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『ありったけの願いごと 』
酒井・瑞樹ja0375


「明けましておめでとう、村上さん」
「今年も、どうぞよろしくお願いしますね、酒井さん」
 酒井・瑞樹と村上 友里恵は、十年来の友人同士。
 それは互いに地元を離れ、この久遠ヶ原にあっても変わることのない縁であった。
 新年、早朝の寒さに白い息を吐きだしながら、待ち合わせの場所で落ち合い、初詣へ。
 巫女である友里恵は、着物姿も様になっていた。
 瑞樹も緊張した面持ちであるが、深い蒼を基調とした着物を着付けしてもらい、ちょっとおめかし。

 見上げる鳥居のその上には、美しく晴れ渡った青空が広がっていた。




 さくさくと新雪に足跡を残し、二人は進む。
「村上さん、参拝もおみくじも引いただろう? どこへ行くんだ?」
「とっておきの場所なのです♪」
 昨年の夏、流れ星を見に行った田舎の神社は、友里恵の伝手の一つであった。
 神社同士の繋がりというのは案外と広いのか、もしかしたらこの神社も同様なのかもしれない。
 友里恵に手を引かれながら、瑞樹はそう納得する。
 大きな社殿の後ろに、ひっそりと古びた社が建っていた。


 木の扉を開けると、意外なことにそこには囲炉裏があり、室内は暖められていた。
「ここは…… どういった場所なんだ?」
「ふふっ、お目出度い場所なのです。さぁさぁ、酒井さんはこちらへ。私はこちらへ」
 赤い座布団、二枚並んでいるところへ誘導する。
「む、では…… 邪魔をする。で、向かいにある座布団は?」
 囲炉裏を挟んだ向こう側には、金色のフカフカな座布団が、三つ。
「ええ、お目出度い席にはお目出度い客人が降りてこられるのです。――えい!」
 どこから取り出したか、友里恵は神楽鈴を鳴らした。
 ……しゃらり、しゃらり、しゃらしゃらり
「あ、失敗しました」

「呼んでおいて、失敗!!?」
「……大掃除を終えたと思えば」
「あれ!? お雑煮…… お雑煮……」

 どん、と登場したのは瑞樹にも見覚えのある、赤毛と黒スーツとポニーテールの三人だった。
 筧 鷹政、米倉 創平、御影 光である。
 鷹政は友里恵の顔を見るなりツッコミを入れ、
 創平は珍しく顔色が良いと思えば大掃除をしていたらしく、柔らかな黒髪に埃が被っていた。
 光は年始に向けて料理の下準備だったようで、お玉だけを手にしている。
「あ! 酒井先輩!」
 全く状況を飲み込めていないが、順応力の高い光がパッと表情を明るくし、瑞樹へと歩み寄った。
「お雑煮の味付けが、どうしても決まらなくって……。お塩とお醤油、どっちを足したらいいんでしょう」
 瑞樹が料理を得意としていることは、京都で同行した件で知っている。
 アドバイスを求めるも――
「御影さん、頼りにしてもらえるのは嬉しいが…… 雑煮の鍋は、何処だろうか」
「は!!」
「気を取り直して、もう一度お呼びしますね!」
「友里恵ちゃん、この状況に説明を頼む!」
 ……しゃらり、しゃらり、しゃらしゃらり
「でました!」
「一富士・二鷹・三茄子、か…… なるほど」
「米倉さん? なんで納得してるんですか!」
 金色の座布団に召喚されし、三柱の神々(推定)の姿に、創平は形のいい顎を撫で、その肩を鷹政が揺さぶった。

「こいつは春から縁起がいい♪ なのです♪」

 両手を合わせ、友里恵は満足そうににこにこと神々を拝んだ。




 富士山、鷹、茄子。
 どういった材質でできているのか、何処から来たのか、追及を許さぬ姿で座布団の上に収まっている。
「あらあら、せっかく来てくださっているのに皆さま酔っぱらってらっしゃいますね♪」
「わかるものなの」
「私、巫女ですから」
 にこにこにこ。
(この笑顔は、あかんやつや)
 ハロウィンの記憶が蘇り、鷹政は反射的に顔を逸らした。

