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『この世で一番怖い物 』
亀山 淳紅ja2261)&青空・アルベールja0732)&小野友真ja6901


 秋の穏やかな日差しが、文化祭で賑わう学園に降り注いでいる日だった。
 出店のびっしり並ぶ通路を歩きながら、久遠ヶ原大学准教授のジュリアン・白川はチラシを手に眉をひそめる。
「何だねこの『対応力を鍛える施設』というのは。胡散臭いね」
 今年最高のお前が言うな発言に、背後に回った小野友真が元気いっぱい背中を押す。
「大丈夫ですって! センセのとこの教授より予算なんか絶対少ないですし、笑える程度ですって!」
「うん、でもヒーローとしては、やっぱり日々の努力も必要なのだ。だからこのチャンスを見逃す手はないのだ!」
 青空・アルベールも弾んだ声で続ける。
「なー!」
 友真は片手を上げ、青空とハイタッチ。息もぴったりのコンビである。
「でもなんか淳ちゃん、顔色悪いよーな……なんか体調悪い?」
「えっ?」
 びくっと身体を震わせた亀山 淳紅は、心なしか青ざめていた。
「や、そんなことないんやけど……なんやろね、ちょっと」
 ごめん、そっち行きたくない。
 でも、折角の楽しそうな雰囲気を壊したくない。
 虫の知らせとか、嫌な予感とか、そういう類の物を感じてはいたが、淳紅は敢えて笑って見せた。
「訓練って感じでちょっと緊張してるんやと思う。大丈夫、大丈夫」
「ならいいけど……無理はあかんで?」
 友真が心配そうに言った。

 運動場にもバンド演奏の舞台や体力系の演し物がひしめいていたが、一番奥のクラブハウスなどの陰になっている一角に、目的の施設があった。
「「うっ……」」
 友真と淳紅が同時に呻く。
 えらく雰囲気のある、日本家屋がそこにあった。
 格子状の玄関は硝子の嵌った木製の引き戸で、何処となく煤けている。力をかけると、妙に湿り気を帯びた重い感触。
「いらっしゃいませ〜」
 陰気くさいスタッフが出迎えた。
「4人でおねがいするのだー!」
 青空だけが元気いっぱいだ。
「早い話がお化け屋敷ではないのかね?」
 白川が苦笑いを浮かべた。
「せ、せ、先生は心霊どうですか怖いですか大丈夫ですか」
 友真がじりじりと白川との間の距離を詰める。
「うーん、どうだろうね。霊感は全くないと思うよ」
「あ、私もなのだ! 見てみたいんだけど、残念。でも見えないけどそこに居るって浪漫だと思うのだ!」
 目をキラキラさせた青空は実に楽しそうである。
「ああ、だが恨みを持っている存在というのは恐ろしい物だとは思うよ。心霊に限らずね」
 過去に何があったのか、一瞬遠い目をする白川。
「ですよねですよね怖いですよね、特に和風てなんか怖いですよね、怖いですから何なら手ぇ繋ぎます? ます!?」
 友真が縋りつくように白川の腕を掴んだ。
 そんな騒がしい一同の中、何とも言えない表情で淳紅が立ちつくしていた。



 薄暗い玄関には、竹林に虎の図案の大きな衝立が立っていた。
「あああのちょっとレトロな感じですけどなんかすごい迫力ですよねすごいですよね」
 入口の雰囲気でもう尻込みしている友真は、何故かセットを褒め称える。
 好意的なところを見せれば、相手が優しくしてくれるかもしれない……と、頭のどこかで思っていたのかもしれない。
「うん、雰囲気すごい! いかにも和風だな!」
 一方、青空はちょっと珍しいテーマパークのアトラクションに入ったような気分だ。
 物珍しそうに辺りを見回し、弾むような足取りで奥へと進んで行く。
「あのお邪魔しますけど靴とか脱がんで、ああいいんですかそうですか、でも何となく土足って失礼な気がするんやけど」
「おおー、なんか廊下がきしきしいうのだ! 良く出来てるのだ!!」
「それにしてもあの立派なお住まいですよねだからほんまごめんて! あ、ちょ、青ちゃん!!」
 慌てて青空を呼び止める友真。先に行かれては、怖い物を呼び出しかねない。
 いや奥へ行く以上、いつかは遭遇するモノかもしれないが、なるべくその時期は遅くしたい。……という、無駄な抵抗だ。
「亀山君もこういうのは好まないようだね」
「え?」
 相変わらず微妙なの淳紅に、白川が声をかけた。
 気がつけば淳紅の手は、友真の上着の裾をしっかりと握っている。
「あ、ええと……こういうの面白半分でやるのはちょっと、ですね……」
 淳紅は体質的に、霊感が鋭い方だった。
 それなりに慣れている分『在るもの』として達観しているし、その気になればある程度の物は祓えるが、マイナスの感情に接することはあまり気持ちの良い物ではない。
 なので普段はなるべく関わらないようにしているのだが、こういう場所は厄介な存在を呼び集めやすいのだ。
「まあ一通り回れば、皆も納得するだろう」
 白川が慰めるようにそう言った所で、青空が目の前の衾を元気良く開けた。
「一番目の部屋、とうちゃーく!」



