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『WhiteFairy【雪に溶ける願い】 』
ラナ・ヴェクサー(gc1748)


 ――舞い散る雪はまるで妖精のようで、触れる誰かに幸せな夢を見せる。
 空は低く垂れ込め、白いものがちらついていた。天気予報だと今夜は積もるらしい。すっかりクリスマスの装いを纏う街は、年末の慌ただしさも混ざって誰もが少し早足だった。
 次々に、追い抜いてゆく人々。その背を見送りながらラナ・ヴェクサーと藤堂 媛はゆるりと歩く。どのお店にしようか、何を食べようか――そんなことを、話しながら。
「……何処も一杯。残念……かな」
 ラナは呟く。せっっかく媛が誘ってくれたというのに、どの店も満席ですぐには入れそうもない。店の外まで溢れた人々は、白い息を吐いて身を寄せ合うようにして並んでいる。
「あ、なら材料買うて何か作ろか!」
 媛がにこりと笑む。
「作る……って、自分たち……で……?」
 思いがけない提案に、ラナは驚きを隠せなかった。料理ができない自分には、浮かぶことのない発想。それを媛は当たり前のように提案する。
「今からだと食べるのは夕方くらいになるかもしれんけど、寒いなか待っとるよりはええよね!」
 ラナの返答を待たずに、媛はぐいぐいと手を引っ張って歩き出す。この方角には、ショッピングセンター。そこで食材の買い出しをしようというのだ。 
「あ、あの……」
「ん? なに?」
「……いえ……。……いきましょう……」
 特に拒否する理由もない。媛は料理が得意なようだし、彼女と一緒なら楽しいだろう。ラナは媛に引っ張られるままに歩を速め、ふたりで雪のなかを進んでいく。
 店に到着すると、媛がカートにカゴを置く。しかも上段と下段にひとつずつ。一体どれくらい買うというのだろうか。
「ラナちゃん、何食べたい〜? 好きなものカゴに放り込んでってええよ」
「私……ですか……? えぇと……なんでも……いい、です……」
 ラナは遠慮し、媛に委ねるように答えた。とは言えど、それなりに食材をカゴに入れていく。野菜や甘いもの等ばかりだ。その様子を媛がじっと見つめていた。
「……ん、わかった!」
 頷く媛。そしてぽんぽんと放り込む野菜、果物、生クリーム。肉などの類はなく、どれもラナが好むものばかりだ。ラナはハッとする。もしかして、自分が肉類を苦手としていることを察してくれたのではないだろうか。
 媛はにこにこと食材を選んでいる。やはり、ラナが好む甘味。
「ありがとう……ございます」
 ラナは媛に聞こえないように呟いた。

「私……どうすれば……?」
 ラナはキッチンでうろうろそわそわしていた。媛から借りたエプロンの紐を何度も縛り直したり、汚れたわけではないのに何度も手を洗ってみたり、キッチンからリビングを見渡してみたり。心身共に、妙に慌ただしく動いてしまう。
 媛のマンションは広く、LDKのほかに畳敷きの部屋もあったりする。落ち着いた雰囲気で、居心地が良かった。
「こっちはコレでっと、ラナちゃんちょっとお鍋見てくれるー?」
「は、はい……」
 料理が不得意なラナを気遣ってか、媛は簡単なところから指示を出してくれる。何をすればいいかわからなかったラナも、スムーズに媛の調理の流れに入ることができた。
 鍋の様子を見て、野菜を洗い、小麦粉をふるい、簡単なことだけれどもどれもが少し緊張する。
 そしてピーラーで人参の皮を剥くように言われ、教えられるままに人参の皮を上から下へ――。
「えと、これは……きゃっ!」
 ごとんっ。人参を思わず落としてしまうラナ。
「どうしたん? 大丈夫?」
 媛が手元を覗き込んでくる。ラナは「大丈夫……です……」と左手を見せた。少しだけ、親指の爪先が削れている。ピーラーがかすってしまったのだ。
 一度ピーラーを洗い、もう一度チャレンジ。今度は親指の位置にも気をつけて。
「うん、上手やで!」
 媛はラナが皮をむき終わるまで傍で見ていてくれた。また爪を削ってしまうのではないかとラナは少し動揺していたが、媛のおかげで今度はトラブルなく終了。
 皮を剥いた人参は、今度は乱切りにする。ラナは包丁ではなくナイフを手に取った。これなら上手くできるのだ。媛がぱちぱちと手を叩くほど、見事に人参の乱切りは完了。
「じゃ、次はじゃがいもお願いしていい? じゃがいもは芽があるからちょっと面倒やけど」
 にこりと笑い、媛が先に手本を見せる。ラナはこくりと頷いて、じゃがいもを手に取った。
 時々小さなトラブルを起こしながらも、少しずつできあがっていく料理達。それから、ケーキも。
 ケーキに挟む生クリームや果物、残った小麦粉で簡単に作ったクッキー、ラナはそれらをちらちらと盗み見る。
 少し疲れてきたし、甘いものは好きだし、良い匂いがするし。つまみ食いがしたいかもしれない。
 それに何より――機動力には自信がある。
 媛は料理の仕上げにかかっていて、こちらを見ていない。
 ……今、だ。
 しゅぱんっ!
 軽く風を切るような音を立て、瞬時にクッキーを取って口に放り込む。
 まだ暖かい。さくさくとした食感と甘さと香ばしさが口中に広がっていく。もう一個――しゅぱんっ。
 苺も欲しい、かも――しゅぱんっ。瞬時に生クリームもつけて。
 媛の目を盗んでは、しゅぱんしゅぱんとつまみ食い。何度も言うが、機動力には自信がある。どうやら媛も気づいていなさそうだ。
 もう一個……と、次につまむものを選んでいて、ラナはふと気がついた。
 ――これ以上つまんだら、さすがに危険だろう。
 ケーキのデコレーションも寂しいことになるし、クッキーも寂しい。ここで、ストップだ。
 ほんの少し尾を引く誘惑を打ち払いながら、ラナは媛の手伝いを続けた。

