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『真心エスコート 』
鷹群六路jb5391


 心浮足立つような、春の香り漂う晴天の日。
 明るい色の髪をなびかせ、颯爽と歩く女性の姿に振り返る者多数。
 春物のハーフ丈コートに胸元を程よく開けた白いシャツ。細身のジーンズにショートブーツという出で立ちはシンプルゆえに彼女の存在感を際立たせていた。
「あら…… 待ち合わせには、まだ10分以上あったと思うけど? 待たせちゃったかしら」
「やだな、30分前から待機が男のたしなみってもんでしょう。大丈夫、今来たところです」
 連絡を受けていた、広い公園・時計塔の下。
 文珠四郎 幻朔は、先に到着していた鷹群六路へ微笑みかけた。
 パッと見た感じは『年下の男の子』。実際は悪魔なので実年齢は上なのだが、互いにその辺りは気にしていない。
 普段より少しだけ洒落込んだ服装に、果たして彼女は気づくかどうか。
「『真心こもった』義理チョコのお返しに、何かうまいモン食いに行きましょーって事で! 天気に恵まれて何よりです」
「あらあら? もしかしてデートのお誘いだったのかしら?」
「当たりでーす♪」
 黙っていればクール系に入るかもしれない六路だが、口を開けば存外にチャラい。
 あえて、そう振舞っている部分もあるのだけど。
「うふふ……イイわよ。勿論六路くんが素敵にエスコートしてくれるんでしょ?」
 片目を閉じて、幻朔が六路の左腕に自身の右腕を絡める。仕様上、天然エアバッグも押し当てられるがもちろんわざとである。
「っと! 先に言っておきますけど下心はないですよ? あ、『わざわざ言うと』怪しいかな? どう思います?」
 わざわざ―― それは、バレンタインに幻朔からチョコレートを貰った際に、『わざわざ』義理と前置きをしたからお返しに。
「……あら? 折角誘ってくれたのに六路くんは私に対して下心が無いって事は、女として見て貰えてないのかしら?」
「またまた、そんなー」
 にっこり。毒のある花のような笑顔を見せる幻朔へ、六路が少しだけ、たじろぐ。
「お姐さん悲しいわ〜」
「ちょっ、え、幻朔さん!? ここで!? 冗談でしょう??」
 六路の腕に顔を押し当て、涙声。
 厚手のジャケットだから、涙は沁み込んで来ないのか泣きまねなのか。
(多分、後者、だとは思うけど……)
「ほ、ほら、泣き止んでください。せっかく早く合流できたんだから、店が満席になる前に楽しまねェと!」
「それもそうね〜。食べ足りないうちに品切れになったら、目も当てられないわね?」
「やっぱり嘘泣きだ!!!」




 芽吹き始めた木々の心地よい公園を抜け、賑わいを見せる繁華街へと出る。
 長年愛される老舗もあれば、次々と新しい店も生まれ続け、一日ごとに表情を変える街。
 幻朔と行くなら――。
 ホワイトデーのお返しを考えたときに、真っ先に六路が思いついた店も、ここにある。
「これでも、色々と考えたんですよ。甘いものが良いかなー、とか。和洋中どれがいいのかなー、とか」
 行列の並ぶ店を幾つも越えた、その先に。
 アメリカンな看板を掲げる建物が、あった。
 時間は昼前、実に食欲をそそる香りが漂っている。
「あら、素敵ね。私こういう所に来たこと無いから、一度来て見たかったのよ。楽しみだわ〜」
「さ、ドウゾお姫様。夢の時間を、共に。――なんて」
 六路がドアを開け、幻朔の手を取った。
 バーガーショップだなんてロマンが無い?
 NO,NO,これこそが、ロマンの宝庫。


 フルボリュームのBGMに一瞬だけ目を閉じて、それから店内の雰囲気に幻朔は目を輝かせる。
「タワーバーガーが名物で。チーズファウンテンもあるんですよ! 超よくないすか!」
 一人で来てもいいのだろうけれど、親しい相手と来た方が楽しいことは明白だ。
 気取る必要もなくて、居心地のいい空間だと感じる。
 よくできましたと、お姐さんは六路の頭を撫でる。何処かくすぐったくて、青年は目を細めた。
「さーて何段いきます? もちろん奢りです、遠慮しないで」

「そうね……。じゃあ、ここの店の料理全部頂けるかしら?」

「って、姐さん全部ですか!」
 遠慮どころか、容赦がなかった。
 躊躇の間もなくオーダーする彼女の姿は、いっそ突き抜けて清々しくて、六路の目尻に涙が浮かぶ。
「じゃあ、いっちゃいましょうか!」
 おなかを抱えて笑いながら、オーダーを。
 呼ばれたウェイターの方が困り顔をしている。
「残さないかって? うふふ、大丈夫よ。今日の私には素敵な騎士様がいるからね」
 ナイト、と呼びかけた六路へウィンクを飛ばし、問題ないと幻朔が告げる。
(またまた、ほとんど姐さんが食べるくせにー)
 向かい合わせの席の向こうで、六路がひらりと手を振った。


