▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『魔人 』
煤原 燃衣aa2271)&宮ヶ匁 蛍丸aa2951

 場所は落陽事務所。暁と盟約を結んだこの組織の頭領『月奏 鎖繰(つきかなで さくり)(NPC)』と情報交換の場を設けていた。
『煤原 燃衣(aa2271) 』はソファーに深く腰掛けため息をついた。そんな彼にコーヒーを差し出したのが『黒金 蛍丸(aa2951) 』
「知れば知るほど手に負えませんね、ラグストーカー」
「そうね、すごい組織よ。アメリカのテロ、中国の大虐殺。歴史上最近起こった大事件の裏に、ラグストーカーの影がある」
 鎖繰はそう淡々と告げる。
「陰で、暗躍」
 燃衣は茫然とつぶやいた。
「私達落陽のように、多組織をからめ捕って、それもコマとして動かして、自分たちの正体もつかませない。まるで影のような、死神のような。そんな相手と戦おうというの?」
 鎖繰は一呼吸おいてこう告げた。
「もう降りた方がいいわ」
 鎖繰は改めてそう告げる。普段の暁を取りまとめる彼は、言ってしまえば悪いが。まともに見えた。
 そこに座っている少年と同じだ。仲間のために戦える、その身に狂気など宿していない。
「私にとって、彼等に対してカウンターになることは、意味のあることよ。けどあなた達は彼らに挑んで、みすみす幸せを手放す必要はないと考えているわ、どうかしら?」
 その言葉に燃衣は笑って答えた。
「それは無理な相談ですね」
「何でよ、まだあなたなら引き返せる。だってあなたにはもう、失ってはいけないもの、護りたいものがあるんでしょう?」
「そうですね……、ええ、それもいいかもしれません」
 そう告げた燃衣の言葉尻が妙に冷えていて、蛍丸は思わず視線を向けた。
「……けど、そうじゃないんです。今がどれだけ幸せかじゃないんです。うまく言えませんが、僕は事と次第によっては清君を」
 燃衣はそう告げると首だけ起こして鎖繰を見据えた。その視線に思わず鎖繰は恐怖することになる。
「むごたらしく殺さなといけない」
「鎖繰さん!」
 その時である、鎖繰の部下、落陽に身を置く青年が入出してきた。
「あいつが……玄武が……」
 そのワードに鎖繰が燃衣の視線より強い恐怖をうかべたのを、蛍丸は見過ごさなかった。

   *   *

 燃衣と蛍丸は様子を見るように言われ一階通路、敵が見える位置に待機させられた。
 そこは燃衣たちが鎖繰達と戦った闘技場の入場門近くで、送り込まれた『玄武公(NPC)』は闘技場の中心にいた。
 鎖繰はあの時のように二階から彼と話をしている。
「彼はラグストーカーの中でも、確認できているメンバーの一人。玄武公と呼ばれる人物ですね」
 そう蛍丸は告げた。彼はすでに鎖繰から与えられたすべての資料に目を通していたのだ。
「弱そうですが……」
 何気なく燃衣は告げる。
 彼は背が高いくせにその背を折り曲げ、ずっと詰めを噛んでいる。目の周りには深いしわが刻まれており、鎖繰を前にしてからは息も荒い。
 怯えたように鎖繰と話をするその姿を見ると、鎖繰の方が優位なのではないかと思わされる。
「いったいどうしたというんだ、いまさら来て、私達は組織を抜けると言ったはず」
 鎖繰は堂々と玄武にそう告げた。
「暁と組まれると困るんですよねぇ」
 びくびくと怯えて、鎖繰と視線を交わらせることもかなわない。
 しかし。警戒しているのは鎖繰の方だ。それが蛍丸には分かった。
「ぼくっだって。殺したくない。けど。た、隊長が、あんたらをころせって」
 場の空気が凍りついた。落陽のメンバーがAGWを構える、銃口の数は二十。
 彼らメンバーの実力は暁の保有する戦力とほぼ互角と見立てている燃衣。
 人数は多いが練度が低いわけでもない彼等が、たった一人の敵に後れを取るとは思えなかった。
