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『●Lyrical 』
聖陽aa3949hero002

 猫が走る。
 犬が吠える。
 ……狼が。
「────賑やかだねェ」
 聖陽(aa3949hero002)は田舎に建った一軒家の庭先でぼそりと呟いた。
 彼の主人の居候先はたくさんの”ペット”が居た。ほとんどが拾われたものらしいが、どれも元気に暮らしている。家主たちより多いそれらが我が物顔で家を庭を居心地良さそうに暮らしているのを見ていると、もしや自分の主人も同様に拾われたのではないかと不安になるほどだ。
 ちなみに、主人は虹蛇のワイルドブラッドだが、超マイペースな彼のここでの楽しげな暮らしぶりはここのペットたちの幸せな様子と比べても遜色ない。
 紫煙をくゆらしながらそんなとりとめのないことを考えていると、足元から声がした。
「────おう」
 まっすぐに彼を見上げるその澄んだ瞳は、ここの住人を見るとすぐに寄ってくる『人懐こい良い子』と評判の猫だ。
 だが、聖陽がしゃがんで撫でようとすると、その猫は一声鳴いて素早く茂みへと飛び込んで姿を消した。
 人懐こい良い子が、唯一、聖陽だけには近づかない。
「…………猫にも、余所者はわかるのかねェ」
 いつもつれない態度を見せるその猫が消えた方が見て、聖陽はなんとなく呟いた。
 仮にも組織のボスである彼の主人がなぜこんなところに居るのか、聖陽は知らない。曖昧な返事が返ってくるだけだろうと、特に聞く気もない。
「まァいいさ。”仕事”へ出かけるかねェ」
 自分には関係ない、気にすることでもない。聖陽はそう結論付けた。


 元々、自分は武器だから持ち主が変わることに異論は無い。むしろそういう事も当然だと思っている。
 ────ヤン。
 新しい主人が彼をそう呼べば、彼はそれに応える。
 だが、その度に元から主人を慕う”先輩”が物凄い顔で睨んでくることがあった。後から主人に近づいた聖陽を敵視する気配があった。
「本当、やだねェ、面倒臭くて」
 何かと”先輩”はグチグチと言ってくるが、そんなのは適当に聞き流すだけだ。
 持ち主が変わったことにも不満は無いし、武器として存分に”使って”貰える今の環境も気に入っている。
 それが、H.O.P.E.のエージェントとしての仕事にしろ────組織の仕事にしろ、だ。
 だが、相手はそうでは無かったらしい。
「いい加減、お前みたいな新参者に組織を好き勝手にされたくないんでね」
 ”先輩”────、組織で何かと目立っていた男がそう言った。
 呼び出された屋敷の部屋では、たくさんの殺意を持った手が”武器”を構えて聖陽を狙う。
「俺様をどうかしたとして、それでテメェの何かが変わるとも思えないんだがねェ」
 呆れたように聖陽は言い放った。
 確かに男は長く組織に居たが、短慮で好戦的で、とても幹部の器ではなかった。なのに、何を勘違いしたのか、幹部になった聖陽を目障りに思って行動したのだろう。
 ────ほらな。器じゃねェんだ。
 聖陽の言葉に、男の顔色がみるみる変わる。感情的で酷くわかりやすい。
 男の周りで聖陽を狙う銃が一斉に動いた。それぞれに耳栓が見える。建物内だと言うのに消音機能すらついていないということは、そういうことなのだろう。
「該死的!」
 毒づきながら荒々しく男が合図すると、ぐるりと囲んだ刺客たちの銃が一斉に火を噴いた。
 爆音轟音。それらが止むと、聖陽は咥えていた煙草を床に吐き出し、ため息をついた。
「それで終いってわけじゃないだろう? そんな粗末な戦い方しか出来ねェんじゃ、”銃”が泣くなァ……!」
 AGWではないその弾丸は『英雄』である聖陽の身体を傷つけない。そんなことも知らない浅はかな男たちを聖陽は醒めた青い瞳で見つめた。
「────ひっ」
 すらりと、聖陽の剣が引き抜かれた。