 中は暗く良く見えないが、座敷のようだった。
「おおー、なんだか立派な部屋なのだ」
 青空は無防備に中に足を踏み入れる。
「青ちゃん、待ってt……あだっ!!」
「ぎゃんっ!?」
「おい、ちょっ……痛っ!?」
 友真が慌てて後を追うので、ひっぱられた白川と淳紅も引き摺られる。友真と淳紅が敷居に躓いて転び、白川が鴨居で頭を打ったような音が聞こえた。
「イテテ……なんなん、もう……」
 もぞもぞと友真が畳の上で起き上がろうとする。
 その瞬間、顔が強張った。何かが目の端で動いた気がしたのだ。
(何かがいるような気がするとか何か見える気がするとかいやいやいやいや俺は霊感とかないからないから)
 自分に言い聞かせつつ、恐ろしくてそちらが見られない。
 しかし視界の端にはずっと何かがちらついている。それは畳の隙間から漏れだす、青白い光。
「おおお……!!」
 青空が目を輝かせる。
 音もなく畳が開き、現れたのは骨の手。
「うおわぁぁあ!?」
 友真はそう叫んだつもりだった。だが誰の耳にもその叫びは聞こえなかった。驚き過ぎたので声が出ていないのだ。
 手は畳を掴み、暗い地下からずるり、と骸骨が……。
「いやああああああああ」
「あっ、ゆーま君!?」
 友真は予想外の反応速度で起き上がると、突然走り出す。友真の服の裾を強く握りしめていた淳紅は、咄嗟に手が離せずそのまま一緒に起き上がって走り出した。
 二人はそのままで隣の部屋へ。
「きゃははは、すごく面白い動きなのだー!」
 残された青空は、現れた骸骨のプライドをズタズタにする程うけていた。

 隣の部屋は、何故か座敷牢。
 飛び込んで来る友真と淳紅を待ち構えていたように、幾本ものやせ細った腕が伸びて来る。
「やーめーてーーーー」
 両手で耳を塞ぎながら走り出す友真。何故かしっかりと目は開いているのが謎だ。
「ゆーま君、ちょっと!?」
 気がつけば淳紅はひとり取り残されていた。
「あかん……これフラグや……」
 床に座り込み、拳を握る。
「ホラーでよくあるフラグ順当に踏んでいってるぅ……」
 まあこういう展開だと、次の部屋には逃げた仲間の無残な姿が……というのがお約束だが、流石に文化祭の出し物でそれはない。
 それが証拠に。
「おおお、ここもすごいのだー! 握手する? 握手する?」
 後に続いてきた青空の声が、雰囲気をぶち壊した。
「大丈夫かね亀山君。おや、小野君はどうしたね?」
「びっくりしすぎたんか、あっちに走ってってしまいました……」
 様子を窺うように黙り込むと、響くのは微かな物音。
 ……ぴちょん。
 ……ぴちょん。

 三人で固まって進むと、そこは台所のようだ。
「ゆーま君、大丈夫かー?」
 怖いもの知らずの青空が踏み込むと、足に何かが当たる。
「お?」
 屈みこんでよく見ると、ひっくり返っている友真の足だった。
「ちょ、ゆーま君、だいじょぶ!?」
「あ……あっち……」
 ひくひくしながら指さす先には、長い髪の女が佇んでいた。
 髪は長いというより長すぎる。顔が見えない。白っぽいワンピースらしき衣服はしとど濡れそぼり、その裾から滴る水が床に水溜まりを作っている。その音が部屋に響いているのだ。
「おねーさん何か言いたそうなのだ」
 青空が恐れる様子もなく近寄っていくと、女がゆっくりと片手を挙げ、隣の部屋を指さした。
「あっちだって! 行こう!」
 青空がようやく立ち上がった友真を引きずる様にして連れて行く。
「? どうした亀山君、様子がおかしいぞ」
「ふええ……寒い……めっさ寒いですぅ……」
 淳紅は歯の根が合わず、かたかたと震えている。
 何が怖いと言って、この状況にあって異常に楽しそうな青空君が一番怖い!



