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『『譲れない気持ち』 』
千獣3087

「ちょっと遅くなっちゃったけど大丈夫かしら」
 オレンジ色の光に包まれた夕方。
 茶色の髪の女性と黒髪の少女が、大きな荷物をもって歩いている。
 アルマ通りから天使の広場へと出て。
 それから、街中から離れて。
 何もない殺風景な広場へと急いでいく。
「悪戯したりしてないかしら。勝手に外に出て、帰って来られなくなってたらどうしよう」
「……大丈夫、さっきまで、部屋にいた」
 心配する女性、リミナに。黒髪の少女、千獣はそう言った。
「でも、確かに……心配」
 千獣の言葉に、リミナは大きく頷く。
「よねー。ちゃんとお留守番してるかしら。自分で持てるだけの買い物にしておけば、千獣に見張っててもらうこと出来たのに……」
 二人が、心配している相手は幼子でも、子供でもない。
 リミナと同い年の女性。リミナの双子の姉、ルニナだ。
 リミナは最近アルマ通りの食料品店で午前中だけ、品出しの仕事をしている。
 その間、千獣はなるべく彼女達が暮らしているファムルの診療所の傍に来て、ルニナを見守っていた。
 瀕死、ともいえる状態だったルニナだけれど、今では随分と回復した。
 それでも、散歩を以上の運動はまだまだ危険な状態だ。
 元々活発だった彼女は、長時間家に留まっていることに時々耐えられなくなって、1人で抜け出そうとすることさえあった。
「……大丈夫、家の中に、いる」
 気配を感じ取って千獣が言うと、リミナはほっとした表情になる。
「それじゃ、よく我慢していたご褒美に、食事は外でとろっか。テーブルの準備、お願い出来るかな?」
 リミナの言葉に、千獣はこくりと頷いた。

「ただいま、ルニナ……寝てるの?」
 返事がなかったので、寝ているのかもしれないと、そっとリミナは診療所へ入った。
「……寝てない、よ……。おかえり」
 ルニナはうとうとしていたらしく、目を擦りながら2人を迎える。
「ダメだ。あまりに退屈だったから、本でも読んで勉強しようかと思ったけど、3秒で眠くなった」
 診療室の机の上に、医療に関する本が置かれているが、開かれているページは目次だった。
「今日も、目次で断念したのね……」
「脳が勝手に断念したのー。私はちゃんと学んで、知識を得て、自分の治療を自分で行えるようになるつもりなのに!!」
 拳を握りしめて言うルニナ。
 リミナは千獣に顔を向けて、くすりと笑みを浮かべる。
 千獣にはよく解らなかったけれど、リミナがなんだか楽しそうだったので、とりあえず頷いておいた。
「さて、お昼ご飯作るわよ。ルニナも調子悪くないのなら、何かやってみる?」
「うん、狩りにでも行ってこようかな!」
「だから、それはダメだって。はい、じゃがいも。ポテトサラダ作るから、皮むいてね」
「はーい」
 研究室に向かって。リミナから渡されたじゃがいもを、バケツの水で洗った後。
 ルニナは取り出したナイフで皮をむいていく。
 千獣は2人が料理をする姿を途中まで見守っていた。
 ぐつぐつ鍋が沸騰して。
 スープの良い香りが診療所の中に充満した頃。
 一人で先に診療所を飛び出して、倉庫の中からテーブルセットを運び出していく。
 外で食事をする時も、人間はこうしてテーブルや椅子を使うことがある。
 テーブルと椅子を置いた後は、テーブルクロスというらしい布をかけて。
 先に椅子に座って、響いてくる2人の声を聞きながら、日向ぼっこをして待っていた。

