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『茶話小景。〜君との、想い 』
玖堂 柚李葉(ia0859)&玖堂 羽郁(ia0862)

 長い冬の季節を終えて、春へと向かいつつある今日この頃は、何とはなしにそぞろ歩く人の姿も少なくない。まだ空気は冷たいけれども、降り注ぐ日差しに確かな温もりが宿り、草木も若芽や蕾を萌え出す準備を始めている――そんな季節。
 故にのどかなそぞろ歩きを楽しむ人と、そうではない人の波で賑わう街角を、玖堂 羽郁(ia0862)と玖堂 柚李葉(ia0859)は歩いていた。のんびりと――端から見れば仲の良い恋人達のように。
 夫婦となって2年目を迎えた2人だけれども、まだまだ甘い雰囲気は健在だ。まして今日は羽郁の里での政務もお休みで、面倒な護衛も全部置いてきて夫婦水入らずだからか尚更、2人きりという気持ちが強い。
 知らず、恋人同士だった頃の気持ちに戻って行くのを感じながら、羽郁は傍らを歩く柚李葉へと声をかけた。

「久しぶりだな」
「うん」

 その言葉にこくりと頷きながら柚李葉は、向かう先へと眼差しを向けて、微笑むように目を細める。この先にある、懐かしい想いでの場所へと想いを、馳せる。
 ホワイトデーのデートに選んだ、2人でも恋人時代に行ったことのある甘味屋さんが、その場所だ。幼い頃にも偶然に足を踏み入れたことのある、懐かしいお店。
 ほわりと、蘇ってきた恋人時代の気持ちに胸が満たされて、くすぐったい気持ちを抑えるように胸元のストールに手を添える。コサージュで留めたそれは、身につけた白いニットとよく馴染んで、映えていた。
 それも何だかくすぐったくて、チェックのスカートを揺らして歩く柚李葉の、揺れる髪を彩る梅の髪飾りを羽郁は眩しく見つめる。そんな羽郁はといえば柚李葉とは対照的に、ざっくりと編んだ黒のニットセーターに白いパンツ、黒の革靴と言った出で立ち。
 けれどもこれだけは2人変わらぬ、左の薬指に光る結婚指輪が光る。何とはなしにそれを確認して、柚李葉は幸せに微笑み夫の腕を取る手に気持ち、力を込めた。
 恋人だった頃とは違うのは、2人の指輪だけじゃない。こんな風にあの頃と同じように、けれどもあの頃よりもずっと近く、深く寄り添うことが出来るのも――それにこの上ない幸せを感じられるのも、あの頃とは確かに変わったこと。
 それを噛みしめて、幸せそうに微笑む柚李葉に愛おしさを感じ、羽郁は彼女の手に手を添える。そうしてエスコートするように、お茶屋さんへの道のりを2人並んで、のんびりと歩くのだった。





 そこは小さなお茶屋さんだ。お品書きに書かれているメニューは決して多くはない。けれどもお願いすれば、叶う限りの希望のメニューを揃えてくれる。
 佇まいは閑静で落ち着いているけれども、決して古臭いというわけではなくどこか、小洒落ているようにも感じられた。そんなお茶屋さんの店先に下がる、程々に色味の抜けた良い風合いを醸す暖簾は、かすかな風に揺れている。
 それをひょいとくぐり抜けて、店内へと足を踏み入れた柚李葉と羽郁を振り返ったのは、お店のお仕着せらしい着物を着た2人の店員だった。妙齢の女性と、それよりは少し若い雰囲気の男性――以前に訪れた時とも、それよりもずっと前の幼い少女の頃に訪れた時とも、ほとんど変わった印象のない人たち。
 それを見て取って柚李葉は、‥‥なんだかほっと、した。もちろん驚きもしたけれども、それ以上に何となくこの人達は、このお茶屋さんはあまり変わっていないような、そんな気がしていたのだ。
 だからほっとしたようにはにかむ柚李葉の横に立つ、羽郁はと言えばやはり軽く驚きながらも、年齢不詳を地で行く自らの父を思えばさほど不思議でもない気がして居たのだけれども。――もっとも、あの父のような人間がそう何人も、存在していて欲しくもない気がするが。
 そんな2人の姿をまた、店員の方も覚えていたようだった。愛想の良い笑顔がふと何かを思い出すように止まり、それから不意に親しみの籠もった笑みへと変わる。
 そうして口調もどこか親しげに、柔らかに女性が2人に声をかけた。

