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『連鎖する呪い3 』
海原・みなも1252)&碧摩・蓮(NPCA009)

●恐怖の夜
 雨風が激しい夜。雷を伴う豪雨と強風が硝子を叩いている音にも怯えつつ、巡査は電話を掛けている。受話器を持つ手は震えていた。呼出音が耳にこびりつくように鳴り響き続け、未だ応答の気配は無い。
 動揺を抑え、落とす視線の先には慌てて握りしめた痕跡が残るメモ用紙。電話番号と共に記されていた文字は、『アンティークショップ・レン』。
 巡査は一刻も早く、その店に引き取って貰いたいものがあった。
 何故ならそうしてくれなければ手に負えない、曰く付のものを預かってしまっているからで…………。


 ―――ガタッッ、ドッッ、ズシッ、ガシャンッッ………!!


「………ッ!」
 扉を隔てた向こうの部屋から騒がしい物音が聴こえ、巡査は心臓ごと体が跳ね上がった。向こうの部屋には誰も居ない筈なのに――己の躰が恐怖に支配され、硬直する。
 するとぎぃ……っと静かに扉が押された音が鳴った。

 そういえば、慌てたせいで扉を完全に締め忘れていたかもしれない。
 ―――だが風で押されたというような音でも無いような気もする。

 早鐘を打つ心臓の音。
 そしてアンティークショップ・レンへ掛けていた筈の電話は、何故か呼出音をシャットアウトし、不可解なノイズの音が流れだした。
 
 決して偶然では無いような気がした。
 振り返ってはいけないと本能が警告している。
 だが人は、怖いもの見たさについ確かめようとしてしまうもの。巡査もは恐る恐る、背後を振り返った。……………そして、彼は見てしまった。

 
 薄らと開いていた扉の隙間――
 巡査の背後には、短剣を持った女の子の人形が立っていた。


○人形の因縁
『面白い少女を見付けた』

 短剣に宿る人形に潜む怨念は、とある少女との邂逅を心から喜んでいた。
 これまで色んな人物に呪いを掛けてきたが、こんなケースは初めてだ。

 募る恐怖に耐えられず、新たな人へ、人へと連鎖していく呪いの筈であるが――

“絶対に誰の事も刺さない”

 と、強く心に決めて拒み続けた少女は結果、より深く呪いを侵攻化させてしまったらしく、

“自分は人間ではなく人形であると思い込むようになっていた”。

 こんなにも精神が蝕まれるまで人形に留まり続ける者が居るとは、想定外だった。
 しかし同時に、嬉しくも思う。
 この少女と共存して、また新たな呪いを始めるのも……きっと楽しい。

 怨念は、どんどん少女を手放す事が惜しくなり、そうして新たな呪い計画を思い描いた。

 ―――見られていない内に歩み寄り、人間を刺す恐怖の呪い。
 だが、ただ刺すだけでは面白くないから、身が凍える程の恐怖を味わせてから。

 そんなふうに勝手に練られていても少女は自分の事を人形だと思っているので、何を思おうとなすすべもなくてその判断に抗う事は出来ない。自分の望むままに動いてくれる人形で在り続けるだけだ。
 嗚呼、楽しい。
 楽しい。
 楽しい!

 ……そして怨念の器はこれからの事に想いを馳せたまま、目の前が真っ暗になった。


●みなもの救出

 長い長い夢の中を彷徨っているような気分だった。
 真っ暗な闇に、仄かな光が射す。

「………ん、……ぅ」
「気が付いたかい?」
 海原・みなもは目覚めると、碧摩・蓮が覗いていた。
「蓮さん……?」
 ――どうしてあたしは眠っていたんだろう。
 眠る前の事があまりよく思い出せないままみなもは起き上がると、異様な光景に驚いてしまった。
 アンティークショップ・レンの店内が荒れていたからだ。
 呪いの人形達は力無く倒れ、妖しく目が光る絵画もズレ落ちて、幸いにも壊れる程ではなかったようだが、それにしたってこの光景はただ事ではない。
 みなもは動揺で声を出せず沈黙していると、蓮が微苦笑を浮かべながら口を開く。
「結構大変だったんだよ、因縁をほどいて、あんたを救い出すのは。……相当強い呪いだったからねぇ」
 煙管の煙をゆっくりと吸い込みながら吐き出して。
 黒眸がみなもを見つめる。
「……あたしを……?」
 蓮にそう言われ、きょと、とするみなも。
 しかしおぼろげだった記憶が段々と蘇り始めていく。
 道端に落ちていた人形を拾った事。
 人形と成って残留思念の声を聴いた事。
 そして――。
「…………………」
 怨念に身を支配されていた事も。
 その時、自分は呪いの深い侵攻で人形だと思い込んでしまっていたから、意思も無く、『されるがまま』だった。
 短剣を握り締め、ゆっくりと歩いて、お巡りさんの背後に立って――
「………っっ!」
 全て、想い出す。
“あたしはお巡りさんを殺そうとしていた”
 みなもは殺人人形にされかけていたのだ。

