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『きみが生まれた記念日に 〜妹弟子から祝福を〜 』
エルレーン(ib7455)

●脅迫状
 おにラグさーんに おてがみかいた。
 おにラグさんたら――

「まさか、読まずに食べたりしないわよねぇ‥‥ね、うさみたん☆」

 くっくっくっ。
 屈折した笑いを漏らすエルレーン(ib7455)の手には、ピンク色したうさぎのぬいぐるみ――ラグナ・グラウシード(ib8459)がこよなく愛する『うさみたん』がいた。
 現在、うさみたんはエルレーンの許に囚われの身となっている。
 いや、物体だからして囚われというより単にエルレーンが借用しているだけだろう、そう突っ込んではいけない。ラグナにとってうさみたんは人目も憚らずデートしてしまうほどの愛する存在なのだ。
 つまり、うさみたんはヒトジチならぬモノジチなのであった。それも大変有効な取引材料になる、切り札の。
「さ、うさみたんもお洒落しなくちゃね☆」
 何せラグナへのプレゼントなのだから。
 うさみたんの首元に、金縁の赤いリボンを巻いてやる。華やかな結び目を作りながら、エルレーンは寂しげな笑みを浮かべた。
(‥‥何だか、うさみたんで着せ替えごっこしているみたい)
 決して幸福とは言えない幼少期を過ごした娘であった。
 生きるのに精一杯で、家族の愛情も、愛情転化する玩具もなくて――

「うさみたん。ラグナはいつも貴女に何を話しているの?」

 ――思わず話しかけていた。
 うさみたんは応えない。まぁるい瞳でエルレーンを見つめ返すだけだ。
 堪らなくなって、エルレーンはうさみたんを抱き締めた。まるで――得られなかった経験を今、追体験するかのように。

●(゚Д゚)
 処変わって、クリスマスツリー前。
 ジルベリアから伝わったという巨大モミの木と装飾は、神楽でも指折りの期間限定デートスポットだ。
 ぽつねんと、ラグナは誘拐犯を待っていた。
 指定通りの正装である。濃紺のダークスーツ、白シャツに紺地のストライプ柄のネクタイ――と、少々地味かもしれないが確かに企業戦士の正装には違いない。
 うさみたん奪取の怒りと緊張に固まって立っているラグナの姿は、さながら面接待ちの求職者か七五三詣りの男の子かという四角張り振りで、甘い雰囲気が漂うツリー周辺では明らかに浮いて見えた。
 尤も、当のラグナは場違いな事には気付いていない。ただ、さっきからやたらと苛々していた。
 うさみたんを質に取られているのだ、これが苛々せずにおれるものか。ラグナは敢えて周囲に目を向けずに己へ言い聞かす。そうだ、これはあの女からうさみたんを取り戻す前の武者奮いに違いない。
 だが、身体は正直だった。非モテ騎士にデートスポットで立ちんぼさせるとは、何と言う拷問。
「くッ‥‥!」
 突然胸を抑えて苦しみ始めたラグナを周りのカップル共が一斉に見たが、すぐに目を逸らして遠巻きにしている。周囲にはラグナの無意識から漏れ出る『打倒りあじゅう』の黒いオーラが有々と見えていたのだ。
 デートスポットに一人で現れ怨嗟の気を纏って突然苦しみ出した修羅の男――可哀想なひと。この人危ない。
「くッ‥‥私の中で奴が疼く‥‥あの女への積年の恨み、だがしかし‥‥う‥‥う‥‥うさみたーん!!」
 皆一様に係わり合いを避けて、そそくさとその場を去ってゆく。周囲のカップルが何回か入れ替わって後――漸くエルレーンが現れた。

「‥‥何という格好をしているのだ貴様は」
 開口一番、可愛げのない事を言われて、エルレーンはむっとした。
 本日の彼女は、アイボリーのワンピースに同色のポンチョ、可愛らしいパーティーバッグを携帯した完全デート仕様だ。普段は黒を基調とした戦闘服姿なだけに、淡い色使いの服装は彼女の清楚さをこれでもかとアピールしていた――のだが、ラグナと来たら全くもって気付いていない。
「貴様、うさみたんは何処へやった」
 とても収まっていそうにはない小さなバッグを一睨みしたラグナを、エルレーンは軽くいなして言った。

