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『WhiteFairy【雪に溶ける願い】 』
藤堂 媛(gc7261)


 ――舞い散る雪はまるで妖精のようで、触れる誰かに幸せな夢を見せる。
 空は低く垂れ込め、白いものがちらついていた。天気予報だと今夜は積もるらしい。すっかりクリスマスの装いを纏う街は、年末の慌ただしさも混ざって誰もが少し早足だった。
 次々に、追い抜いてゆく人々。その背を見送りながら藤堂 媛とラナ・ヴェクサーはゆるりと歩く。どのお店にしようか、何を食べようか――そんなことを、話しながら。
「……何処も一杯。残念……かな」
 ラナは呟く。媛が誘って外食に来たのはいいが、どの店も満席ですぐには入れそうもない。店の外まで溢れた人々は、白い息を吐いて身を寄せ合うようにして並んでいる。
「あ、なら材料買うて何か作ろか!」
 媛がにこりと笑む。
「作る……って、自分たち……で……?」
 媛の提案に、ラナは驚きを隠せないようだ。
「今からだと食べるのは夕方くらいになるかもしれんけど、寒いなか待っとるよりはええよね!」
 ラナの返答を待たずに、媛はぐいぐいと手を引っ張って歩き出す。この方角には、ショッピングセンター。そこで食材の買い出しをするつもりだ。 
「あ、あの……」
「ん? なに?」
「……いえ……。……いきましょう……」
 ラナは媛に引っ張られるままに歩を速め、ふたりで雪のなかを進んでいく。
 店に到着すると、媛はカートにカゴを置いた。しかも上段と下段にひとつずつ。沢山買って、沢山料理を作って、残った分をラナに持たせるつもりだ。
「ラナちゃん、何食べたい〜? 好きなものカゴに放り込んでってええよ」
「私……ですか……? えぇと……なんでも……いい、です……」
 ラナは遠慮しているのか、媛に委ねるように答えた。とは言えど、それなりに食材をカゴに入れていく。野菜や甘いもの等ばかりだ。
 その様子を見て、媛はピンとくる。
(そういえば前にあんまり食べんて言いよったし、お肉より野菜多めの方がえぇかな?)
 考えている間にも、ラナはまた野菜をカゴのなかに。
「……ん、わかった!」
 頷く媛。そしてぽんぽんと放り込む野菜、果物、生クリーム。肉などの類はなく、ラナが好むと思われるものばかりを選んでいく。
 もちろん、栄養バランスも考えて。少しでもラナが美味しく食べてくれるように。うしろでラナが何か呟いたようだが、媛には聞こえなかった。

「私……どうすれば……?」
 ラナはキッチンでうろうろそわそわしていた。媛から借りたエプロンの紐を何度も縛り直したり、汚れたわけではないのに何度も手を洗ってみたり、キッチンからリビングを見渡してみたり。
 媛のマンションは広く、LDKのほかに畳敷きの部屋もあったりする。食事はリビングでする予定だ。
 そわそわするラナを見て、媛はくすりと笑んだ。そういえば、料理は不得意だと聞いている。それならば、簡単なところから教えてあげよう。
「こっちはコレでっと、ラナちゃんちょっとお鍋見てくれるー?」
「は、はい……」
 媛の指示に従い、何をすればいいかわからなかったラナもスムーズに調理の流れに入ることができた。
 鍋の様子を見て、野菜を洗い、小麦粉をふるい、簡単なことを緊張の面持ちでこなしていくラナ。
 そしてピーラーで人参の皮剥きを始めると――。
「えと、これは……きゃっ!」
 ごとんっ。ラナは小さな悲鳴と共に人参を落としてしまった。
「どうしたん? 大丈夫?」
 ラナの手元を覗き込むと、彼女は「大丈夫……です……」と左手を見せた。少しだけ、親指の爪先が削れている。ピーラーがかすってしまったのだろう。
 一度ピーラーを洗い、もう一度チャレンジ。今度は親指の位置にも気をつけて。怪我をしないように、媛も気を配る。
「うん、上手やで!」
 媛はラナが皮をむき終わるまで傍で見ていた。また爪を削ってしまうのではないかとラナは少し動揺していたようだが、今度はトラブルなく終了。
 皮を剥いた人参は、今度は乱切りに。ラナは包丁ではなくナイフを手に取った。これなら上手くできるらしい。媛がぱちぱちと手を叩くほど、見事に人参の乱切りは完了。
「じゃ、次はじゃがいもお願いしていい? じゃがいもは芽があるからちょっと面倒やけど」
 にこりと笑い、媛が先に手本を見せる。ラナはこくりと頷いて、じゃがいもを手に取った。
 時々小さなトラブルを起こしながらも、少しずつできあがっていく料理達。それから、ケーキも。
 媛はラナを気に掛けつつ、自身の料理も完成させていく。
 しゅぱんっ!
 ふと、視界の端を何かがよぎった。おや、と思いそちらを見ても、特に何も変化はない。
 それからも時々、しゅぱんしゅぱんと風を切る音がするが、媛には何が起こっているのかわからない。ただ、音のした方向にあった果物やクッキーの数が減っているような気はする。
「……気のせい、かな?」
 別に数を数えていたわけではないし、気のせいに違いない。媛は特に気に留めずに調理を進めていった。
 ラナがもごもごと口を動かしているのを、少し不思議に思いつつ。

