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『レクイエム 』
北里芽衣aa1416

 世界は一度滅んでしまった。 
 レガトュス級の降誕。そして人類の生存圏半分が愚神の手に落ちる。
 翼の生えた天使が。海を覆う龍が、水晶質の歌声が。狂気の愛が世界を蹂躙し。
 人類は地球の支配者から退いた。
 世界は荒廃していく、誰も止められない。
 力あるものですら生きられない。力あるものですら守れない。
 そんな生活が一年も続いた。
 これは、それくらいに未来の話。

    *    *

 少女は道を歩いていた。
 ぼろ布のフード。白い髪と表情をそれで隠す。
 彼女はレクイエムと呼ばれていた。
 死に際の物に送る歌。
 その歌にひきつけられるように、彼女の背後にフードの人間たちが加わっていく。
 それは次第に列となり、軍となり。壊れてしまった町東京を突き進む。
 かつては人であふれていた大通り。
 そこには今や破壊の痕跡しかなく、ただただ静かだった。
 こんな世界では希望は存在しない。
 それでも人は死という恐怖に抗い続ける。
 それが理解できないと。レクイエムはつぶやいた。
「さぁ、歌いましょう。この世でたった一つ。救いがあるとすればそれだけなんですから」
 そうレクイエムが高らかに腕を上げると、列のもの達は声をあげて歌った。

 苦痛に解放を。
 悲哀に安息を。
 絶望に終焉を。
 それがこの世界に捧げる、最後の鎮魂歌。

 やがて少女はたどり着く、人の気配が感じられる民家の前。
 彼女が何も告げずとも、後ろから何人も男たちが現れて、その民家の扉をひたすらに叩いた。
 少女の悲鳴が屋内で聞こえる。
「彼女も恐怖に、苦痛に、絶望に支配されています。救出してあげましょう」
 そう告げた瞬間だった。扉が割れた。
 まるで貪るようにその日々から扉を引きはがし、レクイエムは室内へ進行していく。
 少女はすぐに見つかった、自室のベットの下で震えていた。
 レクイエムはその少女にそっと語りかける。
「もう苦しまないんでいいんですよ」
 その優しげな声に、少女は反応する。
 怖い人ではないのかもしれない。
「貴女を助けてあげます」
 救ってくれるかもしれない。
「この世界でたった一つの希望を」
 少女はベットの下から出ようと身を滑らせる、しかし。
 直後彼女を襲ったのは高熱だった。
 民家は爆発した。
 蒼い炎がなめるように少女の部屋ごと焼き尽くす。
 少女は悲鳴を上げたがすぐに、喉が焼かれて声も出なくなった。
 死による救済、これがレクイエムの信じるたった一つの物だった。
「誰も、泣かない世界を作りましょう、誰も泣かないで済む世界を」
 燃え尽きた一室、天井がとけるように落ちて空が見えた。
 その頭上を翼をもつ愚神たちが駆けていく。
 襲撃だ。
 奴らは手ごろな獲物を見つけたのだろう。
「あれらを倒します、行きましょう」
 そう告げ、レクイエムは救済のために愚神の後を追った。

   *    *

 愚神は孤児院を襲撃していた。と言っても機能はあまりしていない。この世界で身寄りがなくなった子供たちの集まれる場所。
 ただそれだけだったが。
 やはり子供とは無力だ。
 レクイエムが到着したころには、ほとんど壊滅状態だった。
 血の色彩に彩られた建物。悲鳴、断末魔。
 懇願。
 死にたくない、死にたくない、死にたくない。
 子供たちを笑って殺す愚神たち、その翼をもいでしまおうと。
 レクイエムは杖を向けた。
 直後大爆発、多数の愚神が地面に叩きつけられる。
「みなさん、子供たちの保護を」
 背後にいる組織の物がチームとなって愚神たちを処理していく。
「助けてくれてありがとう!」
 そう声が聞こえ芽衣は振り返った。
 そこには瓦礫に足を挟まれ脂汗をうかべる少女がいた。
「これで、みんな生きられるね」
 その言葉にレクイエムはピクリと眉を動かした。
 そして。
「苦しそうですね」
 レクイエムは少女に杖を向ける。
「え?」
「今、助けてあげます」
 直後炸裂音、返り血がレクイエムの頬を彩った。
「みなさん。建物の中に子供たちを」
 愚神を殺し切った団員たちを眺め観ると、レクイエムはそう告げる。
 子供たちを先導していく団員達。そして彼らを座らせると団員達も何人かが一緒になって座る。
 そして。

苦痛に解放を。
悲哀に安息を。
絶望に終焉を。
それがこの世界に捧げる、最後の鎮魂歌。

 そう口々に告げる団員たちに、畏怖の視線を向ける子供たち。
 その時にはすでに遅い。
 あたりに充満し始めるガス。
 それは脳の機能をマヒさせ多幸感を味わわせると共に、脳機能を永遠に奪い去る効果を持つ。
 つまり、死。幸福な、死。
 全てレクイエムが開発したものであった。
「もう、苦しまなくていいんですよ」
 幸せな夢に抱かれ、死んでいく子供たち。
 レクイエムは思っていた。
 はじめからこうすればよかったと思っていた。
 あの、騎士も。だれも、かれも。
「おい、何だよこれ!!」
 そんなレクイエムの背後から怒号が聞こえてきた。
 振り返るとそこには黒い少年が立っていて。
 彼はその光景を眺めるとレクイエムに掴みかかった。
「お前! 正気か! 何でこんなことをした」
「もう、苦しまなくていいようにと、そう思って」
「救いのつもりかよ!!」
 そうにじり寄る少年。しかしすぐにその拳は開かれることになる。
 少年の瞳には驚愕の色が灯っていた。
「芽衣……。じゃあお前がレクイエム? お前が全部やったっていうのかよ」
「久しぶりだね、健吾君。そして」
「お前と遊んだ奴らもいるじゃねぇか」
「さようなら」
 直後。芽衣の右手が健吾の腹部を貫通した。
 赤い色彩。彩られる芽衣の頬。
「なんで……」
「楽に救ってあげられなくてごめんね、でもあっちの世界はきっと楽だから」
 そう告げてレクイエムは歩みを進める。少年が来たということはH.O.P.E.の別部隊がいるのだろう。
 それらすべてに、救済を。
 そうつぶやいて『北里芽衣(aa1416) 』は杖を握る。

   *   *

 直後芽衣は針の音で目が覚めた。
 壁掛け時計の針の音。
 体は汗にまみれて濡れており、こするとぬるりと手が滑る。
「……夢?」
 悪夢だった、自分がなんの感慨もなく人を殺す。これを悪夢と言わずになんというのだろう。
 直後携帯電話のディスプレイに明かりが灯った。
 新着のメッセージ、差出人は『小鳥遊 健吾(NPC)』
『次、いつうち来るんだよ』
 そんな短いメッセージを抱きかかえて、芽衣はベットに沈んだ。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『北里芽衣(aa1416) 』
『小鳥遊 健吾(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっています鳴海です! 
OMCご注文ありがとうございました!
今回は芽衣さんのIF,暗黒面ということで、冷えた感じでノベルを書かせていただきました。
芽衣さんは葛藤が多く素敵な方ですね。
かき分けるのが難しいですが、奥深い方だと思います。
それではまたお会いしましょう、鳴海でした、ありがとうございました。
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2017年01月17日

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