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『 』
カグヤ・アトラクアaa0535)&流 雲aa1555)&狒村 緋十郎aa3678)&レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
前章 再動
 ケントゥリオ級愚神、アルマレグナス(NPC)。それが今回のターゲットの名前である。
 彼のパーソナルデータについて説明しよう。
 彼は迷宮の主であり、巨大ドロップゾーンの管理者である。
 得意な戦闘スタイルは、背中の翼で空を飛び両手から発する爆炎にて一方的に虐殺すること。
 彼はその根城、つまり迷宮内から出てくることはないが、従魔を生成し周囲に派遣したり、周りから集めた霊力を結晶化させドロップゾーンに配置する能力などから、長期戦になればなるほど強みを増すタイプの愚神だということがわかってる。
 そのためH.O.P.E.内部では討伐作戦が立案されていた。
 その回数二回。
 一度目。
 討伐参加者は十五名。この時は偵察という意味合いが強かったが。迷宮を再構築され脱出困難に、その後救出部隊が指揮されるも、連れ帰った二人の女性リンカーは病院で息を引き取った。
 そのあおりを受けてH.O.P.E.は脅威度を更新、最精鋭のリンカーたちを集め討伐に乗り出したが、この作戦も失敗。
 部隊は一人を除いて全滅した。
 この時点であまりの敵の強さに手をこまねいていたH.O.P.E.だったが、とある人物の協力により討伐の目途がつき、たった今。
 第三回アルマレグナス討伐ミッションの会議が行われていた。
 目の前の巨大な水晶迷宮を眺めながら、苦々しげな視線を送るのは『カグヤ・アトラクア(aa0535) 』
 彼女は救出部隊の参加者であり、第二回アルマレグナス討伐任務の唯一の生き残りであった。
 今回はアルマレグナスの理解度、そしてその明晰な頭脳から指揮官に抜擢されている。
 そして彼女を裏からサポートするのは『西大寺遙華 (az0026) 』だ。
 彼女はカグヤの背に語りかけた。
「私があなたをバックアップする条件覚えてる?」
「…………。必ず仇を撃つ、じゃろ?」
 カグヤはゆったりと振り向き答えた。
「すまなかったと、出すぎたことを言うつもりはないが、必ずやり遂げようぞ」
 その言葉に遙華は唇をかみしめた。
「絶対、絶対よ……。もし失敗したら、私はあなたを許さない」
 そう、風に髪をなびかせ、踵返す遙華。その後をカグヤは追った。
 リンカーたちが控えているのはドロップゾーンから五キロ離れたベースキャンプ。
 そこにはH.O.P.E.内でもかなり名の知れた実力者が集められていた。
「カグヤさん、もういいんですか?」
 そう指揮官である彼女に話しかけたのは、今回の作戦の副指揮官である『流 雲(aa1555) 』彼は背中に翼をはやした共鳴姿でいた。
 その向かいのデスクに座るのは『狒村 緋十郎(aa3678) 』と『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001) 』二人の表情は暗い。
 なぜなら彼らと仲の良いものも前回の戦闘作戦に参加し。そして帰ってこなかったからだ。
「アルマ……レグナス」
 緋十郎は苦々しげにその名を呼ぶ、そのたびにレミアが心配そうに彼の腕に手を置いた。
「今回の作戦……グロリア社の全面バックアップの元、敵に挑んでもらうわ」
 そう遙華はいつものぬけた様子もなく、きびきびと作戦説明を続けていく。
「こちらのパーティーはドレッドノート5 ブレイブナイト3 ソフィスビショップ1 バトルメディック4  シャドウルーカ―2 総勢15名よ」
 カグヤとしては質と量を天秤にかけた結果、これが最適だと判断した。
「無駄に数だけ増やしても、回復対象が増えるだけだからのう」
 カグヤが作戦説明を引き継ぐ。
「二度の交戦経験から有効なのは物理攻撃じゃった。
 なので近接ドレッドが四、遠距離ドレッドが一の構成。その近接ドレッドを守るために妾とブレイブナイトが3の前衛が厚めの構成じゃ」
 カグヤは雲と緋十郎を見やる。
「お主たちがペア。
 メディックは距離をとりつつ回復を重視。優先順位は自身、ドレッドノート、他の順じゃ
 作戦パターンがいくつかあるが基本はこれで」
