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『初めての一日を、きみと。 』
奥戸 通jb3571

 新しい年の始まりを、おにーさんと一緒に。
 たっくさん笑い合える楽しい一日になったらいいな――

●初春でーと
 西暦2013年、正月。
 新たな年を迎えた人々が、街のあちこちで祝いの言葉を口に載せている頃――奥戸 通(jb3571)は待っていた。
(おにーさん、遅いなぁ‥‥)
 駅改札の柱の影で人待ち顔にぽつり佇む小柄な少女は、さりげなく時計へ視線を遣った。柱の位置から見える改札の時計は、待ち合わせ時刻をとっくに過ぎている。
(まさか来る途中で何かあったんじゃ‥‥)
 突如悪い想像が頭を過ぎって、通はふるりと頭を振った。
 心配のあまり咄嗟に取り出そうとした携帯電話を再び仕舞い、通は考える。急かすつもりはないのだから、今連絡して、おにーさんに気を遣わせるのはやめておこう。
 だからもう少しの間、通は改札口で人の行き来を眺めている事にした。きっともうすぐ到着するから――ほら。

「超ごめんー あとで何か奢る、まじで!」

 駅前に乗りつけたバイクのフルフェイスさんが、聞き覚えのある口調で言った。勿論、ヘルメットを外した下から現れたのは、おにーさん――待ち人の百々 清世(ja3082)その人だったから。
「無事来てくれて良かったです」
 遅れた事より事故でなかった事の方が嬉しい。そう思うから、通は怒る気にもならずに微笑うのだ。

 ひとまずバイクを駅の駐輪場へ停めに行って、それから清世はケジメだと改めて謝り倒した。
「ほんと、超ごめんー 俺、朝は苦手だけどできるだけ遅れないように、奥戸ちゃんの為なら頑張れるはずだったのに!」
「も〜 気にしないでくださーい」
 却って恐縮しちゃいますよ? と通は清世の負担にならないようにやんわりと謝罪を制止して、小首を傾げて清世を見上げる。
 同じ一日なら、互いに気を遣い合うよりも楽しみ合った方がいい。
「今日一日、頑張ってくださいね?」
「とーぜん!」
 力んだ清世にくすりと笑った通、頼りにしてますと戦場目指して移動を始めた。

●初売り
 通が向かった戦場――それはショッピングモール。
 店々の初売りは正月の華。店舗ごとに趣向を凝らした福袋、正月限定商品等々、ご祝儀支出を見込んだ品揃えに店側の本気度が見え隠れする場所だ。

「うんうん、女の子の戦場だねー」
 店のあちらこちらで足を止めてディスプレイを見入る通。彼女とは対照的に、清世は淡白なものだ。
 確かにコフレやアクセに見入られても反応に困るのだけど――でも。
(もしかして‥‥退屈?)
 ちょっぴり不安になった通の表情を、女の子に目敏い清世が見逃すはずもない。にこにこしながら彼は言った。
「へーきへーき。女の子の楽しそうな顔が見れるなら、俺も全然楽しいよ」
 荷物持ちは任せてと笑う清世の優しさに、通は安堵する。
 優しい、優しいおにーさん。今日は、その優しさに甘えさせてください。
「では。次は‥‥」
 プチサイズを扱っているショップに付き合ってくださいと通は微笑った。
 だって、服選びは一人よりも二人の方が――絶対楽しいから。

 全体のバランスが良いので他者は気づき難いが、通には小柄なりの悩みがある。一般サイズの服では丈が余るのだ。例えば袖丈、身丈、裾丈――殊にパンツで裾丈の余るのが切なくて、彼女はスカートを好んで穿くようにしている。
 長身の部類に入る清世の肩より下の位置で、通はワンピースを数枚手に取った。
「んん〜」
 どれにしようかな。小首を傾げて清世を見上げた。
 髪色が映える鮮やかな色合いにシンプルなラインのもの、瞳の美しさが際立つダークカラーのシックなラインのもの、春らしさを感じさせる愛らしい色合いとふんわりしたシルエットのもの――どれも甲乙付けがたくて、胸の前にワンピースを宛がって見せる。
「どう、ですか?」
 通本人が悩んでも不思議はないほど、どれも彼女にとてもよく似合っていた。だが清世は大真面目に一着を選ぼうと考え込んだ。
「んー そうだなあ‥‥これとこれ、試着させて貰ったらどう?」
「そうですね。少し待っていてくださいね」
 フィッティングルームに消えた通を見送る清世の表情は優しくて、他者が見れば先輩後輩というよりも恋人同士という方が自然な感じだ。店員達の姦しげな視線をさらりと受け流して、清世は試着した通の姿を見比べる。
「んー どっちも似合うけどー こっち?」
 最終選考に残ったワンピースはショップの紙袋に入って、清世の手に。
 荷物持ちくらいしかできないからねと飄々としている彼へ、通はちょっと待っててくださいねと言い置いて駆け出した。
 女の子には秘密がある。
 一々詮索するのは人としても男としても無粋極まりない事だから、清世はのんびり待っている。だから暫くして戻って来た通に彼は何も聞かなかったし、通がほんのり嬉しそうな表情だったのを笑顔で迎えただけだったのだ。

