▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ハーミット 』
―・雛月8575


 いらっしゃい、よく来たね。ゆっくりしておいでよ。
 なぁんて言いたいとこだけど迷惑なんだよ。僕はね、子供が大ッ嫌いなんだ。
(特にお前たちなんか、顔も見たくないんだよ)
 子供みたいなもんだろう? 3人とも。成人式ちょい前の坊ちゃん1人に、中坊の嬢ちゃん2人か。
 ふん。モテる男が両手に花、ってわけじゃなさそうだね。兄妹か。兄貴と、双子の妹だね。見りゃわかるよ。
 嫌な事も知らずにぬくぬく育ってきた坊ちゃん嬢ちゃんだってのも、見りゃわかる。それが悪いとは言わない。世の中の嫌なとこなんて、見ないで済むならそれが一番いいに決まってんだからね。
 で? 幸せに生きてる子供たちが、こんな所に何の用だい。
 僕が一体どういう奴なのか、聞いた事くらいあるんだろう。嘘つき魔女? ははん、今はそんなふうに言われてるのか。ま、否定はしないよ。
 一応、自己紹介はしておこうか。名前は雛月。見ての通りの、くそ女だよ。
 あ? だから雛月は雛月さ。苗字なんてない。僕にはね、家系も家族もないんだよ。親だっていない。
(ま、見方によっちゃあ僕は……お前ら3人の、認知されてない姉貴みたいなもん? お前らの母さんはね、1人で僕を生み出して、だけど長い事ほったらかしにしてやがったよ)
 ちょっと訊いてもいいかな。家族がいるって、どんな感じよ? 親父さんおふくろさんの事、どう思ってる?
(ちなみに僕は、あいつらの事は大嫌いさ)
 ふん、お父さんの事もお母さんの事も大好き? 尊敬してる? お前らの年齢ならさ、両親なんてものウザったくてウザッたくてしょうがないんじゃないの? 反抗期に反抗し損ねると、精神的に自立出来なくなるって聞くけど。
 ま、する必要もないか自立なんて。誰かに寄りかかって生きていければ、それもいい。その誰かを、ちゃんと守ってあげられるんならね。
 それにしても……双子の嬢ちゃん、あんたたち本当にそっくりだねえ。まるでセットで売られてる商品みたい。周りの人たちもさ、どっちがどっちかわかんなくて難儀してるんじゃないの?
(……僕はわかるけどね、どっちが誰なのか)
 で話は戻るけど、何しに来たのさ、こんな所へ。
 まさか仕事の依頼じゃなかろうね? 昔やってたゴミ掃除の仕事なら、とっくに足を洗ってるよ。
 今の僕は、隠居の身。そう……このカードみたいなもんさ。
 見てごらん、じじいがランプ掲げてどこかを見下ろしているだろう?
 過去を、見ているのさ。
 過去の物事を見下ろして、観察して、時には上から目線で誰かに語ったりする。
 今の僕に出来る事は、せいぜいそんなもの……何だよ、語って欲しいのかい? 過去の物語をさ。
 お前ら3人に関わり深い、過去の物語なら……ほらここに、確かにある。
 それを、読んで聞かせて欲しいのかい。ご本を読んでもらって喜ぶ年齢でもなかろうに。
 まあ確かに、お父さんお母さんに直接訊ける事でもないからねえ……だからってさ、僕から聞き出してどうすんの。
 こんな話を聞いて、どうする。興味本位なら、本当にやめておいた方がいい。
 それとも、まさか……自分の運命を、受け入れて戦う。温室育ちのお子様方が、そんなつもりになってんじゃないだろうねえ?
