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『いもづる! 』
櫟 諏訪ja1215)&百々 清世ja3082)&点喰 縁ja7176)&カーディス=キャットフィールドja7927)&アスハ・A・Rja8432)&櫟 千尋ja8564


 6月の花嫁は、幸せになれるんだって。
 じゃあ、6月の花婿は、どうなんだろうな?
 花嫁が幸せだったら、花婿だってもちろん、幸せじゃない?
 そういうものだろうか。
 そういうものだって!

 ――ところで、こんな話を聞いたのだけど。




「え、なに、飲み会すんの? 行くけどメンツ……」
 アスハ・ロットハールからの唐突な連絡に、百々 清世が首を傾げ、――それから察する。
「あー……、りょうかーい。どーする、他にも誰か誘う?」
『いや…… あとは芋ヅル、だ』
「……芋づるか」
 まあ、アスハPだし。悪いようにはならないだろう。
 それ以上は訊ねず、清世は外出の準備を手早く整えた。
 気心知れた友人たちとの飲み会、未成年もいるとなれば過剰な気合も不要。
 いつも通りの、自然体でOK。




 宵の口。
 濃紺の闇が街に降り、ぽつりぽつりと灯りが光り始める。
「わあ、こんな時間にこの辺りを歩くのって、はじめて!!」
「千尋ちゃん、はぐれないように手を離さないでくださいねー?」
「うっ、うん!!」
 手を繋ぎ、繁華街を歩くのは櫟 諏訪と藤咲千尋。
 いつまでも、初々しさの消えないカップル。
 繁華街とはいえ久遠ヶ原、諏訪は以前も訪れたことのある場所で、危険な地域ではないけれど高校生の彼女に万が一のことがあってはいけない。
 握る手の力をそっと強めると、千尋がぼんっと赤面した。
「あ、えっとえっと、それで、奢りってホントなのかな!? わたしまでいいのかな!?」
「自分の二十歳のお祝いに、ということでお招きいただきましたからねー? もちろん、千尋ちゃんも一緒ですよー?」
 お祝い事は、二人で一緒に。
 当然のように告げられて、千尋は更にワタワタし、諏訪の腕へと額を押し付けた。
「……たのしみ、だね!!」
「ですねー」
 お料理も、とっても美味しいと聞いている。
 きっと、素敵なお祝い会になるだろう。
「あ、あのお店ですよー?」
「和風居酒屋……!!」
 大人っぽい雰囲気の漂う店構え。
 落ち着いた灯りの看板に、千尋の期待値が上がる。
「出汁が決め手の、いいところですよー?」
 そう指した先に見知った顔があり、ハテ、と諏訪が二度三度まばたきを繰り返す。
「これは御両人! この度はおめでとうごせぇます」
 ラフなTシャツ姿の点喰 縁がそこにいた。
 編入時期の関係で、大学部生であるものの縁は千尋と同じく未成年組。
「遅くなりましたー! 皆さん、お揃いで?」
 そこへ、もっふもっふと黒猫着ぐるみがやってくる。
 カーディス=キャットフィールド、こう見えて彼もまた未成年。
「奢ってくれると伺いましたので、ついてきちゃいました☆」
(うん?)
 カーディスの肉球とハイタッチしつつ、縁の胸に何かが引っかかる。
(たしか――)
「あー、なんだ。まだ、アスハの奴きてねぇの?」
 カーディスの少し後ろを歩いてきたのは清世。聞けば、道すがら居合わせたそうな。
「筧ちゃんと一緒かな?」
「これで、メンツが揃う感じですねー?」
(……これは)
 諏訪と清世の会話を耳にして、縁がなんともいえぬ不安を抱く。
 が。
(たまには家事から逃れたい……。楽しめるところは、美味しく頂くってぇことで)
 得体のしれぬ不安は、丁寧に風呂敷に包んで棚の上へ。

 それからさして待たずに、アスハと筧 鷹政が肩を並べて現れる。
 面々を見て、何処となく鷹政の表情が引き攣ったのは、気のせいであろう。
「いよいよ二十歳になってお酒が飲めるようになりましたし、筧さん、今日は付き合いますよー?」
「はっは。出汁が決め手のこの店で、かい……?」
「そう言うと、思って。カケイには、季節に合わせて冷出汁を予約してある」
「おやめください、アスハさん」
「今日は、無礼講、だ。遠慮なく、行こう」
「やめて、何かを思い出す!」
「今日は削られる人が一人しかいないので、応援していますよー?」
「絶好調ですね、鉋マスター……!!」
 鷹政が、絶望のあまり両手で顔を覆った。




