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『誓いのドレス×2 』
帝神 緋色ja0640)&桜井・L・瑞穂ja0027


●手招くドレス

 梅雨の晴れ間の空は、すっかり夏の青色。
 今日は傘をささずに済みそうだ。
「その代わりに日傘が必要ですわね」
 桜井・L・瑞穂はフリルをふんだんにあしらったパラソルを広げる。
 日除けの意味はもちろんあるが、夏の青空に映える白いパラソルはいかにも瑞穂に似合っていた。
 いつも通りの穏やかな微笑を浮かべて、帝神 緋色がそれを指摘する。
「瑞穂にはやっぱり綺麗な白が良く似合うよね」
「まっ……!」
 瑞穂が目を見開き、次にツンと形の良い顎を逸らした。
「またそんなことを言って。緋色ったらわたくしをからかっていますのね!?」
「僕はお世辞なんか言わないよ。瑞穂は知ってるでしょう?」
 くすくすと、緋色は悪戯っぽい目つきで笑った。
 その声は、瑞穂の耳に心地よく響く。
 綺麗だと言われるのは慣れている。実際瑞穂は自分の身なりにはとても気を使っていたし、手入れも怠らない。そして瑞穂の立つ場所は本音と建前のないまぜになった美辞麗句に常に彩られていた。
 だが誰よりも想う相手に改めて綺麗だと言われるのは特別である。嬉しくないはずがあろうか。
 それでも瑞穂はわざとそっぽを向いて、くるりとパラソルを回した。
 勿論、緋色には瑞穂の上機嫌はお見通しだ。

「でも本当に、少し日差しが強いね。何処かに入ろうか」
 緋色が細い指を伸ばして、瑞穂の指にそっと絡める。
「そ、そうですわね……」
 傘に隠れた瑞穂の頬に、ぱっと赤みがさした。
 緋色はそんな時の瑞穂の顔がとても好きだ。いつも堂々と咲き誇る白い花のような瑞穂が、自分にだけ見せるしおらしさ。
 もっとそんな顔が見たくて、緋色は指を一層深く絡めた。

 ところで、上品なブルーと白のワンピース姿の瑞穂に、ゴシック風の黒のゴージャスなドレス姿の緋色がしっかり手をつないで歩いていると、仲の良い姉妹のようにも見える。
 だが緋色は自分に似合うと思う服を身につけているだけ。中性的な容貌、仕草ではあるが、れっきとした男子である。
 少し瑞穂の方が年上でも、気がつけばリードしているのはいつも緋色の方だ。
 自分の道は自分で決める気概の持ち主の瑞穂だが、緋色にリードされるのは不思議と不快ではない。
 今も緋色が指さす方へ、自然と足を向ける。
「なんですの?」
 緋色が立ち止ったのはショウウィンドウの前。白い豪華なドレスを着たトルソーが柔らかな照明の明かりを受けて輝いていた。
「ウェディングドレスの試着と写真撮影だって。行ってみようか」
「緋色がそうおっしゃるのなら」
 二人は連れ立って店のドアを開けた。


●惑わすドレス

 シンプルで上品な制服姿の店員が、にこやかに出迎える。
「いらっしゃいませ」
 そこで二人のいで立ちに気付き、一瞬だけ笑顔が強張ったように見えた。
 どうやらプロの目で、緋色が女の子ではないことを瞬時に見抜いたらしい。
「試着をご希望でいらっしゃいますか?」
「ええそうですわ。よろしくて?」
 瑞穂がそう答えると、二人を見比べ、念を押すように店員が尋ねる。
「その、どちらさまが?」
「「勿論、二人共♪」ですわ♪」
 声を揃えて満面の笑み。緋色と瑞穂は堂々と店の中へと入っていく。

 奥の扉を開けると、広い部屋の壁に沿って無数のドレスが並んでいた。
 見本としてベールやアクセサリーも飾られたトルソーが数体、繊細なレースのトレーンを後ろに長く引いている。
「まあ素敵ですわ」
 ドレスを見慣れている瑞穂ですら、思わず声を上げた。
「ご希望のデザインがありましたらお申し付けくださいませ」
 店員がガラスのテーブルの上にカタログを広げる。
「緋色にはやっぱりこういうのが似合うのではなくて?」
 瑞穂は少しクラシカルな、フリルがたっぷり盛られた可愛いドレスを指さした。
 最近流行の割と誰にでも似合うデザインではないが、オーソドックスなお姫様スタイルは童顔で小柄な緋色には相応しいだろう。
「うん、そうだね。こういうのがいいかも」
 しばらくカタログを眺め、およその希望が決まると実際にドレスを確認する。
 壁の半分ぐらいは白いドレスだが、その中にもデザインや色合いの異なるものが整理して釣られている。改めて比べてみると、白にも色の種類があるのが良く分かる。
「ふうん。これだけあると流石にちょっと迷うね」
 緋色が袖にもスカートにもたっぷりフリルのついたドレスを取り出し、体に当てた。
 袖口の繊細なレースも見事で、中々質の良い衣装店の様だ。

