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『Je t'aime Je t'aime. 』
ジェシー=アルカナka5880)&クリスティーナ=VIka2328
 傾き始めた陽が、石畳を照らしている。街中で一組のカップルと擦れ違いつつも、どこか疲れたような顔でクリスティーナ=VI(ka2328)は馴染みの店『Creidne クレーニュ』の扉を開いた。中は相変わらずセンスよく品物が並べられ、飾られた宝石がランプの燈を反射している。
 外に見え始めた星たちを思わせるような煌きの中、ジェシー=アルカナ(ka5880)は突然の来客に気付いたようで顔を上げた。いつものように女性的な一言を零す。
「あら」
 見れば暇を埋めるために新作のアイデアを練っている最中だったのか、顔を上げたジェシーの手元にはメモ書きが残っている。まだぼんやりとした、形に成らない構想にクリスティーナが目を留めているうちに、ジェシーは視界に客の姿を認め、そのまま言葉を紡いだ。
「賑やかな人が来たものね」
 クリスティーナは『恋人』の前での意地か取り繕うように笑みを作る。しかし、ジェシーはクリスティーナになにがあったのか察し、敢えて彼の急所に触れた。
「疲れてるみたいね。また隣の人に弄られていたのかしら?」
「そんな事よりお前の愛で俺を癒してくれ」
 誤魔化すように尻に手を伸ばしながら苦笑したクリスティーナにヒールで応じつつ、ジェシーは何かを察して微笑んだ。
「本当にあの人のこと嫌いなのねぇ」
「いや別に嫌ってるわけじゃないが……目の前の可愛い恋人に愛を紡ぐ方が大事だろ?」
 ばつが悪そうに逸らした視線を暫くの間の後ジェシーに戻し、クリスティーナはまた笑みを形作った。今度は先ほどよりは余裕がある。
「……まぁ、とりあえずお茶でもいかが? もう今日は閉めるわ」
「いいのか? いつもより早いだろう」
「いいのよ、ちょうど暇だったから」
「なるほど」
 クリスティーナは訪れた時にあったメモを思い出してお言葉に甘えて、とでも言うべきか、閉店作業を行っているジェシーに促されて、店の奥へ歩を進めた。

 これでよかったかしら。静まり返った店内に響くジェシーの声に、クリスティーナは頷いた。彼の声に応えるように、茶の注がれたティーカップがクリスティーナの前に置かれる。柔らかい香りが周囲に広がった。カップに口をつけたクリスティーナを横目にジェシーは棚から適当にいくつかの茶菓子を選ぶ。
「暑くなってきたわね」
「ああ」
 交わされるのは他愛ない、ちょっとした雑談だ。ジェシーがクリスティーナの話を聞き、返す。合間に生まれる沈黙の間に手がティーカップと茶菓子に伸びた。
「もうすぐ夏だ、今度何処かに遊びに行こうか。二人で」
「悪くないわね、でも遠慮しておくわ」
 クリスティーナが囁く甘い言葉に、ジェシーは動じずあしらう。クリスティーナもそれに気を落とすことなく――むしろ、そう返されると信じていたかのように――先ほどの客を思い出しながら、次の言葉を紡いだ。
「この時期は結婚式向けの注文が多いのか?」
「そうね。人生で主役になれる数少ない機会だもの、特に女の子は気合入れるわねぇ」
 六月の花嫁の話題は、二人の間でどこか他人事のように過ぎ去っていく。あのドレスにはこういったデザインが良い、思い出の品であるこの石を絶対に使ってほしいといった、なんてことはないありふれた、しかし本人にとってはとても大切な依頼をジェシーは今月までいくつか請けていた。それらは、クリスティーナが見たカップルへの納品を終えてひと段落ついたといったところだったろうか。
「あんたはしないの?」
 しないだろう、と内心ではわかっているものの、ちょっとしたからかいを込めてジェシーは尋ねた。クリスティーナもその意図をわかってか、どこか淡々とした様子で
「俺はまだ恋人たちと戯れていたい」
 とだけ応えた。それだけではなく、クリスティーナもジェシーを見つめ、
「お前は」
 と訊いた。ジェシーはふっと笑って返す。
「まだ先」
 する気がないといった意志を込めたジェシーの言葉にクリスティーナは目を細め、茶菓子に手を伸ばした。口元に運んで咀嚼すると控えめな甘さがクリスティーナの口の中に広がった。
「美味いな」クリスティーナが素朴に感想を述べると、ジェシーはただ思い出すように言う。
「前にお客さんがお礼にって持ってきてくれたのよ」
 最近流行の洋菓子店が売り出している品物だったとジェシーはいう。渡された時、洒落たハコの中は東方の菓子を模した珍しい見た目のものから見慣れたクッキーまで、あらゆるお菓子でみっしりと埋められていて、まるで幼子が目に映るものを必死に詰め込んだ宝箱のようだった。
「よほど気に入って貰ったんだな」
「そうみたいね。……口に合うならよかった。安心して、まだたくさんあるわよ」
 次に手を伸ばしているクリスティーナの手を視線で捕まえたジェシーは相手の言葉を待つ前にそれを告げた。
「なんだこれ」
「東方のお菓子……の模倣みたいよ? 饅頭っていったかしら」
 慣れない味に驚くクリスティーナの反応にジェシーは吹き出した。と同時に、クリスティーナと同じものを手に取り、口に入れる。
「すごく甘いからお茶と一緒にって言ってたわね」
 時間か、雑談の効果か知れないが、どこかクリスティーナも安らいでいるように思えた。
「少しは元気になったんじゃないの」
「お前のお陰だな」
 その言葉に偽りはないようで、ジェシーも安心したように微笑んだ。