 もし遅れを取るのだとすれば。
 たった一人で暁本体を壊滅させられるのだとすれば。
 それを成し遂げた愚神を一人だけ二人は知っていた。
 水晶の歌姫。
 彼女に匹敵する戦闘能力、つまりトリブヌス級の戦闘力ということではないか。
「そんな札が二枚以上あれば」
 暁も落陽も終りである。
「いらなくなったから抹消するの?」
 その鎖繰の言葉に玄武は突如、身をよじって笑い出した呼吸困難を心配するほどの引き笑い。次いで玄武は告げる。
「隊長を何もわかってないなぁ、お前たち。だからごみくずなんだぞぉ」
「なに?」
 鋭い鎖繰の眼光、その前に玄武公は縮み上がった。
「ひぃ、ごめんなさい! でもその視線、いいなぁ」
「ふざけている暇があるなら帰って、私達にはやるべきことがある」
「僕もだぞ、うえた種子を刈り取って、さらに育ちの足りない種子には水を上げて」
「何を言ってるの?」
「鎖繰ちゃんは僕がもらっていいんだって」
 その言葉に鎖繰は一歩後ずさった。
「気持ち悪い」
「僕のお嫁さんにしてあげるね、毎晩毎晩ベットに繋いで可愛がってあげる」
「鎖繰さんをそんな風に言うな!」
 そう青年の一人がトリガーを引いた、放たれた弾丸は玄武の肩を貫くも。
「あ?」
 直後である。男の腕が伸びた。
 そして。少年の頭がはじけ飛んだ。
 息をのむ燃衣、目を見開く蛍丸。
「動くな!」
 燃衣が飛び出そうとするのを、蛍丸が止める。
「あれは僕達に向けられた言葉ですよ」
「……しかし、あの少年は」
 燃衣と蛍丸に何度も笑顔を向けてくれた。二人の実力を尊敬し稽古をつけてくれとせがんでいた彼は。不幸なだけであって決して悪い青年ではなかった。
「ひひひは、よえーやつはいらねーって隊長が言ってたぞー」
「私がやる、みんなは逃げて」
 鎖繰は告げた。
「けど鎖繰さんが……」
「アンタらが勝てる相手じゃない」
 そう鎖繰が動いた瞬間燃衣も動いた。燃衣は一階の通路から躍り出て跳躍、二階の通路から切りかかる鎖繰とは別の機動で殴り掛かる。
「出てくるなって言ったのに」
「無理な注文です」
 瞬間、交錯する二人。
 真の敵と戦うためにコンビネーションの練習はしていた、それが生きた。
 燃衣の貫通連拳。その衝撃で足を止めた燃衣の肩を踏み台に加速してすり抜けざまに切りつける。
 燃衣はバックステップしてフリーガーを抜き打ち。あたりを爆炎に包んだ。
 それを鎖繰は玄武を盾に回避。その背とアキレス腱を双剣で切り裂き。
 燃衣はその爆炎を顔面に叩きつけた。
 そしてトドメ。
「貫通……」
「ひぃ、やめてぇ」
 そう悲鳴を上げる玄武。そのあまりに矮小な姿に一瞬拳が止まる、しかしそれがまずかった。
 その瞬間、彼の背がはじけそして、ブヨブヨとした塊が燃衣を襲った。
 弾き飛ばされた燃衣は二回スタンドへ激突。 
 肺からすべての空気が叩きだされて視界が明滅する。
 そんな中でも意識は手放さない。
 そのせいで見た。燃衣は落陽のメンバーが虐殺されるところを。
 飛び散ったのは玄武の肉片、それが闘技場の隅々まで及んでメンバーたちをひき殺していった。
 さらにそれが本体から切り取られると、人形の異形へと変化。
 背中に鎌を持つ蟲。犬のように化身。人間と動物を無理やり掛け合わせたかのような醜悪な姿に落陽は蹂躙されていった。
「なんですか、こいつ」
 相手が人間だとは到底思えなかった。そして。
「煤原さん!」
 鎖繰や他のメンバーを庇いながら戦い続けている蛍丸。
 四方からの攻撃を槍で捌き続けているが。その身にかすり傷が増えていく。
 肉塊たちにはチームワークというものがあった。
 特に力の強い蛍丸には万全すぎる四体体制。
 視界の真ん中に常に一匹、死角に常に一匹、遠距離に狙撃タイプが一匹。そして遊撃者が一匹。
 その攻撃すべてを捌き切る蛍丸だったが。鎖繰へと放たれた弾丸を肩に受けてうずくまる。