「完成! 上手にできたで〜」
 テーブルに料理を並べ、媛が笑う。ふたりで作った沢山の料理に大満足だ。キッチンにはまだ沢山ある。あとでタッパーに入れてラナに渡すときのことを考えると、少しうきうきしてきた。
 ふと見ると、ラナはエプロンを外してぺたりと座り込んでいた。ほんの少しだけ、放心しているようにも見える。
「どうしたん?」
「……戦闘と、同じ位……疲れるなんて、ね……」
 はぁ、と長い溜息をつくラナ。確かに、戦闘後のように疲労の色を見せている。
「あはは、最初はそんなもんやって〜。大丈夫やで。お疲れさま!」
 媛はそんなラナに労いの言葉をかけた。そしてエプロンを外し、アルコールやジュースなどを用意する。
「……すごい……」
 ラナは疲れを見せずに動き回る媛に、感嘆の声を上げていた。
「さ、食べるで〜!」
 媛がシャンパンをグラスに注ぐ。
「でわでわ、かんぱ〜い♪」
「ん……乾杯、です」
 かちん、とグラスを軽くぶつけ、互いにシャンパンをひとくち。食欲をそそる風味と刺激が、口から胃にかけて伝わる。ラナはアルコールには少し弱いため、自分のペースでいくつもりのようだ。
「味には自信はあるんやけど、お口にあうやろかー?」
 媛はラナが食べる様子をじっと見つめる。今、ラナが食べている料理には、彼女が皮を剥いてくれた人参も入っている。少しでもラナの好みの味だといいのだが。ついでに、ケーキも差し出す。デザートだけど、食べる順番よりも楽しんで味わってもらいたいから。
 好きなものを、好きなだけ。せっかく、友達とふたりで作ったのだから。
「……美味しい、です……。とても……」
 ラナはどの料理も穏やかな表情で頬張ってくれる。よかった、と媛は胸を撫で下ろした。
「私が作ったもの……どう、でしょうか……?」
 ちらりと、自分が作った料理を見るラナ。煮込むだけのスープとか、サラダとか、彼女には簡単にできるものを教えた。だが、ラナにとっては難しくて苦労したに違いない。
 媛はそれらをじっくりと味わって食べる。口いっぱいにひろがる、ラナの優しさ。
「とっても美味しいで! ラナちゃん頑張ったもんなぁ」
 満面の笑みを浮かべ、媛はスープをおかわりする。
 ラナは、媛にとってラスト・ホープで初めてできた歳の近い友達だ。一緒に遊びにでかけたりと、一番付き合いが長い。
 今日だって、「友達を誘ってご飯を食べに行こう!」と思いついて真っ先に顔が思い浮かんだのもラナだった。
 いつも、色んなことで世話になりっぱなしだから、お店がどこも満席だったのは逆に有り難い。こうして料理を教えたり、一緒に作ったりと、自分にもできることがあるのがとても嬉しくて、張り切ってしまった。少しでもラナが楽しんでくれているなら、こんなに幸せなことはないだろう。
「実はお友達が家に来るなんて、初めてなんよ〜」
 媛が言うと、ラナは目を丸くした。
「私が、初めて……ですか? 光栄かな……」
 それは、ラナの心からの言葉に違いないだろう。媛は「ひとりやないご飯も久しぶりかも」と頷く。
「……はい」
 ラナは言葉に詰まりながら、精一杯の笑みを返してくれた。
 きっと、ラナも嬉しく思ってくれている。こうして料理を作って一緒に食べて、そのひとときを堪能してくれている。
 また、こんなひとときが欲しい。ラナと一緒に、笑いあって――。
 それを想像しただけで、媛の心は楽しさでいっぱいになる。そして、自然とこみ上げてくる笑顔。
「また、一緒に作ろな!」
 そう言うと、ラナは強く頷き返してくれた。
 