 一方、瑞穂は頬に手を当てたまま目を泳がせている。
「これは、想像以上ですわ……」
 とりあえず希望のスタイルを伝え、襟もとのカットやスカートの形で絞り込み、およそのイメージは出来上がった。だがそれでも選んだドレスはどれも魅力的で、困ってしまう。
「こちらの薔薇が並んだようなバックスタイルの美しさは捨てがたいのですが、こちらのシンプルなラインも素敵ですし……」
 瑞穂にしてみれば、単なるドレスの試着ではすまない面もあるのが本音だ。
 いずれは結婚という前提の相手がいる以上、まさに今回は予行演習なのである。
 当然、本番には自分専用にデザインされた物を着ることになるだろうが、その前にイメージも固めておきたい。
 という訳で、気合も入る。
「ねえ緋色、どちらが似合いますかしら?」
 ついに瑞穂は緋色に意見を求めた。少し首を傾げてドレスと瑞穂を見比べ、緋色はもっともな意見を述べる。
「どちらも似合うと思うけど。気になるなら両方着てみたらいいんじゃないかな」
「……それもそうですわね」
 内心、『どちらが好みか』と聞けばよかったと思う瑞穂であった。


 緋色は自分に似合う物をよく知っている。
 なので、選んだ数枚のドレスはどれもあつらえたようにぴったりだった。
「とてもよくお似合いですわ」
「ありがとう」
 店員の褒め言葉にも余裕の笑顔である。
 最終的に選んだパフスリーブの正統派プリンセスラインのドレスを纏った緋色は、本当にお姫様のようだった。
 ウエストから下の部分にたっぷりとしたフリルが幾重にも重なり、陰影が美しい。
 レースの短い手袋をつけると、お人形のようである。
「ヘアスタイルとメイクは別室でどうぞ」
 案内されて、慣れた裾さばきで堂々と緋色は歩いて行く。

 瑞穂は神妙な面持ちでドレスを纏う。
 すっと伸びた背筋に、凛とした雰囲気の純白のドレスはよく映えた。
「ドレスを着慣れていらっしゃいますのね」
 店員がそう言いながら、バックのリボンを調節して窮屈そうな胸元を楽にしてくれる。レンタルのドレスはこういう小技で、誰にでもフィットできるようになっているのだ。
 大きく開いたハートシェイプのビスチェは、デコルテ部分の美しさを引きたててくれる。前から見るとシンプルなAラインのスカートのバックは大きな共布のリボンで飾られ、そこから豪華なレースをあしらったトレーンが優雅に流れていた。
 少し大人びているが、瑞穂にはよく似合っていた。
「やっぱりこれにしますわ」
 満足そうに裾をつまんで、瑞穂が笑顔を見せた。


●誓いのドレス

 メイクを終えて、二人はお互いのドレス姿を改めて目の当たりにする。
「素敵ですわ、緋色……!」
 緋色はいつも下ろしている髪をまとめていた。細かいカールのウィッグを足し、繊細なティアラを飾り、白い小花をこぼれんばかりに散りばめている。ティアラから伸びる軽いベールがとても愛らしい。
 その姿はまるで、童話のお姫様が抜け出て来たようだった。
 緋色もまた瑞穂のドレス姿に目を細めている。
「瑞穂もとても綺麗だよ。やっぱり白が良く似合うね」
「ありがとう、嬉しいですわ」
 瑞穂はブーケに半ば顔を埋めるようにして微笑んだ。
 髪はサイドを複雑に編み込み、後ろに纏めて先の部分はカールさせている。
 細い首が露わになるいつもと違うスタイル、そしてそれを程よく隠すレースのベールは、何だか自分でも新鮮だった。
「お写真の背景はどうなさいますか?」
 合成写真なのだが、一応選べるらしい。
 洋館の一室、豪華な階段、白い砂浜に果てはガラスの宮殿。
 そんな中から瑞穂が選んだのは、南仏の教会だった。
「これにしませんこと?」
 いつかは帰る、その場所。特別な一枚だからこそ、例え作りものでも思い入れのある場所がいい。
 瑞穂の提案に緋色が頷いた。恐らく瑞穂の考えは伝わっているのだろう。