「こっちの薬草パン、栄養あるみたい。スープにも薬草入ってるから、ちょっと変わった味かも?」
 テーブルの上に、街で買ったパンと、リミナが料理がならべられた。
 バターロールに、薬草の入ったパン、クロワッサン。
 千獣が森で採って果実を使って作ったジャムに、チーズに、バター。
 スープには野菜や薬草が沢山入っている。
 ポテトサラダに、肉団子。
 卵焼きに、カニさんウィンナー。
 ピクニックのメニューのようだった。
「はい、あーん」
 フォークに肉団子を刺して、リミナがルニナへと向けた。
「もう、自分で食べられるって」
 ルニナは笑いながら、フォークごと受け取る。
「千獣も、あーん」
 千獣はきょとんとしながらも、口をあけると、リミナは肉団子を千獣の口の中へと入れる。
 ぱくり、と口を閉じる。
「ふふ、食べてくれてありがとう」
 そんなリミナの言葉と笑顔に、千獣は少し不思議そうな顔をする。
 なにがありがとうなのだろう。
 リミナは……人間たちは、時々。いや、頻繁に解らないことを言う。
 言葉の意味は分かるのに、解らない、こと。
 リミナは、最近とても嬉しそうだった。
 仕事も、楽しく行えているようだった。
 ルニナも、退屈そうではあったけれど。気分が良くない日もあるみたいだけれど。
 笑っていることが多い。
 それはきっと“嬉しいこと”が多いからなのだろうと、思う。
 だから“いいこと”なのだろうと。
「ルニナ……元気?」
 千獣はそう尋ねると。
「うん、元気。どうしたの、急に」
 パンを食べながら、聞き返してきた。
 軽く首を横に振って。何でもないと言いながら。
 千獣は、ぼーっと2人を見守る。
 楽しそうに、食事をしている姿を。
 そして、食後のお茶を飲み始めて。
「千獣は、最近どんなことして過ごしてるの?」
 リミナのそんな問いを受けて。
 千獣はぽつ、ぽつ、語りだした。
「最近……いろいろ、話、聞いて、もらってた……」
 リミナも、ルニナも手を止めて、千獣に穏やかな目を向けている。
「……一人で、考えた……三人で、考えた……でも、私には、まだ、わからない、こと」
 千獣は、リミナ、ルニナを交互に見た。真剣な目で。
「守って、傷つく、こと。傷、ついたら、二人が、悲しむ。それは、良くない、こと、と、思ってる、けど……でも、聞いて、欲しい、気持ちが……ある」
「なに?」
「なあに?」
 ルニナ、リミナの言葉に、首を縦に振って千獣は変わらず真剣な目で話していく。
「……二人が、無事で、良かった。二人を、守れて、良かった」
 千獣の言葉に、ルニナの瞳が揺れた。
「今、ここで、二人が、無事で、生きていて、くれて……良かった。二人を、守れて、私は……とても、嬉しい」
 千獣の言葉に、リミナが目を細める。
「この、気持ちは、二人に、何、言われても、変わらない。また、困らせる、かも、しれない、けど……この、気持ちは、譲れない」
「……ありがとう」
 と、千獣の真剣な気持ちに、リミナは微笑んで、声を詰まらせながらそう言った。
「ありがと、ね」
 と。
「こうして、2人と一緒に過ごせていること。楽しいし、うん、私もすごく嬉しいよ、千獣」
 ルニナは立ち上がって、リミナと千獣の後ろに立って。
 両腕を広げて、二人を後ろから抱きしめた。
「言葉では伝えきれないから……ちょっとだけ、我慢してね」
 そう言って、ルニナは2人に顔を摺り寄せて、ぎゅっとぎゅううっと、愛おしげに抱きしめていた。
 “大好き”という気持ちを、体中で表していた。
「ふ、ふふ、くすぐったい」
 リミナが小さな笑い声を上げた。
「……良かった」
 千獣は、ルニナの確かな温もりを感じながら、またそっと呟いた。
 自然に抱かれているのとは違う、安堵感を覚えながら。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】

NPC
リミナ(NPC0980)
ルニナ(NPC0965)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
ご依頼、ありがとうございました。
こうして、3人でゆっくり過ごせることがとても嬉しいです。

またもや、ぎりぎりまでお時間をいただいてしまい、すみませんでした。
別のご依頼につきましても、ご期待に副えず、申し訳ありません。
WF!Xmasドリームノベル -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2012年02月09日

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