「完成! 上手にできたで〜」
 テーブルに料理を並べ、媛が笑う。ラナはエプロンを外してぺたりと座り込んだ。
「どうしたん?」
「……戦闘と、同じ位……疲れるなんて、ね……」
 はぁ、と長い溜息をつく。覚醒したわけでもないし、強敵と戦ったわけでもない。だというのに凄まじい疲労感が全身を襲う。肩凝り腰痛足のむくみ、そんなものまで感じてしまう。
 料理とは、これほどまでに消耗するものだったのだろうか――。
「あはは、最初はそんなもんやって〜。大丈夫やで。お疲れさま!」
 媛が労いの言葉をかけてくれる。疲れた様子もなく、エプロンを外したあともアルコールやジュースなどを用意したりとぱたぱた動き回る媛。
「……すごい……」
 ラナは感嘆の声を上げる。自分も料理に慣れればああいうふうになるのだろうか。
「さ、食べるで〜!」
 媛がシャンパンをグラスに注ぐ。
「でわでわ、かんぱ〜い♪」
「ん……乾杯、です」
 かちん、とグラスを軽くぶつけ、互いにシャンパンをひとくち。食欲をそそる風味と刺激が、口から胃にかけて伝わる。ラナはアルコールには少し弱いため、自分のペースでいくつもりだ。
「味には自信はあるんやけど、お口にあうやろかー?」
 ラナが媛の作った料理を頬張ると、媛がじっと見つめてきた。
「……美味しい、です……。とても……」
 優しい味で、ラナの好みだ。この人参は自分が皮を剥いたんだっけと思い出しながら、食べていく。媛が作った料理はどれも美味しくて、甲乙が付けがたかった。デザートだとか順番を気にせずに食べるケーキも、絶品だ。
 ちらりと、自分が作った料理を見る。媛のと比べると、とても簡単なもの。煮込むだけのスープとか、サラダとか。でも、ラナにとっては難しくて苦労したものばかりだ。
「私が作ったもの……どう、でしょうか……?」
 苦労の味で、美味しいといいのだが。料理上手な媛に食べてもらうのは緊張するが――。
「とっても美味しいで! ラナちゃん頑張ったもんなぁ」
 満面の笑みをくれる媛。ラナが作ったスープをおかわりする。よかった、とラナは胸を撫で下ろした。
「実はお友達が家に来るなんて、初めてなんよ〜」
 媛が言う。その言葉に、ラナは目を丸くした。
 ラナが心を病んでいたころ、屈託無く接してくれた彼女。そんな彼女を心から信頼し、大切な友達となった。
 ネガティブな自分に常に明るく接してくれる彼女を、ラナは表には出さないが頼りがちだったりもする。今日、誘われたのも嬉しかった。もっと親しくなれるかもと、少しだけ期待していたりもする。
 ふたりで並んでいれば媛のほうが年下に見えるほどの幼い容姿に、可愛いと思うこともある。でも本当は年上で、不思議な安心感さえ抱かせてくれる。
 ……ちょっとだけ、体型的に羨ましい面もあったりするけれども。
 やっぱりそれらも決して態度には出さないけれど、媛には伝わっているかもしれない。
 そんな媛だから、友達もいっぱいいて、自宅にもいつも招いていてもおかしくはないが――自分が初めてだと聞き、ラナは嬉しかった。
「私が、初めて……ですか? 光栄かな……」
 心からの言葉。媛は「ひとりやないご飯も久しぶりかも」と頷く。
「……はい」
 ラナは言葉に詰まりながら、自身にできる精一杯の笑みを返す。
 自宅で家族と共にというのも好きだが、こうして友達とふたりで作ることができたご飯――すごく、嬉しかった。また、遊びたい。
 また、こうやって料理を作って、一緒に食べて――。
 その思いに答えるように、媛が笑ってくれた。
「また、一緒に作ろな!」