 とはいえ、実際はスタジオの青いスクリーンの前に並んで立つだけである。
(ちょっとこれはがっかりですわね)
 若干の興醒め感はぬぐえなかったが、瑞穂は考え直す。
 今回は飽くまでも予行演習。完璧を求めるのは無理であるし、無駄でもある。
「花嫁さんお二人は華やかでいいですね〜」
 何の気なく声をかけるスタッフに揃って笑顔を向け、二人は並んで立つ。
 幾度もフラッシュが光り、その度に二人は立つ位置や表情を変える。


 暫く別室でお茶を飲みながら待っていると、出来上がった写真が運ばれてきた。
「あら、素敵ですわ……!」
 南仏の輝く青い空の下、白い教会の入口に並んで立つドレス姿の二人が幸せそうに微笑んでいた。
 さっきの暗いスタジオで撮影されたとは思えない、中々の出来だった。
「へえ。結構綺麗にできているね」
 表情やポーズを変えた何枚かの中から、選んだ物を装丁してくれるという。
 二人が頬を寄せているものと、厳かに立つもの。雰囲気のまるで異なるものを選んで、背景は青空と夕焼けをそれぞれ指定した。
「あれだけのものでしたら、別のドレスでも撮影してもいいかもしれませんわね」
 カップを手にうきうきと瑞穂が言うのを、緋色がじっと見つめていた。
「ねえ瑞穂」
「何かしら?」
 長椅子に並んで腰かけている緋色が、距離を詰めて来た。互いの嵩高いドレスが音を立てて触れ合う。
「僕は今日、改めて思ったよ。やっぱり結婚式は瑞穂と挙げたいな」
「まっ……!」
 緋色の瞳に映る瑞穂は、少し泣きそうな顔をしていた。
「瑞穂は?」
 覗き込みながら緋色が尋ねる。胸にこみ上がって息が止まる程の想いを、瑞穂は一生懸命に言葉にした。
「勿論ですわ。だってわたくしが選んだ緋色ですもの。緋色以外となど、考えられませんわ」
 ドレスの試着だって緋色の為。緋色に綺麗な自分を見せたいから。
「じゃあさ」
 緋色がぐっと顔を近づけた。白い指が瑞穂のベールをそっと持ち上げる。薄布一枚が目の前から無くなるだけで、一気に無防備な気分になるのが不思議だ。
 その微かな怯えのような感情を見透かすように、緋色が囁いた。
「誓いのキスだよ」
「えっ、緋色、ちょっと、ま……!」
 瑞穂の言葉は途中で柔らかく塞がれる。
 薄眼を開けると、緋色の長い睫毛がとても近い。
(そう、これも予行演習ですのね……)
 瑞穂はうっとりと眼を閉じた。
 これからもずっとずっと、あなたと一緒に。改めてかわす約束のしるし。

 ……なのだが。
「んぅ……」
 瑞穂の頬がみるみる薄紅色に染まっていく。
(ちょ、ちょっと、長くありませんこと……!)
 緋色は瑞穂の動揺などお構いなしに、頬に添えた手を少しずつずらし、肩を押さえ、そのまま自分の体重をかけた。
「!!」
 瑞穂が咄嗟に伸ばした手が宙を舞い、ふたりはバランスを崩して長椅子に倒れた。
 緋色はその一瞬の隙をついて、瑞穂の耳元に囁く。
「なんだか本気になってきちゃった。でも瑞穂が綺麗だから仕方がないよね♪」
「ひ、緋色ったらぁ、んっ♪」

 結婚式を挙げる前の、甘い恋人同士の関係は今だけのもの。
 存分にこの時間を味わうのも悪くない。
 ――とりあえず、誰かがこの部屋にやって来るまでは。

 末永くお幸せに!


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0027 / 桜井・L・瑞穂 / 女 / 17 】
【 ja0640 / 帝神 緋色 / 男 / 16 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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またお二人のエピソードを書く機会を頂きまして、大変光栄です。
いつか本当の式を約束したお二人の予行演習、如何でしたでしょうか。
ドレスや小物などについては、こういうのがお似合いかなと思う物をかなり好きに書かせて頂きました。
お気に召しましたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
FlowerPCパーティノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年08月01日

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