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『愛される像 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)



「分かっているわね、ティレ。二手に分かれるという事は、たとえ貴方に何かあったとしても駆けつけてあげられないということなのよ」
 シリューナは確認するように言った。するとティレイラは、こくりと頷く。
「はい、お姉さま! 御心配ありがとうございます。でも大丈夫です」
 ひとりでも必ず使命を果たしてみせます、と微笑みを浮かべるティレイラ。
 けれどそれでもやっぱり心配だなぁ、とシリューナは心の片隅で思っていた。
 決して信用していない訳ではない。
 何と言ってもティレイラはシリューナの愛弟子。日頃から魔法を修行するティレイラは、火の魔法を得意とする立派な魔法の能力者だ。
 それに妹のように可愛い子。シリューナはなんだかんだとティレイラに期待しているのである。……だが。
 一生懸命で健気ながらも…最後に助けてあげなくてはならなくなる事態に発展する事も、無いわけではなくて。
「いい? もしもピンチに陥ったとしても、あたふたしては駄目よ? そういう時こそ冷静に判断する事が大事なの」
 師として、分かれる前にティレイラにそうアドバイスした。
 ティレイラは元気よく「はい!」と返事をし、「ちゃんと心掛けま――」と言いかけた所で女館長に声を掛けられる。
「それでは宜しくお願いします。シリューナさん、ティレイラさん」
 彼女はシリューナの知人であり、今回の依頼主だ。
「ええ。了解よ」
「必ず魔族を捕まえてみせます!」
 シリューナとティレイラの返事に目を細め、深くお辞儀をする女館長。
「それじゃあティレ、行きましょうか」
「はい!」
 そうして女館長から託された任務を遂行する為、其々分かれて持ち場を担当するのだった。

 ―――最近、美術品を盗む魔族の怪盗が巷を騒がしている。
 その魔族というのは美しい少女の姿をしていて、美しく価値のある美術品ばかりを狙うのだという。そして高度な魔術を操るようで、自らを捕まえようとする者が現れた際には、その者達を『美術品』に変えてしまうのだとか。
 つまり一般人では全く歯が立たない相手というわけだ。なので、次に狙われる可能性が高いと言われている美術館の女館長から、シリューナに『魔族の捕獲』を依頼して今に至るのである。

 シリューナはガラスケースで大切に保管されている展示品を眺めながら、「素敵ね…」と思わずうっとり零していた。
 しかし鑑賞を楽しんでいるように見えて、実はいつ魔族と対峙しても良いように神経を研ぎ澄ませている。
(「さあ……どちらの美術品から狙うかしら?」)
 見る者を虜にする魅惑の芸術――。
 その中でもこの美術館において怪盗が狙う目星がつく作品は二点。
 シリューナが見張る美術品。それからティレイラが見張る美術品――。
 そのどちらから狙うのか動向を窺う内に、シリューナは何かを察知する。
「……」
 そして静かに、呟いた。
「まずはあちらから……という訳ね」
 ティレイラが見張っている方に振り返り、見つめて、考えを巡らせながらゆっくりと歩み出す――。






「あ、あなたは……!」
 一方ティレイラは侵入者と対峙していた。白銀の長い髪に、穏やかなブルーの瞳、ティレイラと同じ年頃の少女――彼女こそ魔族の怪盗である。
 魔族の少女はティレイラを見つけると、静かにじっと見つめていた。
「……」
「…!」
 ティレイラは(「この子を捕まえないと……!」)と、使命感に燃えるが、静寂と沈黙を貫く魔族の眼差しが緊張を煽る。
 ――しかし。
 魔族の少女は漆黒の翼を背から生やし、跳び上がる。するとそのまま浮遊して、羽ばたかせた。
 このまま何処かへ逃げようというのだろうか。