「おおおおおお、これだなら、どうだああああああああ」
 直後、死角に潜んでいた一匹が蛍丸に抱き着いた。それに合わせて目の前の一匹も抱き着く。
 何を……そう動きを警戒する蛍丸だったが、その腕力は強く振りほどけない。
「逃げろ!」
 鎖繰がそう叫んだ直後。
 その異形たちは自爆した。
 血の花が咲く。
 中央に立っていたのは鎖繰。倒れていたのは蛍丸。
 腕をなくして佇んでいたのは鎖繰だった。
「無事か?」
「月奏さん、その腕……」
 鎖繰は蛍丸を助け出すために、一体を切り伏せ、間に合わなかったからもう一体を右手で引きはがしたのだ。
 その結果、右腕ははじけ飛んだ。
「すまない、君たちを巻き込んだ」
「そんなことはありません! 早く! 早く治療しないと」
「君たちだけでも逃げてくれ、H.O.P.E.の庇護下にある君たちは、襲えないから」
「ああああああ!」
 燃衣は獣のように叫ぶと、軋む体に鞭打って駆けだした。
 感覚でわかる、肋骨が折れてどこかに刺さっている。一呼吸ごとに血なまぐさく、脂汗が止まらない。
 だがそんな傷、筋肉には関係ない。無理やり電気信号で動かして、敵を殴り飛ばしていく。
「ああああああ!」
 死体に鼻を突っ込む豚のような異形も。その全身を刃として落陽のメンバーに抱き着く異形も。その血を浴びるように傷口をえぐり続ける異形も。
 すべては闘技場の中心でふんぞり返っている玄武という男の分身なのだろう。
 あの、中心で身悶えている魔人の。
「ああ、僕を憎んで! そう、その視線いい。だから全員殺さないんだよ! 嬲り殺してあげるからね」
 直後燃衣は拳の加速度にまかせて玄武に殴り掛かった、その無防備な顔面を殴り飛ばすと勢い余って頭は180°回転。しかし。
「いてぇな」
 直後玄武の肺を突き破って伸びる骨。それを飛びずさって回避し、燃衣に群がる異形のもの達を殴り飛ばす。
「君たちには十六体分身では辛いみたいだね」
「逃げろ、燃衣!」
 鎖繰が叫ぶ。
「煤原さん……」
 蛍丸がその指示を待っている。
 そんな中燃衣は一つ言葉をかけた。
「これがあなた達のやり方ですか?」
「やりかた? それは一人一人違うよ、個性があって当然でしょう? 僕はこうやって丁寧に殺していくのが好きだけど。炎で町を包む人が好きなのがいれば、人同士で殺しあわさせるのが好きな人もいるよ? それは好みだよ」
「では、あなた達はずっとこんなことを?」
「面白くない質問だね」
「愚神の力を最大限に取り入れているラグストーカーの戦い方は最先端」
 鎖繰が言葉を続けた。
「そして最悪。一人一人が無敵とも思える特殊性を有している。そしてこの男ですら、脅威性は最下位」
 突如玄武は謳うように告げた。

我は嘲笑う者。
我は災厄の使者。
我は這い寄る者。
我は悪意。
我が名はラグストーカー。

「我らの前にはどんな希望も、戦略も、力も英雄も無意味だ!!」
 直後異形の肉塊たちが玄武を中心に集まった。
 その肉塊を食い散らかし、玄武は体のかたちを変えていく。まるで生け花の花のように背中から無数の触手を生やし、もはや人間とは呼べないほどのフォルムの巨大で醜悪な化け物と。それはなった。
「敬意を表して全力で遊んであげるよ!!」
 直後振るわれるのは闘技場を粉砕しかねないほど、巨大で力強い鞭うちの連打。
「煤原さん、この人」
 そう蛍丸は攻撃を避けながら燃衣を振りむいた。
「煤原さん?」
 燃衣の表情を見つめる、その顔は今まで見たことが無いくらいに凍り付いていた。
「お前……」
 業焔が腕を伝う。次の瞬間燃衣はその触手の一本を掴みとっていた。
「このゴミ不細工野郎が」
「え?」
 蛍丸は一瞬耳を疑った。
「殺す、息もできねぇぐらい変形させてやる」
 直後燃衣は触手を駆け上がる。
「無駄だ! そいつは何度も再生する」
 そう鎖繰が告げると燃衣は答える。
