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『優しさに包まれて 〜城咲千歳〜 』
城咲千歳ja9494

 今日はハロウィン。
 子供たちがお菓子を強請って家々を巡り、大人たちもそれに便乗して羽目を外す。
日頃真面目にお仕事に励む人たちもこの日ばかりは子供に戻って一緒に遊ぶ。
 さあ、ハロウィンを楽しむ合言葉を一緒に――

   ***

 赤く染まった紅葉がとても綺麗だった。
 暮れかける空の赤も、ハロウィンの時期に合わせて飾られた赤い南瓜も、全部赤で染まっていて、凄く綺麗だった。
「次はあっちの家に行ってみようぜ!」
「俺が先に言うー!」
 バタバタと背後を駆け抜けて行く子供たち。
 彼らが身に纏っているのはハロウィンのお化けの衣装だ。その手にはいろいろな家で貰ったお菓子の袋が握られている。
 城咲千歳(ja9494)はその光景をなんとなく見詰め、そして小さく息を吐く。
「……もう……」
 帰りたくないんよ。そう呟く自分の耳に、駅のホームが鳴り響く。
『まもなく電車が参ります。危ないですから白線の内側に――』
 家を出てどれだけの時が過ぎただろう。
 暖かさをもたらした日は落ちかけ、今では肌寒さが体を包む。指先は冷えはじめた風に晒されて冷たくなり、頬も寒さから若干だが赤みを帯び始めている。
 このままではいけない。
 でも帰りたくない。
 寂しさと寒さと、赤に染まる世界に目を背ける様に膝を抱えると、電車がホームに到着する音がした。
 これで何個目の電車が来たのだろう。
 もっと勇気があれば電車に飛び乗って何処かに行けるのに。もっと行動力があれば変われるかもしれないのに。
「……っ」
 込み上げる思いが胸を落ち潰しそうになって唇を噛み締める。そうして膝を抱えた手に力を込めると、ふと目の前で止まる足が見えた。
「千歳」
 低くて静かな、けれど優しい声が名前を呼んだ。
 聞き覚えのある、もしかしたら今一番聞きたかった声。
 その声に顔を上げると「やはり」そんな思いが千歳の胸を過った。
「……忠志……」
 顔を上げた先に見えたのは、幼い頃から見続けてきた顔だ。
 目つきが鋭い、ちょっと強面な幼馴染――久井忠志(ja9301)。
 彼は今にも泣きそうな千歳の顔を見ると、そっと彼女の腕を取った。
「探したぞ」
 掴まれた腕の力強さにじんわりと涙が浮かんでくる。けれどそれを隠すように俯くと、彼は立ち上がった千歳に背を向けてしゃがんだ。
 その姿に翡翠色の目が瞬かれる。
「忠志?」
「……乗れ」
 泣き顔は見られたくないだろう。そう語っているかのような背中に、何故だか笑みが零れた。
 忠志の顔は怖いけど、それ以上に優しい部分をいっぱい持ってる。
 千歳が何を欲しいのか。どうして欲しいのか。
 彼は全部わかってくれる。
 千歳はそんな忠志の背に手を伸ばすと、まるで頬擦りをする様に彼の背中に抱き付いた。
 そうして胸いっぱいに彼の匂いを吸って息を吐く。
「忠志大きくなったねぇ」
 小さく笑って彼の背にしがみつくと、一気に視界が高くなった。
 少し前までは同じ位の背だったのに、いつの間にこんなに大きくなったのだろう。
 見える世界も、感じる世界も自分とは違うのかもしれない。そう思うと少しだけ寂しい。
 そしてその思いを隠すようにしがみついた腕に力を込めると、全てを受け止めてくれる温かな背に瞼を伏せた。
(このまま、忠志とずっと一緒に居られれば良いのに……)
 そんな虫の良い話はない。
 だけどそう思わずにはいられないほど、彼の背中は暖かくて優しい。
「ウチ、甘え過ぎやね……」
 クスリ。小さく笑った声に、忠志の足が止まる。
 そうして振り返るようにして頭を動かすと、彼の茶の瞳が真っ直ぐに千歳の目を捉えた。
「……よければ、俺の家にくるか?」
 唐突に告げられた言葉に息を呑む。
 家に帰りたくないこと。どうして良いかわからずにいたこと。
 その全てをこの幼馴染はわかってくれたんだ。そう思った瞬間、胸の奥がじんわり温かくなった。
 そしてそう思うと同時に、彼女は「うん」と答えたのだった。