 踏み込んだ隣の部屋は、これまでより少し明るい広い部屋だった。
「あれ? ここって……」
 淳紅は不意に身体が軽くなるのを感じた。
 その目前に、何かが飛び出る。
「!!」
 身構える淳紅。
「淳紅、そこなにがいるのだ? だ?」
 青空が期待に満ちた声をあげるが、すぐに顔を引き締める。
「ああそっか、これ訓練だったな!」
 すぐさま光纏しショットガンを取り出した。
 現れたのは小さなコボルトの様なディアボロだった。たまたま紛れこんだものらしい。
「天魔なら怖くもなんともないんじゃい、ビビらせやがってボケェェエ!!!」
 これまでの恐怖に溜まりに溜まっていた鬱憤を叩きつけるように友真が叫ぶ。
「おらああああ、いったれやあああああ」
 火を噴く双銃。
「おー、ダブル殺撃ー!!」
『いくで、全力のユニゾンやー!!』
 淳紅がマイクを取り出し、声の衝撃派を叩きつける。
 訳のわからないテンションで放たれる全力攻撃に、コボルトはなす術もなく吹き飛んだ。

 パチパチパチ。
 白川が部屋の入口で拍手を送っていた。
「成程、ある意味こういう訓練も全力を引きだすのに役立つようだね」
「センセ、めっちゃ他人事やし……! ていうか、冗談ですよね? こんなの授業にしないですよね!?」
 友真が必死で訴える。
「まだ自分だけやなくて皆に見える分、天魔の方がこう、安心しますねぇ」
 淳紅が額の汗を拭い、大きく息をついた。
 どうやらこの先が出口らしい。
「楽しくって運動もできてよかったな!」
 青空は大きく伸びをする。心の底から楽しんだようだ。
「あ、友真君、白川先生!」
 突然、淳紅が目を凝らした。
 と、ポケットから取り出した何かを、友真と白川に叩きつける。
「ん?」
「え、何これ……待って何で塩。何で塩!!」
 肩についた白いものを、友真が慌てて払い落す。
「もう大丈夫やから、安心して!」
 にっこり笑う淳紅。友真が白川の腕に掴まりながら涙目になっている。
「なにが大丈夫なん!? なあ、何が!?」

「そういえば……」
 白川が何か思いついたような顔をする。
「さっきの台所、皆、出口の所で騒いでいたね。何か仕掛けでもあったのかね?」
「え?」
 三人が顔を見合わせる。
「いや、何かてほら、水が……水が……」
 嫌な予感に、単語そのものが引っかかった様に、友真が口をパクパクさせる。
「幽霊の格好した女の人がいたよね。その人がこっちが順路だって教えてくれたのだ」
 青空が何事もなかったように説明を続けた。
 淳紅も頷く。
「ん? ……そうだったかね? ああ、君!」
 白川は出口の所に居たスタッフに声をかけた。
「台所は水の効果音がしたが、何か仕掛けがあったのかね?」
「ああ、いえ。最初は女性の人形を置いてたんですけど、今朝入った人が蹴飛ばして壊しちゃって。今は音だけなんですよー」
 スタッフは笑いながらそう説明する。
「ほら、彼もそう言って……あれ? 小野君、亀山君?」
 二人の背中は物凄い勢いで、建物を遠ざかっていった。
「どうしたんだろうね?」
 首を傾げる白川に、青空が満足そうな笑顔を向けた。
「先生、今日も引率ありがとーございます! 色んな物が見られて、すっごく面白かったのだ!」

 ある意味、一番怖いのはやはり人間かもしれない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2261 / 亀山 淳紅 / 男 / 19 / よくみえます】
【ja0732 / 青空・アルベール / 男 / 18 / 超越ヒーロー】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 19 / 逆切れヒーロー】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 30 / 引率っぽい】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、文化祭の謎の出店でのエピソードです。
こういう物は見えない人と、見えても怖くない人が一番強い……のでしょうか?
お楽しみいただけましたら幸いです。
ご依頼有難うございました!
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エリュシオン
2014年12月11日

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