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『デートは遊びじゃありません? 』
夜来野 遥久ja6843)&七種 戒ja1267


●お仕事です!

 いつもの胡散臭い笑顔を浮かべ、芸能プロダクション『ジュリーズ事務所』社長のジュリアン・白川が切り出した。
「今回は気心の知れた仲間同士の仕事だからね、リラックスして取り組めるのではないかな」
 不吉な気配を感知し、七種 戒のこめかみがぴくっと反応する。
 同じく呼び出された夜来野 遥久は、普段通りの余裕綽々の表情だ。
「大八木君、例の物を」
 白川がパチンと指を鳴らすと、秘書兼諸々の大八木 梨香が企画書のファイルを戒と遥久に差し出す。
「何々……『気になる! あのモデルのデート風景を激写!』だと……?」
 戒が眉を寄せた。
「はい。女性向けファッション雑誌の企画なのですが……」
 何組かの男女モデルがペアになってデートをするという想定で、その時に身につける衣服や小物と、デートスポットを一緒に紹介する内容である。
「という訳ですので、事前に内容を読みこんで準備をお願い致します」
 梨香が説明を終えるのを待って、白川が続く。
「我が事務所の誇るモデルである君達には、是非とも他事務所のモデルに勝利してもらいたい。宜しく頼むよ」
 社長の言葉に遥久は輝く笑顔で答えた。
「お任せください。必ずや完璧なデートを演出して御覧に入れますよ」
 だが戒は突然、社長ではなく傍らの遥久に向き直ると、その完璧な笑顔を指差す。
「夜来野氏、デート対決だ! 今度こそ、負けんからな!」
「あの、七種さん……勝負の相手は夜来野さんではなくてですね……」
 梨香が律義に訂正するが、遥久は楽しそうに笑う。
「宜しいですよ。では本番前の練習ということで、次の休日にはお付き合いいただけますか」
「望むところだ!」
 興味深々の風情でその光景を眺める社長の横で、梨香は無言のまま眉間の皺を指で揉むのだった。
 

●決戦前夜

 戒との約束の前夜。
 遥久はパソコンに保存したデートプランを改めて確認する。
 既に完璧にコースは頭に入っているが、完璧の上に完璧を期すのが遥久だ。
 不意にその口元が、ほんの僅か緩んだ。
 デート前日ににやけている男と思えば可愛いが、どう見ても笑みの種類が異なる。
 やられてもやられても勝負を挑んでくる戒を、明日はまたどんな風にあしらってやろうかと思っている微笑だ。
「さて、どう出て来るか」
 仕込みを確認すると、遥久は早々と就寝する。

 一方、戒は……。
 もう日付も変わろうとする時間になっていたが、こちらも翌日の準備に余念がない。
 とはいっても着る服を悩んでいるとか、お風呂で自慢のボディを尚も磨きあげているとか、そういう類の準備ではない。
『こんな夜更けにどうした。眠れないのか?』
 憂いを含んだ男の声が室内に響く。
 照り返しを受けながらテレビ画面をうっとりと見入る戒が、溜息のように呟いた。
「ルーイ様、ちょー素敵……」
 女心をこれでもかとときめかせる、乙女ゲームの一場面であった。
 超絶イケメン、悶絶イケボイスなルーイ様とのラブラブルートを夜通し堪能すれば、遥久氏など恐るるに足らず。
「ふふふ……これで勝てる!!」
 結局ルーイ様との逢瀬は、朝日が部屋に差し込むまで続いたのだった。


●いざ戦場へ

 戒のマンションの前に一台の車が横付けされる。
 運転席のドアが開くと、ほとんど優雅と言っていい所作で遥久が外に出た。
 車はシルバーの国産スポーツカー。国産といっても、性能も価格も下手な外車を凌駕する代物。そこを敢えて国産に乗るのがポイントなのである。
 約束の時間通りに戒がマンションから出てきた。
「おはよーございます、ルー……遥久氏」
 長い髪をなびかせ、濃い色のサングラスをかけた姿は、いかにも業界人らしい。
 まあ実はこのサングラス、自分の顔を隠すためというよりは、遥久の顔をまともに見ない為の予防策なのだが。
「お早うございます。今日は宜しくお願い致します」
 遥久は助手席側のドアを開き、お姫様の手を取るように恭しく戒を導く。
(くっ……大丈夫だ、ルーイ様の麗しいお姿と、眠気とで鈍った感覚で、耐えきって見せる……!!)
 戒はサングラスに軽く手を添え、不敵に笑って見せた。

 だが、戒は車を舐めていた。
 2人で狭い場所にいる時間が続く訳で。嫌でも距離は近い訳で。
 遥久がレバーに手をかければ、指が戒の腿に触れんばかりになる。
「寒くはないですか? 冷房を少し弱めますか」
 そんな声も、笑顔も、普段よりずっと近い。
「だ、だいじょーぶ! 寧ろもっとガンガンに効かせても結構です!!」
 何故か戒の眠気は吹っ飛び、サングラスの陰で目を見開いたまま海辺のショッピングモールに到着する。
 駐車スペースに滑らかに車が滑り込んだ。
 その間、バックを確認する為に一層近付いた遥久の横顔を、戒は思わずドアに張り付いて避けた。
 そう、ルーイ様はとても素敵だが、画面の向こうからはお出ましにならないのだ。
 三次元の迫力には、残念ながら及ばない。