 陽が落ち、暗くなってきたころ、ラナが家路につく。
 媛が途中まで見送りについていった。そして別れるときに、少し大きめの紙袋をラナに渡す。
「……いただいて……いいん、です……か……?」
 ラナは渡された袋を見つめる。中には、余った料理とケーキなどを入れておいた。その匂いや暖かさを、ラナが感じてくれているといいのだが。
「うん、ええで! 持って帰って、また食べてぇな。いっぱい余っとるし、うちもまたあとで温め直して食べるつもりやで」
「ありがとう……ございます」
 ラナは袋を両腕で包み込んだ。媛の気持ちが、伝わったようだ。
 沢山作ってよかった。離れていても同じ料理を食べているのだと思うと、友達との繋がりがとても心地よく感じる。
「外、寒いし……雪降っとるし、気ぃつけて帰りや?」
 昼間よりもぐんと気温は下がり、雪も降り続いている。コートとマフラーにしっかりと身を包んでいるラナはしかし、寒そうには見えなかった。
「……はい。それじゃ……また……」
 こくりと頷きと、ラナの顔が少しだけマフラーに埋もれる。そして背を向け、ラナは歩き出す。
「また遊びに来てねぇ〜♪」
 手をぶんぶんと振り、雛はラナの背を見送る。
 遠くから聞こえるクリスマスソングや、街を彩るイルミネーション。帰って行く、大切な友達。
 ふと、ラナが立ち止まった。その場でゆるりと空を見上げている。
 今、ラナは何を考えているのだろう。何を思っているのだろう。自分のことだといいな――媛は、願う。
 すると、その願いが届いたかのように、ラナが振り返った。
「……あ……っ」
 嬉しくて、思わず満面の笑みを浮かべてしまう。緩む頬に当たる雪さえ、冷たさを感じないくらいに心が温かい。
 そして――ラナも、笑顔になる。
 少しだけ見つめ合い、またラナは背を向けた。
 雪の中、遠ざかっていく大切な――親友。
 媛はその背が見えなくなるまで、手を振って見送る。
「来年も、いい年でありますように!」
 大切なひとたちと、そして親友と。こうして笑顔でいられますように。
 ――舞い散る雪はまるで妖精のようで、触れる誰かに幸せな夢を見せる。
 媛はこの幸せな夢がずっと続くようにと、願いを込めて手を振り続けた。



   了


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gc7261/ 藤堂 媛 / 女性 / 20歳 / サイエンティスト】
【gc1748/ ラナ・ヴェクサー / 女性 / 19歳 / スナイパー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■藤堂 媛様
お世話になっております、佐伯ますみです。
「WF!Xmasドリームノベル」、お届けいたします。
おふたりでゆっくり過ごされる様子を書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。少しでもお気に召すと幸いです。もしなにかありましたら、遠慮無くリテイクかけてやってくださいね。
さて、こちらもやはり時系列やちょっとした伏線を考えつつ書いてみました。残った料理の行方なども、アドリブを入れつつ。物凄く細かな伏線もあったりしますので、よろしければ見つけてみてくださいね。
とても素敵な親友のおふたりを書かせていただくことができ、嬉しく思っております。
藤堂様のノベルは、藤堂様視点となっております。ラナ様のノベルと比べてみてくださいね。

この度はご注文くださり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました……!
これからますます寒さが増していくことと思いますので、お体くれぐれもご自愛くださいませ。
2012年 1月某日 佐伯ますみ
WF!Xmasドリームノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年01月16日

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