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『迷いながらも歩く道 』
N・Kaa0885hero001

 N・K(aa0885hero001) は、気づいたらそこにいた。
「……?」
 どうしてここにいるのだろう。
 ここは、『あの子』の高校の近くのアパートの2階の通路だと思───
 そこで、彼女は自分の違和感に気づいた。
 何故、今そう思えたのだろう。
 何故、今懐かしさを感じているのだろう。
 思い描いた全ては、まるで水を隔てているかのように明確ではなく。
 けれど、そこには相棒だと言い切れる存在が立っている。
 その名もその姿もその声も思い出せる……でも、相棒の周囲が明確ではなく、本当にこれは自分の記憶なのかと思える程不確かなもの。
「ねぇ……私を知ってる?」
 N・Kは傍らで丸まっている猫に声を掛けてみた。
 けれど、猫は夢うつつでN・Kの声が聞こえているのかどうかさえ分からない。
 手を見れば、自分の身体は透けていて、手の向こうには景色が見える。
 誓約を成立させなければ、この姿はやがて消えていく。

 誓約、誰と?
 『あの子』と?

 N・Kの目には高校の校門から高校生達が下校姿が映っていた。
 その中に『あの子』がいて、同級生と何か喋っている。
 何故知っていると言い切れるのかはやはり分からない。
 けれど、『あの子』を守らなければという確かな気持ちがあるのは分かる。

 守る?
 何から?

 瞬間、愚神と従魔が鮮烈に浮かび上がる。
 生ける者の脅威、怖い存在。
「そう、だから、守らなくてはいけないわ」
 けれど、戦ったという記憶はない。
 思い描く不確かな中にもそれらしいものがない。
 それでも、彼らへの恐怖を知識以上に知っていると本能で気づく。
 何故なのかは分からない。
 この世界に降り立った時に不確かな水にすらならず淡雪のように消えてしまった中にあるのかもしれないし、もしかしたら誰かが必要な分だけ自分に植え付けているから最初から持っていないのかもしれない。どちらであるにせよ、N・Kにはそれらの真実は分からない。
「でも……誓約して、いいの……?」
 N・Kは誓約という行為はひとつの縛りであるのではと思ったからだ。
 愚神、従魔……それらと戦うことへの恐怖を持っているのに、誓約を求めるのか。
 誓約を交わせば、周囲は黙っていないだろう。彼らが現れれば、倒してくれと、戦いの場に放り出されてしまうに違いない。
 その時、共鳴しなければならない。
 が、共鳴したとしても、今の自分に何が出来るか分からない。
 恐怖だけがあり、戦った経験は思い出すことが出来ない。
 不安要素しかない自分と誓約を交わした結果、徒に戦いの場に放り出すことになったら───
「でも、守りたい。この恐怖を……知ってほしくない。経験して欲しくない」
 共鳴は、彼らへの対抗手段でもある。
 守るならば、誓約を交わして共鳴し、彼らへの対抗手段を得ることだろう。
 選択肢を増やすことが出来る、守ることが出来る、というのは、善意の押しつけ───
 葛藤するN・Kの目には、同級生と笑っている『あの子』が見える。
 あの日常を守りたいのに、私自身が誓約という行為で壊すかもしれない。
 と、視界の隅で、それまで夢うつつだった猫がふと起き上がった。
 尻尾をピンと立てて歩いていくと、階段から誰かが上ってくる音が近づき、青年が姿を見せる。
 猫の飼い主らしい青年はN・Kに気づいた様子はなく、擦り寄ってきた猫を抱き上げて、部屋の中へ入っていった。
 少しして、猫の鳴き声と、それから開いた窓から微かに音楽の音が聞こえてくる。
 毎日音楽を奏で、唄っていたと思う。
 この音楽も何故そう感じているか分からないが、懐かしいと思う。
 その時───

答えなんて最初から皆知らない
迷いながらも一緒に行こう

「そうね。最初からは何も分からない、わよね」
 N・Kは、小さく呟いた。
 だって、今自分が悩んでいることの答えには、『あの子』の思いが何も挟まっていないから。
 『あの子』の答えを、私が決めてはいけないから。
 きっと、これからも、『あの子』の思いがどんなものであっても、迷って葛藤するだろうけど、でも───『あの子』の答えを決めていい理由にはならない。
 消滅を待つのは、『あの子』の答えを決めるという、ひとつの逃げだろう。
 『あの子』は戦わなくて良くなるかもしれないけれど、愚神と従魔との恐怖はそれとは関係なく襲い掛かるかもしれない。
 その時……きっと、誓約を交わして良かったのかという葛藤以上に後悔する。それだけは言える。
 なら───守りたい。私のようなことになったりしないように、その身も心も。
 N・Kは少し開いた窓の向こうを見る。
「ありがとう。会いに行く勇気をくれて。でも───」
 もう少し音量を下げた方が近所迷惑にならないわ。
 きっと窓の向こうには届かないけれど、それでも良かった。
 N・Kは音楽に勇気を貰ったように、アパートの階段を下りていく。
 彼女が守りたい『あの子』へ、守りに来たことを告げて誓約するのは、それからすぐのこと。

 N・Kは、パソコンから流れる曲が終わったことに気づいた。
 あの時の曲を聴いていたから、つい、誓約当時のことを思い出していたようだ。
「そろそろ買い物に行かないと、家に帰ってきちゃうわね」
 迷いない操作でパソコンをシャットダウンさせ、N・Kは立ち上がる。
「今日は確かお肉が安い日だったかしら」
 あっという間に順応したN・Kは人が言うには英雄らしくない日々がメインだ。
 とは言え、英雄も様々で、ぱっと見英雄と分からない者などは幻想蝶の中にはおらず、ごく普通に生活していたりする。個人差があるだろう。そして、その個人差で、N・Kは自らを英雄と呼称されるのを嫌っている。他に呼びようがないことは理解しているが、それと好みは別次元だ。
 N・Kは、英雄であるかどうかが重要であるとは思っていない。
 大切なのは、守りたいという想いと自分に出来る精一杯でサポートしたいという想いで誓約をしたということだから。
「お肉が安いなら、今日はハンバーグかしら」
 N・Kは献立を決めつつ、自分の当たり前のように染みついている歌を口ずさんで買い物へ出かけていく。
 根本を思い描いても真実に行き着く確かなものは何もなく、口に出すこともないけれど───この世界には『やっぱり』音楽が溢れていると思う。

 だから、迷いながらも歩いていける。

 N・Kは不確かなそれを口にせず、けれど、確かな想いで今日も歩いている。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【N・K(aa0885hero001) / 女性 / 24 / 英雄(バトルメディック)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご発注いただきましてありがとうございます。
誓約前の思案ということでしたので、心情重視で描写させていただきました。
葛藤するのはそれだけ鈴音さんが大切だということだと思いますので、今後もふとした拍子にということはあるかもしれませんが、迷いながらも鈴音さんの傍で共に在れますことを願っております。
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2016年01月12日

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