「残りのソフィスビショップ、シャドウルーカ―は不測の事態へ対応するための札じゃ、攻撃に専念することの内容に、異変があればすぐにわらわに知らせること」
 そうカグヤは作戦カードを改めて配り直す。ラミネート加工され小さなサイズになっているが、これはお守りのような役目しかない、あらかじめ彼女の指示によって全員が36通りのプランと状況に合わせての行動パターンを頭に入れているからである。
「そして、新武装についてあらかじめ説明をしておくわね」
 そう遙華が言うと、まず雲が席を立って、前に出た。
「彼には翼を支給したわ。攻撃力と機動力の大幅な増加、立体的な機動は敵の目をごまかすために有用よ」
 そして、彼のサファイアとルビーの双剣を帯刀する。それは霊石から削り出した一級品。
「一度彼は翼を背に愚神を倒したことがあるわ。だから今回も大丈夫よね?」
 雲は頷いた。
「そして緋十郎には〈ダーインスレイフ・フルアクセス〉を」
 愚神を切ることによって鋭さを増す、第二世代型AGWの第一号完成品がこれだ。
「他の面々にもグロリア社の財力にまかせて最高の装備を支給してあるわ」
 そしてテントの外には、希望の戦艦ARKに積んである主砲を二門設置していた。
「迷宮の側面を破壊、即座に玉座の間に進行してもらうわ」
「今までの戦闘は、道中でかなり消耗しておったからのう、パワーでその過程がなくなるのであればよしじゃ」
「こちらは全弾撃ち尽くすつもりでいるわ。合計十六発。たぶん迷宮内の彼には当たらないと思うけど。ドロップゾーンの力はすなわち彼の力。それを削れるだけでも有効な作戦だと判断したわ」
 そう遙華が説明を追えるとカグヤは思った。一体の愚神を倒すためだけにいったいいくらの金のかけたのかと。
「では、一時間後に作戦を開始する、各々準備は済ませ集合するんじゃ、以上」
「秘薬ももって行って」
「皮肉なことにあの迷宮の霊石を利用して大量に作成できたわ。一人一本」

 そして弔い合戦が始まる。

 二章 異変
 
 まず空に響いたのは、ボルテージが上がっていく音。
 ほとばしる雷鳴と、シリンダーの唸る音。弾丸が装填され、エネルギーが充填され、照準を絞るために砲台が動き、そして。
「発射!」
 トリブヌス級の防御を突破することを目的として作られた超大型AGW、その咆哮が轟いた。
 それは迷宮外壁をバターのように削り取る。
「弾丸が尽きるまで放って」
 その後は一方的な虐殺だった。迷宮内の従魔ごと薙ぎ払う殺戮の嵐が、二つの巨砲から放たれ続けること十六発。
 アルマレグナスご自慢の迷宮は玉座の間まで露出していた。
 しかし、その玉座の間は少し、異様だった。
「アルマレグナスがいない?」
 カグヤはヘリで近づきながら状況を確認する。
「確かに、いない。カグヤさん、階段、みたいなものがみえるな。もう少し近づけないか」
 緋十郎は言った。
 攻略メンバーを乗せたヘリ三台が玉座の間に近づいていく、そして着陸すると今度こそはっきりした。
 ここにアルマレグナスはおらず、本来玉座があった場所の真下に階段がある。
「いくのか?」
 カグヤは雲の言葉に頷く。
「当然じゃ、じゃがこの先何が起こるか分からん。気を引き締めていくのじゃ」
 一行は陣形を組んで階段を下りていく。
 やけに湿っぽい空間が続き、螺旋状のそれは、どんどんリンカーたちを深いところまでいざなっていく。
 やがて階段は最下層にたどり着き、広い廊下が続く場所に出た。
「これは……」
 カグヤは手の甲で鼻を抑える。
 この香りは、たんぱく質が分解される匂い、雑菌が繁殖する匂い。
 カグヤは知っていた。
 この匂い、すなわち。
「なんだこれは」
 緋十郎はは周囲をライトで照らす。するとそこには無数に積み重ねられた死体があった。
「あいつ……!」
――落ち着いて緋十郎。
 こぶしを握りしめる緋十郎、そして緋十郎はその死体の山の中に歩み寄っていく。
「やめるのじゃ」
 カグヤは穏やかに言った。
「生者は無限の可能性があり、死者はなんの価値もない。捨て置け」
「そんな言い方は……」
 そう緋十郎が抗議の声を上げるが、雲がそれを遮った。
「トラップの可能性が高い。それに何もできないことは事実だ」
 それでも納得がいかない緋十郎をレミアがたしなめた。
――緋十郎、やめなさい
「レミア……」
――あなたが考えていることなんて、手に取るようにわかるわ。あの子の死体があるかもと考えているんでしょう? 他の人間たちの亡骸もできれば家族の人に返してあげたいと思っているんでしょう?
