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『アヤカシパーティー? 』
綺咲・桜狐(ib3118)

「それではみなさん、くれぐれもアヤカシには気をつけてくださいね!」
 銀色のふさふさ尻尾を斜め上に立てている綺咲・桜狐の言葉に、年下の少年開拓者達は「おーっ!」と声と共に拳を上げる。
「楽しいハロウィンパーティーを利用するアヤカシは、ちゃんと退治しないとです!」
 桜狐は厳しい表情で少年達と一緒に開拓者ギルドを出て、街で行われているハロウィンパーティーに潜入した。


 出来事は一刻ほど前にさかのぼる。
 今日はたまたま開拓者ギルドに来ていた桜狐だったが、緊急の依頼が舞い込んできたのだ。
 ハロウィンである今日は朝から多くの人々が仮装をして、街に出ている。
 その中で、どうも本物のアヤカシらしい存在が入り混じっているようだ――と、報告が何件も開拓者ギルドに伝えられた。
 アヤカシは仮装した姿で、人間に『トリック オア トリート!』と言って近付いてくる。襲うような行動をするものの、お菓子をあげると素直にお礼を言って去って行くらしい。
 今のところお菓子をあげない人間がいない為に、特に被害は起こっていない。
 しかしお菓子を持っていない人間にアヤカシが出会った場合、最悪のことが起こるかもしれないのだ。
 ギルドは急遽、開拓者達に依頼をお願いする。
 そして桜狐と共に、数名の少年達が名乗りを上げた。
 桜狐は年長として年下の開拓者達を引き連れ、街に出てきたが、大勢の仮装した人々を見て表情が強ばる。
 魔女、ヴァンパイア、ゾンビ、お化けカボチャを頭にかぶった人、着ぐるみを着た人など、誰が人間でどれがアヤカシなのか、見た目ではサッパリ分からない状況になっていた。
 しかもいろんな気配があり、瘴気をたどるのも難しいだろう。
 張り切って現場に来たものの、アヤカシを見つけるだけでも苦労しそうだ。
 少年達は戸惑って立ち止まり、桜狐も不安を感じて尻尾が下に垂れてしまう。
 だがすぐに気を引き締め、手をパンパンっと叩いて少年達の視線を自分に向けさせる。
「とっとりあえず『トリック オア トリート!』と言われてもお菓子をあげずに、相手の反応を見ましょう。子供達には可哀想ですが、これも人々を守る為です! まあイタズラは甘んじて受けてください。そして戦闘ですが、周囲の人々をできるだけ巻き込まないように気をつけてくださいね」
 少年達は真剣な表情で頷くと、それぞれ散って行く。大人数で行動するよりも、少人数で動いた方が良いと桜狐が判断した。
 街の中を歩き、アヤカシを探す。桜狐達は普段の格好だが、それでも仮装をしている人々に声をかけられることが多い。
 けれど桜狐のいつも通りの格好こそハロウィンの仮装にピッタリな為に、それもしょうがないと思ってしまう。
 だがお菓子をあげない代わりに、桜狐は耳と尻尾に触られてしまい、アヤカシを退治する前に疲れてきた。
 少し残念そうな子供達の姿を見ると心が痛むが、それでも今日の目的はアヤカシ退治だと自分に言い聞かせる。

『トリック オア トリート!』

「……ん?」
 ふと声をかけてきた者を見て、桜狐は怪訝な顔で首を傾げた。
 大きなお化けカボチャを頭にかぶり、黒いマントを身に付けている。桜狐と同じぐらいの身長で、声から察するに少年らしい。
 ――が、セリフと共に両手を広げた時、マントの隙間から中身がチラッと見えた。
 中身は骸骨だった。最初はそういう柄の服を着ているのかと思ったが、骸骨の隙間から向こう側の景色が見えてしまったのだ。
 そして隠されてはいるものの、僅かにアヤカシの瘴気を感じる。
「あなたはもしかしなくても……アヤカシ、ですか?」
 正体を言い当てられたアヤカシは、その場で硬直した。だがぎこちない動きで後ろを向くと、突然走り出す。
『開拓者に見つかったぁー!』
「と言うことは、やっぱりアヤカシですね!」
 桜狐はアヤカシを退治しようと、急いで追いかける。しかし人が多い街の中、人間を避けながら追いかけるのは無理があった。
 アヤカシは身軽な動きでヒョイヒョイと隙間を走り抜け、街から出て行ってしまう。
「くぅ……! まっまあ街から去って行きましたし、よしとしますか。他にもアヤカシはいますしね!」
 桜狐は街の中に戻り、かすかに感じる瘴気をたどってアヤカシを再び探す。
 すると今度はミイラ男を発見した。パッと見は仮装に見えるが、正体はアヤカシである。
 桜狐はそ〜っと近付き、正面に回って声をかけた。
「あなたもアヤカシですね? お菓子が目当てですか? それとも人間が……」
『のわーっ! 開拓者だあー!』
 言い終える前に、アヤカシは逃げ出す。
「あっ、コラ! 待ちなさいですぅ!」
 今度も必死になって追いかけるも、ミイラ男は屋根の上に飛び移るとあっと言う間に見えなくなってしまう。
 二度続けて逃げられたことに悔しさを感じるも、桜狐は立ち止まって周囲を見回す。
「この人の多さが戦闘には不利ですね。……ですがここで戦うのも、ヤボってものでしょうか?」
 人々が楽しんでいる街中で戦闘になれば、混乱することは目に見えている。
 せっかくの楽しいハロウィンパーティーが、一瞬で台無しになってしまう。
 人間に害をなさないのならば、今日は退治することにこだわらず、ただ追い出すだけでも良いのかもしれない。
 そう思い始めた時、赤鬼に声をかけられた。