「まあまあ、取引はこれからなのぉ」
「ぐっ‥‥手短に話せ」
「ふふん、今日は一日暇だからつきあえ、なのぉ」
「(゚Д゚)ハァ?」

 奇妙な顔で静止したラグナの前で手を振って、ああこれは思考が途絶えたなと思う。抵抗の素振りがないのは従順なのだと思う事にして、エルレーンはラグナの二の腕を握り締めて一言。
「うさみたん‥‥どうなってもいいんだぁ」
「ぐッ‥‥卑怯な!」
 ご機嫌でまずは万商店ねと先を行くエルレーンと見えない鎖に繋がれた犬、もといラグナは怒りを押し殺しながら従順に歩き始めた――

●(≧∇≦)
 そんな訳で、二人は万商店に来ているのだった。
 普段は支給品を受け取ったり武具防具の調達に訪れる万商店だが、今日ばかりは別だ。だって今日は――
「ラグナぁ、こっちこっち〜」
 はしゃいだ様子でエルレーンがラグナを呼んだ。
 清楚な美少女と堅物の青年、他人目には初々しいカップルに見えなくもない。だが実情は兄妹弟子であり、恨み恨まれる間柄だったりする。
(平常心平常心‥‥)
 仇敵の、あの女が呼んでいる。気のせいか甘えたような声音なのが、何を考えているのか判りかねて不気味だ。
 ひたすらに、うさみたんの姿を思い描き平静を保とうとするラグナの腕を引っ張って、エルレーンは甘え声を出した。
「ねぇラグナぁ〜 これ買ってぇ☆」
「はァ? 何故この私が!」
 思わず声を荒らげた――というのも、彼女が指差したのは高価な宝石のイヤリングなのだ!
 が、悲しいかな、こういう時白い目で見られるのは、大抵の場合男の方だ。しかも今の装いでは、甘える彼女につれない彼氏の構図にしか見えない訳で。
 エルレーンはラグナに耳打ちした。
「へえ‥‥うさみたん、どうなっても‥‥いいんだ?」
 あらあら、彼女が怒らないでと懇願しているわ。あんな可愛らしい彼女に怒鳴りつけるなんて酷い男ね――等々、大きな誤解が囁かれる中、不本意ながらラグナは要求を呑むしかない。
「‥‥こ、これを」
「毎度ありがとう! 良かったね、彼女さん!!」
 売り子の獣人少年がエルレーンに声を掛ける。
 何を言う、被害者は私の方だと言いたいのをぐっと堪え、ラグナは分割で支払えないか交渉しようか本気で悩んでいた――

 しかし、彼の受難はこんなものでは済まされない。
「ラグナ、お腹空いたぁ」
「こ、こら触らせるな!」
 ほら、おなかがぺったんこぉ――などと己の胃の辺りへ手を当てさせるエルレーン。慌ててラグナは腕を振りほどいた。
 言っておくがエルレーンが手を引いて触れさせたのだ、断じてラグナが触ろうとしたのではない。
 真っ赤になって狼狽するラグナの様子は傍目には微笑ましいカップルのじゃれ合いに見える。可愛い彼女は彼氏を見上げて言った。
「ねぇ、ふるこーす食べたい」
「はァ!?」
 白い目、再び。そしてやっぱり脅迫されてジルベリア風レストランへ連行されるラグナ・グラウシード。
「ぐぬぬ‥‥う、うさみたんのためだ、耐えろ私!」
 愛しのうさみたんを必ずや取り戻してみせると心に誓い、ラグナはエルレーンの要求を呑み続けた。

