▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『近づいていく心と心 』
夜鷹 黒絵ja6634)&由野宮 雅ja4909

 それはとある休日の朝だった。

(……ん、メールの通知……誰だ……)

 夢うつつの夜鷹 黒絵が目を閉じたまま手でそこら辺をまさぐり、頭の下にない枕の下で指先に触れたスマホを握りしめ、横向きのままスマホのロックを解除した。目を閉じたままでも、受信メールボックスくらいまでは簡単に開くことができる。

 ゆっくり目を開け、ぼんやりとする視界に入ってきたのは宛名の、由野宮 雅。ぼんやりとしていた視界がパッとハッキリし、本文に目を走らせる。

 と言っても「遊びに行こうや」という、シンプルなもの。

 シンプルなメールに「行く」とシンプルに返し、それに返ってきたメールもまた、待ち合わせの時間と場所だけが書かれたとてもシンプルなものだったが、黒絵はこのまるっきり飾らず余計な事を書かないやりとりがスムーズで好きだった。

 最後に「了解」とだけ返してのそりと、ベッドの上で起き上がると頭を掻く。乱れていた髪がさらに乱れるが全く気にせず、部屋を見回して適当に畳んでそこら辺に置きっぱなしの服をひょいとつまみ上げる。

「これでいっか……」

 どうせ相手は雅なのだ気を使う必要はないだろうと適当に選んだ服を手にするのだが、どうにも気に入らない。適当でいいと思いつつも、これはダメあれはダメと選ぶのにずいぶん時間を要しながら、選んだ服を手にシャワーを浴びに行くのであった。



「まーた、この時間まで寝てたな、黒のヤツ」

 最初のメールを出してそれに返信するまでの時間、返ってきた内容から雅は苦笑していた。とはいえ自分も誇れるような姿はしていない。朝に目を覚ましたが、ただたんに寝酒と読書しているうちに気が付けば眠っていて、目を覚ましたのがちょうど朝だったというだけだった。

 さて自分も準備をと起き上がった半裸の雅は本が乱雑しているベッドの縁に腰を掛け、まずは一服だと煙草を1本咥え、義肢である左手の人差し指からポッと灯った火で点ける。

 口から紫炎を吐きだし、そして手に触れた本を手に取るとそれに目を通す。

 パラリパラリと少し早いペースでページをめくり、文字に集中しているかと思われたが、灰を灰皿で受け止めるくらいはできるほどである。だが1本のつもりがもう1本咥え、文字から目を離さずに火を灯し、何をするのかも忘れ本に没頭していた。

 ページもずいぶん進み、口元がまた寂しくなってきて煙草に手を伸ばすのだが、とても軽く、手でくしゃりと握り潰しても残っている様子は感じられない。そこでようやく文字から目を離し、そういえばと時計を見るなり「やべ」と漏らし、立ち上がる。

 友達を待たせるわけにはいかない――そう思いはしたのだが、その友達という部分が妙に引っ掛かるというか、違和感を覚える。覚えはするもせっかく黒絵と遊べるのだ、時間は無駄にできないぞと、ずいぶん時間を本に使ってしまった雅は巻き返すべく、急いで身支度を整えるのであった。





「まだちっと早いか――久しぶりだから楽しみになるよな」

 まだ湿っぽいが、それでも寝起きに比べればずいぶんマシになった髪を手グシで整えつつ、ラフな姿で街灯のような時計のすぐ側にある、土が外に漏れないよう積まれたブロック塀に腰を下ろしていた。