「いらっしゃい。今日はデートかしら?」
「いえ、あの‥‥私、結婚したんです‥‥」
「あら」

 そんな女性の言葉に、おずおず、それからドキドキ柚李葉はそう報告する。ぎゅっと、羽郁の手を握って勇気をもらう。
 その柚李葉と、それからぎゅっと手を握り返した羽郁がひらりと見せた左薬指に、あら、と女性はもう1度、驚いたように目を丸くした。眼差しが『本当に?』と尋ねてくるのに、羽郁はしっかりと頷き返す。
 それに女性は――否、後ろで聞いていないと言う風情で帳面の整理をしていた男性も一緒に、とても嬉しそうに微笑んだ。しっかりと2人を見つめて、そうだったの、とまるで自分のことのように大きく頷く。

「良かったこと。それじゃあ、せっかくだからお祝いさせてくれるかしら。今日は何でも好きな物を召し上がって下さいな」
「いえ、それは――」
「せっかくのおめでたい知らせですもの」

 ねぇ? と振り返った女性が同意を求めるのに、男性が穏やかに微笑んで首肯する。それから小さく片目をつぶって、店主が作れるものだけですが、と茶目っ気たっぷりに言い添えた。
 それに羽郁と柚李葉は、どうしよう? と顔を見合わせる。そうして迷う間にも、女性は『おしながき』と流暢な筆致で書かれたメニューを胸に抱いて、お席にご案内しますね、と歩き始めてしまった。
 もしかしたら何度もこうやって、色々なお客様をお祝いしてきたのだろうか。ならば固辞するのは逆に申し訳ないだろうから、また別の機会に別の形で返すのが良いだろう。
 堂々とした風情の女性の背中を慌てて追いながら、そんな風に考えあれこれと算段を練る、羽郁の傍らで柚李葉もまた女性の背中を見つめ、ほっ、と胸を撫で下ろした。この人に――この人達に報告出来て、良かったと思う。
 案内されたのはいつかと同じ、中庭が綺麗に見える向かい合わせの席だった。おしながきを机に置きながら、お決まりですかと尋ねる女性に告げるのは、そこには書かれていない品。

「えぇと‥‥桜と抹茶のクリーム餡蜜を」
「俺は蕎麦粉のクレープでお願いします。抹茶入白玉と漉餡を添えて」
「畏まりました。それでは、ごゆっくり」

 注文ににっこりと頷いて、おしながきはそのままに女性が静かに戻っていく。それを何となく見送って、羽郁と柚李葉は何度目かに顔を見合わせると、ふふ、とくすぐったい笑いを澪した。
 落ち着いた雰囲気のお茶屋さんは、それなりに人も居るのだけれども不思議と、周りの声は気にならない。中庭に揺れる花を眺めながら見るとはなしにお品書きをめくれば、やはり昔ながらの変わらぬ品揃え。
 それに何だかほっとして、柔らかな息を吐く柚李葉を見つめて羽郁は、微笑みのんびりとした気持ちになる。そう考えていたら、どうやら同じことを考えていたらしい柚李葉がにこ、と嬉しそうに微笑んだ。

「今日は仕事を休んで大丈夫だったの?」
「ああ。警護の方はいつもって訳じゃないし」

 そうして少し首を傾げて尋ねた彼女に、尋ねられた羽郁は内心で少し心配を覚えながらもそう説明する。里の警護を担当している、というのは柚李葉に告げている表の仕事なのだけれども。
 裏では里の中での粛清だとか、色々と後ろ暗い仕事もしていなくは、ない。その理由は羽郁にとっては大切な譲れないものだとはいえ、きっと柚李葉が知ったら悲しむだろうと思うから。
 ばれては居ないだろうかと、いつもしている心配を今もつい浮かべてしまう羽郁を見て、柚李葉がきょとんと目を丸くした。だが触れてはいけない部分なのだろうと、少し逸らした視線の先に、注文の甘味をお盆に乗せた女性がやって来るのが見える。
 もちろんおしながきには載っていないそれは、けれども最初からちゃぁんと用意してあったかのように、他店のそれと比べていささかも遜色はない。お待たせしました、と女性が器を卓においたら、柔らかな春の彩りがぱっと咲く。
 わ、と2人の口から感嘆の声が漏れたのに、女性が嬉しそうに微笑んだ。それににっこり礼を言って、2人同時に匙を取る。
 掬うのがもったいないような気持ちと、早く味わいたい気持ち。そっと匙を差し入れて、ゆっくりと確かめるように口に運ぶと、甘い春の味がいっぱいに広がって、同時に胸の中にもいっぱいに柔らかな気持ちが広がっていく。
 一匙、一匙、ていねいに掬っては口に運んでは、春の味を心行くまで味わって。そうだ、と羽郁がその手を止めて、悪戯を思いついた子供のように小さく笑った。
 内緒話をするように、ぐっと卓の上に身を乗り出して愛妻の顔に顔を近づけ、囁く。

