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『生きる意味 』
ユリア・ソル(ia9996)

 ――あの人は、いつもこう言っていた。
「貴方が生きる意味は私だけじゃないのよ。……貴方自身が、生きることを楽しみなさい」
「私がいてもいなくても、自分の人生を楽しむの」
 ――思えば、主に従うことが全てのからくりや人妖に、あの人は随分と高望みをしていたものだと思う。
 柔らかな新緑の瞳に鮮やかな青銀の髪を持つあの人。
 その面影を……今もずっと、追い続けている。


「シン。次はどちらへ行くんですの?」
「そうですね。アル・カマルに行ってみましょうか。ひいは確か行ったことがなかったでしょう」
 金髪に金色の目を持つ人妖に尋ねられ、荷物を纏めながら答えるオートマトン。
 シンと呼ばれたからくりと、人妖のひいは、ユリア・ソル(ia9996)の相棒だった。
 ――過去形なのは、彼らの主は数ヶ月前に亡くなったから……。
 まだ50にもならぬというのに。病を得て、2ヶ月程の闘病の後に命の灯火が燃え尽きるようにして、この世を去った。

 その日のことを、まるで昨日のことのように思い出す。
「ひい……。今までありがとう」
「ユリア……? 何を仰るんです? しっかりしてください」
「……あらあら。何を泣くことがあるのかしら。貴女には色々なことを教えたわ。私がいなくたって大丈夫よ」
「嫌です! ユリアは強い人でしょう……? こんな病に負けたりしませんわ……」
「無茶言わないで頂戴……。亜螺架の黒い鎖にずっと囚われていたのよ……? その割には長生きしたわよ……」
 人妖の目から止め処なく溢れる涙を、震える指で拭うユリア。
 黒黴の大アヤカシに囚われて、そう長くは生きられない筈だった。
 愛する旦那様と二人の子供に恵まれて、その成長を見守ることが出来て――幸福で満ち足りた人生だった。
 これ以上、望むことなんて何もない……。
 苦しげにため息をつく彼女の手を、ひいはそっと握る。
「貴女は確かに色々なことを教えて下さいました。でもわたくし、理解しているかどうかは……」
「困った子ね。教えを生かすのは、貴女次第よ……。シン、聞こえる……?」
「お傍に控えております」
「あなたは、生きる意味を見つけるの。いい? これは命令よ……。あと……ひいを、お願いね」
「仰せのままに。あなたのご命令には必ず従います。どうぞご安心を」
「そうね……。シンならそうでしょうよ……」
 相変わらず融通の利かぬシンに苦笑するユリア。
 このからくりは、何度言い聞かせても変わることはなかったけれど。
 でも……シン、ひい。私の大切な相棒達。
 貴方達なら大丈夫よね……?
「……ひい、貴女が大好きよ。だから自由に生きなさい……」
「ユリア……! わたくしも、貴女が大好きですわ。置いていかないで……」
「もう、困った子ねえ……」
「……ユリア、これ以上はお身体に障ります。お休み下さい」
 弱々しく微笑むユリア。シンに言われ、小さく首を縦に振る。
 そのまま静かに目を閉じて……そして。彼女が再び目を開けることはなかった。

 そして、主であるユリアを喪ってまもなく、シンの身体に変化が起きた。
 精霊力に対して高い親和性を発揮し……彼の身体に秘められた力が覚醒したのである。
 それは同時に、完全な自己を確立したことを意味し――ユリアがあんなに望んでいた『シンの自己』が、彼女の死を切欠に得ることになるなんて。
 何と言う皮肉だろう――。
 ……とは言ったものの、シン自身は、ちょっと力の使い方が変わっただけで、別段変化を感じていなかった。
 ――だって自分は、ずっと前から。ユリアと出会ったあの日から。『自分の意思』を持っていたから。
 ユリアという人は主にしてはとても変わっていて、シンを起動して会話した二言目が『好きに生きなさい』だった。
 その言葉を聞いたときは、面食らったけれど。
 自分の気持ちは、すぐに決まった。
 この目の前にいる美しい人に、己の存在がある限り仕えよう――。
 あの日の誓いは、今もこの無機質な身体に宿っている。
 こんなにも早く、別れが来るとは思っていなかったけれど……。

