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『光の袂へ。 前篇 』
北里芽衣aa1416

プロローグ

 夜が、夜が来るのが怖かった。
 涙を流して、早く朝が来ることを願った。
 けれど神様は無情で、毎日同じ時間に太陽を上らせ、同じ時間が過ぎると太陽を奪い去る。
 そんな世界が大嫌いで、信じるということをやめた。
 信じる物のなくなった世界では、ただひたすらに孤独になった。

第一章 幽霊とカラス
 バスが停車すると『北里芽衣(aa1416) 』は勢いよくバスを飛び出した。少ない荷物を背負って坂を駆け上がる。
 蝉の声より甲高く響く、子供たちの声。それが芽衣の胸に響き戻ってきたんだという興奮がわずかに宿す。
 そんな風に思えることは、芽衣にとってはとても不思議なことだった。
 芽衣はもともと孤児院という場所にそれほどいい思いを抱いていない。
 なのに、なぜだろうかここに来るのは抵抗がない。それはきっと彼がいるからだろう。

「うああああああああ、ファズが盗った! おかし盗った!」

 孤児院の一室から響く少女の声。その声に芽衣は溜息をつくと扉を勢いよくあけた。
「健吾君!」
『小鳥遊 健吾(NPC)』がそこにいた。小さな女の子が健吾を指さし泣いている。
「うわ、やべ。今日は芽衣が来る日だったっけ」
「だめです、健吾君あんなに人から物を盗っちゃダメだって言ったじゃないですか」
そう健吾に詰め寄る芽衣。
「いや、別にとってねえぞ」
「お菓子くらい私が買ってきてあげるって言ったじゃないですか。ほら」
 そう幻想蝶をふって芽衣が取り出したのはクッキー詰め合わせ。子供たちの中から歓声が上がる。
「ごめんなさい、健吾君が盗った分はこれで許してくれませんか?」
「とってねーっての」
「うん、ありがとう! めいお姉ちゃん」
「けっ」
 そう健吾はつまらなさそうに部屋を後にした。
「お姉ちゃんからクッキーもらったよ!」
 子供たちはクッキーをみんなで分け始める。
 その後芽衣は保母さんたちから、よく来たね、だとか。いつもありがとうねという一通りの歓迎を受けると、すぐさま消えてしまった健吾を探しに。
(健吾君、また一人でいる)
 芽衣は何度もあしげく孤児院に通ううちに、健吾と仲良くなったと。個人的には思っていた。
 けれど彼はまだ心を許してくれていないのだろうか、気が付けば彼は一人でいる。
 今回彼は裏庭の隅にいた、青い空を見つめながらボーっと佇んでいた。
「健吾君?」
 そんな健吾がほっとけなくて、また芽衣は声をかけてしまう。
「ん? なんだよ」
「健吾君、孤児院楽しい?」
「なんで、そんなこと聞くんだよ」
 健吾はそっけなくそう返す、いつものことだ。でも芽衣はそれが悲しかった。
 きっと一人でいる孤児院はとてもつらい。周囲に同い年の子供たちしかいないからこそ、孤独が浮き彫りになる。周りの人間と違うんだってことがどうしようもなく、感じられてしまうはず。
 それを打ち明けてくれないというのはきっと、その程度の関係ということだろう。
「お前には、関係ないだろ!」
「関係はないかもしれないですけど、気持ちはわかるよ?」
「俺の何がわかるんだよ」
「だって、私も孤児院にいて、一人ぼっちでしたから」
 そう微笑む芽衣。
 そんな芽衣から視線をそらしそっぽを向いてしまう健吾。
「……俺は別に、ぼっちなんかじゃねぇよ」
「あ、そうですね。ごめんなさい。言いすぎました」
「そうじゃねえ! ……、でも、その…………」
 芽衣は健吾の隣に腰を下ろす。
 拒絶されなかった、むしろスペースをあけてくれる。
「なんで、芽衣は孤児院にいたんだ?」
 健吾がそう尋ねる。
「お父さんとお母さんが死んじゃって」
「…………俺も一緒だ」
「ねぇ、健吾君、孤児院楽しいですか?」
「…………つまんねぇ」
「どうしてです?」
「餓鬼ばっかだから……」
 そう健吾はあたりを見渡す、そこには無邪気な笑顔が雑草のように無数に咲いている。
 それが健吾にとって耐えがたい苦痛だった。
「俺は、こうやって守られて笑ってる奴嫌いだ。こんな平和、本当はなかったはずなんだなのに、そのことをこいつらは知らない」
 健吾は低く声のトーンを落として芽衣に告げる。
「いつ奪われてもおかしくないんだ、俺みたいに。そしてここにいる奴らは俺みたいに弱いから、だからきっと奪われる……」
 そう健吾は拳を強く、強く握りしめた。
「奪われる……」
「奪われませんよ」
 その言葉に、健吾は弾かれたように顔を上げた。
 芽衣がその赤い瞳で健吾を見つめている。
「今日は私がいます。私が護ります。だから……、震えないでください」
 そう芽衣は、健吾の手を取った。
 その瞬間、健吾の顔が火でも点けたように真っ赤に染まる。
「と言っても今日は、英雄を連れてきてないんですけどね」
「ててててて、てめぇ、それじゃ何の意味もねぇだろうが!!」
 あわてて立ち上がりそっぽを向く健吾である。
「それが盗んでた理由なんですか?」
「……」
「こう、ちょっとでも抵抗できるようにと言いますか」
「うまく言えないなら、無理してオブラートに包まなくてもいいぞ。そうだよ、俺は両親を『奪われた』から奪うんだ」
「そんな理由でとっちゃだめです!」
「本当に盗るつもりだったらもっとひどいことやってるっての! これはな、勉強なんだよ! 世の中いろんな危険があるんだって教えてやってんだ」
「それは口で伝えてはだめなんですか?」
「伝わるわけないだろ」
「伝わりますよ。目を見てきちんとお話すればみんな聞いてくれます、私のお友達がそうです……」
「…………おまえ。なんでそんな笑ってられるんだよ」
「え?」
 芽衣は頭の上にハテナマークを浮かべて健吾に問いかける。
「お前、両親がいないってひどいことなんだぞ。それにその年でリンカーって、それもひどいことなんだ。なのに何でお前そんなに笑ってられるんだよ……」
「……何ででしょう?」
「宿題な。俺ばっか質問攻めにしてうぜぇから、考えてこい。答えを出すまで俺はお前の質問には答えねぇ」
「えー」
 芽衣はおどけた調子でブーイングをかける。いつも英雄がやっているように不機嫌そうな顔を作って。
「えーじゃない」
「今、幸せですか?」
「お前、本当に人の話聞かねぇよな」
 芽衣は微笑む、そんな芽衣に笑みを向ける健吾。
「教えない」
「じゃあ、じゃあ最後に一つだけ教えてください」
「なんだよ」
「なんで健吾君は『黒鳥のファズ』って呼ばれているの?」
 その質問に健吾はたっぷり悩んだ後。
 ついて来い。そう言って、芽衣を森の中へいざなった
 