「……! そうはさせません!」
 ティレイラは追い掛ける――彼女が窓から逃げてしまう前に!
 初めは魔法で止めようかとも思ったが外に出てしまったら余計に逃してしまう可能性が大きくなる事を懸念して、ならば別の方法をと考え、生唾を飲んだ。
(「こうなったら一か八か、です……!」)
 ティレイラは紫の翼と角、尻尾を出すとぶつかっていく突進の如き勢いで魔族の少女を目掛け、飛び込んでいく。
「……っ、!」
 まさか飛行する自身に体当たりでくるとは予測できなかった魔族の少女は目を見開き、次の瞬間には突進に巻き込まれ、地へと伏せた。
「や、やった……!」
 覆い倒す体勢になっているティレイラは捕まえる事が出来た感激で喜びの声を漏らすけれど、まだ喜んでちゃダメと自分に言い聞かせ、きりっと凛々しく言った。
「観念してください! 逃がしませんよっ」
 しかし魔族の少女は焦る様子は無かった。むしろ喰い入るように見つめる眼差しが、ティレイラを動揺させる。
「なっ、なんです……か……?」
 眼差しに対し、そう返すティレイラに魔族の少女は呟いた。
「あなた……竜族ね………」
「……!」
 ティレイラはびくりとした。
 そう。ティレイラは異世界から空間転移した竜族なのだ。――魔族の少女は興味深そうに紫の翼や尻尾、そして瞳を見つめ続けながら、先程まで無表情だった少女が、ふわりと微笑みながら頬を滑るように撫でた。
「それに……やっぱり可愛い……」
「……えっ、」
 ティレイラが想定外な言葉に戸惑うと、魔族の少女はその内にあるものを取り出した。
 それはどうやら魔法道具のようで――。
 しまった……!
 と、慌てる頃には手遅れに……。
 金属のような光沢がある球体はまるで風船のように膨らんでいく。
「きゃっ…っ」
 ティレイラはそれに触れてしまったらいけないと直感で察し、咄嗟にすぐ離れた。
 ……が。球体はティレイラを追い掛け、そうして膨らんだ風船が割れたように飛び散り、溶けた金属のような液体がティレイラに貼りつく。
「や、やだ……っ。尻尾が……っ」
 そしてまるでコーティングされていくように、ペリペリと音を立てながら尻尾の先から這い上がる様に段々と包み込んでいくだろう。
「そん……な……!」
 そのまま体にすぅっと薄い膜が纏わり付いていく。
 翼が。
 指先が。
 圧迫されていく不思議な感覚に、ティレイラは狼狽えた。
「たす、けて……!」
 すっかり冷静さを失いながら、涙目で救いを求めているティレイラを、魔族の少女はただ楽しそうに見つめて。
 どんな可愛くて綺麗な像が出来上がるだろう。
 金属質な光を放つ像へとなっていく様子をじっくり眺めながら、魔族の少女は恍惚とした微笑みを浮かべていた。
「安心して。……一生、……大事に可愛がってあげるから」
 ティレイラを気に入った魔族の少女の笑みは怪しく、底知れない恐怖を与えるのには十分だ。
 このまま永遠にティレイラを封印し続け、愛でる気でいるのだから。
「いやあ…っっ! やめてっっ……っ、やめてください……!! お願い、ですからぁ……っ」
 瞳に涙を溜めながら慌て嘆き、身をもどかしげに動かそうとするけれど叶わない。
 どうすることもできない状況に抗うことは出来ず、ジワジワと侵食する金属質なそれが全てを包む前にティレイラはシリューナを思い浮かべていた。
 そして魔族の少女にも聞こえない位のか細い声で零した。

「おねえ………、さま……………」

(「――――ごめんなさい……………」)

 ……………。

 美術館に静寂が戻り、魔族の少女の足音だけが響いた。
 そうして金属のように輝くティレイラの像に歩み寄って、その愛らしさ、美しさを確認すると、惚れ惚れとする。
「素敵……」
 魔族の少女は嬉しそうに呟いていた。完成した作品に満足するように、うっとりと。
「あなたはここにあるどの作品よりも可愛い、よ……」
 美術館に飾る美術品を奪いに来た怪盗である魔女の少女は、本来の目的の美術品には目も暮れず、ティレイラの像を触れた。
 冷たい金属の硬さが撫でた指先にしっかりと伝わって、頬を赤らめる。
 ティレイラをコーティングした魔法道具は、強い魔力を持つ者ほど高純度な魔法金属と化して封印するもの。
 思いがけず最高のオブジェとなる素質を持つ少女を見付けた魔族の少女の胸は躍り、高揚していた。
「さあ、帰ろう……一緒に」