 銃声を聞いたのだろう。嬉々とした顔で扉を開けた老人の顔を見て聖陽は呆れた。
「なんだ、あんたもかよォ」
 赤黒く汚れた室内に一人立つ剣を収めたばかりの男。
 老人は部屋の中の凄惨な状況を見て、一瞬、言葉を失ったが、即座に連れて来た部下たちの後ろに下がった。
 前に出た男たちが銃を構える。
「皆、俺様が嫌いなんだなァ────切ないねェ!」
 素早く聖陽が抜いた銃が弾丸を吐き出す。放たれたそれは無駄なく敵を撃ち抜いていく。
「ば、化け物め!」
 頭蓋を弾けさせた部下たちの後ろで老人が悲鳴を上げた。
 しかし、聖陽も僅かに眉をしかめる。彼の肩を掠った敵の弾丸は痛みを彼にもたらした。
 ────流石にこちらさんはAGWを使っているか。
「まァ、やることは同じだ」
 少し顔を歪めると、聖陽は自分の銃を正確に老人の額へと合わせ、引鉄を引いた。
 もう老人を守る盾は無い。
 空気を震わせ銃が鳴る。弾けた赤い果実が壁紙に赤黒い花を描いた。



 夜明けに訪れる一時だけの藍色の世界。それはまるで閉じた硝子箱のような冷たい世界。
 疲れた身体を引き摺って、聖陽は居候先にこっそりと帰って来た。
 ────疲れた?
 まあ銃だってくたびれる。
「────おい」
 不意に足元であつい熱がもぞりと動いて、聖陽は小さくため息を付いた。
 居候先の例のつれない猫が濡れた毛を擦り付けて来た。
「なんだ、テメェさん、まだ起きてたのか」
 寝ぼけて朝露にでも突っ込んだのか。いや猫だからそれは無いか。
 珍しくすり寄って来たそれを聖陽は抱え上げた。ごろごろと喉を鳴らしていた猫が不意に顔を背けた。
「ん、もしかして、テメェさんは煙草が嫌いなのか」
 疲れて、火も点けずに唇で軽く咥えていただけの煙草を仕舞う。すると、それは聖陽の頬に顔を擦り付けて来た。
「なんでェ、ドンだって────」
 ぼやきかけて、彼の主人がこの猫の前では煙草を吸っていなかったことに思い当る。むしろ、家主に叱られて煙草自体、多少控えているようにも見えた。
「…………はァ、この家じゃ猫にまで気を遣うってェのか」
 家人の寝静まった夜明け前。彼は無意識に音を立てないよう、そっと縁側に腰を下ろした。
 囁くような微かな声で猫が鳴き、聖陽はおかしみを覚えた。
「テメェさんも、気を遣ってるんだなァ」
 呟くと、彼は瞳をゆっくりと閉じた。肩から首元へと移ったあつい塊がじんわりと彼の身体に熱を移してゆく。膨らんだ毛並みも、もう濡れてはいないようだった。
 ふと、空気が緩んだ。
 顔を上げると、硬質な藍色の空気が薄まって世界が輝きだしたように見えた。
 誰かが起きたのだろうか。温かい空気が動いたのがわかる。
 明け方の、冷たく冷えたはずの身体に移された熱がある。

 ────あぁ、ドンがココを離れたくねェってのが分かる気がする。

 ひとつ、息を吐く。
「…………まァ、よろしく頼むぜェ」
 聖陽が軽く撫でると、猫は嬉しそうに彼の頬に顔を擦り付けた。



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa3949hero002/聖陽(シォンヤン)/男性/35才/カオティックブレイド】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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聖陽さんのお話、ご依頼頂きありがとうございました。
訪れたばかりの第二英雄のお話は緊張しましたが、
なるべくキャラクターを損なうことのないよう気を付けて書かせて頂きました。
気に入って頂けたら幸いです。
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2016年10月11日

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