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『蛍 〜 水面の星 〜 』
久遠 栄ja2400


 依頼が終わった。
 程良い疲労に包まれた体は、わずかな虚脱感と同時に戦闘の余韻を留めている。勉学に向かうのには不向きな昂揚に、久遠栄(ja2400)は「ふむ」と呟いた。
「どこかで熱を冷ましておくべきかな。……散策でも行くか」
 独り言ちて足を進める。
 そういえば、よし……フレイヤ様(ja0715)達が蛍祭りに行こうと誘ってくれていた。開催は確か今日のはずだ。
(確かチラシ貰ってたな……)
 制服のポケットに手を突っ込めば、折りたたんだ祭りの広告がそこにあった。
(……会えたらいいな)
 祭りらしい格好をしようか。ふと心惹かれる思いつきが頭に浮かんだが、三秒考えて諦めた。依頼帰りのため、今から仕度をして赴いては皆と会えない可能性が高い。 
 栄はチラシをポケットに入れながら歩き出す。
 いつしか早足になっていた。





(うぉ……)
 祭会場に向かう道すがら、栄は川面に広がる光景に目を瞠った。
 祭提灯の光さえ届かない川の上。闇に沈んだそこに舞う光の群生。
(蛍……)
 一匹一匹の光は小さい。一匹だけだったならひどくもの悲しい光景だろう。だが、目の前の光景はどうだ。圧力すら感じる光に、彼らがとまる葦の葉すらうっすらと照らし出されている。
「…………」
 見守るにつれ、胸の奥になんとも言い難い気持ちが沸くのを感じた。
 寂しさや侘びしさとは違う。ふいに胸を掻き毟りたくなるような、息苦しさと衝動。
 悔恨だ。
(……救えなかった)
 いつだって必死に戦ってきた。だがその中で、手を伸ばしても届かなかった人達の命がある。
 見やる群れの中から、数匹が軌跡を描いて虚空に舞う。舞った先にも別の群れ。闇に緑に近い光を描いて渡っていく。
 この痛みや思いが消えることは無いだろう。苦しい息を小さく吐き、栄はわずかに蛍から目を逸らし──

 奇妙な光景をばっちり見てしまった。

「きれいね」
「そうだね。でも、君の方がもっと綺麗だよ…」

 相手が二人ならリア充だろう。だが何故だ。視界にいるのは独りだ。

「ホントに!?…うれしい」

 嗚呼どうしよう。声をかけずらい。友よ、若杉英斗(ja4230)よ。俺は今モーレツに逡巡している。
(! ! !! ……そっとしておこう)
 そして心のシャッターをそっと落とし──

 ぱきっ

(嗚呼!)
 即座に頭を抱えた。
 小枝さん何故そこで悪戯な音をたてるのか!
 チラと見れば英斗が「ん?」という顔でこちらを見ている。気づかれた!
「栄さん。依頼お疲れ様でした」
「あ、うん。いやー間に合うかなーって焦ったよー(棒読み)」
 バレてない。たぶんバレてない。流せ。流せ!
 心と背中にじっとり汗をかきつつ、栄はせかせかと英斗の傍まで行くと離脱とばかりに引っ張った。
「お腹空いたな! あ、百々ちゃん達発見! おーい!」
 はてな?顔の英斗を引っ張って走る栄の背中を一部始終を見ていた他観光客が暖かい眼差しで見ていた。
 サッキノヒトリブタイノオアイテサンデスカ?
 違います。決して誤解なきように!






『さかえんおつー!』
「依頼、お疲れ様でした」
 笑いながら迎えてくれた七種戒(ja1267)、百々清世(ja3082)、カタリナ(ja5119)の声に、栄えは嬉しげに相好を崩した。
「疲れたぜー」
「依頼、どうだったの?」
「大成功だったー!」
「おおー! おめでとう! おめでとう!」
「無事の帰還、何よりである」
『お疲れ様』
 青空・アルベール(ja0732)が我が事のように大喜びし、ギィネシアヌ(ja5565)が労るように笑み、英斗とフレイヤ(ja0715)が声を揃える。栄は面はゆそうに笑った。
「さかえんー。焼きそばどうするー?」
「お。いるいる!」
 すでに頬張っている英斗達の横で戒が新しい皿を差し出す。
「大成功祝いじゃー!」
「うぉ!? さんきゅー!」
 笑顔で受け取った。戒の女前っぷりがハンパ無い。
 ふと隣を見ると、フレイヤが妙に嬉しげに焼きそばを頬張っていた。いつもと違って青薔薇の浴衣を着ているせいか、なにやら印象が違うような……?
 子供のように頬を染めて食べている様は、なかなか可愛らしかった。
「リンゴ飴とか超気になるんだけど……あるかなぁ」
「あるある! 買ってやんよ」
 しかもリンゴ飴ご所望である。笑って請け負う清世の気持ちも分かろうと言うものだ。
「じ、自分でちゃんと払うにょよ!」
 思わず戒と一緒にによによと見送ってしまった。



「お、船、乗れんの?折角だし乗ろーぜ」
 店を冷やかしがてら腹を満たし、さて次はと周囲を眺めていた栄は清世の声に視線を転じた。少し離れた川縁に高瀬舟の看板が出ている。
 どうやら時折聞こえていた川向こうからの歓声は、実質、川の上から聞こえていた声だったようだ。
「舟か。いいな!」
「行くか!」
「突撃じゃー!」
 戒の号令に、全員がこぞって走り出した。





