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『水のスルースキル 』
セレスティア3868)&エスメラルダ(NPCS005)


 男と女、どちらが恵まれているか。仕事をする上で、どちらが有利であるか。
 それについて議論をすると、非常に面倒な事になってしまう。触れてはならない問題である、とも言える。
 私はしかし元の世界にいた時にも、自分が女であれば良かったのに、と思った事はある。
 自分が太り気味の中年サラリーマンではなく、若くて可愛いOLであれば。接待相手に、こちらの思い通りの条件を飲ませる事が出来る。そう思った事は、1度や2度ではない。
 その願いが叶ってしまった、のであろうか。
「お待たせいたしましたぁ。海老の辛味噌炒めと幻の手羽先と人食い魚のクサヤになりまぁ〜す。お飲物は生ジョッキと吟醸ドワーフ殺し、でお間違えなかったでしょうかあ?」
 黄色い声を出しながら私は、運んで来たものをテーブルに置いた。
 その席を占領しているオークの一団が、いささか下品な歓声を上げる。
「おお〜来た来た。黒山羊亭に来たからにゃ、コイツをやらねえとなああ」
「臭え! おい誰だクサヤとか頼んだ奴ぁあ!」
「馬鹿てめえ、この腐った風味が酒に合うんじゃねえかよおおお」
「お姉ちゃんお姉ちゃん、これ持ち帰りも出来んの?」
 オークの1匹が、そんな事を訊いてくる。
 私は、にこやかに答えてやった。
「はい、御注文いただければお包みいたしますよぉ」
「そぉーかい、じゃお持ち帰りしちまおうかなああゲヘヘへヘ」
 別の1匹が、太い腕を回してくる。
「ああ包んでもらう必要はねえ、むしろ剥くからよォー」
「あん。もう、駄目ですよぉ。ここは、そういうお店じゃないんですからぁ」
 さりげなく、私はかわした。不健康な中年男であった時よりも、身軽に動ける。
 かつては不摂生丸出しであった腹部が、今は引っ込んで綺麗にくびれ、胸と尻の膨らみを強調している。
 劉備玄徳の「髀肉の嘆」そのままに弛んでいた太股は、今やスラリと引き締まりながらもムッチリと肉感を内包し、運動不足のサラリーマンであった時とは比べ物にならないほど軽やかな脚力を発揮してくれる。
 そんな身体に私は今、薄手のチャイナドレスのようなものを着せられていた。この店の、ウェイトレスの制服である。
 黒山羊亭のウェイトレス。セレスティア、24歳。それが今の私だ。
 ウェイトレスより、キャバ嬢に近い格好ではある。
 どちらにせよ、酔っ払って絡んで来る客は、機嫌を損ねないよう受け流すしかない。
「ここは、お酒とお料理を楽しむお店。気が向いたら、後でうちの店長が踊ってくれるかも知れませんよ? それも楽しみにしてて下さいねぇ」
「エスメラルダさんもイイけどよぉお姉ちゃん、俺ぁおめえの踊りも見てみてえなあ」
「うふふ、駄目駄目。私の踊りなんて、とても人様に見せられるものじゃないですから」
「んな事ぁねえ。おめえさんなら、脱いで適当に身体揺らしてるだけで金取れるぜえい」
「むむむ胸とかケツとかぷるんプルンぷるんってよォー、たったまんねぇー」
 元の世界では私も、いろいろな店で酔っ払っては、このような世迷い言を吐いていたかも知れない。
「勘弁して下さいよぉ。そんな踊りをお客さんに見せたら私、店長にシメられちゃいます。お客さんたちも、あんまり店長を怒らせないように、節度を持って馬鹿騒ぎをして下さいね。じゃ。ごゆっくりどうぞ〜」
 それだけを言って、私はその場を離れた。
 カウンター近くで、店長が声をかけてくる。
「酔っ払いのあしらい方、お上手ねえ……とても新人さんとは思えないわ」
「私もまあ、たちの良くない酔っ払いでしたから」
 エスメラルダ。黒山羊亭の、専属の踊り子にして女店長。
 この女性の下で、私はしばらく働く事となった。
 理由は不明だ。あの王女様がそうしろと言うのだから、仕方がない。
 王女は現在、外出禁止である。先日の襲撃事件が、国王の耳に入ってしまったのだ。
 それなら私も王宮から出ず、王女の護衛を務めるべきと思うのだが、その王女の命令で今、慣れぬ接客のアルバイトをしているところである。
「私は姫様から、貴女に『女らしさ』をきっちり仕込むよう仰せつかっているのよ」
「はあ、女らしさですか。外見通りの淑女になれと、そういう事ですね」
 今の私が、美しき淑女の皮を被った中年男であるという事実は、認めなければならない。
「だけど、その……女らしさって、飲み屋で働いてると身に付くものなんですか? 店長の女子力がすこぶる高いのは、認めますけど」
「接客はね、手っ取り早く女らしさを獲得するのに一番適した仕事なのよ」
「なかなかの問題発言ですね、それは」
 男に愛想を振りまくのが女の仕事である、と言っているようなものだ。
 私の元いた世界でこんな発言をしたら、即日炎上、間違い無しである。
 楽しげに品悪く酔っ払っているオークたちを観察しながら、エスメラルダ店長は言った。
「酔っ払いでも素面でも、男っていうのはね、調子に乗ってるところを適当にいなして受け流すのが一番いいのよ。貴女がやってみせたようにね」
「はあ……耳の痛い、お話です」
 私は頭を掻いた。
 いなして受け流し、事を荒立てずに済ませる。それが女としての世渡りの手段なのだ。
 などと断言してしまっては、私の元いた世界では大いに叩かれる。
 しかし、例えば先程のオークたちのような輩を、男らしく叩きのめすよりは、事は面倒にならずに済む。
 今の私は水操師だ。無礼な酔客を、死なぬ程度の酷い目に遭わせる事は容易い。
 そんな事をしたらしかし、その客は2度と、この店には来てくれなくなる。
 客離れを引き起こすような行いは、慎むべきであった。それは、サラリーマンであろうとウェイトレスであろうと同様である。
 腹立たしい事があろうと、それを隠し通す。腹立たしい物事の原因を、上手く受け流す。
 猫を被る、という言い方も出来ようか。
 商売をする上で、重要な手段の1つだ。それは、男であろうと女であろうと違いはない。
 相手に逆らわず、適当に受け流す。まさに水の如く。
 その心のありようを見失うまいとする事は、もしかしたら水操師としての術式技量の向上に、多少は役立つのかも知れない。
 何しろ水操師である。修業鍛錬と言っても何をすれば良いのか、皆目見当がつかない。水垢離や水泳でも、やれば良いのであろうか。
 あるいはゲームと同様、殺し合いの実戦を重ねて経験値を得るしかないのであろうか。
「お店の仕事は、ほとんど完璧に覚えてくれたわね。接客も問題無し」
 エスメラルダが、私を誉めてくれた、のであろうか。
「となれば……いよいよ踊りを覚えてもらうしかないわね。私も、いつまで踊っていられるかわからないし」
「勘弁して下さいよ。店長、ずっと現役でいいじゃないですか」
「ああ大丈夫、心配しないで。裸で胸やお尻を揺らすような踊りを、教えるつもりはないから」
 教えようと思えば教えられるのか。自分でやろうと思えば、出来るのであろうか。この店長は。
 などと私は、全く思わない事もなかった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2015年04月13日

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