 緋十郎の脳裏に、自身の闇がよみがえる。
 惨殺される村人たち、そして幼馴染の死。
――あなたの優しいところみんなわかってる、けどそれより優先しなきゃいけないことがあるのもわかるでしょう?
「すまぬ、緋十郎、今は耐えてほしいのじゃ」
 カグヤは告げた。
「わかっている」
 そう緋十郎が伸ばした手を戻した時、あたりに異変が起きた。
 まず廊下全体が淡く光を帯びここが洞窟のような場所だとわかった、さらに果てしなく伸びる回廊の向こうに開けた空間がある。
 そこに到達すると、部屋の真ん中では愚神が膝を丸めて座っていた。
 翼を持ち、四本の角を持つ、八頭身の極めて人間に近いフォルム。
 彼こそが、迷宮の王。
「アルマレグナス……」
 カグヤがそう彼の名前を呼ぶと十五人のリンカーはそれぞれ武器を構えた。
「ついに来たか、俺の迷宮を壊しやがって。お前ら、絶対に許さない」
「何を言っている!」
 緋十郎は叫んだ。
「許さないのは俺たちのほうだ。あの人の仇は必ず、打つ」
「やって見せろ!」
 アルマレグナスは弾かれたように起き上がり翼を広げた。
 まずい、そうカグヤが思った直後、突貫したのはダーインスレイフを構えた緋十郎。彼を守るように翼を広げ、双剣を構え飛ぶ雲。
 その三本の刃がアルマレグナスの拳と衝突した。
 それに前衛のメンバーが続き波状攻撃をアルマレグナスに浴びせていく。
 その光景をカグヤは俯瞰的に見つめていた。
「あの人はみんなの幸せを願っていたんだ!」
 緋十郎の大剣が赤く、鈍く光る。愚神の霊力を直接奪って力を増していってるのだ。
「知るか! それより頭がいてぇ、頭が!」
 そうアルマは片手を広げて緋十郎を爆破しようとする。
 それを阻止するために雲は彼めがけ頭上から急降下を始めた。
 雲の動きを感じ取ったアルマは、それを防ごうと左手を上にあげる。そして爆破。
 火焔の中に雲は包まれたが、右手一本では緋十郎の攻撃を捌き切れない。
 緋十郎は切り払うと見せかけて大剣の側面部分を相手に押し当て拘束。
 そこめがけて雲は、双剣を束ねて刺突。
 アルマは素早く距離をとり、飛翔する。
 雲と視線が合った。
「ぬああああああ!」
「カグヤさん、回復を」
 リジェネレートの光が雲を包む、その残光でその身を飾り、雲はアルマの爆炎を切り割いた。
 そして雲の動きは加速する。
 緑色の一線をアルマは左手で弾き、赤い刺突を左手でそらす。伸ばした右腕にエネルギーを収束して放つも、雲は下方に加速、攻撃を回避。
 いったん地面に足を突き、その加速度を両足で吸収、ばねのように加速度を上向きに変更し飛び立つ。
 双剣を挟みのように合わせ、飛翔ざまに一閃。振り下ろしざまに二閃。回転を加えて三閃。一瞬の間に無数の斬撃を繰り広げ。無防備になったアルマの胸を地面に向かって蹴った。
 水晶の床に激突するアルマ。
 そのバウンドする体を緋十郎はキャッチ、地面にこすり付けながら引きずり。上方に投げた。
 そこめがけ雲はダイビングスラッシュ。
 剣がその装甲を切り割くことはなくとも、かなりの勢いで壁に叩きつけられるアルマレグナス。
 そしてその額にひびが刻まれた。
 そして彼は苦し紛れに両手から爆音を放つ。
「ほう、これだけのダメージを受けておきながらも、これほどの精度で敵を撃てるか……」
 カグヤはその攻撃を全て前に出て捌いていく。
 熱も衝撃も相応のはずなのに、カグヤは全くと言っていいほどその攻撃に動じていない。
「なぜ!」
 アルマは驚愕に目を見開いた。
 彼の攻撃が一切通らない。
「今回は、相手が悪かったのう。そして手の内をさらけ出しすぎた。戦いづらかったじゃろう?」
 カグヤはついに歩いてアルマレグナムに肉薄してしまった。