 通されたのは広めの個室。掘りごたつになっていて足元快適。
「俺、ここ初めてー。何にしよう…… とりあ、酎ハイな。外れないし、ゆっくり飲めるし」
 ドリンクメニューを開いてからの清世の決断は早い。
 どこの店にもあって、当たりはずれが少ない『定番』を見つけてからは、こんな感じ。
「自分は……まだ、量には慣れていないのですよー?」
 度を越して潰れるといったことは未だないが、何が『お気に入り』かは見つけられずにいる。
 アルコール度数で表示されてもピンと来ない。
「ふむ。だったらスワ、この辺りはどうだ?」
「果実酒ですかー」
「飲み口は軽いし、モノによっては度数もあるし、な」
 アスハの薦めへ素直にうなずき、千尋と一緒に相談を始める。
「千尋ちゃん、ノンアルコールカクテルなんてものもありますよー?」
「わっ、オシャレ……!! どうしよっかな……。とりあえずは、飲み慣れたジンジャーエールにしようかな?」
 見慣れないカタカナが羅列するドリンクは、ノンアルコールと言ってもちょっと敷居が高く思えてしまって。
「梅酒くれぇ、飲ませてくれてもいいと思うんですけどねぇ……。じゃあ、俺は梅のソーダ割りにしやすかね」
 小洒落たカタカナも、直訳するとこうなる。
「ピーチティーを扱ったもの、美味しそうですね〜。熱い紅茶も良いですが、食事と一緒ですからね〜」
「カーディス君…… 飲めるの?」
 ピンと伸びたヒゲを撫でる青年へ、鷹政が恐る恐る訊ねる。
「もちろん食べることもできますよ〜? すみませ〜ん、とりあえずホッケと鮭と、この一夜干しおすすめセットをお願いします〜」
「あ! ホッケもうひとつ追加」
「それから、宴会コース料理を7名分で」
「それとー、チーズの盛り合わせー。真っ先に来るから場ぁ繋げるっしょ?」
「お新香の盛り合わせもお願ぇしやす」
「すわくん! わたし、鳥串たべたい……!」
「美味しそうですねー? 串焼き盛り合わせと鰹のタタキを4人前ずつで、サッパリ系でしょうかー?」
 コースに含まれているものもいくつかあったし、そも、コースだけでそれなりのボリュームであることを、アスハは知っているが――
(まあ…… 芋ヅル、だな)
 どうとでも、なるだろう。
 オーダーを取り終え、個室を後にする店員の背を眺め、そんなことを考えた。




 ドリンクが揃い、賑やかに乾杯。
 料理もテンポよく運ばれてくる。
「あーー、やっぱビールだわ。夏本番にはまだあるけど、気温が上がってくると恋しくなるね」
「筧さん、おっさんスイッチ完全に入ってますよー?」
「あと半年もすれば、櫟君もこうなる」
「すわくんは、ずっと、すわくんだよ!!」
「今夜は…… 甘味の類、不要な気配ですねぇ……」
 微笑ましいカップルを前に糖分補給は充分とばかりに縁が目を細め、
「ところで筧あにさん…… それ、飲み物に分類されるんで?」
「程よい濃度に調整してある。縁君、ひとくち行っとく?」
 ビールの中ジョッキの傍らにある、黄金の液体を湛えたカクテルグラス。
 ふるふると、青年は首を横に振った。
「しっかし、出汁が決め手とは言ったもんでさぁ。煮びたし一つ、侮れねぇ」
 息抜きをしたくて来たというのに、反射的に家事脳になってしまう悲しき性分。
「ちょっとしたサイドメニューが、すごく美味しいですよー? メインの料理が来る前にお腹いっぱいになりそうですねー?」
 和風居酒屋と称しつつ、セットメニューに含まれている定番のフライドポテトや鶏のから揚げも美味。
 揚げ方が職人技で、大衆居酒屋とは一線を画している。
「すみませ〜ん、刺身盛り合わせ、厚焼き玉子に揚げ出し豆腐、筑前煮をお願いします〜」
「ピッチ早いね、黒猫さん!!?」
「未成年ですからね〜〜。アルコールを飲まない分、しっかり食べますよ〜」
 もふもふ。黒猫カーディスが楽しげに笑った。
 そんな様子を、アスハが微笑ましく眺めている。
「なんだかんだで、カケイとは久しぶり…… か?」
「そうだねぇ。アスハ君は、相変わらず危険な賭場を渡ってるの?」
 賭場と書いて、戦場と読む。
「カケイは…… 相変わらず、ひとり、か?」
「ビールおかわりー!!」
「……冷出汁が残ってるぞ?」
「それはそれ、これはこれ」
 二重の意味で。
「というか、飲むんですね、あにさん……」
「縁君も、ひとくち」
「遠慮します」