「再生するなら、再生できなくなるくらいに。ぶち殺す!」
 直後肉塊の中心までたどり着いた燃衣。
「そう言うことですか、敵の懐ならその攻撃力も発揮できない」
「おおおおおおおおお!」
 あとの燃衣は拳を振り続けるだけだった。
 爆炎にまみれ、自分の指の骨が次第に砕けようと。体が焦げ付こうとお構いなしで叩き続けた。
「んぎぃ、ぎもぢいいいいい。憎しみが! ボクにはいってくるぅうううう」
 鎖繰があからさまに引いている中。再生と破壊の連鎖は途切れることなく続けられた。
「煤原さん……」
 蛍丸はその背を癒し続ける、少しでも少しでも無事に帰ってこれる可能性が高まるように。
(信じたくなかった)
 燃衣はそんな中、考えていた。
 彼が行ったとされる数々の事件。そして。
 今回の玄武の行い。
(虐殺行為を君が行ったと『言われている』だけだと思いたかった。けど違うみたいだ)
 燃衣は掘り進める。やがて彼の肺のようなパーツを見つける。
(だったら僕は今度こそきちんと決意しないといけない、でもそれは)
 その人間にとって絶対重要な器官。そこすら破壊されればどうなるか。
 燃衣はありったけの霊力をその手に込める。
「貫通! 連拳!」
 直後玄武の胸が爆発した。
 あたりに飛び散る鮮血と。そして。
 傾いでいく肉の塊。
「燃衣!」
「煤原さん!!」
 そう駆け寄る二人だったがそれを片手で制する燃衣。
「まだです」
 振り返ればそこには玄武、相変わらず人間とは思えないフォルムだったが、その表情は苦痛で彩られている。
 だがそれだけで、今燃衣が出てきた穴はとうに塞がっていた。
「暴力的な再生能力」
 蛍丸は思わずつぶやいた。
「いでぇぇぇぇ、ああああ、くそ。いでぇぇぇ、なぁぁぁ、いたいのは嫌いだ。きらい、きらい。いひひひ」
「まだ、やりますか?」
 燃衣は告げる。
「いや、良い憎悪だった。僕はそれをまた味わいたい、だから」
 そう告げると玄武は体を膨張させる。
 まずい、そう三人が目を見開いた途端。大爆発。
 二人の前に蛍丸が出る。
 彼は全身に大量の鮮血を浴びた。
「まだまだ生かしておいてやるよ」
 その声はどこか遠くに消え去り、顔をあげて見ればそこにはすでに彼はいなかった。
「逃しましたか」
 燃衣は肩を落とす、しかし。
「発信機は生きてます」
 蛍丸は血を拭きとって告げた。最後の爆発の威力はそうでもなく、目くらましだったらしい。
「やられっぱなしではいられませんよ」
 そう告げて蛍丸は笑った。
「反撃しましょう、僕たちはもう逃げられないところまできている」

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
『煤原 燃衣(aa2271) 』
『黒金 蛍丸(aa2951) 』
『月奏 鎖繰(つきかなで さくり)(NPC)』
『玄武公(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております鳴海です。
そしてあけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今回はいよいよ、ラグストーカーの戦術の一端が垣間見える回ということで、敵を強大に書いてみました。
はたして蛍丸さんと燃衣さんは、この敵をはじめとした、べらぼうに強い敵集団、ラグストーカーに勝てるのか。
楽しみですね、私が楽しみです、これからも原稿お待ちしております。
それでは短めですがこの辺で、鳴海でしたありがとうございました。
WTツインノベル この商品を注文する
鳴海 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年01月20日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.