 カグヤは義手のパワーを最大まで上げ、アルマの胸に手を這わせると。指を突き立てた、ばきっと激しい音がして、その装甲を破ることに成功する。
 その指はアルマの体にめり込み。固定され、そして。
「がああああ」
「終わりじゃ」
 その義手から高音の駆動音が響く。確実にアルマレグナムを絶命させるべく、その命の中心に爪を突き立てていく。
 そしてその手をアルマはとった。
「あ、ははは、いいのか?」
 カグヤは顔をしかめた。
 声が違う気がしたからだ、さきほどの男性的な声ではなく、これではまるで女性の声。
「なにがじゃ?」
 その時だった。
「カグヤさん!」
 雲の半ば恐怖に染まった声が反響して響く。
「いや、こやつを殺すのが先じゃ」
「だめだ、そいつは殺しちゃいけない」
 その時だった。アルマレグナスの顔や角のひびが大きく広がり。
 そして体表がぼろぼろとこぼれはじめた。
 その裏側から出てきたのは、女性の顔、若干十六歳程度。そしてその顔はカグヤもよく見る、H.O.P.E.エージェントのもの。
 嫌な予感がして、はじかれたように振り返るカグヤ。その目の前には混乱の内にあるリンカーたち。
 彼らは全身に水晶の生えた人間たちに取り囲まれていた。
「そんな、生きていたのか」
 緋十郎はその中の一人に歩み寄ろうとする。
 しかし。
 次の瞬間伸ばされた右手は無情にも緋十郎の肩口を切り割いた。
「なぜ!」
 笑っていた。その少女は、ひどく自然な表情で、緋十郎に何度も向けた、あの優しい顔で。
 その光景に衝撃を受け一歩踏み出す輝夜、しかしその足はぬるりと滑り、体制を少し崩す。
 見れば足元は血にぬれていた。 
 どこから?
 決まっている、カグヤの義手、その先。アルマレグナスの体に開いた穴から。
「なにが……」
 そしてアルマレグナスが告げた。
「私たちはまだ、生きている」
(なんじゃ、いったい……)
 カグヤの心臓が早鐘のように激しく打たれ、思考が加速する。
 認められない現実に彼女の分析能力が追い付こうと必死に頭脳を回すのだ。
 そのために膨大な酸素が必要だ。
 カグヤは一つ息を吸った。血なまぐさい香り。
 これは、カグヤがよく嗅ぐ、人の血の匂い。
 それはいい、ただ気になるのは少女からあふれ出る死臭だった。
「死んでおるのか?」
 生きていると仮定するならおかしかった。
 リンクしているわけでもないのにあの運動性能と耐久性。人間には到底追いつけない身体スペックだった。
 対して死んでいれば問題はなくむちゃくちゃな機動も駆動もできるだろう。
 死んだ人間の体とは所詮タンパク質とその他もろもろの塊。
 であれば自由に動かすのは簡単だ。
(それは、それでいいのじゃ、ただ)
 この少女が人形だとした場合、もっと大きな脅威が透けて見えてくる。
 それが一番の問題だった。
「カグヤさん! 俺たちはどうすればいい?」
 雲が剣で水晶リンカーたちを押しとどめながら言った。
(奴らが、死体独特のにおいに気付くはずも、それが理解できるはずもないか……)
 であればあのようにためらうのは当然だ。
 彼らには判断できないからだ。
 この少女たちは生きていいるのか死んでいるのか。
 生きていたとしたら連れて帰れば元通りの生活を送ることができるかもしれない。
 そんな希望が、彼らの胸に巣食って彼らの判断力を鈍らせている。
 しかも彼らはそれにすがっている。
 であれば、カグヤの説得に素直に耳を貸すはずがない。
 そうなれば被害は拡大する一方になる。
「カグヤ!」
 恐怖に負けたリンカーが引き金を引き、緋十郎に縁のある死体を撃ったらしい、その銃口に手を当てそらしている間に、緋十郎は腕を噛まれ武器を取り落していた。
 一刻の猶予もない、思案にふけっている時間はない。であれば。
「すまぬ……」
 カグヤはそう少女に謝ると。