 ところで我侭放題に甘えまくるエルレーンはと言うと――実は少々おかんむり。
 どんな無理難題を吹っかけても、ラグナはうさみたんの名を出すだけで要求を呑んでしまう。
 そう、要求を呑んでいるのだった。
 傍目にはデートのように見えるのに、二人の関係は冷ややかなものでしか、ない。
(せっかくお洒落したのにな‥‥)
 差し向かいに座った膝の上で拳を握る。行儀良く揃えた足には華奢なブーツを履いていた。
 普段は戦いやすい格好に徹しているエルレーンにとってデザイン重視のブーツは少々窮屈で、いつもと違うヒールの高さは重心を保つのが結構大変だったけれど、それでも今日は普通の女の子みたいに装いたかったから。
 清楚で可愛らしい衣装に、ほんの少しの我慢。ほんのりお化粧も頑張った、のに。
(ラグナ‥‥そんなに、うさみたんしか見えていないの?)
 お世辞ですら、ただの一言も「綺麗だ」とも「可愛いな」とも言わないラグナの反応を不満に思わずにはいられない。
「うふ、おいしいねラグナ!」
 哀しい気持ちを押し隠し、敢えて明るく振舞うエルレーンの反応に返って来るのは、苦虫を噛み殺したようなラグナの表情だけなのだ――
 こうなったら一番高いワインを注文してやる。勿論、ラグナの支払いで。

 したたか呑んで御馳走をたらふく食べて。
 どこか満たされぬ気持ちのまま、エルレーンはラグナにエスコートされて家路に就いていた。
(‥‥‥‥)
 この期に及んで、ラグナは一言も褒めやしない。ただ唯々諾々と彼女に従うのみだ。
 遂にエルレーンは尋ねずにはいられなくなった。

「ねえ、ラグナ‥‥今日の私‥‥きれい?」

「はぁぁぁぁぁあ!?」
 ラグナは狼狽した。いきなり何を言い出すのだこの女は!
 とにかく女心の解らない堅物であった。
 恋人ができない事を相当気に病んでいる癖に、何故できないのか己を振り返る事のできない唐変木の男であった。
「ねぇ‥‥っ‥‥!」
「‥‥き」
「き‥‥?」
 エルレーンは息を呑んだ。
 振り絞るように発したラグナの次の言葉は――

「貴様は、何と答えれば、うさみたんを返してくれるのだ?」

「もう‥‥もういいっ! ラグナの馬鹿っ!!」
 可愛い女を演じるのは止めた。
 力量格下の兄弟子を力づくで押さえ付け、エルレーンはラグナの角に手を掛ける。
「ばかばかばかっ、おばかさんのラグナなんてこうしてやるッ!」
「おいやめ、やめろこr‥‥‥‥ぁんッ」
 己の最も弱い箇所を掌握されて、ラグナは修羅の騎士にあるまじき嬌声を上げた――

 翌朝。
 散々弄ばれ、道端に襤褸雑巾のように転がっているラグナの傍には、約束通りうさみたんが寄り添っていた。
 エルレーンと同じ、アイボリーのワンピースに同色のポンチョを身に付けて。
 唯一エルレーンと異なっていたのは、うさみたんが持っていたルビーの嵌まった銀の腕輪と――届かないメッセージ。

『‥‥おたんじょうびおめでとう、ラグナ』

 怒りに任せ、うさみたんを投げつけて立ち去ったエルレーンの真意は、ラグナへ伝わる事なく冬空に解けていったのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 ib7455 / エルレーン / 女 / 18 / (≧∇≦) 】
【 ib8459 / ラグナ・グラウシード / 男 / 19 / (゚Д゚) 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 いつも楽しいプレイングをありがとうございます。周利でございます。
 普段おどおど口調のエルレーンさんは、実はドSだと思います! ラグナさん限定で‥‥かもしれませんけれど。「もーあんたら、くっついちゃえよ!」と何度言いたくなったか!
 でも、きっとこれは兄弟子と妹弟子のじゃれあいなのですよねぇ。
 何だか切ない幕切れになってしまいましたが‥‥昔に戻りたいというエルレーンさんの想い、いつか通じたらいいなぁと願っています。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年01月09日

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