 商店街から程よく離れていて人は少な目だが、それでもそれなりに人通りは激しい。

 モミが植えてあるとこの時計すぐ近くで待ち合わせとあったが、これでは自分の姿なんか見つけられないのではないだろうかと思ってしまう。

 だがそんな心配は杞憂だった。

 人ごみの中でもすぐ、煙草を吸いながらこちらに向かって歩いてくる雅の姿を見つけた。向こうも黒絵を見つけたらしく、笑いながら片手を小さく揚げる。


「よぉ、黒」

「ん、久しぶり」


 たったそれだけの短い挨拶だが、ダラダラとお互いお近況を述べ合うよりもずっと、いい。そんな気楽さがお互いに心地よかった。


「今日はどっか行く予定とかあんの」

「特にこれと言って決めてない。行くあても全くないが、それじゃダメか?」


 雅が首を傾けるが黒絵は首を横に振り、「じゃあまあ、適当にぶらっと行くか」と雅が歩き出すのに合わせ、黒絵もその後ろを追いかけ横に並ぶのだった。



 先に言った通り、本当にあてもなくただぶらぶらと商店街を歩き、目に留まったものがあればちょっと寄ったりするが、ほとんどただ歩いているだけのようなものであった。

 だがその間中ずっと学園内での事を話したりしているだけで十分に盛り上がるし、話題も尽きる事がない。特別な何かしていなくても、十分だった。

 一緒にいると楽しい。

 それが2人の思いだった。


「ちょっと、喉乾いたからあそこで買ってくる! 雅も飲むだろ」


 返事も聞かず、たまたま見つけたフレッシュジュースの移動販売車に向かって走り出そうとする黒絵へ、「ぁ? 良いけど転ぶなよ?」と雅の意地悪い言葉が背中に投げかけられ、前に走りながらもくるりと一瞬振り返った黒絵は舌を出して反抗し、また背中を向けて販売車の元へと行ってしまうのだった。

 1人残った雅はとりあえず近くの壁に背を預け、1本吸い終わる頃には戻ってくるだろうと、煙草に火を点ける。

 ところが、1本吸い終わってもまだ来ない。

(混んでるのか、それとも転んでまた買い直しに行ったか)

 ジュースを手に転んで地団太を踏んでいる黒絵を思い浮かべ、くくっと笑いながらもう1本。だがそれを吸い切り、さらにもう1本そしてまた1本と、本数が増えるたびに吸う速度が早まっていく。気が付けば腕を組んで指でとんとんと、落ち着きなくリズムを取っていた。


「遅すぎる……」


 煙草を追加して火を点けると、預けていた背を壁から離す。そして辺りを見回し、黒絵がいるはずの移動販売車へと向かって歩き出した。

 反対車線でこちらに店としての背を向けているので、黒絵の姿はこちらから見えはしないが、わずかに声が聞こえる気がするのでそこにいるのは確信していた。確信はしたのだが、なんだか声の様子がおかしい事に気が付く。

(なんだ?)

 黒絵の声に苛立たしげな物が混ざっていて、複数の男の声までする。

 黒絵の性格と強さを知っているだけに何も心配する事はない――そう思いつつも、雅の足は速くなっていた。

 移動販売車の側面に回り、そして正面へと回り込むと、まず黒絵の姿を確認した。そして取り囲むようにしている、低めの黒絵より頭1つは高い男連中の姿も。

 黒絵も雅に気づいたのか、「どけよ」と行って雅の方へと行こうとするのだが、全くわかっていない男達は黒絵の邪魔をするように道を閉ざす。


「何処行くの? 俺らと遊ぼうぜ?」

「テメーらと遊んでなんかいられねぇって、言ってんだろ!」


 下がれと言わんばかりに振り回す黒絵の腕を、男が掴んだ瞬間、雅の中で何かが弾けた。

 沸き立ちかけたはずの脳内は驚くほど冷めきり、無意識で拳銃を手にして男達の背後に立つと、後頭部にゴリッと銃口を押し当てる。


「人のに何すんだ? ぁあ?」


 どす黒い感情がそのまま口から出たような低い声で、雅は一般人でしかない男達を脅していた。拳銃の効果だけではなく、雅の躊躇なく引き金を引きそうな雰囲気に蒼白となった男達は言葉もなくただ立ち尽くすしかない。一歩もどころか、指一本すら恐怖で動かせないでいた。


「黒、行くぞ」


 呆気にとられ、男達と同じように立ち尽くしていた黒絵の腕を掴み、その場から連れ出す雅であった。




 どれくらいの間、無言で歩いていたかわからない。長いのかもしれないし、短かいのかもしれない。そんな無言を破ったのは、雅の後ろを目で追い続けるしか無かった黒絵だった。