 少女の首に手をかけた。
 少女は生前と変わらない笑顔で微笑んでいったが、カグヤが謝ると口を開いた。
「いいんだよ、私たちを見捨てて、先に行って、カグヤ」
 ばき、小枝でも折れたような軽い音が、洞窟内にこだました。 
 その音だけが、雲、緋十郎、レミア、全員の耳にはっきり聞こえ。
 全員がカグヤの手元に視線を集中させた。
 次いで。アルマレグナスの首が落ちて転る。
「こやつらは死人じゃ、敵の策。殺せ。皆殺しにせよ」
 その時死にかけた指揮が一気に回復した。
 それは恐怖で抑圧されていた分の反動、裏返し。
 だが、カグヤはその落ちた頭を見つめて動かない。
 これはカグヤにとって敗北なのだ。
 生きている物を救うため。生きて連れて帰れるかもしれない可能性を切り捨てた。
「いいんだよ、カグヤ。あなたは屍を積み上げて先に行って」
 カグヤに向かって生首が語りかけた、それを無視してカグヤは振り返る。
 背後で虐殺が始まっていた。だが、あれを倒して終わりではない。
 まだ次がある。
「皆のもの、聞け。本当の敵は別におる」
 カグヤは凛と言ってのける、動揺を隠し。自分の指示は正しかったのだと示すために、疑わせないために。
「警戒態勢、密集し仲間を守れ、さもなくば」
 全滅する。
 そう告げようとした瞬間。最悪の出来事が起こった。
 この洞窟上部が突如爆発。降りかかる瓦礫を雲と緋十郎は払うが、その上から降りてくる物を見て二人は息をのんだ。
「アルマレグナム!」
 カグヤは鋭くその名を呼んだ。
 そう、カグヤが懸念していた一番の問題。それは。
 本物のアルマレグナムはどこに言ったのかという問題。
(そして、わらわたちは、自分たちはいつから偽物と戦っていたのかのう」
 もし、もし最初から偽物と戦っていたのであれば。
 作戦は一から立て直し、情報が全くない状態で、ケントゥリオ級と対峙しなければならないということになる。
 カグヤは即座に意識を切り替えた。
 ここは反撃すると見せかけ撤退の一手。そう考えた。しかし。
「お前の考えていることは手に取るようにわかる」
 次の瞬間である。
 超特大のエネルギーの塊がアルマの両手から生まれ、そして。
 それは広間に放たれた。
 爆炎、そして悲鳴。
 アルマは空に待機しながらも、ゆったりした動作で火焔を放っていく。
 リンカーたちはその強大な攻撃力の前に一人、また一人と倒れていった。
 あのカグヤでさえ、爆炎を地面に受け、全身に痺れるような苦痛を受けるのだ。
 他のリンカーは全身がバラバラになるような苦痛に呻いているのだろう。
 そんな炎で照らされた洞窟の天井に飛翔する、黒と白の翼持つ天使。
 雲はその剣をアルマに叩きつけた。
「はああああああ!」
 速度に身を任せ雲は剣を振るう。
 切り上げ、切りおろし。手を返して挟み込むように切り付け、はじかれた反動を利用し回転し横に切り。翼の勢いを利用してショルダーチャージ。
 それすら受け止められ、雲は爆破される。
 だが額の血を払って雲はサファイアの剣を投擲。それが突き刺さったのを見届け再び飛翔、渾身の剣劇を見舞うが。
 すべては無意味。
 アルマレグナスお得意の自分すらまきこんだ大爆発に雲の剣も翼も砕かれ、その体は地に落ちた。
「おおお!アルマレグナス!」
 緋十郎が味方の大剣を天井に向かって投げた。
 それを回避し悠々と漂うアルマ。
「空を飛んでいなければ恐ろしいか?」
 緋十郎は噛みつくように言った。
「なに?」
 緋十郎が挑発するとアルマは地面に降り立った。
 そして。
「おまえが俺を恐怖する方が正しいだろ、普通に考えて」
 そう緋十郎とアルマレグナスの戦いが始まる。
「待て! 緋十郎!」
 カグヤは焦りを感じ始める。
 アルマレグナスの広範囲攻撃の前に回復が追い付かないのだ。
