしまったセシルに、暖かいよ、と兎々は優しく微笑んだ。それは下手な慰めではない――だって本当に、こんなに気持ちのこもったプレゼントを、兎々は他に知らない。
 愛しい、愛しいセシル。そんな彼女にあげたいプレゼントは、実はもう一つある。
 ごそ、と懐からそれを取り出すと、不思議そうに首をかしげていたセシルが次の瞬間、大きく目を見開いた。小さな、ビロード張りのアクセサリーボックス。中に入っているものを、彼女も察しただろう。
 それでも。

「こっちが、セシルさんの誕生日プレゼント。――これでセシルさんは兎々さんのものだからね?」
「‥‥ッ」

 イタズラっぽく囁きながら手の平にそれを握らせると、セシルは確かめるように箱を開けた。そうして中に入っている繊細な細工の指輪を見て、大きく息を呑む。
 兎々を見て、また指輪へと視線を落とした。それからまた兎々を見て、紡いだ言葉は震えている。

「私が貰って良い、の‥‥?」
「もちろん」

 当然だと、兎々は頷いた。セシル以外の人間にこれを渡す気はないし、セシル以外の人間が兎々の傍らに居ることなど、想像も出来ない。
 ぎゅっと、セシルが強く瞳を閉じた。そのまま大きく息を吸って、吐いて。そっと、開いた瞳に微笑みかけると、彼女が幸せそうにはにかみながら、ねぇ、と左手を差し出してきた。

「折角だから、はめてくれる‥‥?」

 そう言った、セシルの頬は少し赤くなって居て、それが喜びのせいなのか、たった今口にしたおねだりのせいなのか、判断がつかない。或いはどちらもなのだろうと、思うとまた愛しさが込み上げてくる。
 だから彼女の手を握り絞めた。まるでお姫様にかしずく従者のように、エスコートする王子様のように、恭しくセシルの指に婚約指輪をそっと、はめる。
 指先に感じる、ひやりとしたリングの感触。握った手の暖かさ。暖かな――命の証。
 そっと、セシルの顔が近付いてきた。かかる吐息に、くらりと眩暈がする。そうして小さく囁かれた言葉はまるで、麻薬のよう。

「‥‥兎々さん‥‥大好きよ‥‥」
「うん‥‥」

 頷いた、次の瞬間どちらからともなく唇と唇が触れ合い、それはやがて深い口付けへと変化した。柔らかく彼女を抱き締め、抱かれていた腕は、次第に、溺れた人のようにしがみつく様なそれへと変化して。窓の外、降りしきる雪の音なき音を聞きながら、プラネタリウムに生み出された満点の星に見下ろされ、より深く、深く触れ合わずには居られない。
 セシルの心臓の音が、ひどく大きく聞こえた。兎々の心臓の音は、彼女に聞こえているだろうか。力強く脈打つ、それは彼女への想いを現すもので、生きている命そのものの証でもある。
 ――どれほどの間、そうして触れ合い、抱き合っていたのだろう。幸せに満たされて、1つ布団の中、セシルを抱いて彼女のぬくもりを感じながら、兎々は天井の星空を見上げた。

「‥‥ねぇ、こうして一緒に眠れる‥‥こんな日が来るなんて、ね‥‥」
「‥‥‥」

 セシルの歌うような呟きに、言葉にならない頷きを返す。自分自身でも一体、なんと返したかったのか良く解らなかった。
 やがて、腕の中で柔らかな寝息を立て始めたセシルを目を細めて見つめ、さらり、ほんの少し前髪をかき上げる。窓の外に降る雪は、いまだ、やむ気配を知らない。
 手の平で儚く解けた雪を、思い出した。儚く、あっという間に水になってしまった白い雪――儚く、消えて行ってしまったたくさんの命。

(‥‥‥ッ)

 胸に込み上げてきたのは、消しようのない罪悪感だった。幾つもの命を見送りながら、自分はこうしてセシルを求め、命の証を、生きている確かな証を求めている。それは酷く自分勝手で、傲慢な気が、した。
 どうすれば良いのだろうと、また、答えの出た事のない問いを繰り返す。柔らかく、定期的に繰り返されるセシルの寝息が愛おしくて、脳裏に浮かぶ死んでいった何人もの顔がそれを責めている様な心地がした。
 生きる事を選びながら、死者に寄り添う事が常に頭の中にある。死者に寄り添いたいと願いながら、ふとした瞬間、生きる事を願っている。そんな自分がどうしたいのかが解らなくて、ただ、確かな答えを出せないままいつも、問いは堂々巡りで終わってしまう。
 それでもただ確かな事は、腕の中のセシルのぬくもりを、手放すことなど想像も出来ないことだ――そう、思いながら迷いを振り切るように静かに瞳を閉じた、それは雪降る満天の星空の下でのお話。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /   PC名    / 性別 / 年齢 /   職業   】
 gc6964  / セシル・ディル /  女  /  22  / キャバルリー
 ga7859  /   兎々    /  男  /  21  / ビーストマン

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
お届けが遅れてしまい、本当に申し訳ございません;

ささやかなクリスマスパーティーの、幸せと不安の入り混じったようなノベル、如何でしたでしょうか。
幸せを抱きながらもきっと、息子さんの中にはどうしても消せない罪悪感というか、不安というか、そう言ったものがあられるのだろうなぁ、と創造しながら書かせて頂きました。
‥‥ぇっと、その、イメージとか違いましたらもう、遠慮なくずずいとリテイクボタンをぽちりとしてやって下さいませ(あせあせ

息子さんのイメージ通りの、生と死の狭間で揺らぐ、優しいノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
WF!Xmasドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年01月13日

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