 自分のペースを保ちながら、なにくれとなく清世が周囲に気を配る。
「グラスあいてんじゃーん。未成年組も遠慮いらねーのよ?」
「してませーん! 揚げパン、じゃんじゃんお願いしまっす!!」
「……揚げパン? あったっけ」
 千尋の返答に、キョトンとなる。
「あのね、揚げパンを食べるといいよ! 揚げパンのね、きなこのやつ! 崇め奉るといいよ!」
「……藤咲ちゃん、酔った?」
「大丈夫です、お酒は飲んでません!」
 ヒャッハー!! 空気に酔って御機嫌MAXの千尋の腕を諏訪が取る。
「千尋ちゃん、お箸を持ちながら振り回すと危ないですよー?」
 ぽすん、そのまま彼の膝の上へ。
「はっ、はわわわっ!!」
「でも、こうしちゃったら食べられないですよねー? はい、千尋ちゃん。あーんですよー?」
「!!!」
 はむ、と厚焼き玉子を頬張ると同時に、千尋の顔が真っ赤に爆発炎上。
 すわくん。それは。そのお箸は、すわくんの……!!
「スワ、さりげなく酔ってるか……?」
「普段との境界が限りなく透明に近いよね」
 アルコールデビューしたばかりの若者の、豹変ぶりもまた楽しみの一つだが諏訪には通じないようだった。
「はいはい、砂糖爆破爆破ー あ、お姉さん。この店、揚げパンって作れる?」
「揚げパン…… ですか」
「そ。きなこの」
 確認してきますね。追加オーダーと共に消えてゆく女性店員。
 さりげない清世の行動に、「へえー」と縁が感嘆の息を漏らす。
「百々先輩の、そういうところが婦女子から支持を集める秘訣なんですかね?」
「……あ、俺の話? 良いよそんなの」
 ひらひらと、手を振ってはクラッカーにチーズをのせて齧る。
「特定の、っていないんですっけ」
「いつもどおりだって、俺はいつだってラブラブですー。お前らこそどうなの」
 思わぬピッチャー返しに、縁が掘りごたつの下に落ちる。
「えっと、その…… 将来的には、所帯を持とうってところ……まで……前提に、 その、カーディスはどうなんでぇ!!」
「あると思って振りました!!?」
 予想外の送球に、カーディスが魚の骨を喉に引っかけた。
 味噌焼きおにぎりを丸呑みしてやり過ごす。
「心臓が三つ四つ止まるところでしたよ〜〜」
 ふう。額の汗をぬぐい、大きく息を吐く。
「家族は大切ですが、そういった話はないですね〜。今を楽しむことに一生懸命ですからね〜〜」
「そういえば、筧さんは三度目の6月ですねー?」
 諏訪の死球を受け、今度は鷹政が掘りごたつの下に落ちた。
「そう、だね……。皆が学園に来てから数えるとそれくらい……?」
「今年は、どんな結婚式なんですかー?」
 鷹政、浮上できず。
「ナンノハナシデスカ」
「まだ、風のウワサ程度だ。具体的に、ここで聞くことができるのか?」
 アスハが追撃援護弾。
「守秘義務、守秘義務。じゃなくて!」
「あにさん、ヤケ出汁は体に毒ですぜ……?」
「とりあえず、今年の6月も期待している」
「くっそ、無駄にイイ笑顔しやがって……!」
 人間、誰しも触れられたくない部分はあるというもの。触れられたくない角度があるというもの。
 昨年、同様に何くれとなく励ましてくれて、鷹政の中でも折り合いはついているけれど。
 今では笑って話すこともできる、けれど――
(まあ、それも含めて人の歴史ってやつか)
 酒も入っている。きっと言葉を重ねたって仕方のないことで、鷹政が隙を作っただけのことだから。
(皆がそれで、楽しいならネ)
 拒否して空気を悪くするよりは沈黙が良い。
「浮かない顔だな? 出汁が足りない、か?」
「ヤケ出汁は……体に毒だから……」
 首を振り、苦く笑って鷹政はソフトドリンクへと切り替えた。
 『楽しい』がどんなことか、自分でもちょっとわからなくなっていた。
 たぶん、酔ったのだろうと思う。らしくない、そう思う。