『叶えたい願いを絵馬に描け』
『出来れば色恋沙汰』
『描くまで帰さぬ』

「酔っ払いの無茶振りかよ!!」
「だいたい合ってると思います」
 腹の底へ響くような神々の声へ鷹政は叫ぶ、笑顔で友里恵が肯定する。
「ふむ。開かないな、筧さん」
 瑞樹が、ビクリともしない扉を確認する。
「またこの流れか!!」
「味覚の拷問に比べて、随分と易しくなったものだと思うが」
「米倉さんは物足りなさそうな顔をしないでください」
「……あの?」
 流れのまったくわからない光だけが完全に取り残されている。
「大人の皆さんはお酒でも飲みながら、ゆっくり描いてくださいね。私も、皆さんが何を描くのか気になってしまって……」
 ぽっ、と友里恵は顔を赤らめながら、囲炉裏で暖まっていたお神酒を注いで回った。



「絵馬に恋の悩みを描け、というお題か……」
 ぽぽぽん、と床に登場した絵馬と筆と墨。
(折角なので恋以外の絵馬も描きたいが、悩むのだ)
 さすが友人同士、この辺りの対応は早い。余裕である。
(武士らしく…… いや、絵馬くらいは遊び心も許されるのだろうか? せっかくの祈願だし……)
「難しい顔してるね」
「筧さん。筧さんは、こういう時にどう描いたのだ? 人生の先達として、体験談を聞かせてもらえると助かるのだが」
 ヒョイと覗き込んできた鷹政を見上げ、瑞樹は訊ねる。
 男性と女性とでは、また感覚も違ってくるのかもしれないが、参考は多いに越したことはない。
「一発合格とか、必勝祈願とか、安全第一とか……四字熟語を筆でやたら達筆っぽく仕上げる、に燃えたかな」
「四字熟語か……。武士らしいのだ」
「そうそう。かっこいいよね」
「恋愛に関する四字熟語、か。筧さんは決まったのか?」
 げほ、鷹政が咽こんだ。
「……まぁ、うん。そうだね」
 鷹政は軽く目を逸らし、瑞樹の肩をポンと叩いた。
「伝えたい言葉を書いてみるのも、良いかもね」
「!!!」
 それは、何時ぞやの。
 瑞樹は顔を真っ赤にし、立ち上がる鷹政へそれ以上の言葉は掛けられなかった。




 恋愛成就、

 描くだけ描いてみたものの、唸っている鷹政へと友里恵が酌をする。
「成就…… させてしまうのですか?」
「しまうとか言わない」
「だって…… 成就してしまったら、もうドン詰まりじゃないですか」
「詰まるとか! 詰まるの?」
「どうして俺に聞く」
「シュトラッサーとしてさ、超一流企業に就職できたようなもんじゃん。就職希望、成就したでしょう米倉さん」
「……お前、酔ってるな」
 創平は迷惑そうに鷹政の腕を振り払い、ついでにその左頬へ『×』を書いてやる。
「もっと酔って場が混乱したらどうなるか、私、気になるのです…… ぽっ」
 悪意なき小悪魔が背後に控えていた。
「ともかく。就職してからがスタートだ。そこで力尽きるようでは社会人は務まらん」
「墓場というゴールまで到達した人が何を!!」
「……そ、そもそも米倉さん、元旦を祝っても大丈夫なのか?」
 進路相談でもしてみようかと機を伺っていた瑞樹だが、会話の流れで硬直する。
 神社の敷地内にいる、という段階で既にアリということなのかどうなのか。
 幽霊など『怖いモノ』は苦手だが、そういえば眼前の創平に対し、そういった類の感情は湧かない。
 あまりにも、存在が生々しいからだろうか。
「冗談だ。酒井さん、だったな。
絵馬というのは『祈願するとき、あるいは祈願した願いが叶ってその謝礼をするときに奉納する』ものだ。
元旦だからどうの、は考えなくていい。そもそも人間世界においての目出度いことなど、全てを捨てた俺には無縁」
「全てを捨てすぎて生活できなくなったからシュトラッサーになったへ一票」
「筧、筆に電磁を纏わせるとどうなるか体験してみるか」
(……物事の取捨選択は慎重に、ということか)
 瑞樹は一礼し、そっとその場を離れた。




