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『揺らぐ赤の向こうに side メフィス 』
メフィス・ロットハールja7041


 世は2月。
 愛のイベントだかなんだか知らないが、『それ向け』の商戦が各分野で展開されている。
「どうしたの、アスハ?」
「ああ、いや」
 アスハ・ロットハールが手にしていたのは、一枚のパンフレット。
 また物騒な『癖』でも出たのかと、妻のメフィス・ロットハールが彼の手元をヒョイと覗きこむ。
 しかしそれは、とてもとても意外なものであった。
「バレンタイン・ディナー……?」
「せっかくの機会、だと思って、な。どうだろう?」
「素敵じゃない? やればできるのね、アスハ!」
「それは…… 褒められて、いるのか?」
「見直してるのよ。重体になるかどうかの賭けにばっかり夢中かと思った」
「………」
 無茶ばっかりなんだから。
 そっと釘を刺す妻に、夫はそっと黙するよりなかった。



●たまには、こうして
 2月14日。
 放課後。
「じゃ、ちょっと用事済ませたら行くわね。時間? 解ってるわよ」
「それでは、また後で、メフィス」
 二人は学園内で別れを告げ、予約をしたレストランでの待ち合わせの約束を交わす。
 夫婦、大学部でも同じ学年。
 任務を受けている時以外は共に過ごす時間が長いから、『待ち合わせ』なんて新鮮な響き。
 どこかくすぐったさを感じながら、互いに手を挙げて、それぞれに時間を過ごすこととなる。



●あなたのためのスペシャル
「さて、チョコは家に手作りのものがばっちりだけど……。手ぶらってのも怪しまれるから、なにがいいかなー?」
 生活を共にする以上、『家で手作り』こちらの難度がハンパなかった。
 それをクリアしただけに、メフィスの足取りは軽い。チョコレートに限らない、彼にぴったりな贈りものに専念できる。

 駆け込みで、プレゼントを用意するのか頬を上気させて走りまわる少女たち、
 貰った偽装をするのか、なぜかチョコレートを買いに洋菓子店へ入る少年たち、
 ショップ側は『本日が最後の勝負』と商品の売切りに精を出している。
「ふふ…… なかなか楽しいわね」
 こんな余裕の発言をしながら、メフィスは一路、バイク用品店へ。
 流石に、浮かれた雰囲気の欠片も無い店内だ。
(いつもの手袋がけっこう使い込んでたし、新しいのとか喜んでくれるかな?)
 手のサイズは、知っている。彼の大きな手にぴったりで、それから……
「へぇ……皮手袋でもカラフルなのってあるんだ」
 一人で入るのは初めて。
 好奇心がムクムクと持ちあがり、探検気分であれこれ眺め、けれど決断はすぐだった。
「あ、コレにしよう♪」
 目に留まったのはシンプルなスタイルで、彼にぴったりなデザインに思えた。
 喜んでくれるだろうか。使ってくれるだろうか。
 その姿を思い描きながら、メフィスはプレゼント包装を頼んだ。




「遅いーっ!」
「すまん、待たせた…… 寒くなかった、か?」
「ふふっ なーんて、まだ時間じゃないわね。ありがと、大丈夫よ」
 待ち合わせ場所に到着していたのはメフィスが先だが、互いに予定より早めに着いていた。
 楽しみにしている気持は、一緒。
 顔を見合わせ、一緒に笑って。
「行こう、か」
「楽しみにしてるのよ、アスハのセレクト」
 どんなお店で、どんなコースかは彼に任せている。
「分の悪い賭けに勝つのは得意、だ。期待してくれていい」
「……一気に心配になってきたんだけど」
 冗談を交えながら、メフィスはアスハに腕を絡め、歩きだした。
 彼女の歩調に合わせて歩くこと。
 メフィスに出会い、アスハは学んだ。
 二人の間の小さな積み重ねが、こうした何気ない一つ一つに散りばめられている。
 陽は落ちて、ライトアップされたストリートを進む。
 放課後間もなくは制服にコート姿の少年少女の姿も目立ったが、この時間になってくると年齢層も相応だ。
 アンティークの看板を目印に、角を一つ曲がる。
「へぇ…… スペイン、料理??}
 玄関口の黒板に走り書きされているメニューを読み、メフィスが首を傾げる。
 フレンチ、イタリアン、それくらいなら雰囲気も想像しやすいけれど…… スペイン。
「『伝統をベースに、それを最大限に現代化』というのが、売りだと聞いて、な。おもしろそうだろう?」
 自分も詳しくはない。
 案に告げるアスハの胸を、メフィスが小突いた。
「乗ったわ、その賭け!」


