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『琴美の日常その1 』
水嶋・琴美8036)&(登場しない)

1.琴美の任務

どこの組織にも、表に出せる事と表には出せない事がある。
それは公的な組織、大規模な組織になると、尚更だ。
例えば自衛隊のような組織ともなると、常にマスコミを通じて大衆の目に晒されている為、滅多な事は出来ない。
ひっそりと…
なるべくひっそりと、自衛隊の非公式チームは都内某所の基地内に存在していた。
建物の隅の一室、第三特殊庶務課付控室と書いてある部屋が、自衛隊内の非公式チームである。
出入りする者が少ない…どころか、その前を通りがかる者すらも少ない部屋である。
水嶋・琴美(みずしま・ことみ)が、静かに足を向けているのは、そんな部屋だった。
タイトなミニスカートにロングブーツと、琴美の風体は自衛隊内部を歩くには少し目立つ格好ではあるが、一応、施設内のドレスコードには違反していない。事務担当の女性であれば、それ位に華やかな娘も、まあ居るのだろう。
歩き方の訓練を受けているかのように、琴美は姿勢正しくおしとやかに歩く。まるで良家のお嬢様のようだ。
部屋の前まで着いた琴美の手が、正確なリズムで等間隔に三度、ドアをノックし、返事が無い事を回答としてドアを開いた。
「水嶋琴美、失礼いたします」
ゆっくりとした敬礼の動作と共に、琴美は部屋…彼女の任務の指令室へと入った。
指令室は、よく整理されている…というより、物がほとんどない。本当に、ひっそりとした部屋だ。
中には疲れた感じの司令官が一人居るだけである。
「久しぶりだね。
 次の任務の資料を渡すよ」
司令官は、机の上に置いてある書類を琴美に示した。
「相変わらず、手渡しなのですね」
皮肉というわけではなく、むしろ嬉しそうに琴美は言った。
「結局、それが一番、情報漏えいの心配が無いからなぁ…
 手紙ならまだしも、電子データなんて恐くて未だに使えんよ」
司令官は琴美に答える。
琴美は答えずに、微笑みながら『任務の資料』と書かれた、数枚のファイルに目を通している。
…なるほど、大した任務ではありませんね。
「かしこまりました。殲滅して、ついでに囚われた諜報員の方が生きていれば、エスコートしてさしあげれば宜しいのですね」
自分の任務の目的地、対象等について簡単に書かれた資料を確認した琴美は、静かに司令官に答えた。
「あんまり女の子に、こういう仕事を頼みたくないんだが、琴美ちゃんの能力は飛びぬけてるからね。すまんと思うよ」
司令官は、ため息混じりに琴美に言う。
琴美の主な任務は、対象の破壊と殲滅。いつも、こうして任務先の情報を聞いては、一人で向かうのが彼女の日常である。
司令官は、戦闘任務を若い女子に依頼する事に、後ろめたさを感じる程度の人間性は有しているようだ。
琴美も、そうして気を使われる事には慣れている。
「得手、不得手と言うのが誰にでもありますもの。
 剣が有効な相手であれば、私が行くのが良いと思います」
そう言って、静かに首を傾げて微笑むだけだった。
彼女の武器は剣…忍者が使うようなクナイだ。
それだけを武器に、彼女は幾つもの組織を急襲して殲滅している。それが彼女の任務だった。
その人間離れした身のこなしには、司令官も全面的に信頼を寄せている。
「では、水嶋琴美、行って参ります」
最低限必要な情報を得た琴美は、ゆったりとした敬礼の後、司令室に背を向けた。

