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『郁と掟 』
綾鷹・郁8646)&(登場しない)

1.女の都

二十一世紀に住む人間の感覚で言えば、五十世紀。
三千年ほどの未来になる、紀元五千年に綾鷹・郁は居た。
これ位の未来になると、タイムマシーンのような装置も一般的…ではないが、存在する。
そうした装置を搭載して、時空を駆け巡る職業も一般的…ではないが、やはり存在する。
郁は、そんな風に時空を駆け巡る事を生業としている。
また、そんな未来にも、また過去にも変わらず、男は居る。
色んな時代で男を漁る事が、仕事の合間の郁の楽しみでもあった。
今日は休日。郁は久しぶりに、地元…久遠の都に帰って来た。
休日に郁が考える事は…
…どっかに、いい男居ないかなー?
ストレートな男漁りだ。
別に、いつもと変わらない。
キョロキョロと、久遠の都を見渡してみた。
街の中央に生える、全長数千メートルの巨木。
それを基調にして構成された女天使…ダウナーレイスの街で、枝々に建物が並んでいる。
歩いたり飛んだりしているのは、カジュアルな服装、長めのスカートを履いた女性の姿が多い。
と言うよりも、女しか居なかった。
…まぁ、ここに男居ても、困るけどなー。
いつものように、ダウナーレイスの女しか居ない、久遠の都を見回して、郁はため息をついた。
残念な事だが、ここは男子禁制、久遠の都。ここに男が居ては困る。男が居ては、不味いのだ。
やれやれ…と、郁は味気が無い都を見渡して、退屈な余暇を過ごしていたが…
…ん? あれ、男じゃね?
人ごみを歩く無表情な姿に違和感を覚えた。
長い髪に、控えめな紺色のスカート。中性的な顔立ちの、ダウナーレイスの女…だろうか? そんな気もするし、そうでもない気もする。
単に、男に飢えて勘違いをしているだけかもしれない。
そう思いつつも、郁は人ごみの中で見つけた、その影を追い始めた。

2.女の都の男

よく見ると、少し様子がおかしい事にも気づく。
やけに周囲を見回していたり、急に立ち止まって違う方向へ歩き出したりと、少し挙動不審にも見えた。
…アシッド・クランか?
男は男でも、敵対している集団のスパイでは非常に困る。排除しなくてはならない。冷静に考えれば、女の都に男が居るという事は、その可能性の方が高いのだ。
しかし、そうではない可能性もある。ともかく、一度、話を聞いてみる必要があると郁は思った。
人ごみをかき分け、郁は彼に声をかけた。
「なぁなぁ、前にどっかで会った事無い?」
相手を停止させ、考えさせて反応を伺う為の質問だ。
長い髪を閃かせて、彼は振り返ると首を傾げた。
きれいな中性的な顔立ち…
少し悩んだ後、唇が開いた。
「んー、ごめん。
 なんかよく覚えてないんだー。
 それより、ここ何処だっけ?
 なんか、女の子ばっかりだね」
彼は、にっこりと微笑んだ。
「なんだー、記憶喪失か? 健忘症か?」
郁も、にっこり微笑んだ。
スパイにしては、あからさまに挙動不審過ぎるし、この様子だ。何らかの記憶障害なのかもしれないと、郁は男の様子を伺った。
「そうだなー…なんか…よくわかんない…
 なんで、空に地球が浮かんでるんだっけ?」
彼はそう言って、空に見える青い星を指さした。
「そりゃ、ここは月だからなー。
 あなたは、地球から来たのかー?」
「うん、何か地球に住んでた気が…する」
彼は空に浮かぶ星を見ながら、何やら考えていた。
「でも、ここはキレイだね。僕、ここも気に入ったよ」
そう言って、彼は郁に微笑んだ。
さらに聞いてみた所、女装にも見える服装は、彼が住んでいた『地球』での流行らしい。

3.夢の見物

…あー、こりゃ時空の乱れか何かに迷い込んだなー。
理由はよくわからないが、稀に、彼のように意図せずに時間を渡ってしまう者を郁は見てきた。
聞いた話を総合すると、彼は三千年前、二十一世紀初め頃の人間らしい。
まだネットワークも黎明期で、地球内での通信を行うのにも通信ラグが起こるような不便でのどかな時代だ。
そんな彼に、このダウナーレイスの都はどう見えるんだろうかと郁は気になる。
彼は都の中心にそびえる巨木から延びる枝を眺めていた。
「枝に家が建ってるんだね。面白い。
 でも、枝の先の方は、小さい家ばっかりだね」
よく見ると、中心の巨木付近の枝の付近に大きな建物が並び、それから円状枝が広がりながら、少しづつ建物が小さくなっていくのがわかる。
「んー、そーだなー。
 枝が細くなると、小さな家しか建てられんしなー」
自然と、身分が高い者が街の中心部に住み、そうでない者が枝の先の方に住む事になる。
そういえば、そういうのは二十一世紀からあんまり変わらんなーと、郁は思った。
それにしても、記憶がおかしくなっているのに、無邪気な男だ。
のんびりとダウナーレイスの都を見回して、はしゃいでいる。
…さて、さっさとクロノサーフに行かんとねー。
一方、郁の方は、楽しみつつも少し焦りながら、自分の船へと向かっていた。
ここは女の都。男が見つかると、色々と不味いのだ。。
郁は街を歩く憲兵の様子を気にする。まるでスパイのように、慎重に歩いていたのだが、それが逆にいけなかったのかもしれない。
船に着くよりも早く、二人は憲兵に見つかってしまった…

4.夢の代償

「ふーん、これで地球に帰れるの?」
彼は、無邪気に言った。
何故か、白い顔に目隠しをしている。
「う、うん。だから、何も気にするなー。何も考えなくていいぞー」
愛用の銃剣を手に、郁は言った。
それから、銃口を彼の額に向け、引き金に指を添えて一瞬止まった。
…許せなー…せめて、夢の中で逝ってなー。
郁は銃剣の引き金を引いた。
彼の身体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
郁は、何も知らない彼を元の時代に帰すように言ったが、受け入れられなかった。
女の都…ダウナーレイスの掟は、侵入した男は問答無用で射殺。
せめてもの譲歩が、郁の手で逝かせてやる事だった…

(完)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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東京怪談
2013年01月31日

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