●初滑り、そして――
 続いて二人がやって来たのはスケートリンク。
 荷物を預けてシューズを借りて――そこで清世は気付いた。
「奥戸ちゃん、もしかして‥‥初めて?」
 こくり、と頷いた通の顔が緊張気味だ。ついでに靴の履き方も普通のブーツと同じ感覚で履いている。これでは足を捻って怪我をしかねない。
「サイズは合ってた? ピッタリしてる方がいいからねー」
 言いつつ、屈んで紐の緩みを締めなおしてやる。立ってごらんと促すと、怖々ながら床の上に立ち上がった。
「‥‥あ。立てます」
「うんうん、筋がいいねー じゃあリンクへ行ってみよー」
 氷の上では床と同じようにはいかないなどとは敢えて言わない。清世は褒めて才能を伸ばすタイプの先生なのだ。
 だから当然――
「わ、わわ‥‥っ」
「だーいじょーぶ、さっきと同じように立ってごらん」
 そんな事言ったって、氷の上では重心が――!
 相変わらずにこにこと、上手いよと褒めてくれる清世先生。だけど通の足元は何とも覚束ない。
 なのに清世先生は、通から手を離して数メートル後ろへ下がると両腕を広げて言った。
「おー 上手上手、筋いいね。じゃ、ここまで来れるよね」
「ちょっ、わっ、まだ手を離さないでくださーい!!」
 瞬間、通の悲鳴がリンク上に響いたのは言うまでもない。

 暫くの間、騒がしくも楽しく氷の上で過ごしたあと、二人はスケートリンクに併設されたカフェで一休みしていた。
「初めてなのに酷いですよ、も〜」
「いや、ほんと筋いいよ。滑れるようになったじゃん」
 顔を見合わせて笑う。多少のトラブルはあったものの、結局のところ通は滑れるようになっていた。
 遅刻のお詫びとスケート講習修了の労いに何でも好きなものをどうぞと清世に言われて、通も素直に季節限定のセットメニューを注文する。暫し後、運ばれて来たそれを見て、通の瞳が輝いた。
「わぁ、可愛い!」
 それは通が大好きな苺を使ったスイーツ。スポンジ生地で作った小さな器に、苺やベリー類がたっぷり乗っている。シャルロットケーキとの事で、フォークを入れれば中からは苺のババロアが現れた。
 にこにこと清世が通の顔を眺めている。
「おー 機嫌直ったねー」
「も〜 おにーさんの意地悪‥‥」
 二人はもう一度、顔を見合わせて笑った。

 デートは帰りも続いている。女の子を家まで送り届けるのがデートというものだ。
 二人並んで歩いていると、通が突然立ち止まった。
「どーした、奥戸ちゃん?」
「おにーさん、今日はありがとうございました」
 覗きこむ清世に、通は鞄から取り出した小さな包みを差し出して、今日の記念ですと微笑った。
 開けてみてくださいと促され、開封してみると――包みの中にあったのは、ピアス。
「おにーさんに似合いそう、かなって‥‥」
 いつも付けているピアスは外さないのを知っているから、気分で付け替えているひとつにでも――と遠慮がちに通は言った。
 こちらこそ今日はありがとうと清世は返し、いつものように飄々と「また暇なら遊んでねー」と通に笑顔を向けている。
 だから通は思い切って――小声でおずおずと付け足した。
「はい。また、デートしましょうね」
「もちろん。奥戸ちゃんのためなら予定空けとくよ」

 今日この日のような楽しい時を過ごせるのならば――何時だって。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jb3571 / 奥戸 通 / 女 / 21 / 素直で可愛い女の子 】
【 ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / おにーさん 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、可愛らしいお嬢さん。周利芽乃香と申します。この度はノベルご用命ありがとうございました!
 赤の髪に緑の瞳が印象的なバストアップも充分お可愛らしいのですが、心配性だったり小柄だったり、そんな所も可愛らしくて‥‥v
 清世さんへのプレゼント、特にご指定がありませんでしたので無難にピアスにしておきました。
 敢えてデザインには触れず‥‥ですので、詳細はご想像にお任せしますね。
N.Y.E新春のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年02月08日

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