 お玉を囲炉裏に掛けられている鍋へと預け、筆を片手に唸っているのは光。
 その隣へ、瑞樹がそっと腰を下ろした。
「御影さんは、もう決まったのか?」
「酒井先輩……。それがその、なかなか」
「私もだ」
 祈願。
 祈り、願うこと。
 達成するのは最終的には自分自身であるから、誓いに似たものとなるだろう。
 そう考えれば、あまりにも無謀すぎるのも、容易なものも違う気がする。
「折角の女性仲間なのだ。少し、お喋りをしないか?」
「えっ、はい! 私でよろしければ!」
 煮詰まっていた光は、一も二もなく飛びついた。
 描き上げるまで帰れない、などと言われると身構えてしまうが、ゆっくりしても構わないという裏返しでもある。
 二人は座布団を寄せ合い、囲炉裏で手を暖めながら何処から取り出したのか餅なんぞ焼き始める。
「男性受けするような服装、ですか……」
「魅力というのか、そういうものは、どうしたら感じてもらえるのだろうな」
 オシャレ、というのは光も苦手な部類。
 制服をきちんと着ているか、或いは動きやすければよし、といった意識が強い。
「剣道着を着ている時の方が、落ち着くんですよね……」
「ああ、それはわかる気がするな」
 光は子供の頃は体が弱く、克服せんと古式剣術道場へと通っていた経験がある。
 瑞樹に至っては実家が剣道場だ。
 互いの身の上話から、話の行方は剣術へ。

「――しまった!」
「恋バナ!」

 餅は砂糖醤油か海苔で巻くか、そこまで至ったところでようやく原点へ帰ってきた。
「私はまだまだ、意識する相手はいないんですが…… 酒井先輩は、いらっしゃるんですか?」
 光からみて、瑞樹は充分に魅力的だと思う。
 お料理も、上手だし。行動力もある。
「うむ……。御影さんは、本当に本当に、居ないのか?」
「はい。まだまだ撃退士としても未熟ですし、先輩たちから学ぶことが多くて。あ、でも」
 言っていいのかな、少し悩み、光は頬を染めた。
「よろしければ、いつか、酒井先輩が私服を買う時にご一緒したいです。お店の方からアドバイスを頂戴するのも、一人だと緊張しませんか……?」
「それは…… ふむ。考えておこうか」
 体を動かしたり、真面目の度が少し行き過ぎたり、似た要素が多いように思う。
 きっと、休日を一緒に過ごしても楽しいだろう。
 
 充実した休日

 整った文字で、光は絵馬へそう書いた。
 少し考えてから、リボンを付けた馬のイラストも描きこむ。たぶん、馬なのだと思う。




(武士の心得ひとつ、武士は他人の技を手本とせよ、なのだ)
 と、考えながら、それぞれの絵馬を覗き見した瑞樹だが――

 祝・脱社畜

 創平の文字を目にして、自身の個性を大切にしようと思いを改めた。
「村上さんは、本当に描かないのか?」
「だって、祈願するまでもなく成就していますから♪」
「……なるほど」
 富士山に寄りかかり寝落ちしている鷹政の姿が、その一つなのだろうか。あ、鷹がその背をついばんでいる。
 ちなみに創平は幾ら注いでも酔う気配が無いので諦めてしまった。

「そろそろ、私も決めねばな。うーむ……」

 着物の袖をたくし上げ、瑞樹は意を決する。
 この一年。
 祈りであり、
 願いであり、
 自身への誓い。
 それは――




「村上さん!!」
「あら?」
 肩を揺さぶられ目を覚まし、友里恵は二度三度まばたきを繰り返した。
 周囲を見回す。友里恵の部屋だ。
「すっかり、眠ってしまっていたようだ……。風邪は引いてないか?」
 瑞樹も床で寝入っていたらしく、固くなっていた体をほぐしている。
「……冬に夢落ちといったらこれですよね、私、知ってました……」
「? 何か、残念なことでもあったのか?」
「いいえ……」
 でも、楽しい夢でした。夢でしたとも。
「初詣、今回の神社は初めてなんだ。絵馬に何を描くか、村上さんはもう決めたか?」
「えっ?」
「私は、不思議な夢を見たぞ。描く内容は、そこで決めておいた」


「……私は、祈願するまでもなく成就していますから♪」
 瑞樹へそう笑いかけ、二人は手を取り合って初詣へと向かった。




【ありったけの願いごと 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja7260/村上 友里恵/女/14歳/アストラルヴァンガード】
【ja0375/酒井・瑞樹 /女/14歳/ルインズブレイド】
【jz0024/御影 光  /女/16歳/ルインズブレイド】
【jz0077/筧 鷹政  /男/25歳/阿修羅】
【jz0092/米倉創平  /男/35歳/シュトラッサー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
仲良しお二人と、巻き込まれるNPC・新年編、お届けいたします。
内容から判断しまして、今回は分岐なし一本道での納品です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
winF☆思い出と共にノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年01月03日

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