「……な。柚李葉はいつ頃から俺を好きになってくれたんだ?」
「え……?」

 耳元に息のかかるような距離で紡がれた、低い声と甘えるような表情に、柚李葉の胸が一瞬、大きく高鳴った。一体何を聞かれたのか、咄嗟に理解が出来ない。
 ええと、と胸を知らず抑えながら、言われた言葉の意味を考える。

(いつから……)

 羽郁を好きになったのか。いつ、と明確な時期を考えるとちょっと、柚李葉は困ってしまう。
 けれども、いつから意識をし始めたのかと聞かれたら、それはきっとあの時だ。

「精霊に歌舞を捧げてくれて、私に駆け寄ってくれた時……」

 告白されてはいたけれども、あの時の柚李葉にはまだそれを受け止める勇気はなかった。けれどもあの歌を聞き、舞を見て――駆け寄ってきてくれる姿を見て柚李葉は、ちゃんと向き合おうと決めたのだ。
 最初はほんの一歩だけ。けれども、確かな一歩をその瞬間。
 それから少しずつ、少しずつ柚李葉は自分なりに、いつも真っ直ぐに自分を想ってくれる羽郁と向き合ってきた。進もうと、頑張った。
 だから――きっとその時からだったのだと、聞いて羽郁は嬉しそうな笑顔になる。友達以上で恋人未満、中途半端で居心地よくてどこか物足りない関係から、一歩踏み出すための舞を踏んだ日の事は、彼も良く憶えていた。

 月影浴びて囁くは
 糸(愛)し糸(愛)しと言ふ心
 湧立つ我が心の想泉は
 汲むとも汲むとも
 尽きもせじ尽きもせじ‥‥

 朗々と謡い上げた想いは今も変わらず、むしろいっそう深くこの胸に湧き出でてくる。今この瞬間もなお、彼女への想いは深まる一方だ。
 だから羽郁は嬉しそうに微笑んで、寄せた頬にそのまま掠めるようにキスをした。わ、と真っ赤になった柚李葉に悪戯が成功した子供のように、けれども大人の艶やかさでくすりと笑い、それ、とすっかり匙を握る手が止まったままの柚李葉の餡蜜を指さす。

「俺にも一口欲しいな」
「え……え……?」

 『あーん』と口を開けてみせた羽郁に、頷きながらも柚李葉は少し戸惑う。いつもなら……そう、いつもなら恋人にお約束の『あーん』だって余裕で出来るはず、なのだ、けど。
 恋人の気持ちが蘇っている今は、どことはなしに気恥ずかしい。その上、頬にキスをされた後の不意打ちだなんて。
 故に、困らなくても良いはずなのに困ってしまいながら柚李葉は、何とかぎくしゃくと匙を動かし、『あーん』することに成功した。ん、と嬉しそうに柚李葉の匙を含んだ羽郁が、こっちも美味しい、と笑う。
 それから羽郁はにっこり笑って、自らの匙をはい、と柚李葉の前に差し出した。