 静かなクラシックの流れる店内。
 キャンドルによる柔らかな間接照明に照らされる店内は、どことなく心落ち着く。
 撃退士に命を助けられた経験を持つというオーナーが、恩を返したいと修業を終えて開いたのだというレストランは、値段も優しい。
「食前酒は、いかがなさいますか?」
「オススメのものを、ふたつ」
「かしこまりました」
 慣れた仕草で乗り切るアスハへ、メフィスは笑いをこらえるのに必死だ。
「そこは、賭けに出ないの?」
「相手を信頼することも、大事だろう?」
「そうね……。ほんとに、そう」
「……怒って、いるのか?」
「まさか。安心したのよ」
「…………」
 裏表のない妻の言葉に、嗚呼、頭が上がらないとアスハは実感する。
 彼女が繋ぎとめてくれるからこそ、自分は『賭け』に出ることが出来るし、『生きて帰る』と強く思える。

 軽く炭酸の効いた食前酒とオードブルの盛り合わせを味わいながら、他愛もない会話を楽しむ。
 日常的で、だけどどこか、非日常。
 家でくつろぐのとも、戦闘で背を合わせるのとも違う、穏やかな時間。
 料理の物珍しさも手伝っているのだろうか。
「これは、家でとなると大変そう…… 圧縮鍋で、できるかしら」
 ホロホロに煮込まれたビーフシチューを、メフィスが睨むように見つめる。
「お休みの日に、ゆっくりコトコトするのもいいわよね」
 手間暇をかけることの贅沢。ふと、思い出させてくれる味。
 メインの後に運ばれてきたのは、パエジャ――パエリア、と言った方が一般的だろうか。
「スペインでは、正月など祝いの時期に食べるものなのですよ」
 説明に、二人はなるほどとうなずく。
 バレンタイン。確かに、愛を祝う日、かもしれない。などと考えると、少々、気恥ずかしいけれど。
「凄い、こんなにゴージャスなのね」
 エビやホタテ、新鮮な海の幸がふんだんに使われている。
「鉄板との……焦げ目もなかなか、美味そう、だな」
「オコゲね、了解。取り分けてあげる」
 グラスワインの酔いも回ったろうか、メフィスは上機嫌だ。
 そんな彼女の姿にこそ、アスハの機嫌も上向く。

 デザートとコーヒーを頼んだところで、ひと段落……
「アスハ。あのね……」
 ずっと機を伺っていたメフィスが、下を向き、それから手荷物に忍ばせていた、プレゼントを取りだす。
「はい、バレンタインのプレゼント」
 笑顔と共に渡されたのは、長方形の箱……なんだろう。
「バイク用の……皮手袋、か」
 黒地に赤い炎のようなデザインは、アスハのイメージそのものだろう。
 闇を切り裂く、鮮烈な炎のよう。
「いつもの、けっこう使い込んでたし……。どうかしら。大事に使ってね?」
「……アリガトウ。大切に、する」
 細かなところまで、見ていてくれた。そのことがアスハには嬉しい。
「……実は、僕もプレゼントがあるの、だが」
「えっ? アスハから??」
 今日のディナーで充分じゃないか……純粋に驚いて、メフィスは夫を見上げた。
「大切な人へ、気持ちを贈る日……なのだろう?」
 アスハからは、白い包装紙の小箱。
 赤いリボンをするりと解くと、――花を象ったイヤリング。
 華美ではなく、それでいて、メフィスのお気に入りであるコサージュとの相性も良いデザイン。
「つけてみても、良い?」
 メフィスの声が、少しだけ震えている。
「似あうかしら……?」
「すごく。思った通りだ…… 綺麗だ、メフィス」
 なんのてらいも無く告げるアスハへ、メフィスは照れ隠しでテーブルの下で鋭い蹴りを入れる。アスハが呻いた瞬間に、薫り高いコーヒーが運ばれてきた。




 お腹も心も満たされ、二人は同じ帰り道を歩く。
「僕は、幸せ者、だな」
「私だって幸せよ、アスハ」
 手をつなぎ、見上げる夜空は澄んでいて星が綺麗
 自然と、互いの距離が近づく。
「……そういえば」
「なぁに?」
 ぎゅ、と抱き寄せ、至近で体温を確認してから……アスハが言いだせなかった一言を。
「バレンタイン、だったな」
 アスハが言わんとしていることを察し、メフィスがにっこりと笑顔を浮かべた。
「ん? チョコ? ふっふっふ♪ ちゃんと手作りのを家に用意してるわよ。作るの大変だったんだから」


 ――愛と悪戯心をたっぷり込めたチョコレートの弾丸を、アスハが目にするまでカウントダウン、スタート。



【揺らぐ赤の向こうに side メフィス 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8432 / アスハ・ロットハール  / 男 / 22 / ダアト】
【ja7041 / メフィス・ロットハール / 女 / 21 / ルインズブレイド】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました!
プレゼントセレクトシーンで分岐して、納品させて頂きました。
素敵なバレンタインディナー&プレゼントで、素敵な夜となりますように。


ラブリー&スイートノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年03月04日

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