 他愛のない話に花を咲かせている中、ふと外を眺めればクリスティーナが店を訪ねた時とは打って変わって、陽は夜の帳の中に消え、星たちはより光を増して瞬いている。尚晴れている紺色の空には夏の星が見え始めていた。街には灯が燈り、酒場から陽気な歌声が届く。
 なんでもない景色から時間の流れを感じた。ジェシーは店内の時計に視線を傾ける。
「もうこんな時間なのね」
 クリスティーナも釣られるように時計を見、立ち上がった。時計が示している針は大きく進んでいて、白昼夢のように須臾のうちに過ぎ去っていった時間を思い出させる。
「そろそろ帰る?」
「そうさせてもらう」
 そのまま背を向けて店を出ようと歩くクリスティーナの背中に、ジェシーは追いかけるように声をかけた。
「あぁ、ついでに……あんたが前に頼んでたのも出来たわよ。受け取って行ってちょうだい」
 その声にクリスティーナは振り返り、引き返す。彼が自ら恋人と呼ぶ者たちへ贈るために頼んでいたそれらは、ジェシーが差し出した箱の中で店の灯を反射して煌いている。クリスティーナはその一つにやさしく触れると口を開いた。
「相変わらず完璧な仕事だ、惚れ惚れする……いや、もう惚れてるんだけどな?」
「あらお上手」
 クリスティーナの反応に、言葉とは裏腹にジェシーも満足そうに応える。
「喜んで貰えたようでよかったわ」
 大事に仕舞われてクリスティーナの懐に入ったアクセサリーたちを見て、それを贈られる恋人たち―クリスティーナの仲間―にジェシーはぼんやりと思いを馳せた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5880/ジェシー=アルカナ/男性/25歳/格闘士(マスターアームズ)】
【ka2328/クリスティーナ=VI/男性/49歳/闘狩人(エンフォーサー)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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大変お待たせいたしました。こちらの確認ミスにより大幅に遅延してしまい、ほんとうに申し訳ありません、黒木です。
久しぶりの執筆となりましたが、お二人のご期待に添うようなものになっていたら幸いです。
この度は発注ありがとうございました。
白銀のパーティノベル -
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ファナティックブラッド
2016年07月27日

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