「雅、いてぇって」

「……ああ、悪い」


 やっと平静さを取り戻したのか、雅が力を緩め、黒絵の腕から手を離した。

 気が付けば商店街からずいぶん離れ、待ち合わせをしていた場所にまで戻ってきてしまっていた。むしろ戻りすぎているくらいで、このままでは雅は黒絵を自宅にまでお持ち帰りする勢いだった。

 腕をさする黒絵に「悪い、痛かったか」と声をかけるのだが、黒絵は首を横に振った。


「いや、驚いただけ。雅があんな強引な態度取るとか、思わねぇだろ、普通。腕まで掴んでよ」

「そうか? 嫌だったのなら、謝るが」


 そう言われて嫌だったのだろうかと考える黒絵だが、そんな不快感などまるでない。むしろいつも煙草か本かしか持たないあの大きな手が、自分の腕を掴んだのかと思うと、カッと顔が熱くなるのを感じた。

(何だよ、これ)

 戸惑う黒絵がこの気持ちの正体を雅に問いかけようと顔を上げた瞬間、雅の視線と真っ直ぐにぶつかってしまい、耳まで熱くなってつい、視線から逃れるように顔をそむけてしまう。

 雅は雅でそんないじらしい黒絵の少し熱に浮かされたような目を見た時から、胸の高鳴りが収まらない。

(どうしたんだ、俺)

 さっきから自分がおかしいと、雅は自覚していた。あんな男達、黒絵でも十分だし、銃で脅すほど怒るところでもない――そうは思っていても、ブチ切れても仕方ないだろと思っている自分もいる。

 なぜなら黒絵は自分の――


「雅」


 呼ばれてハッとする雅の前に、黒絵が顔を赤くして視線も合わせずにおずおずと手を差し出す。


「嫌じゃ、なかった。むしろすっげぇ嬉しかったけど……つかむんなら、手の方が、いいな、なんつって……」


 劇的に可愛い黒絵に胸を打たれた雅はこの瞬間、ともだち扱いした時に感じた違和感の正体にはっきりと気付いた。

(そうか、俺は黒との関係が友人なんかじゃ物足りない――それ以上を望んでいたんだ)

 それに気づくと雅にはむくむくと、もっと傍に居たい、もっと触っていたいという欲求が膨らんでくる。そして今、おあつらえ向きに黒絵の手がすぐそこに、ある。

 伸ばされた手に雅がゆっくりと手を伸ばし、指先が触れた。

 たったそれだけの事なのに、お互いびくっと一瞬、手を引っ込めてしまいそうになるが、それよりもという想いが勝り、雅の手はしっかりと黒絵の手を握りしめた。

 その瞬間、体中が熱くなり、痛いくらい高鳴る自分の早鐘に、黒絵も雅もはっきりと自覚した。

(そっか、俺、雅が……)

(黒のことが――)

 まだこの気持ちを伝えるまでは行かなくとも、手をつなぐ前は逃れようとしていた視線も、今はむしろ合わせていたかった。言葉ではなく、目で自分の気持ちが伝わってくれないかと、期待して。

 雅の真っ直ぐな視線を、黒絵は真っ直ぐな視線で返し、お互い、身じろぎひとつせずに見つめ合っていた。

 好きな人と、いつまでも、いつまでも――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja4909 / 由野宮 雅 / 男 / 29 / いつからだろうかこの想い 】
【ja6634 / 夜鷹 黒絵 / 女 / 20 / 恋は乙女を可愛くする 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
甘いノベルを書かせろというわりに長らくお待たせしてしまいました、楠原です、すみません。
恋に気づく感じという事だったので、最初から無自覚にお互いを特別視している様子を描き、後半から直接的に攻めてみましたが、いかがだったでしょう。初々しい恋の芽生えが納得できるものに仕上がっていますでしょうか。
後ろの人は失恋と被ったのですが、きっとあの時の溢れる想いをこめる事ができたかと思います。
またのご依頼、お待ちしております、
WTツインノベル この商品を注文する
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年12月28日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.