2.舞い降りる殲滅者

日本は日本列島と呼ばれる事もあるように、大小様々な島が集まって出来ている。その中には無人島となっている島も多いが、無人のはずの島に、人が住み着いている事もある。それも、悪意を持ってだ。
琴美は、そんな無人でない無人島の上空に居た。
任務の夜がやってきたのだ。
マスコミの取材用のヘリコプターに偽装した機内の後部座席に、琴美は居る。
プロペラ音が機内に響く中、任務用の衣装に着替えている最中だ。
「運転手さん、着替え中ですので、よそ見運転はしないで下さいね」
自衛隊の指令室で着ていたミニスカートの私服を脱ぎ、下着まで新しく着替えた所で、琴美は運転手に声をかけた。
ヘリコプターの機内に居るのは、彼女と運転手の二人だけだ。
「わ、わかった」
運転手はあわてて首を振った。
任務が一緒になるのは初めてだが、同じチームの一員として、運転手は琴美とは顔なじみだ。
とても琴美の着替えを覗く気などには、なれなかった。
「そんなに怖がらないで下さい。
 例え、お着替えを覗かれたとしても、同じチームの仲間ですから、命までは取りませんから」
琴美は静かに微笑みながら着替えを続ける。
…命まで取らないって、どういう意味だ?
冗談とも本気とも取れない琴美の言葉を聞いて、運転手は考え込んでしまう。
しばしの沈黙。
琴美が口を開く。
「それでは、お着替えが済みましたので私の姿をご確認下さい。
 ちゃんと間違えずに、この姿を迎えに来て下さいね」
任務用の戦闘服に着替え終わった琴美は、自分の姿を確認するようにヘリコプターの運転手に言った。
言われるままに運転手は琴美の方を振り返る。
そこには、黒いボディスーツ姿の女工作員の姿があった。
身体にぴったりと張りつくようなボディスーツが、しなやかな琴美の身体のラインを表していた。
男ならば、まずは膨らんだ胸元に目を奪われるが、よく見ると太過ぎず細過ぎず、無駄が無い身体のラインに威圧されてしまう。
琴美は、両手を広げて体を見せつけるようにしながら、ゆっくりと狭い後部座席の上でしゃがみ、軽く一回転する。
その後ろ姿も、うなじからヒップラインまで、やはり男なら目を奪われてしまうだろう。
堂々と胸を反らし、身体を見せつけるようにする琴美の姿は、こんな危ない仕事をしなくてもモデルとして充分に生活出来るだろうと運転手は思った。
戦闘服に着替えた琴美…黒いボディスーツの女工作員の姿に、しばらく運転手は見とれてしまう。
「あの…そんなに長い時間、よそ見をしていて大丈夫ですか?」
琴美が一回転した後も、運転手が彼女の方を見続けているので、心配になった琴美は運転手に声をかけた。それで、やっと運転手は我に帰る。
…そんなに見なくても、一目見れば覚えて頂ける自信があるのに。
琴美は苦笑いしながら運転手の様子を伺った。
「では、今から12時間後に宜しくお願いします」
そうして準備を終えた琴美は、時計を合わせて運転手に告げると、ヘリコプターの外へと飛び出した。
上空から、島へと夜間降下するのが今回の作戦というわけである。
琴美はパラシュートの代わりに、黒い布を手にして広げる。パラシュートよりも、使い慣れた自前の布の方が、落下速度を調節出来るので気に入っていた。
勢いよく夜空を降下すると、ボディスーツ越しに風が少し冷たい。それが、気持ちを冷やしてくれるので、琴美は好きだった。
地表が近づいてきた所で、琴美は布を大きく開いて勢いを少し弱める。
着地点については、特にこだわりが無いが、一応、人気の無い海岸沿いを目指す。
例え、針山の上だとしても琴美は降り立つ自信があるが、念の為だ。
そして…
ドーン!
爆発音にも似た音を立てて、琴美のロングブーツが無人島の大地を踏みしめた。
常人なら落下死する程度の勢いのまま、しかし、少し腰を屈めただけの着地姿勢で、彼女は大地に降り立ち、何事も無かったかのように立ち上がる。
「さあ…この音に釣られて集まって来て下さいね。
 その方が、探す手間が省けますから…」
誰にともなく、琴美は呟く。
クナイを数本、腰に差しただけの殲滅者は、こうして任務地に降り立った。

(続く)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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東京怪談
2013年03月11日

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