 テーブル中央に、流れ続けるチーズファウンテン。
 同じ高さを誇るタワーバーガーをナイフで切り分け交互に攻略しながら。
「はい、あーん♪」
「え、マジですかいいんですか、嬉しいですけど……なんか照れ臭いな」
 からかっているのか優しさなのか判断しにくいラインで、六路は口を開けて一切れを頂戴する。
「じゃあ、今度は俺から?」
 やられっぱなしというのもなんですし。
「あら。お野菜がしっかりしてるのね」
「意外ですよね、こういうところで。トマトうめェ」
 サラダを取り分けながら、六路が頷く。
 フレッシュな野菜が重量感のある肉を受け止めてくれるから、難攻不落に見える塔もサクサク進む。
「それから、なんだろ、ポテトの味付けも独特なんだよな。コンソメ……?」
「飽きが来ない、って優秀だと思うわ〜」
 料理は作るのではなく美味しく作ってもらって食べるもの。
 材料や味付けといった細やかな部分まで詳しくはわからないが、チェーン店とは一味もふた味も違うことはよくわかる。
 多種多様なバーガーに、サラダとスープ。ポテトにチキン。
 量を食べること自体は然して苦ではないにせよ、楽しみながら食べられることは何物にも代えがたい。
「六路くん、手が止まってるわよ〜?」
「いったん、パフェ食べてから再チャレンジしようかなって」
 さすがに肉肉しくなってきた、と告げた六路の眼前へ、タワー級のフルーツパフェが運ばれてくる。
「…………」
「騎士様、がんばって〜〜♪」
 さっと顔色が変わったのを見抜いて、幻朔が朗らかな声援を送った。




 食後のコーヒー、デザート各種も堪能して。
 店を出る頃には、風が冷たさを帯びていた。
 春の始まり、まだまだ寒さは残る。
 火照った体には、これくらいでちょうどよかった。


「あー楽しかった!」
 大きく腕を広げ、六路が空気を胸いっぱいに吸い込む。
 店員たちの驚きの表情も見ものだった。
「うふふ…… そうね、楽しかったわ」
 あれだけ大量の食事を攻略することはもちろん、色んな食材へ興味津々の騎士様の様子も。
 そんな言葉を飲み込み、幻朔は意味ありげに微笑むにとどめる。
「っと、ちょっとぐらいはお返しになりました?」
「えぇ、十分過ぎるくらいのお返しを貰えたわよ。でも、こうして終わっちゃうのは少し寂しいわね……」
「足りないですか? じゃあ来週空いてます? 冗談です」
 デートは楽しい。
 しかし、たぶん、財布が悲鳴を上げている。
 人界の金銭感覚は持っているが、なぜだろう人間の幻朔と共に居ると何かが吹き飛ぶ。
 それが楽しみだから、遊べる時には万全を期して、予算という名の弾丸の準備はしっかりしておかないと。
「でも…… そうだ、よかったら送らせてください。俺、飛べちゃうんで」
 ここなら――久遠ヶ原なら、悪魔が翼を広げたところで咎める者は居ない。
 言葉と同時に、六路は赤黒い翼を具現化した。
 身長に対して小ぶりに見えるが、能力は充分だし邪魔にもならない。
「はい、抱っこ? おんぶ?」
 両手を広げる六路へ、幻朔が少しだけ戸惑いの表情を見せる。
 どちらにしよう、と悩んでいるようだ。
「あー、エアバッグが邪魔だからお姫様抱っこだ。ほらね?」
「エアバッグ? あら? 六路くんはお姐さんの天然エアバッグお嫌いかしら?」
 ヒョイと抱き上げられ、近くに迫った青年の顔へ、幻朔が意地悪く微笑む。
「そういうんじゃ……。反発力で、落っこちたら大変だっていう」
「うふふ……、嘘よ。折角だしお姫様気分を味わおうかしらね?」
「んじゃ、飛びますよ。しっかりつかまっててくださいねー。俺としても、ちょっとぐらいはドキドキしてもらわなくっちゃあ!」

 ――ふわり

 六路を中心として、周囲に風が巻き起こる。
 街の雑踏が遠退いてゆく。
(……きれい)
 彼の首へ腕を回し、幻朔は眼下に広がる景色へ魅入った。
 それはきっと、自分一人では見ることのできなかった風景。
 今日という日の、特別な最後のショット。




 冷たい上空の空気も、体を寄せ合っていれば気にならない。
 恋仲だったとしたら、ドキドキ緊張で手が滑るなんてことがあったかもしれないけれど、違う意味で信頼を置いているからしがみつくことに抵抗もなくて。
 乗り物も、信号も、ビルだって飛び越えて、別れの時間は思っていたよりずっと早くやってきた。


 最後まで優しく、幻朔を気遣って六路が着地する。
「到着ですよ、お姫様」
「今日はありがとうね。1日限りの素敵な王子様♪」
「……っ!!?」
 二人はほとんど身長差が無いから、幻朔の動きを察知する余裕なんてなかった。
 スッと流れるように、ごく自然に、頬へキス。
「お姐さんからのお礼よ♪」
「王子様にキスならもっと見つめ合わなくちゃ。……つってキャラじゃねえし! 敵わないなあ!」
 カッコつけて切り返そうとした六路だが、恥ずかしさに負けた。
 不意打ちに動揺を隠しきれないその姿を、幻朔がクスクスと見守った。




 日が傾き始め、デートが終わり。
 姉弟のような、大切な友人と。
 美味しいランチに、空のデート。
 何に気後れするでなく、自分らしく過ごすことのできた、心地いい時間だった。

「真心ねー」

 同じころ、どちらというでなく楽しげに呟いていた。




【真心エスコート 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb5391 /  鷹群六路  / 男 / 17歳  / 鬼道忍軍 】
【jb7425 /文珠四郎 幻朔 / 女 / 26歳  / ルインズブレイド 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
美味しく楽しくホワイトデー・デート、お届けいたします。
内容から判断しまして、共通の内容としています。
楽しんで頂けましたら幸いです。
不思議なノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年04月03日

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