 舟は思いきり揺れた。
 戒&ギィネシアヌのはしゃぎっぷりによって。
「って揺らさないで! ゆっくり見えないでしょう?」
 カタリナが顔を赤らめながら母親のようにそんな二人を叱っている。
 川の上は涼しかった。岸辺の熱気から遠ざかると、水気を含んだ風が火照った体を冷やしていってくれる。
(……乗ってみて正解、だな)
 乗りたくなかったわけではない。ただ、疲労の残る体で一緒に乗って、迷惑をかけないか少し気になったのだ。
 流れのままに川を下ってしばし、
「わっ」
「わぁっ」
 ふいに明かりが増したのに気づき、そちらを見た栄は青空と共に歓声を上げた。
 緑光の固まりが至近距離に迫っていた。相手が虫であることを真面目に考えれば少々アレな状況なのだが、なにせ光の群れである。思わず歓声もあがるというものだ。
「なにこれすごい!」
「お、うは、口開けると入ってくるんじゃないか? これ!」
 きゃー! と笑い混じりの悲鳴が混じる。光の群れは清世とフレイヤの近くにも迫っている。
「おー、やっぱ綺麗なもんね」
 清世が笑いつつ後輩二人の様子を伺っている。すぐに綻んだ口元は、たぶん見やった二人が目を煌めかせて蛍を見つめていたからだろう。我が事のように嬉しそうな顔をしていた清世は、笑みを浮かべたまま隣のフレイヤに視線を返し、やっぱり笑みを零して言った。
「こんだけ綺麗だとお願い事とか叶いそうねー。フレイヤちゃん、彼氏できるようにゆっとけば?」
「な、なァ!?」
 フレイヤが慌てて清世を見る。いつも通りの光景に笑っていると、視界の端になにやら真剣な顔をした英斗と戒を見つけた。
「あっ、この、何故逃げる!?」
 何故か二人の近くにいた蛍が揃って逃げていく。戒の悲鳴に、カタリナは不思議そうに首を傾げた。
「食欲でも感じ取ったのかしら……」
「ちょー待って!? いくらなんでも食欲はわかないよ!?」
「そういえば、蛍狩りの歌とかあったねー」
 わりと可哀想な戒の声の裏で、青空がのほほんと声をあげる。栄は「そういえば」と頷いた。
「あったあった。昔のやつな」
「ホーホー蛍来い♪」
「こっちの水は甘いぞ♪」
 歌いだした青空に、栄も声を揃える。
 闇の中で、蛍の群れが鮮やかに舞っていた。






「すごかったなー!」
「あれは心に残る光景でしたね」
 ぐらぐらと揺れる高瀬舟から器用に降りて、栄とカタリナは笑った。向こうでは英斗が戒に手を差し伸べている。
「だいぶ川を下ったな」
「一番上流側に舟があって、そこから下流に下る感じですね」
「てことは一番最初の位置か」
 頷いたカタリナの向こう側で、英斗が手を振っている。
「ほら、みんな、射的やろうぜ!」
 射的と聞いて張り切るのがインフィルだ。
「ふっ。インフィルの私が優勝じゃ!」
「む? 勝負だな!?」
「なぜいきなりバトるんだ!?」
 英斗が顔を覆っっている。しかし、勝負心はよくわかる。
 笑いながら勝負に参加していた栄は、ふと視線を上げ、今までずっと視界の外にあった堤の上の看板に目を見開いた。
「盆踊り会場発見!」
「なぬぅううう!?」
 戒が反応した。速度0.1秒で。
「行かねば!」
「ちょ! 勝負どうなった!?」
「譲ってやるわぁ! 行くぞさかえん!」
「よしきた!」
 速攻でノってきた友人に栄も駆ける。
「後で合流するからー」
 フレイヤの声が背後から追いかけてくる。
 手を振って、栄は会場へと躍り込んだ。





「疲れたー」
 一時間近く踊り続け、栄は芝生の覆った岸辺で転がった。そこここで、祭に疲れた人々が同じように休んでいる。
「おーい!」
 川の向こうから声が聞こえる。見れば知り合いが舟の上から手を振っていた。
(お。なんだ、あっちも来てたのか)
 栄は笑う。楽しそうな様子に胸の中が暖かくなった。
 戒達はかき氷を買うべく屋台の方へと走っていた。
 栄は転がったまま空を見上げる。
 川の上の光とは違う、白い光が空に広がっている。いつの間にか雲は消え、星空が広がっていた。
(ああ、いい夜だ……)
 栄は微睡むように目を細める。
 依頼の疲労がじわじわと眠りに誘ってくる。
 心地よい睡魔に、栄の意識は穏やかな夢に落ちた。



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0715/フレイヤ/女/20才/ダアト】
【ja0732/青空・アルベール/男/16才/インフィルトレイター】
【ja1267/七種 戒/女/18才/インフィルトレイター】
【ja2400/久遠 栄/男/19才/インフィルトレイター】
【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja4230/若杉 英斗/男/17才/ディバインナイト】
【ja5119/カタリナ/女/23才/ディバインナイト】
【ja5565/ギィネシアヌ/女/12才/インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
愛おしいものは何気ない日常の中に。
皆様に良い日々が訪れますように……
綴らせてくださり、ありがとうございました^^

常夏のドリームノベル -
九三 壱八 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月12日

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