   ***

 あれから季節は巡り、久遠ヶ原学園の敷地には、あの時の紅葉に似た紅が広がっている。
 千歳はその景色を忠志と共に見ている。但し、今回は彼の隣を歩いて、だ。
「家出したとき忠志に助けてもらったときはなんか救われた気分だったんよー」
 そう言って笑った千歳の目に、薄手のコートを羽織った忠志の笑みが見える。
 それを見詰めて笑顔を深めると、千歳は1度彼の顔を覗き込み、そして空へ目いっぱい伸びようとする紅蓮の葉に目を向けた。
「ここの紅葉も綺麗やねー」
 あの時、忠志が見付けてくれたホームの紅葉は確かに綺麗だった。でも今見ている紅葉はもっと綺麗だ。
 その理由はきっと――
「忠志と一緒だと、紅葉がもっと綺麗に見えるんよー」
 きっとこの人と一緒だから。
 そう思って振り返ると、頭を抱えて立ち止まっている姿が飛び込んで来た。
「忠志?」
 トテトテ歩いて近づきながら首を傾げる。
 そうして買い物袋を持つ彼の手に手を添えると、そっと顔を覗き込んだ。
「……思えば結局あれから、ずっと俺の家にいるな……」
 悩むように、自分を責めるように零された声に千歳の目が瞬かれる。
(……忠志は、優しいんよね……)
 思わず零れた笑みは、この人を愛おしいと思うからこそ零れた笑み。
 いつも気遣ってくれて、いつも優しくしてくれる人。誰よりも自分のことを第一に考えてくれるこの人が大好きで、大事で、傍にいたいし、甘えていたい。
 だから素直に自分の言葉を伝えよう。
「親戚の所にはかえれないんよー、もうウチに利用価値ないんし……」
 母親が亡くなって以降、親戚をたらい回しにされている。その度にあまり良くない目で見られていることも感じているし、実際に罵られることもある。
「どうせ帰ったら、また不純な関係で出来た汚い子なんて罵られるんよー」
 これは卑下ではなく事実。
 けれど忠志は言う。
「……少なくとも、俺にとって千歳は大切な存在だ」
 優しく頭に触れた手に目を上げる。
 家には帰らないし、帰りたくない。そう伝えるつもりが結局は彼に心配させることを言ってしまった。
 そのことに気付いて瞳を揺らすが、忠志は気にした様子もなく続ける。
「千歳をイジメから守ったあの時から……俺にとって千歳は大事な存在だったんだ」
 忠志が千歳をイジメから守った。
 それは本当に小さな頃。2人が小学生の時の話だ。
 当時、千歳だけでなく忠志もイジメられていた。それは子供のころならまれに目にする、他人と違う部分があるから、と言う理由。
「思い返せば、あの時から俺と千歳の関係が始まったな」
 目立たないように自分を隠して過ごしていた千歳に訪れた、まるでヒーローのような人。
 守ってくれた背も、声も、言葉も、全部が眩しくて優しくて、それこそ太陽のような人だと思う。
 そんな彼にも暗い過去があって――
「俺もイジメを受けていたからな。つい守りたくなった」
 あの時は同じ境遇だったからそう感じたのかもしれない。けれど今は違う、と彼は言う。
 だがその思いは自分も同じだ。
「今度は、ウチが天魔から忠志を守ってみせるんよー!」
 あの時は助けられるだけだったかもしれない。けれど今は闘う力も、守るだけの力も持っている。
 だから今度は守られるだけじゃなくて、一緒に守りたい。
 忠志も、忠志の守ってくれた自分も。全部が……今が大事だからこそ守りたい。
 そう言って笑った千歳に、忠志の口角が上がった。
 その笑みは少し不器用だけれど、優しい。
「……俺もだ。天魔からお前を守ってみせる」
 囁いて触れた柔らかな唇の感触に、千歳の目が瞬かれる。
 そうして紅に染まった紅葉のように頬を染めると、彼の武骨な手が彼女の手を取った。
「家に帰ろう」
 彼女の帰る場所はただ1つ。
 そう言わんばかりに告げられた言葉に胸がいっぱいになる。
 千歳は全身を包み込む様な優しい感覚に息を吸い込むと、瞳を輝かせるようにして彼の手を握り締めた。
 そして笑顔で頷きを返す。
「うん! 忠志と一緒に帰るんよー!」
 まだ忠志の家に帰って良いんだ。
 その思いが千歳を笑顔にした。
 そうして歩き出した2人の横を、あの時と同じ、ハロウィンの仮装をした少年たちが駆け抜けて行く。
 あの時は騒がしいと感じた子らの姿が、今は何故だか愛おしく感じる。
 それも全てこの人のお蔭なのだろう。
 そう思うと千歳の顔に更なる笑顔が乗った。
 これからもこの人と2人、肩を並べて歩いて行けたら……そう願わずにはいられない、とある秋の日の出来事。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ibja9494 / 城咲千歳 / 女 / 13 / 鬼道忍軍 】
【 ja9301 /久井忠志 / 男 / 25 / ディバンナイト 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!

※同作品に登場している別PC様のリプレイを読むとちょびっとだけ違った部分が垣間見れます。
魔法のハッピーノベル -
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エリュシオン
2013年11月22日

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