「じゃあお返し、な? あーん」
「……ッ!」

 そうして当たり前のように告げられた言葉に、柚李葉が応えるまでにはもう少し、時間が必要なようである。





 それから、色々な話をした。2人で過ごしてきた日々は存外に長くて、様々な出来事があって――思い返せば返すほど、そういえばあんなこともあった、こんなこともあった、と話題は尽きなかったから。
 初めて会った時の事。羽郁が一目惚れした、その瞬間。友達として過ごした日々。やがて恋人になって、互いの家を初めて訪れた時の事――
 夫婦となった今は家で幾らでも話が出来るけれども、改めて思い出を振り返る機会というのはあまりない。まして懐かしい場所でとなれば、思い出話にも花が咲く。
 気付けば頼んだ甘味はすっかり食べ終えて、気付いた店員の男性が運んで来てくれた熱いお茶も空になった。それでもまだ話題は尽きなかったけれども、そろそろ帰らなければ里に着くのが夜中になってしまう。
 どちらからともなくそう言って、名残惜しく席を立った。そうして店の外へと向かいながら、そうそう、と柚李葉が羽郁を振り返る。

「お義父様やお義姉さん達と、あとお養母さん達にお土産を買わなくちゃ。――帰りに寄って届けても良い?」
「ああ、もちろん」

 その言葉に羽郁も家族達の顔を思い浮かべ、快く頷いた。誰も彼も、羽郁達がデートでこのお茶屋さんに行ったと知れば、土産の1つも渡さない事には拗ねられたり、怒られたりしそうな相手ばかりだ。
 だからお土産には桜餅を包んで貰って、これもサービスしようとする女性たちに『これはお土産の分ですから』と丁重に断ってお代を払う。そうして2人の店員に、またいらしてくださいね、と気持ちよく送り出されて。
 柚李葉、と羽郁が妻の名を呼んだ。

「……? なぁに?」

 きょとん、と振り返った柚李葉に手を差し出して、そのまま力強く抱き寄せる。わわ、と驚きはしたものの大人しく腕の中に納まってくれる彼女を、込み上げてくる愛おしさのままに抱き締めて。
 くい、と彼女の顎を持ち上げる。

「――愛してる」

 そう、囁くと同時に愛らしい唇へと落としたのは、触れるよりもなお深い口付け。ほんの一瞬に過ぎないそれは、けれども確かに深く柚李葉へと刻まれる。
 瞬間、柚李葉の目が大きく見開かれた。けれども事態を把握しようとした頃にはすでに羽郁の顔は離れていて、嬉しそうな笑顔がこちらを見下ろしていて。

「……甘いな」
「……ッ!」

 何が、と言われなくとも解ってしまって、柚李葉はこれ以上なく赤くなる。往来だとか、もしかしたらまだ店の中から店員さん達が見てるかもとか、色んな言葉が頭の中を駆け巡って。
 あ、と小さく呟く。不意に恥ずかしさを、忘れる。
 思い出したその出来事を、ん? と不思議そうな顔になった羽郁へと、告げた。

「前に此処に来た時‥‥『柚李葉』を家に呼びたいって……帰りにぎゅっとしてくれた、よね‥‥」
「‥‥あぁ」

 今の、目眩のするような幸せの日々の、始まりの1つだった出来事を羽郁も、もちろんちゃんと覚えている。だからしっかりと頷いた、夫に妻は嬉しそうに微笑んだ。
 ね、と耳元に口を近づけ、囁き声でおねだりする。

「羽郁。あの時と同じ様に‥‥沢山名前を呼んで? 私も、心を込めて沢山呼ぶから‥‥」
「もちろん。何度だって呼ぶよ、柚李葉……」

 ずっと。この命の続く限り永遠に、最後の瞬間まできっと、彼女の名前を呼ぶ。彼の名を、胸に刻み続ける。
 それは誓いのような約束。約束のような誓い。
 互いの名前をただ呼び合って、2人は静かに、幸せに抱き合ったのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━‥・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名   / 性別 / 年齢 / 職 業  】
 ia0859  / 玖堂 柚李葉 / 女  / 20  /  巫女
 ia0862  / 玖堂 羽郁 / 男  / 22  / サムライ

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

お嬢様と息子さんの、恋人気分なデートの物語、如何でしたでしょうか。
頑張って甘々な感じで盛ってみました、当社比で言えば150%くらいの糖度な気がします(何
ちなみに息子さんのご発注文に、する方とされる方とどっちだろう、と悩んだ結果がこんな感じになりました。
いえ、どちらでも息子さんならおやりになりそうだな、とか(目を逸らす

お二人のイメージ通りの、懐かしく思い出を振り返るノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
MVパーティノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年04月20日

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