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『彼方から彼方へ 』
染井 義乃aa0053)&シュヴェルトaa0053hero001

 染井 義乃(aa0053)は、中学校の昇降口から急いで出た。
 今日の天気予報は雨、それを裏付けるような空の色……義乃はうっかり折り畳み傘を持ってくるのを忘れてしまったのだ。
 母親は外出しており、迎えに来るということは出来ないばかりか、親子だけあるのかうっかりしたらしく、洗濯物を干して出てきてしまったとメールが届いていた。
(早く帰らないと……)
 メールを受け取った携帯電話を握り締め、義乃は家路を急ぐ。
 近道をすれば多分間に合うだろう、と義乃は裏道へ入った。
 人通りが少ない道である為、夜1人歩きするには勇気が要る道だが、今は中学生の自分が下校するような時間……人通りが少なくとも大声を上げれば誰かが気づく。
 世界蝕以後、非日常は案外身近に迫っているのだが、義乃は今まで身近でなかったこともあり、そうした意識であった。

 だから、裏道を走って、その光景に出くわしたのには驚くしかなかったのだ。

 目の前に、実体のない青年がぼろぼろの姿で奥にいるソレと対峙している。
 一見すると、青年と同じ位の年齢の女性だが、よく見ると、その全身には蜥蜴のような鱗が走っており、腕の一部がブレードのようである。……愚神であるというのは、説明されずとも判った。
 世界蝕。
 それは、決して他人事ではなかった。
 だが、実感している暇などない。
 青年は剣を支えにして立っているのがやっとで、満身創痍と言っていい出で立ちだ。
「大丈夫ですか?」
 義乃が青年を逃さなければと声を掛ける。
 この世界に来た英雄は実体もない存在……このままでは殺される。
 助けられるなら助けたい。
 その一心しかなかった。
「……誰かは知らんが……」
 青年は義乃に顔を向けることもしない。
 その眼は折れぬ意志そのままに愚神へ向けられている。
「戦っている以上どちらかがこうなるのは当たり前。口出しするな」
 それは、明確な拒否だ。
 この青年がどういう人なのか、義乃には分からない。
 学校の授業で習う、戦国時代のお侍さんのように切腹なんて概念で生きている人なのかもしれない。
 だが、ここは戦国時代ではない。この青年がいた世界でもない。
 ここは、義乃が生きる現代日本である。
「私も断ります」
 義乃は青年の明確な拒否を拒否した。
 実体がなくとも、この世界に来たばかりの名も知らぬ英雄だとしても、この光景を見捨てられる程割り切れる性格をした人間ではない。
 殺されるのが分かっている人を見捨てて逃げたくなんかない。
「あら、この世界のただのお嬢さんの助力を得るのかしら」
 やり取りを見ていた愚神は面白そうに喉を鳴らす。
 けれど、義乃は青年を背中の後ろへ庇うように前へ出た。
 青年の息を呑む音が耳に届く。
 義乃だって、怖くないと言えば嘘になる。
 だけど、逃げたら、この愚神に自分が大事にしている部分で負けることになる。
 それだけは、嫌。
「私は、あなたを護りたい」
 明確な拒否を行う、たったひとつの理由。
 それが、義乃を突き動かす絶対の言葉。
「無知なお嬢さん、あなたは私に傷をつけることなんて出来ないわよ? だって、あなたはただの人間ですもの」
「それはどうだろうな」
 愚神の嘲笑を青年が静かに遮った。
 青年が義乃の隣へやってくる。
「名前は?」
「染井 義乃。……あなたは?」
「シュヴェルト(aa0053hero001) だ。義乃と言ったな?」
 シュヴェルトと名乗った青年は、義乃を認識するようにそう言った。
 その掌が義乃へ向けられる。

 ならば、やってみろ。

 義乃がその掌に掌を重ねようとした瞬間。
「お嬢さん、あなたそれでいいのかしら? 誓約したら、それと魂が一体化……あなたの素敵で平凡な毎日は終わるわよ? 今見なかったことにすれば、私はあなたを追わないけれど?」
 愚神が義乃へ甘言を放つ。
 義乃は、キッと睨んだ。
「見たかったことにするのは、私じゃない。……素敵で平凡な毎日は、私自身が護る」
 驚いた表情をしているシュヴェルトへ向き直り、義乃はその掌を彼の掌と重ね合わせた。

