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『ファルス・ティレイラ(3733)の大失態?! 』
ファルス・ティレイラ3733)&(登場しない)

「はあ……。やっぱり引き受けるんじゃなかったかな?」
 ティレイラはレンガでできた地下水路を歩きながら、自分の前を歩く少女の背中を見つめてため息を吐く。
 事の始まりは数時間前、まだ太陽が空高くのぼっている時のことだ。
 ティレイラの部屋に、知り合いの魔法使いの少女がやって来た。
 少女は魔法道具を扱う店を経営しており、時々ティレイラに依頼をしてくる。だから今回もそうだと思っていたのだが……。
「えっ? それってドロボウじゃない?」
「違うわよ! ちょっとお宝を分けてもらうだけよ!」
「持ち主に無断で所有品を奪うことは、立派な犯罪よ」
 ティレイラは顔をしかめながら、冷静に言う。
 少女の今回の依頼とは、こうだった。
「あのね、ここから山をいくつか越えた所にある場所に、魔族の女が住んでいるらしいの。その魔族の女は、数々の魔法の品をコレクションにしているらしくてね。実物を見てみたいから、一緒に行ってくれない?」
「それなら正面から訪ねた方が……ってまさか、そのコレクションを勝手に持ち出そうと考えているんじゃないでしょうね?」
「てへっ☆」
 片目をつむって舌を出す少女の顔を見て、ティレイラは自分の考えが当たったことを知る。
 少女は魔力を持った道具に目がなく、マニアと言っても良い。同業者の中で少女の存在は有名だが、それは良い意味だけではない。
 目的の物を手に入れる為ならば、手段を選ばないという恐ろしい面があるのだ。気に入った魔法道具は身につけて、満足している。
 ティレイラは少女の依頼で何度か魔法道具を手に入れる為に、苦労したことがあった。少し苦々しく思いながらも少女が支払う報酬が良かったので今までは引き受けてきたのだが、犯罪となると話はまた別だ。
 ティレイラに軽く睨まれている少女は、慌てて両手を振る。
「でもね、これって人助けの意味もあるのよ。何せ魔族の女は自分の気に入った物を手に入れる為には手段を選ばないタイプでね、『盗まれた』と言う人もいるぐらいなの。アタシの店に、盗まれた品物が売られていないか確かめに来た人がいてね。そこから魔族の女の話を聞いたのよ」
 そこまで聞くと、ティレイラのつり上がっていた眼が僅かに下がった。
「……なるほど。盗まれた物を取り戻す――という目的があるのね」
「そうなのよ! それでまあ迷惑料として、ちょこっとコレクションを頂こうかと……」
 正直に言い過ぎると思いながら、ティレイラは紅茶を飲んで考える。
 ドロボウは良いことではないが、相手もそうならば話は違ってくる。同じ目に合わせて、悔しがらせるのも良いだろう。
「まあ人助けならば良いけど。でもどうやって潜入するの?」
「女が住んでいる屋敷の見取り図については、情報屋からある程度は聞いているんだけどね。どうやら屋敷に隠してあるコレクションを守る為に、魔法で守護獣を作って周囲を見張らせているらしいわ。だから橋にある入口から地下水路に入って、歩いて行くつもり。ちょうどよく宝物室は地下にあるらしいから、ちょっと冷たくて臭い思いをするけれど水路を歩いた方が安全よ!」
 少女は自信ありげに、自分の胸を拳で叩く。
 ティレイラは嫌な予感がしていたが、とりあえず頷くしかなかった。


 そしてその日の深夜、早速二人は地下水路から潜入する。
 望遠鏡で屋敷を見たところ、確かに様々な守護獣が屋敷を守るようにうろついていた。
(でもアレだけの守護獣を作れるってことは、相手の魔族はかなりの腕利きね)
 見つかれば本当に命の危機になりそうなのを想像すると、ティレイラのため息はますます重くなる。
「あっ、あったわ! この扉よ!」
 いくつかの曲がり角を曲がった後、行き止まりの所に大きな鉄の扉があった。鍵穴はないのだが、それでも扉は開かない。
「やっぱり魔法で封じているわね。でもそんなの、分かっていたことよ!」
 少女は首に下げていたネックレスのトップを手で持ち上げる。トップは銀色で丸く、少女の手のひらサイズの大きさで、魔法陣をかたどった物だ。
 少女が扉にトップを当てた途端、白い光が放ち、扉は自動的に開いていく。
「ふふんっ♪ 魔法道具のコレクションなら、アタシだって負けてないんだから!」
(……それってドロボウグッズ?)
 新たな不安を感じながらも、ティレイラは少女に続いて宝物室の中に入る。広い地下室には、数多くの魔法道具が置かれてあった。
「きゃあっ! ステキ♪ ティレイラは盗品を探してね。アタシは自分が欲しいのを探すから」
「はいはい」
 盗まれた物の絵が書かれてある紙を少女から受け取ったティレイラは、早速探し始める。
「……どの品も、凄い魔力を放っているわね」
 流石に魔族のコレクションなだけあり、一つ一つの品から強大な魔力を感じた。
 それでもティレイラは必死に盗品を探し出し、カバンに入れて少女と共に宝物室を出る。
「ふう……、重いわねぇ」
「ふう……。大漁大漁♪」
 少女はティレイラよりも大荷物だが、上機嫌だ。
「もうここに用はないし、さっさと……」
 少女の言葉が突然途切れ、体もその場で固まる。
「どうかしたの……って、ひぃっ!」
 顔を上げたティレイラの眼に映ったのは、派手な美女が行く手を遮るように仁王立ちしている姿だ。美女から発せられる怒りのオーラと魔力は、彼女が魔族である証拠だった。
「お前達、わたしの屋敷の中で何をやっているんだい?」
「にっ逃げろーーっ!」
 少女の叫びで我に返ったティレイラは、慌てて背に翼を生やして飛ぶ。そして水の中に飛び込み、翼をオールのように動かしながら泳ぐ。
 少女はティレイラとは正反対の方向へ、空飛ぶホウキに乗って逃げて行った。
 魔族の女は少女が飛んでいった方向を見て、眼を細める。
「あっちはついさっき仕掛けた罠があるから良いとして、水の中の方は手を打たなければね」
 女は宝物室に入ると、小瓶を手に持って出て来た。そして蓋を開けると、紫色の液体を水の中に流し入れる。
「水の流れにそって、逃げるのはいい考えだったんだけどね。わたしのコレクションの中には、こういうのもあるのさ」
 ニヤニヤ笑う女の眼に映るのは、液体によってどんどん物体化していく水の様子だ。
 ソレはすぐに、ティレイラをも巻き込む。
「えっ!? 何、コレっ!」
 ティレイラは体が重くなっていくのを感じ、慌てて水の中から出た。通路に体を引き上げたが、しかし全身はすでに紫色の液体をふくんだ水がかかっており、ピシピシッと乾く音を立てながらティレイラの体は固まってしまった。
 石像となったティレイラの元へ、魔族の女がやって来る。
「魔力を持つ者があの液体に触れるとね、その部分が魔法石になっちまうんだよ。皮肉なことに強い魔力を持っていればその分、魔法石の強度も増す――。そして全身に液体がかかれば、立派な魔法石像のできあがりさ。……ああ、あっちも罠に引っかかったみたいだねぇ。お前達はわたしのコレクションを盗み出そうとした罰として、しばらく暇つぶしになってもらおうか」
 そう言った女の唇は、血のように赤かった。


【終わり】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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東京怪談
2014年06月02日

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