 切り札のケアレインを発動し、全員の傷を癒すが。
 カグヤ自身もダメージでまともに立っていられない。
 ふらつく体と遠くなる意識に四つん這いになりながら耐える。
 だが、そのせいでカグヤは見てしまった。
 洞窟の側面、その壁の向こうにあるもの。
 色がついていて今までよく見えなかったが、顔を近づけて見てみればわかる。
 半透明の霊石の向こうに、まるで氷の中に封じられた太古の生命体のようにアルマレグナスのストックが、大量におさめられていたのだ。
「撤退じゃ! 撤退するぞ!」
 この戦いは無意味だ、そうカグヤは悟った。
 それよりもこの脅威をH.O.P.E.に知らしめる方が先決だ。
 そう考えた。
(下手をすれば、これまでにない厳しい戦いの始まりになる……。それまでに倒れてしまっては元も子もないからのう)
 そうカグヤはふらつく足取りで、緋十郎の前に立ち。そして。
 アルマの火焔をその身で受けて見せた。
「カグヤ!」
 叫ぶ緋十郎。
「大丈夫じゃ、回復は自前でできるからのう。それより緋十郎、お主は歩けるかのう?」
 嘘だった、輝夜はもう回復スキルを残してなどいない。
 あればとっくに使っている、自分以外の者に。死んでしまう前に。
「それより歩けるなら、自力で脱出口を目指せ。そしてこのことをH.O.P.E.に伝えるのじゃ」
――だめよ、カグヤ
 レミアの声が妙に冷たく響いた。
 そしてその言葉の意味をカグヤはすぐに理解することになった。
 緋十郎の足はもう歩ける状態ではないことを。
 ぐちゃぐちゃで、肘も膝も関節という言葉も意味をなさないほどに。それはどうしようもない肉塊だった。
 それでいてアドレナリンは出っぱなしなのだろう。その瞳は闘争本能に染まっていて、
――緋十郎、お願い、もう、もうやめて! これ以上は緋十郎が死んじゃう。
 レミアの叫びにも耳を貸さない。
「ダメだ! 此処で倒さねば……俺は、もう二度と、悔いを抱えたまま生きるような思いはしたくない……!」
 緋十郎の脳内で、ある光景が爆ぜた。
 若かりし頃の自分、風に交じる血の香り、初めて見る従魔。
 そして大切な人の死。生き残ってしまった後悔。守れなかった後悔。
 あの時の感情が一度に、破裂するように流れてきて、そして。
「お前を殺して、証明する!」
 緋十郎は牙をむき出しにして叫んだ。
 周囲の結晶が光を帯び、そしてライブス結晶のかわりとなって緋十郎はリンクバースト。そして邪英化。
「じゃが、もうお主は戦えんぞ」
 次いでカグヤの背をまた爆炎が襲う。
 カグヤの着物は焼き切れて、その腕は赤くただれていた。
「戦う、力なら。まだある!」
 真っ赤に充血した瞳には、もう目の前の光景なんて映っていない。
 焼き付いた激情と。燃えたぎるような熱量が体を駆け巡り、血が沸騰していくのが感じられる。
「俺は、助けるんだ。あの時とは違うんだ。だからレミア。俺に力を貸してくれ!」
 そう叫ぶと、緋十郎は野生の獣のような咆哮を上げた。
 すると周囲の、この洞窟の表面を覆う霊石が赤く呼応するように光った。
「まさか、高純度の霊石を代わりに?」
 緋十郎は本能的にライブス結晶のかわりになると理解したのだ。
 だが、その判断は間違いである。
「このような不完全な形でリンクバーストすれば、邪英化してしまうぞ」
「構わない! あいつを倒せるならば!」
 その瞬間、何かが砕ける音が洞窟内に響き渡った。
 消失する周囲の霊石、そして義手もバラバラに爆炎で吹き飛ばされるカグヤ。
 黒い霧に覆われる緋十郎。そして。
 悪夢の戦いが始まった。


後章 帰還

「カグヤさん、もう少しですからね」
 そう雲はカグヤを背負って階段を上っていた。
 血を流し、満身創痍で。カグヤに至っては砕け散った義手からバチバチと電気を発して。