 誰かを護る。

 両者から紡がれるのは、誓約の言葉、同意。

 誓約は、成った。

 シュヴェルトの身体が実体を伴ってこの地に降り立つ。
 義乃の手の中には桜の花弁のような翅を持つ紫の蝶の形をした宝石───幻想蝶がその時を待つように輝いている。
 言葉は、要らない。
 義乃とシュヴェルトは迫り来る愚神を無視し、幻想蝶に触れ合う。
 魂が重なり合う共鳴、義乃はシュヴェルトと自分が一体になったのだと分かった。
「本当に誓約させ、共鳴するとはね……」
 愚神の目に映るのは、義乃ただひとり。
 そして、それは先程まで立っていた義乃ではない。
 夕日に透ける髪の色は銀。肌の色も一層白くなり、その瞳は義乃の持つ色とシュヴェルトが持つ色を左右それぞれに抱いている。身に纏う衣装もその手の剣もシュヴェルトのもの……中学校の制服姿も鞄もない。
 誓約を成立させた彼らは、共鳴を果たしたのだ。
「でも、あなた達だけで何が出来るのかしらね? 成立したばかりのあなた達に私が負けるとでも?」
「やってみなければ分からないでしょう?」
 義乃は剣を持つ手に力を込める。
 愚神がフンと鼻を鳴らした。
「粋がるんじゃないわよ、小娘」
 だが、その直後───この愚神を追っていたらしいH,O.P.E.のエージェント達が駆けつけ、義乃達は事なきを得たのだった。

「ただいま」
 義乃が帰ると、シュヴェルトがリビングでテレビを見ていた。
 あの後、H.O.P.E.からもその話を受けたこともあるが、それ以上に家族、友人……自身を取り巻く全ての日常を護る為、そして、最初に戦いの常を理由に助けを拒否したシュヴェルトに平穏な日常を教える為、義乃はエージェントになる道を選んだ。
 戦いが全てだと思うから、あの時彼はそれを拒んだ、というのは何となく分かっていたが、実際その通りで、シュヴェルトは自分が戦いの中でしか生きられないとさえ思っている……だから、戦い以外の日々にも楽しさというものはあるということを教えたかった。
(出来ているか分からないけど)
 何故なら、シュヴェルトは義乃を家族といったような暖かい間柄でなく、好敵手として見ている。いつか自分を越えるような強者になることを期待している。
 義乃にはよく分からないが、彼はそういう目で見ている。
 けれど、彼はこうも言った。
 自分を護ると言った義乃の願いを無視するような恩知らずではない。
 だから、彼は今、テレビを見ているのだろう。
「義乃か。今日は早かったな」
「テスト前だからね」
 シュヴェルトが自分に気づき、声を掛けてくる。
 義乃も下校が早かった理由を答え、シュヴェルトが見ていたものを見た。
 見ていたのは、義乃にとっては何でもない昔の刑事ドラマの再放送だ。
「何故、犯人は最終的に見晴らしのいい場所で犯行を自供するんだろうな」
 見ている刑事物のドラマにそういう共通点でもあるのか、シュヴェルトは素朴な疑問を抱いているようだ。
「犯人が自供した振りをして追い詰めている者を返り討ちにするのかと思っているのだが、その前に増援を呼ばれていることが多い。やはり戦いというのは機を見ることが必要だ。この戦いではまだ不明だが」
「シュヴェルト……脚本家にでもなったら?」
 義乃が呆れたように溜息をつく。
 シュヴェルトはテレビを見て勉強しているようだが、独自解釈を行う為、義乃の常識や感性とは異なる見解で物を言う。
 ちなみに、義乃の言い分は、その手のドラマにそういう話の展開はない、である。犯人が自供して事件解決だ。
「文官だった記憶はない」
「だろうね」
 戦闘になれば人が変わってると義乃も戦慄してしまうことがある程の戦闘狂の一面を持つシュヴェルトは、文官には向いていないだろうと義乃は思う。
「とりあえず、着替えてくるね。お母さんが冷凍の鯛焼きあるって言ってたし、お茶淹れて温めて食べよう」
「分かった」
 義乃はシュヴェルトが応じたのを見、部屋へ戻っていく。

 残されたシュヴェルトは義乃の後ろ姿を見送り、ふと思う。
 あの日、義乃は自分を護るべく対抗手段もないのに自分より前へ出た。
 その背中を、無視出来なかった。
 何故無視出来なかったかは、この世界に降り立った際に多くを忘れた中にあるのか、思い出すことは出来ない。
 ただ、護りたいという言葉が迷いない強さがあった。
 そこに、自分を越える強さを持つ可能性を見出したということに、義乃は気づいているだろうか。
 義乃は義乃だから、この身が邪英化などしないようにと願い、誓約などなくとも護る為に前へ進むのだろう。
 その彼方に何があるのか、シュヴェルト自身にもよく分からない。
 だが、歩いてきた彼方から、歩いていく彼方の道のりには……義乃の持つ可能性全てが詰まっているのだろう。
「そうでなくてはな」
 シュヴェルトは呟くと、「やはり増援を呼ばれたか。機を見ないからこうなる」とテレビの向こうの殺人犯にダメ出しをした。

 やがて、義乃が着替えて戻ってくる。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【染井 義乃(aa0053) / 女 / 15 / 能力者】
【シュヴェルト(aa0053hero001) / 男 / 20 / 英雄(ブレイブナイト)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
発注いただきありがとうございます。
契約の話とのことでしたので、日常の終わり、けれど、義乃さんの自分を見失わない強さとその強さに可能性を見出すシュヴェルトさんを描写出来ればと思って執筆させていただきました。
今後の2人が互いのいい所を認め合って成長し続けられますよう。
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真名木風由 クリエイターズルームへ
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2015年12月28日

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