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『ホモじゃないからセーフだもん 』
ガラーク・ジラントka2176)&小村 倖祢ka3892

 自由都市同盟、某日――

「結婚式場パンフレットのモデル、か」
 とある看板の前、ガラーク・ジラント(ka2176)は「ふむ」と考え込んだ様子だった。

『バイト大募集! 結婚式場パンフレットのモデルとして撮影されて頂くだけの簡単なお仕事です』

 ポップな字体で謳われた看板。ガラークはまるで作戦図に目を通す軍人の如き眼差しでそれを凝視していた。尤も、本当に彼は元ではあるが軍人だったのだが。
(パンフレットモデルになれば、捜索中の妹の目に止まるかもしれない……)
 ガラークは地球にいた頃は軍属工作員だった。どんな役でも自然に演じきる自信がある。任務への忠実さなら彼の右に出る者はいなかった。
(そういえば……、妹は男同士が並んだ写真をよく見ていたような気がする)
 ならば。彼の脳裏に浮かんだのは、知り合いの少年。妹探しを快く手伝ってくれる良い子だ。
(彼に協力を乞うてみるとしよう。あの体格なら新婦役に推薦しても大丈夫だろう)
 そうと決まれば、いざ行動開始。タイムイズマネー、時間は無駄にはできない。


 ――ちなみに、ガラークは薔薇だとか801だとか腐だとかを全く知らない男であった。


「バイト? するする!」
 ガラークと知り合いの少年――小村 倖祢(ka3892)は二つ返事で了承した。
 倖祢とガラークはブックカフェで知り合った顔見知りだ。たまにハンターオフィスで共に依頼を受ける仲である。
「丁度、サイフの中身が寂しくなってたんだよねー」
 倖祢は割と「お金の為ならなんでもする」タイプである。写真を取られるだけでお金が貰えるなんて、なんて美味い話なんだ。

 と思っていた時期が倖祢にもありました。

「ってなんで俺が新婦役なわけ!?」
 到着したフォトスタジオ。フィッティングルーム。倖祢の姿は……リボンが可愛いウェディングドレス。可愛らしくメイク済み。ゆるふわロングヘアのウィッグも装備。
 お似合いですよー、と女性スタッフの笑顔に彼は「いやいやいやいや」と両手を振る。
「俺男だよね? これ女装だよね!? おかしいよね!? なんで俺が女装なんてしなきゃならないんだ!!?」
「大丈夫だ小村、どこからどう見ても女に見える。何も問題はない」
 真顔で倖祢をまじまじ見つめたガラークがウムと頷く。
「いや問題しかないからねこれ! ちょっ、俺も新郎役じゃだめなの!?」
「俺達は結婚式場パンフレットのモデルだ。新郎二人では似つかわしくないだろう」
「そっ……れは確かに、そうだけどさ、そうだけどさぁ……」
 煮え切らない表情の倖祢。「脚がスースーする」とボヤいている。
(やはり俺の予想は間違っていなかったようだ。小村少年ならば新婦衣装でもまるで違和感がない)
 一方のガラークは新郎姿だ。やや小柄ではあるものの倖祢の方が背が低いので問題はないし、軍人として鍛えられたしなやかな体躯は新郎衣装を完璧に着こなしていた。
 それでは撮影の方に参りましょうかー、と笑顔のスタッフ。


 ――ちなみに、スタッフはガチホモ(好きの女子)だった。


 つまりは、まぁ、そういうことである。お察し下さい。
「ガラークさん小村さん、もう少し近付いて下さーい」
 先ずは並んだ姿の撮影。なのだが。曰く「もっと二人の親密さをアピールする感じで」とのことらしい。
「ええー!?」
 十分近いのに、これ以上近付けと申すか。たじろぐ倖祢であったが、
「承知した」
 ガラークは一切躊躇せず。まごつく倖祢の細い腰に手を回すや、ぐいと引き寄せた。
「わっ…… ちょ、ガラークさん」
 密着。想定外の距離に倖祢はどぎまぎしながらガラークの顔を見上げた。少し童顔寄りではあるものの、彼の凛とした男らしいかんばせが10cm圏内にある。ガラークは指示通りのイケメンになりきっているので凄いキメ顔だ。
「なんだ? カメラはあっちだぞ、小村」
 寸の間だけ送られた琥珀色の眼差し。綺麗な色だなぁ、睫長いなぁ……なんて倖祢は思って、ハッとして。
「また小村って呼ぶ……」
 倖祢がガラークから逃げるように視線を逸らした理由は、本人にも分からない。そして尖らせた唇が紡いだのはそんな言葉だった。最近、倖祢はガラークから「小村」と呼ばれることに不服感を覚えている。なぜかは、知らない。
「何か問題でも?」
「問題というかなんというか……」
 もごもごとした言葉の終わりはシャッター音に掻き消される。ホクホク顔のスタッフが笑顔で新たな指示を飛ばしてきた。
「はいありがとうございまーす。では次はガラークさん、小村さんをお姫様抱っこして頂けますか?」
「承知した」
 即答だった。倖祢が何かリアクションをする前に、ガラークの両手が少年の華奢な身体を抱き上げる。
「軽いな。ちゃんと食事しているのか? ……そうだ、バイト代を受け取ったら食事に行くか」
「アッハイ……」
 この人サラッと俺のことお姫様抱っこしたよ。とか、やったご飯だー! とか、色んな感情が混じって倖祢はなんとも言えない返事しかできなかった。
「小村さーん、もっと笑顔お願いしますー。ガラークさんの首に両手回して頂いてよろしいですか?」
 そしてスタッフの容赦のない注文。
「こ……こう?」
「いいですねー! もうちょっと、ガラークさんに寄り添う感じ貰えますかー?」
「えと……こう?」
「あー! いいですねー! いいですねとても! ナイスでーす!」
 ばしゃばしゃばしゃばしゃ。凄まじい連写。
「では次はキス寸前な感じで抱き合って顔を寄せて下さい」