 あのまま救い出されずにいたらどうなっていたか――
 考えるだけで、みなもの顔は青褪めた。
「ありがとう、ございます……。助けて……頂いて………」
 事実を想い出し、みなもの声は震えだす。
「……気にしなくていいさ。それより、手遅れになる前にあんたを救出する事が出来て良かったよ」
 蓮は心からそう想う。
 みなもはどうも、怨念に深く気に入られているようだったから、もし、発見が遅れていたら――。
 呪いから救い出すのはもっと複雑で、難しかっただろうから。
 いや、たとえその躰を救い出せたとしても、心まで救える自信が無かった。
 そう確信している。

 延々と繋がれてきた連鎖する呪い――
 呪われた者達の残留思念がべったりと滲み付いていたが、
 その中でも、みなもの想いは特異であり、
 誰かを刺す事で自分が助かるのだという短剣を握らせても“誰の事も傷付けたくない”という気持ちが最期まで揺るがなかったからこそ引き起こした現象であると、呪いを解く上で知ったから。
 よっぽど人を傷付けたくなかったらしい。そんな彼女がもしも殺人を犯していたらなんて思うと……。
 蓮は視線を落とす。
 そこには呪いを解く際に真っ二つに折った短剣……。
 もうそこには怨念は宿っていないが、不気味さだけは余韻として残っている。
 そしてみなもを見つめた。
 落ち込んでいるようだった。
 誰も傷付けたくないと思っていた筈が、殺人人形にされかけてしまった事がよほどショックだったのかもしれない。
 そんなふうに沈んでいるみなもに、蓮は声を掛ける。
「あんたが気を落とす事は無いよ。あのお巡りさんだって怪我もなく、無事だったんだ。だから良いじゃないか。この呪いの事は悪い夢を見たと思って、忘れるといいさ……」
 俯いているままのみなもの隣に座り、紫煙を吐き出しながら。
「あんたはすこし、人より優し過ぎただけだ。それが結果的に怨念に気に入られてしまったみたいだけどね……でも、」
 そして優しい声で紡ぐ。
「あんたの優しさは誇っていいところだよ。よく、頑張ったね」


 蓮はみなもの心に寄り添うように告げる。
 きっと延々と巡り続けていたであろう連鎖する呪い……。

 その悲しみの鎖を断ち切ったのは、
 こういう形であれ、
 みなもの優しさだったということを。


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ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、瑞木雫です。御発注ありがとうございました!
『連鎖する呪い3』いかがでしたでしょうか?
 今回は人形から元に戻すお話という事でしたので、真相・解決となる要素を考える為自分なりに試行錯誤してみました。

 短剣に宿っていた怨念ですが、きっと最初はまさしく連鎖する呪いを楽しんでいたのだと思います。
 ですが誰も傷付けないという意思を強く固めたみなもちゃんと出会う事により、その楽しみ方が変化した物語として書いてみました。
 『2』で起きた呪いの深い侵攻『自分が人形だと思い込んでしまう』については、『人間に戻りたいという意思さえうやむやになってしまう』と解釈し、そこまで深く呪いが侵攻したのはみなもちゃんが初めてだったという前提で製作しております。
 ……とすると、怨念はみなもちゃんに個人的な興味を抱いたのではと想像しました。
 そして今回の『3』にて、テーマだった「メリーさん」の要素を含ませながら書いております。
 もしも蓮さんに救出されなければ………
 みなもちゃんはもしかしたら、有名な都市伝説になっていたかもしれません。
 その前に助ける事ができて、本当に良かったです。
 因みにみなもちゃんが刺すものとして握らせたのが何故短剣だったかというと、実はこちらは「人魚姫」の要素を含ませておりました。
 私の中で、呪いを解く為に人を刺すことを強いられているみなもちゃんが、王子様を刺せずに泡となってしまった人魚姫と重なったのでした。
 長々と語ってしまいましたが、
 御発注の内容のイメージとかけ離れていないか心配に思いつつ、もしも少しでもお気に召して頂けたら幸いに思います。
 不適切な点等御座いましたら是非遠慮なく仰ってくださると助かります。
 本当にありがとうございました。 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
瑞木雫 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年03月29日

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