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『甘い罠にはご注意! 』
ファルス・ティレイラ3733)&(登場しない)

「ふふ〜ん♪ 面白い本を手に入れちゃった♪」
 ファルス・ティレイラ(3733)は鼻歌を歌いながら、上機嫌で自分の部屋に入る。そして手に持っていた紙袋の中から、古い一冊の本を取り出す。
「『魔力を発しながらこの本を開くと、本の世界に入り、ストーリーを体験できる』という魔法の本。冬は寒くて外に出たくなくなるし、今日はゆっくりとこの本を楽しもうっと♪」
 そしてティレイラは、魔力を発しながら本を開く――。


 そして気付いた時にはいつもは隠している紫色の翼を広げ、空を飛んでいた。頭には角が生え、お尻には尻尾がある。
 だがこの本の世界には可愛らしいモンスターや妖精が存在している為、ティレイラの今の姿は目立たない。
「うわぁ! 甘くて良い匂い〜♪」
 この世界の街は、全てお菓子でできている。チョコレートやクッキーの建物、ケーキの家やココアの噴水などがあった。
「ううっ、美味しそう……! でも建物を食べちゃダメよね」
 素材はお菓子だが、それでもちゃんと住人がいる。
 がっかりした表情を浮かべていると、ふと地上で自分に向かって両手を振っている女性がいることに気付く。
「……もしかして、私を呼んでいるのかな?」
 首を傾げながら地上に下りると、女性は満面の笑顔で近寄って来た。
「あなた、魔力を持っているのね? この本には魔法がかかっていることは知っているの?」
「えっ? じゃああなたは……」
「わたしはこの世界を管理している住人よ。現実には存在しないけど、ここではまあ一番上の立場らしいわ。この世界に来たお客様をもてなすのが、わたしの役目なの」
 そう言って女性は珍しそうにジロジロと、ティレイラの全身を見る。
「こう言うのも何だけど、珍しい姿をしているのね。特別な種族なのかしら?」
「まあ一応、竜族なので……」
「竜族だったのね! ステキ! 良かったら、わたしが住んでいる屋敷に来ない? いろいろとお話を聞きたいわ」
 興奮した様子で自分の両手を握ってくる女性を見て、ティレイラは引きつった笑みを浮かべた。
「わっ分かりました。行きます」
「ありがとう! でも敬語はいいわよ。あなたは大事なお客様なのだから――」


「きゃあっ! スゴイわ! これ全部、お菓子なの?」
「ええ、そうよ。全てわたしが作ったの」
 女性の屋敷には玄関や廊下にも、お菓子の作品が並んでいる。だがその作品は妖精やモンスターをかたどったもので、今にも動き出しそうな迫力があった。
 ティレイラは作品に眼を奪われながらも、女性の案内で客間に入る。
「まずはお菓子の世界へようこそ! 名物のお菓子をたくさん食べてね。甘くて美味しいわよ」
 女性は銀のトレーいっぱいに、美味しそうなお菓子を載せて持ってきた。飲み物もホットショコラを用意されて、ティレイラは思わずゴックンと喉を鳴らす。
「でっでも本当に食べられるの?」
「大丈夫♪ この本の中に入った人は、様々なことを体験することができるのよ。食べたり飲んだりすることも、体験の一つになっているからね」
「そっそれじゃあ、いただきます」
 はじめは緊張していたティレイラだが、マカロンを食べた途端、すぐに笑顔を浮かべる。
「本当に甘くて美味しい! こんなに美味しいお菓子、はじめて食べたわ!」
「喜んでもらえて良かったわ。まだまだあるから、どんどん食べてね」
「うん!」
 ――こうしてティレイラは、お菓子を次々と食べていく。
 そんなティレイラの姿を見ている女性の表情が、怪しい笑みを浮かべていることに気づかぬまま……。


「ふう〜。お腹いっぱい♪ 大満足だわ」
「ちなみに本の世界でどんなに食べて飲んでも、体重に影響はないから安心して」
「それは最高ね!」
「じゃあお腹がいっぱいになったところで、お菓子工場を見物してみない? 面白いわよ」
「ホント? 見てみたいわ」
 そしてティレイラは、屋敷の地下にある工場に案内される。むせ返るような甘い香りに、ティレイラは少し顔を歪めた。
「お菓子の材料は置いてあるけど、完成した作品が見当たらないんだけど……」
「ええ。だって、これから作るんだもの」
 ティレイラは背後にいる女性の言葉を聞いて、危機感を抱く。
 振り返ったティレイラは女性の体が液体になっているのを見て、眼を見開いた。
「あなたは一体……!」
「言ったでしょう? この世界の管理人だって。本の中に来たお客様にはね、お菓子を楽しんでもらった後、実際にお菓子になってもらうのよ」
「そんなっ……!」
 驚いて後ろに下がろうとしたが、いつの間にか足元から液体になった女性と融合していることに気付く。
「くぅっ! 動けない!」
「動いちゃダメよ。形がおかしくなっちゃう」
 艶っぽく言いながら、女性は液体になった体でティレイラを抱き締める。
「はっ離して!」
「怖がらなくていいのよ。時間が経てば、あなたは現実世界に戻れるんだから。それまでお菓子として存在するのも、楽しいものよ?」
 クスクスと笑いながら女性は人差指に小さな光球を作り出し、ティレイラの唇に当てた。
「あっ……」
「良い気持ちでしょう? 甘さが全身に広がって、何も考えられなくなるわ」
「……ええ。気持ち、良いわ……」
 ティレイラはうっとりした表情を浮かべる。
 そしてそのままティレイラは足元からお菓子と化していき、最後まで抵抗しなかった。
「うふふっ。これでおしまい♪ うん、なかなか良くできたわね。竜族の女の子の作品」
 ティレイラをお菓子にした後、女性は元の姿に戻る。
「空中を飛んでいる時に見かけて、ぜひ欲しくなったのよね。本当はお菓子になる義務はないんだけど、わたしが気に入っちゃったから仕方ないわよね」
 本来ならこの本の中に入ってきたものは、お菓子の世界や味を楽しんでもらうだけであり、お菓子の作品になる必要などない。
 しかし本の世界の管理人である女性に眼をつけられてしまったものは、お菓子にされてしまうのだ。
「さて、竜族の女の子なんて珍しいし、リビングにでも飾ってあげましょう」
 ティレイラを台車にのせる女性は上機嫌だった。


 現実世界。ティレイラが存在しない部屋の中で、本は不思議な光を発している。
 開いているページには、お菓子になったティレイラの絵があった。
 不意に本から一枚の紙が出てきて、床に落ちる。紙には最初の行に『注意書き』とあり、こう書かれていた。

『この本の世界には、魔族の女性が住んでおります。彼女に気に入られたものは、彼女の得意魔術によってお菓子にされてしまいますので、ご注意ください』


【終わり】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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東京怪談
2014年01月09日

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