 シンは、ユリアの葬儀を恙無く済ませると、すぐに旅立ちの準備を始めた。
 ユリアはずっと『結婚していなかったら、きっと今でも世界を巡る旅をしていた』と話していたことがある。
 だから。今度は自分がそれを続けよう。そう思ったのだ。
 彼女が見たものを、自分自身の目で見てみたい――。
 ユリアの家族に旅立つ意思を伝えると、とても寂しがられて留まるように請われたけれど。
 彼自身、ユリアのいないこの家に居続ける意味を感じなかった。
 力を得たシンは、『覚醒からくり』として開拓者登録を行った。
 そして、人妖のひいを己の相棒として譲り受け、ユリアの家族と、彼女と共に暮らしていた家に別れを告げて――今もこうして、2人で旅を続けている。


「ねえ、シン。自由って何なんでしょう」
「……言葉通りの意味であればお教え出来ますが。貴女の求めている『答え』はそれではないでしょう?」
「そうね。わたくしユリアが亡くなってから、何もかもが色褪せて見えるんです。……前の主、菱儀様を喪った時は、こんな事思いませんでしたのにね」
 淡々と答えるシンに自嘲気味に笑うひい。
 賞金首が生み出した存在だった彼女は、常識や規範意識が薄い状態だった。
 そこから開拓者達が繰り返し教育を施し、ユリアに相棒として引き取られて。今までにないくらい、毎日が楽しく充実していた。
 優しさと厳しさを兼ね備えた主を、今でも敬愛しているのに――。
「これがユリアの言う『自由』なのだとしたら、わたくしこのようなもの要りませんでしたわ……」
「そうですか。でも私は、貴女に自由に生きて貰わねば困ります」
「シン……?」
「それがあの方の願いですから。あの方の願いは、必ず叶えなければなりません」
「……それは、シンの意思、ですのね?」
「ええ。その通りです」
「そう……ですの。今のわたくしの主はシンですから。あなたの意向に従わないといけませんわね」
「貴女の自由意志に基づいてそう決定されたのであれば、尊重しましょう」
 表情を変えずに頷くシン。微笑むひいの瞳から、ぽろりと涙が毀れる。
 彼がずっと心の奥底に抱え続けた、忠誠以上の想い。
 ユリアに決して告げることはなかったけれど。
 この感情を……人は『愛』と呼ぶのだろう。

 ――あなたは、生きる意味を見つけるの。いい? これは命令よ。

 イエス、マイロード。
 貴女は私の唯一の主人であり、示された生きる道――。
 この先も、貴女と共に……。

「さあ、ひい。旅を続けましょう。何を見たのか逐一記録して、ユリアに報告しなければなりません」
「そうですわね。お手伝いさせて戴きますわ」
 荷物を背負い、歩き出したシンの後に付き従う人妖。
 彼らの長い長い旅は、この先も続いて行く。


 相棒達が亡き主の為に認め続けた旅の記録。
 主への手紙の形式で記されたそれはとても分かりやすく、旅行のガイドブックとしてはとても優秀で――。
 それを目にした者達から書籍化を希望され……シンは旅行記の作家として、世界に名を馳せることとなる。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ia9996/ユリア・ソル/女/21/優しさと厳しさを兼ね備えた主

シン/からくり/ユリアの相棒(NPC)
ひい/人妖/ユリアの相棒(NPC)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております。猫又です。

納品まで大変お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
ユリアさん亡き後の相棒達の物語、いかがでしたでしょうか。
ユリアさんが亡くなるシーンとか、もう半泣きで書いていたのですが……彼女が愛した相棒達はこの先も逞しく、主人の言いつけを守りながら生きて行くことと思います。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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舵天照 -DTS-
2016年04月27日

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