    *    *

「黒鳥のファズの由来、なんでそんなもの訊きたがるんだ?」
 健吾はそう言いながら芽衣の前を歩く。
「そこ、木の根が輪みたいになってるか」
「うわわわ」
 大自然に足を盗られてよろける芽衣、その体を抱き留める健吾。
「リンカーって全員運動が得意なイメージがあったぜ」
 そう笑って先へと促す。その先には開けた場所があり、その樹の根には鳥の巣のようなものが鎮座していた。
 その上に大きなカラスが佇んでいた。
「本当はこいつがファズなんだよ、ただ孤児院の奴らからこいつを隠そうとしているうちにな『黒鳥のファズ』なんて呼ばれるようになったんだ」
 なんでもこの鳥、一度健吾が助けると頻繁に彼の元を訪れるようになり、すっかりなついてしまったらしい。
「ファズと話をしているところ聞かれたり、あとは孤児院の食糧持ち出してるのが感づかれそうになったり。あと普通に見られたり」
 最初のうちは、カラスと仲良しの健吾君とか、ファズと健吾君とか、よくわからない名前で呼ばれていたらしい。だが誰かが黒鳥のファズで統一したらしかった。
「こいつが今では俺の家族、唯一のな」
「可愛いですね」
 そう芽衣がファズに手を伸ばすと、そのカラスは大人しく頭を差し出した。
 撫でさせてやっているとでも言いたげなふてぶてしい視線を芽衣に向ける。
「ただ、ここら辺の林切っちゃって、孤児院増設するって話が出てるんだよな、そしたらファズのすみかをどうするかって……。どうした芽衣?」
 健吾はその時、芽衣のわずかな変化に気が付き言葉をかけた。
 芽衣はというと、この鳥からわずかな霊力を感じたので、ファズをじっと見つめていた。
「…………」
 カラスは芽衣を見ている。
 芽衣もカラスを見ている。
 気まずい無言がしばらく続くと、芽衣は唐突に健吾に行った。
「この子、カラスじゃないです」
「え? なんだって?」
「この子、本物のカラスじゃないです」
 その言葉を受けて『ファズ(NPC)』はなんと。
 ため息をついた。 

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『北里芽衣(aa1416) 』
『小鳥遊健吾(NPC)』
『ファズ(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はOMCご注文ありがとうございます。
 それも連作ということで気合を入れて書かせていただきました。
 こう書いていて気が付いたのですが、健吾君は芽衣さんと境遇が似通っているんですよね。
 そしてお互いにまだ救いはない。
 救われないまま、救いを求めてもがいている二人が出会えば。
 やっぱり一つの重厚な物語になりますよね。
 と言っても今回で救いが与えられるわけもなく。
 ですが、ここで芽衣さんの救いに至る物語が始まればいいなと願いを込めて、分厚く書いてみるつもりです。
 今回は前編後編のご提案ありがとうございました。実は書きたいことが多くて悩んでいたところだったんです。
 もう少し時間はかかりますが。芽衣さんが喜ぶ物語をかきあげられればと思います。
 それでは鳴海でした。ありがとうございました。
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2016年08月23日

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