 早く帰ってティレイラを楽しみたい―――。

 そんな逸る想いを胸に立ち去ろうとする魔族の少女。
 しかし、それを許さない者がいた。

「困るわね―――私の物を勝手に持ち帰ろうとするなんて」

 ティレイラが慕う師であるシリューナだ。
 到着したばかりで悠々と歩みながら、魔族の少女へと言い放つ。
 振り返った魔族の少女は眉を潜めた。

「………………あなた、誰?」

 ―――だが、次の瞬間には胸が昂り瞳が輝くだろう。
 優美で素敵な、強いオーラを持っている人。

(「ステキなオブジェがもう一つ…出来そう……」)

 魔族の少女はうっとりとしながら魔法道具を取り出した。
 ………しかし。
 余裕を見せていたのが運の尽き。隙を突かれ、魔力を込める前に、シリューナの魔法によって手首を弾かれ、魔法道具をその場に落としてしまった。
「あっ…!」
 手首を抑えつつ、動揺する魔族の少女。
 すると今度は抑えていた手が石のように硬くなりだしていく。
「え、……っ……?」
 それは紛れもなく石化だった。
「―――!!」
「あら……自分がオブジェになるのは初めて?」

 シリューナは普段と変わらない優しい声で話しかける。
 その間にも体の至るところがカチコチに固まり始めて、涙目になっている魔族の少女。

「わ、私を……どうする、つもりなの……っ」

 間も無く全ての自由を奪われてしまう。―――その恐怖に慄いて、魔族の少女は唇が震えていた。
 今までの盗みを働いていた罪や、道を遮る人々を『美術品』へと変えてきた罪。それらを償わせるのだとするなら、一体どんな罰が待ち受けているのだろうと一人勝手に想像するだけで怖いようだ。
 そんな魔族の少女に、シリューナは微笑みを浮かべてこう言った。

「さあ………ね?」
 
 今にも泣きだしそうになっている魔族の少女は、絶望する。そうして気が動転するように叫んでいた。
 その声は石に飲まれていって…………。

 やがて沈黙が訪れた。
 同時にそこには、一つの石のオブジェが完成していただろう。

(「その後のことなんて分からないわ。だって私は依頼されてあなたを捕まえただけだもの」)

 ……なんて心の中で零しながら、シリューナはくすりと笑う。
 だが―――ちらり、と。
 視線の先には、魔法金属のオブジェにさせられた可愛いティレイラの姿があった。
 彼女の恰好は慌てふためいていた状況が容易に想像出来てしまい、溜息を吐きながら。

「もう………不甲斐ないわねぇ………」

 そんなふうに微かに嘆きつつ、見つめて。
 折角分かれる前にあたふたしてはいけないとアドバイスしたのに、と。そっと艶やかな尻尾にゆっくりと掌を這わす。

「あぁ……でも……、かわいいわね、ティレ……」

 思わず感嘆の声を漏らした。
 滑らかな感触の可愛らしい子。
 美しい曲線の頬を優しく撫でて、愛でずにはいられない。

「素晴らしいわ……このままずっと鑑賞していたいくらい……」

 価値のある美術品にしか目が無い怪盗を虜にするだけではなく、師さえも夢中にさせ、深く愛される最高の芸術となったティレイラ。
 やはりすぐに元に戻してしまうのは勿体無い―――………、そうシリューナは考える。
 なのでもう少し、このまま。
 造形と感触の素晴らしさを堪能され、じっくりと時間を掛けて、可愛がられるティレイラなのだった―――。




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ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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たいへんお待たせしてしまい、申し訳御座いませんでした……!
そして納品までお待ち頂けた事を深く感謝しております。
こんにちは、瑞木雫です。
シリューナさんとティレイラさんのノベルを再び書く事が出来て光栄でしたっ。
いかがでしたでしょうか?
お二人のキャラクター性や解釈などを含め、イメージに沿った内容である事を願うばかりです。
アドリブも多く書かせて頂いております為、もしも内容の中に不適切な点等御座いましたら、是非、遠慮なく仰って頂けるととても有り難いです!

御発注、ありがとうございました!!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2016年02月09日

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