 この度の戦闘、端的に行ってしまえば、この二人以外に生き残った者はいなかった。
「緋村さん……」
 雲は思い出す、禍々しい彼の最後の姿。
 彼は邪英化したまま、アルマレグナスと戦い、激しい死闘の末。
 それを撃破していた。
 しかし度重なる戦闘で洞窟自体が耐えられなくなり、彼は床に開いた大穴に飲まれて行った。
「これで、終わったんだよな」
 本当の脅威を知らない雲は、やっとの思いで地上に帰還した、太陽の光を浴びながらベースキャンプを目指して歩く。同時に安堵のため息を漏らした。
 しかし、それは間違いだ。
「帰還した……西大寺さん」
 そうテントの掛け布をおして入室すると、そこには雲に背を向けて座る遙華の姿があった。
「西大寺さん、至急救助班を」
 そしてカグヤをテーブルの上に寝かせ、ドロップゾーン内で発生した出来事を話そうと歩み寄る。
「まず先にカグヤさんを……」
「無駄じゃ」
 その時、冷えたカグヤの声が雲の耳に響き、そして、遙華の体が傾いだと思うと。
 その首の上に載っていた頭がごろりと床を転がった。
「ふふふふ、あはははははは」
 カグヤは笑う。
「してやられたのう。ははははははは」
 討伐に向かったリンカーも、ベースキャンプの人間も二人を除いて皆殺し。
 応援も救出もいつ来るかはわからない。
 そしてあのアルマレグナスの量産体がいつ目覚めるかもわからない。
 雲はおもわず膝をついた。
「本当の敵はアルマレグナスではなかったということか、それが此度の敗因か」
 絶望がこの空間を支配していた。そんな中、カグヤは鉛のような疲労にとらえられ、徐々に意識を手放していった。

  *   *

 冷たい水が顔にかかり目覚める。
 上空から光が降り注ぎ、傍らには少女が寄り添って寝ていた。
 その寝顔を見て緋十郎はすべてを思い出す、アルマレグナスとの戦闘、邪英化。そして足の痛み。
 緋十郎は砕けた足の痛みにうなされ、レミアはその声で目を覚ます。
「共鳴すれば歩けるわ。だから今は、少し休みましょう」
 そうレミアは緋十郎に安息をすすめた。
 しかし、そうは言っていられない状況に二人は追い込まれる。 
 ついで響いたのはガラスが割れるような音。それが連続して響き。上空の穴の向こうにアルマレグナス達が解放されていく。
 それは頭上に開いた出口に向けて羽ばたいていく。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『カグヤ・アトラクア(aa0535) 』
『流 雲(aa1555) 』
『狒村 緋十郎(aa3678) 』
『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001) 』
『西大寺遙華(NPC)』
『アルマレグナス(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせしてしまってすみません。鳴海です!
 この度はOMCご注文ありがとうございます。
 今回のテーマは敗北、ということで絶望的な状況を作るために頑張ってみました。
 私としては好きなんですけど、このお仕事をしているとこういう話を描くことが少ないので、楽しかったです。
 肉体的なダメージ、精神的なダメージ両方とも与えらることができていれば幸いです。
 それでは、本編にてまたお会いできればうれしいです。
 鳴海でした、ありがとうございました。







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2016年06月24日

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