 陽が落ち、暗くなってきたころ、ラナは家路につく。
 媛が途中まで見送りについてきてくれた。そして別れるときに、少し大きめの紙袋をラナに渡してきた。
「……いただいて……いいん、です……か……?」
 ラナは渡された袋を見つめる。暖かく、良い匂いがする。
 中には、余った料理とケーキなどが入っている。
「うん、ええで! 持って帰って、また食べてぇな。いっぱい余っとるし、うちもまたあとで温め直して食べるつもりやで」
 媛の言葉に、ラナはなるほどと悟る。買い出しのときに沢山買い込んだのは、こうしてラナにお土産として持たせるためだったのだ。
「ありがとう……ございます」
 ラナは袋を両腕で包み込む。
「外、寒いし……雪降っとるし、気ぃつけて帰りや?」
「……はい。それじゃ……また……」
 こくりと頷きと、ラナの顔が少しだけマフラーに埋もれる。そして背を向け、ラナは歩き出す。
 昼間よりもぐんと気温は下がり、雪も降り続いている。コートとマフラーにしっかりと身を包んでいても寒さは厳しい。だが、腕の中の袋はとても暖かく、寒ささえ気にならないほどだ。
「また遊びに来てねぇ〜♪」
 手をぶんぶんと振り、ラナの背を見送る媛。
 遠くから聞こえるクリスマスソングや、街を彩るイルミネーション。見送ってくれる、大切な友達。
 ラナはゆるりと空を見上げ、舞い散る白い花に目を細める。
「……親友って、呼んでもいいの……かな……?」
 それは雪に溶けていきそうなくらいの、小さな声。暫し頬に当たる雪を堪能したあと、振り返れば――。
 とても、とても嬉しそうな――媛の、笑顔。
 その笑顔と、暖かさが心に沁みてくる。そしてラナもまた、笑顔になる。
「……来年も、いい年で……ありますように……」
 大切な家族と、そして親友と。こうして笑顔でいられますように。
 ――舞い散る雪はまるで妖精のようで、触れる誰かに幸せな夢を見せる。
 ラナはこの幸せな夢がずっと続くようにと、紙袋をそっと抱きしめた。



   了


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gc1748/ ラナ・ヴェクサー / 女性 / 19歳 / スナイパー】
【gc7261/ 藤堂 媛 / 女性 / 20歳 / サイエンティスト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■ラナ・ヴェクサー様
お世話になっております、佐伯ますみです。
「WF!Xmasドリームノベル」、お届けいたします。
おふたりでゆっくり過ごされる様子を書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。少しでもお気に召すと幸いです。もしなにかありましたら、遠慮無くリテイクかけてやってくださいね。
お料理が苦手な一面と、その最中につまみ食いをする一面と、戦場を離れた日常の様子は、書いていてとてもほっこりいたしました。気がつけば、結構アドリブを入れていた気がします。
とても素敵な親友のおふたりを書かせていただくことができ、嬉しく思っております。
ラナ様のノベルは、ラナ様視点となっております。藤堂様のノベルと比べてみてくださいね。

この度はご注文くださり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました……!
これからますます寒さが増していくことと思いますので、お体くれぐれもご自愛くださいませ。
2012年 1月某日 佐伯ますみ
WF!Xmasドリームノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年01月16日

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