『トリック オア トリート!』

 しかし赤鬼から瘴気を感じ取り、桜狐はうんざりしてため息を吐く。
「お菓子なら持っていませんよ。今日はハロウィンパーティーに参加する為に、ここに来たワケではないので……」
『じゃあイタズラしちゃおっと』
「えっ? あっ! コラっ! やっやめてください!」
 アヤカシは黒い墨がついた筆を手にし、桜狐の顔にイタズラ描きをする。
『アハハッ、変な顔! 狐がパンダになった! お菓子をくれないのがいけないんだからね!』
 目の周りに墨を塗られ、パンダ顔になった桜狐はプルプルと体を震わせた後、涙目でアヤカシを睨みつけた。
「退治してくれますーっ!」


 ――その後、殺気立った桜狐は、瘴気を感じた者に片っ端から声をかけていく。
 アヤカシは桜狐の殺気に驚いて逃げたり、あるいは勇敢にも立ち向かったりする。
 少しの騒ぎは起きたものの、それでもパーティーは何とか続いた。
 そして瘴気をほぼ感じなくなると、桜狐と少年開拓者達はギルドに戻ってきた。
「はふぅ〜。疲れましたね。でも大体アヤカシはいなくなりました。みなさん、お疲れっ……!?」
 安心した桜狐は改めて少年達を見て、顔も体も固まる。
 まだ年端もいかぬ少年達の服装が、最初見た時と変わっていたのだ。
 性別が『男』なのに、丈の短いメイド服やチャイナ服、セーラー服などを着ている。つまり女装していた。
「みっみなさん、その衣装はどうしたんですか? 途中で着替えました?」
 桜狐に尋ねられ、少年達は涙を流しながら「お菓子をあげなかったアヤカシに無理やり服を脱がされた上に、この衣装を着せられた」と口々に言う。
 しかも脱がされた服は少年達が驚いて固まっている間に、アヤカシが持ってどこかへ行ってしまったらしい。つまり、着ていた服は行方不明。
 『少女』に見える少年もいるが、彼らが負った心の傷は深いだろう。
 だが被害に合った少年の一人が桜狐に、自分の姿を鏡で見てみるようにと言った。
「わっ私も着替えさせられたんでしょうか?」
 顔に落書きをされてから理性が吹っ飛んでいた為に、自分の身に起きたことが分からない。
 慌ててギルドの壁にかけてある等身大の鏡の前に立つ。
「きっ…キャアアアッ! いつの間にか、バニーちゃんになっていますぅ!」
 桜狐は顔を真っ赤にしてその場にしゃがみ、尻尾も垂れ下がってしまう。
 いつの間にかバニーガールの衣装に着替えさせられたらしく、銀狐の獣人であるプライドが傷付けられる。
 今日以外の日ならば周囲の人々は桜狐のバニーガール姿を変に思っただろうが、街には同じ格好の人が何人もいた。
 ゆえに違和感なくパーティーに出ていた桜狐は、知らずにこの格好で暴れまくっていたことになる。
「ううっ〜! やっぱり変態とアヤカシは全滅させるべきです!」
 パンダ顔のバニーガールになった桜狐は、険しい表情で上がった尻尾を震わせながら、自分の服を探す為に再び街に戻った。


【終わり】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ib3118/綺咲・桜狐/女/16/陰陽師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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発注していただき、ありがとうございました(ペコリ)。
 ライターのhosimureです。
 アヤカシ退治のお話ですが、せっかくのハロウィンイベントですのでほのぼの&コメディを含めてみました!
 楽しんで読んでいただければ幸いです。
魔法のハッピーノベル -
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舵天照 -DTS-
2013年10月24日

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