 おかしい、おかしいぞこの撮影会。

 先ずは倖祢がそんな違和感を感じ始めた。
 だが次第にガラークも「これって本当に結婚式場パンフレット用の写真なんだろうか」と思い始めた。
 なんというか、スタッフの息の荒さと連写スピードと共に、注文のハードルがやばいことになっている。

「小村さんは片方の靴を脱いで下さい。シンデレラってイメージで。ではガラークさん、傅いて小村さんの足の甲にキスして下さい」
「じゃあ次は壁ドンしてみましょうかー、最近流行りですからね! ガラークさんはちょっとSっぽいイメージでお願いしま〜す」
「うーん、折角ですし色々衣装も変えてみましょうかー。ここにミニスカドレスがあるんですけど――」
「いいですねー! じゃあガラークさん、小村さんを押し倒してみましょうかー」

(何か、何かおかしい気もする)
 真っ白いベッドに横たわる、ミニスカドレスの真っ白い花嫁。それを見下ろしながらガラークは思った。「まぁいいか」と。
 一方の倖祢は一週回って慣れてきて(というかヤケ)、最早ノリノリの域に達していた。彼から「俺はここはもっとこうした方がいいと思う」と言い出す始末である。
 何度目かのゼロ距離。互いの体温が伝わり、鼓動も伝わってしまいそうな距離。
 ぎしり。軋むベッド。白いドレスの下には、まだあどけなさと無垢さを残した少年の薄い身体。それを抱きしめるのは、大人の男の逞しい腕。力が篭れば、グロスに塗れた薄紅の唇が「ふ、」と小さく息を漏らした。
「痛かったか?」
「あ、いやただ息吐いただけ」
 答えながら、「なんだろう」と――ガラークに身を預けながら、倖祢は思った。
(ガラークが近寄るとドキドキするし、クラクラする)

 もしやこれは――

(いや、風邪だな)







 撮影が終わったのはすっかり太陽が沈んでからだった。
 結局、採用された写真は無難なもので。他の写真は――遠い目をした二人の手によって、闇に葬り去られることとなった。
 もうお婿にいけないかもしれない。口に出さずも同じ思いを秘めた二人の男は、バイト代を握り締めて手近な居酒屋へ打ち上げに向かう。
「ごはんが美味しいね……」
「美味しいな……」
 もぐもぐ。遠い目をしたまま、言葉少なにカラアゲを食む二人。「今日は大変だったね」といった会話は一切ない。思い出したくない、という二人の気持ちが一つになっていた。
「……」
「……」
 口は言葉を吐く代わりに、黙々と食事をし続ける。倖祢はひたすら食べ続け、ガラークはひたすら酒を飲み続ける。二人のメンタルは満身創痍だった。


 そして、沈黙のまま男達の夜は更けていった――……。


「……む」
 ちゅんちゅん、遠くの方で鳥の囀りが聞こえてきた。
 ガラークは重たげに目蓋を開ける。カーテンから差し込む爽やかな光が、彼に朝を告げていた。
「朝……か」
 ムクリと起き上がる。昨日は随分飲みすぎた。頭が重いし、どうやって家に帰ってきたか覚えていないし――それどころか、昨日、居酒屋から出た記憶すら曖昧で。というかここは自分の家だろうか。……大丈夫だ自分の家だった。安心した。
(やれやれ……昨日は散々な一日だったな)
 取り敢えず、水でも飲もう。ガラークは上体を起こした。身体が鉛になったようなだるい感覚。溜息一つ。ここまで酒を飲みすぎたのは久々だった。
 ところで……。
(なぜ、俺は服を脱いだままなのだろうか)
 そして……。
(なぜ、隣に小村少年が寝ているのだろうか)
 更に……。
(なぜ、小村少年まで服を脱いだままなのだろうか)

 これは夢だろうか。
 いいえ現実です。

「………………」
 ガラークは光が失せた遠い目をして、ただただカーテンから差し込む日差しを眺めていた。
 聞こえてくるのは平和な鳥の囀りと、すやすや穏やかな倖祢の寝息。

 どうしてこうなった。
 なにがどうなった。
 やってない。俺は何もやってない。何がとは言わないが。何もなかった。そう、ここでは何もおきなかった。いいね?

「……」
 そしてガラークは考えるのをやめた。
 取り敢えず、服、着よう。うん。そして、少年が起きたら、何か都合のいい言い訳をしよう、そうしよう。



 ――拝啓、どこかにいる妹へ。兄は元気です。たぶん。




『了』




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>登場人物一覧
ガラーク・ジラント(ka2176)
小村 倖祢(ka3892)
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2015年07月23日

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