 特製アツアツ揚げパン、砂糖だけ&きなこトッピング。
 バニラアイスは、お好みでどうぞ。
 リクエストにお応えした限定メニューの登場に、千尋が歓声をあげた。

「幸せ〜〜〜〜〜!!」

 カフェオレをセットで頼み、千尋は今にも溶けそうなほど幸福な表情。
 それを見守る諏訪もまた、幸せそうだ。
「あ、コレは美味い」
 きなこの揚げパンを初めて目にする鷹政だったが、なるほど崇め奉る味。
「筧ちゃん、酒と甘いの同時にやりすぎると体に毒よ……?」
「ツマミで塩分過剰摂取も似たり寄ったりじゃね?」
「や、見てる方が胸焼けするっつう話」
 普段なら誰が何を飲み食いしていても気に留めるでもない清世だが、本日のテーブルが凄くて。
 ほぼ、カーディスの胃袋へ吸収されているけれど。 
「追加でフルーツパフェ(特大)、お願いしま〜す」
 言ってる傍から、コレであった。
「うん。俺は甘いモノはいいや……」
 万感の思いを込めて、縁は熱い緑茶をすすった。




 もうすぐ6月だね。
 お腹がしっかり満たされて、他愛もない雑談の中で千尋が口にした。
 毎年、この季節になると学園内のカップルたちの、模擬挙式とでもいうべき写真撮影会が盛んになる。
 実際の結婚は未だだけど、約束の形として。
 そんな、甘さたっぷりのイベントシーズンが来る。
「友人の幸せそうな姿、というのは良いものだな」
「アスハさん、こっち見て言ってくれます?」
「あ、そういえば筧さん。アスハさんから奢りと聞いたのですけど、大丈夫でしょうかー?」
「え?」
「俺はカーディスからおごりって聞いたんすけど……」
 縁が、カーディスへ視線を投じる。
「もふ? 私は『おごり』とだけ」
「筧ちゃんごちでーす♪」
 財布は持って来ている、だって貴重品だから。見せないけどね!
 清世が、ポンと鷹政の肩を叩く。
「え?」
「友人の幸せそうな姿、というのは良いものだな」
 そこでようやく、アスハが鷹政と視線を合わせた。
「……つまり?」
「礼には及ばん、カケイ」
 芋づる式に、幸せはやってくる。
 たぶんきっと、おそらくメイビィ。
 恋する者たち、いつか訪れる出会いの待つ者たちに、どうか祝福(おごり)を。


「アスハァアアアアアアアアア!!!!」


 その絶叫は、個室の外まで響き渡った。




【いもづる! 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1215/ 櫟 諏訪 / 男 /20歳 / インフィルトレイター】
【ja8564/ 藤咲千尋 / 女 /17歳 / インフィルトレイター】
【ja3082/ 百々 清世 / 男 /21歳 / インフィルトレイター】
【ja7176/ 点喰 縁 / 男 /18歳 / アストラルヴァンガード】
【ja7927/カーディス=キャットフィールド/ 男 /19歳 / 鬼道忍軍】
【ja8432/   アスハ・ロットハール   / 男 /24歳 / ダアト】
【jz0077/ 筧 鷹政 / 男 /26歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
出汁が決め手の和風居酒屋雑談ノベル2014、お届けいたします。
お楽しみいただけましたら、幸いです。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年07月07日

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