 並んで歩いている間も、遥久はさり気なくウェスト辺りに手を添え、誘導する。
「あちらを見てみましょうか」
 だが戒もやられっぱなしでいる訳にはいかない。
「私、あちらが見てみたいですワ」
 口調がおかしくなっているが、これでも必死の反撃を試みているのだ。
 戒が指さしたのは、レースとフリルとパステルカラーで埋め尽くされた店である。
(ふふふ……男性にとってこの店はかなり敷居が高いはず! さあ、困れ! 遥久氏!!)
 内心の高笑いを隠し、戒は弾んだ声を上げた。
「ちょうどこういうの、欲しいと思ってぇ〜」
 フリフリのレースやリボンフラワーのついたワンピースとサンダルを抱えて流し眼をくれる戒。自分もグラサン装着で、この店では浮いていることはすっかり忘れているらしい。
「よくお似合いだと思いますよ。ああでも、サンダルは試してみられた方がいいと思いますが」
「あ、はい」
 遥久はさり気なく戒の手からサンダルを取り上げ、近くのソファに座らせる。
 その前に屈みこむとすっとふくらはぎに手を伸ばし……
「ぎゃあああああ!!!!!」
「どうかなさいましたか?」
 戒の足にサンダルをあてがい、遥久が試すように見上げている。
「なななな、なんでも!?」
 ここで負ける訳にはいかない。戒は必死で笑顔を作る。だが、逃げたい。一刻も早くこの場から逃げ出したい!

 戒はその後も何度も反撃を試みた。
 スイーツのお店では渾身の『はい、あーん♪』まで頑張った。
 だが遥久はわざと指が触れそうな所ギリギリに唇を寄せてきたのだ。
 戒は絶叫と共にスプーンを放り投げるしかなかった。
 というわけで、夜空に星が瞬く頃には戒の疲労はピークに達しつつあった。
「お疲れのようですね、大丈夫ですか?」
 誰のせいだ。そう突っ込みたくなるが、遥久は飽くまでも気遣いの表情である。
「いいえ、何だか夜景がとても綺麗だったので見とれてただけ」
「そうですか。それは良かった」
 遥久の笑顔が輝く。
 大丈夫、いくら輝いてもサングラスが遮断してくれる。フハーハハ! この勝負、まだまだやれるぞ!!
 ――そう思っていたこともありました。
「あちらへも行ってみまs……のわッ!?」
 履きなれないサンダル。睡眠不足と緊張による疲労。夜のサングラス。
 全てが戒に不利に働いた。
 先に立った戒は、階段を見事に踏み外したのだ。
「危ない……!」
 流石にこのときばかりは遥久の顔にも緊張が走った。
 倒れる戒の身体を素早く引き寄せて、しっかり受け止める。
「……大丈夫ですか!?」
 倒れた拍子に戒のサングラスは何処かへ飛んでいた。そして至近距離、それも息がかかるような距離にある遥久の顔。自分の身体はぴったりと相手に密着している。
「だ……いじょうぶ、じゃ、ない……」
 かくり。
 ここで眠気のピークが来たのは、いっそ幸いだったかもしれない。
 戒の意識は完全に途切れた。


●戦い済んで……

 その翌日。
 出勤した遥久を待っていたのは、梨香だった。
「お早うございます。昨日はお疲れ様でした」
 声に若干棘がある。遥久は爽やかな営業スマイルでその棘を無視した。
「上手く撮れましたか?」
「……上手すぎかもしれませんね」
 溜息と共に梨香がファイルを差し出す。
 そこには遥久の依頼で、昨日のデート(対決)を隠し撮りした写真が入っていたのだ。
「見事なデートでした。本番が楽しみですね」
「経験値と演技力の差ですね。ああ、戒さんはとても可愛らしかったですよ」
「……でしたね」
 隠し撮り担当だった梨香が半ば呆れたように言う。
「大八木さんもお疲れ様でした。これ、宜しければお使いください」
「……私にですか」
 リボンのかかった包みを開くと、繊細なビーズ細工の髪飾りが入っていた。
「有難うございます。とても綺麗」
「それは良かった」
 梨香は小さく溜息をつく。どだい、戒のかなう相手ではないようだ。


 後日、雑誌の撮影は滞りなく済み、件の雑誌が店頭に並んだ。
 そこには何故か当日以外のオフショットが掲載され、夜景をバックにお姫様抱っこされながら遥久にしなだれかかる戒の姿が……。
「こ、これで負けたと思うなよーーーー!!!」
 完全な負け犬の遠吠えを残し、戒は海外へと旅立った。
 遥久にプレゼントされたサンダルは今や足にぴったりと馴染み、戒は芸能レポーターを振り切って空港のエスカレーターを転ぶ事なく駆け上がっていったという。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1267 / 七種 戒 / 女 / 18 / ファッションモデル】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27 / ファッションモデル】

同行NPC
【jz0061 / 大八木 梨香 / 女 / 18 / マネージャー兼経理兼色々】
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28 / 芸能事務所社長】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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『ジュリーズ事務所』、今回はモデルサイドのお二人の物語になります。
普通に素敵なデートにも見えるのですが……それも演技力の賜物でしょうか。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2014年06月30日

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