 わかったよ。どこまで耐えられるか、まあ試してみようじゃないか。


 昔々。ヨーロッパのある国にね、とっても恐い王様がいたのさ。
 その人はね、血生臭い事をやり過ぎて、神様から見放された。人間じゃ、なくなっちゃったんだよ。
 化け物になっちまった王様は、だけど長生きは出来なかった。戦争の最中に、暗殺されたのさ。化け物の力を恐れた、味方の連中にね。
 だけど大丈夫。生きてる間に随分と種蒔きに励んだから、子孫はいっぱいいるわけよ。
 あ? 何だい嬢ちゃん、種蒔きの意味がわかんないっての? 本当にわかんないなら後でお兄ちゃんに訊いてみな。
 とにかく今からお話するのはね、その子孫の1人……東ヨーロッパの片田舎に生まれた、野良犬みたいな坊やの事さ。
 その子もね、最初から野良犬だったわけじゃあない。親父さんが大統領の側近でね、随分といい暮らしはしてたんだよ。その大統領は革命騒ぎで殺されちゃったんだけど、まあそんな事は関係なしに坊やは幸せに暮らしてたんだ。
 そんなある日、坊やは夢を見た。
 大昔に死んだはずの……そう、化け物になった王様がねえ、夢の中から話しかけてくるんだよ。
(そろそろ、お前らの夢にも出てきてるんじゃないかい?)
 おかしな夢に悩まされながら、それでも坊やは平和に暮らしていた。
 坊やの住んでた村はね、本当に平和だったんだ。
 ところが。
 この村の、村長の息子って奴がねえ。ちょいとばかり問題ありでね……こいつが何をやらかしたのか、聞く? 聞いちゃう?
 有り体に言うとね、性犯罪と人殺しさ。村の女の子を1人、まあそういうふうに扱った。
 その死体をねえ、坊やの家の納屋にこっそり放り込んだ連中がいるわけよ。村長と結託してね。
 狙い通り、坊やの親父さんが見事に疑われてしょっぴかれた。
 それだけじゃない。坊や本人も、学校でえらく苛められた。
 どうだい、胸糞悪い話だろう。聞かなきゃ良かっただろ。
 正直言ってね、僕もそうさ。これ以上話すと、胸糞悪くて吐きそうになる。
 おっと謝るなよ。僕はね、謝られるのが大嫌いなんだ。何でかって? 3人とも、もう少し大人になればわかってくるさ。謝罪ってのが、どんだけ人の神経を逆撫でするもんなのか。
 ま、キリのいいとこまで話してみようか。吐き気を我慢しながら、ね。
 その村の連中は、正義に燃えた。
 坊やの家に押しかけて、悪い奴らをやっつけたのさ。殺された女の子の、仇を討ったんだ。
 坊やには、とっても元気なお母さんと、病弱な弟がいた。で、2人とも村の連中にね……おや、どうした。顔色が悪いよ? 頼りないお兄ちゃんだねえ。妹ちゃんは2人とも、歯ぁ食いしばって聞いてるってのに。
 まあ安心しなよ、坊や本人は無事だったのさ。学校から家に帰る途中で、自分ちの有り様を目の当たりにしちゃったってわけ。
 頭の中、真っ白になっちまった坊やにね……話しかけてきたのさ。夢の中にしかいないはずの、あの王様が。
 化け物になった王様。その血が、坊やの中で目覚めそうになった。
 だけど一足先に、目覚めていたんだ。坊やの親父さんの中で、その血がね。
 警察から脱走して来た親父さんが、坊やの代わりに大暴れをした。
 坊やの目の前で、化け物になっちまったんだ。
 村の連中は、めでたく皆殺しにされたよ。くそったれな村長親子も、その場でね。
 あの王様の声に耳を傾けると、こういう事になる。
 それを坊やに見せつけながら親父さんは、自分で自分の心臓を握り潰した。
 幸せに暮らしていた坊やは、こうして野良犬になっちまったとさ。
 ……今日は、ここまでにしておこうか。無理はしない方がいい、泣きそうじゃないか3人とも。ここで本当に泣き出されたら、まず誰よりも僕が迷惑するんだよ。
 お茶でも飲んで、今日はもうお帰り。
 続きが聞きたくなったら、またいつでもおいでよ。迷惑だけど、しょうがない話してやるから……野良犬の坊やが、誰彼構わず噛みつきながら苦しんでのたうち回る。そんなお話、まだいくらでもあるからさ。
(あの王様の声……そろそろ、お前たちにも聞こえているんじゃないのかい? そうじゃないにしても、あれだろ。串刺し公の末裔云々とか喚き立てる連中が、周りをうろつき始めてる。親父もおふくろも、お前らを巻き込まず何も教えずに戦おうとしている。そんなとこだろうね……さあ、どうする子供たち。くそったれな運命を、受け入れながら戦う。出来るかい? そんな事が)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年10月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.