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『 願いは誰のため 』
雪都ka6604


 街の大通りは多くの人々が行き交っていた。
 雪都は人々を器用に避けながら、うつむき加減で足早に歩いていく。
 すらりとした容姿に整った顔立ち。
 穏やかな表情で顔を上げ、颯爽と肩で風を切って道を歩いていれば、若い女の子が何人も振り返りそうな青年である。
 だが雪都はそういったことに対して強い抵抗があった。
 ――誰も俺に構うな。
 いつの頃からか、彼は自分の心を閉ざしていたのだ。

 かつて雪都にとても好意的な女の子たちがいた。
 目を輝かせ、親しげに話しかけ、雪都のことを知りたがった。
 もしも彼女たちが雪都自身に興味を持ってそうしていたなら、多少のことは我慢できたかもしれない。
 だが女の子たちが求めていたのは彼に似た別の誰かだった。
 そして女の子たちが求めているものを彼が与えてくれなかったという、理不尽かつ身勝手な理由で、彼は酷く責められたのである。
 ――それは俺のせいなのか?
 昨日まで優しかった人に、手のひらを返したように辛く当たられる。
 すると近づいてくる人が皆、次には自分を攻撃してくるのではないかと身構える。
 相手もまた、身構える雪都に眉をひそめ、去っていく。

 モウドウデモイイ。
 誰モ俺ニ近ヅクナ。

 そんな意思で全身を鎧のように包み、彼は『自分』を外敵から守っていたのだ。
 それは生き物としては当然の反応だったかもしれない。

 ――これでいい。初めから期待しなければ、傷つくこともない。

 雪都は自分にそう言い聞かせて生きるようになっていた。

 だが広い世の中には、そんな鎧をものともしない者もいる。
 雪都は歩きながらずっと、その友人のことを考えていた。



 ――友人が依頼で大怪我をして戻ったらしい。
 その知らせを聞いた雪都は、眉を寄せて低く呟いた。
「……まさか、本当にやるなんて」
 驚きと呆れが混じった声だ。
「いや、それよりも。本当に効くものなんだな……アレ」
 雪都は一瞬感心した後に、眉間の皺をますます深くしてしまった。

 少し前のこと。
 依頼に赴く友人に、ちょっとしたアドバイスをしてやったのだ。
 半分、いや八割がたネタのような内容だったが、リアルブルーに古くから伝わる医学の知識だとか何だとか、ちょっと話を盛ったような気はしないでもない。
 だが相手がまさか、危険な場面で本当に使うとは思わなかったのだ。
 しかもそれがある程度効果を及ぼすなんて。……それも、良くない方に。

「別に、俺のせいじゃない」
 動揺が少し落ち着いた後で、彼が思ったことだった。
 なのに、全く心の中に響かない。
 なぜなら雪都自身が、本当にそう思っているわけではないから。
「あんな話、冗談に決まってるだろう。真に受けるほうがどうかしているぞ」
 そんな風にも考えてみた。
 けれど雪都自身が全く納得できない。
 ざわざわと落ち着かない心をなだめるためには、そんなことではだめだったのだ。

 自分の言葉を疑う事もせず、素直に実行した友人。
 馬鹿がつくほどの純粋さ。
 けれどその純粋な心は、閉ざしたままの彼の心に小さな窓を作ってくれた。
 いつから溜まっていたのかすら分からないほどに淀んでいた空気が、窓から入ってきたさわやかな風に吹き飛ばされて行く。

「悪かった」

 風通しの良くなった胸の隅っこから、やっと雪都を納得させる言葉が転がり出てきた。



 そして雪都は『ラッキースター』という、幸運のお守りを手に入れた。
 ――今度こそ友人に本当の幸運が訪れ、不運から守ってくれますように。
 心からの願いをこめて、このお守りを友人に渡したい。
 そうして家を飛び出したまでは良かったのだが、彼の表情はまたかげってゆく。
 ポケットに突っ込んだお守りが、ずっしりと重く感じる。

(どうやって渡すんだ? これ……)

 以前にもプレゼントを渡したことはある。
 けれどそのときは気合を入れるような場面でもなかったし、流れやノリとでもいうような雰囲気もあった。
 こんな風にわざわざ出かけて行って、顔を合わせて無事を確認して、謝って、お守りを渡す。
 他人との接触を避けてきた雪都にとって、まさに『どんな顔をしていいのか分からない』場面だ。
 なのに、だ。
 不思議なことに足は止まらない。
 頭の中ではいろんなことがぐるぐる回っていて、少し落ち着いて考えさせてほしいのに、足は一歩でも先へ、一刻も早くと、歩くスピードを上げて行く。

 ――どうしてこんなに混乱しているのに、そんなに急ぐんだ?
 雪都は自分の足に尋ねた。
 ――あいつの元気な顔を早く見たいからだろう?
 雪都の唇がほんの少し緩む。
 ――ああ、そうか。そうだよな。

 理由はシンプルだった。そう、これだけで充分だ。


 誰かを思う。
 誰かのために願う。
 それは本来、楽しくて幸せなことのはずだった。
 雪都の胸の中をまた、気持ちの良い風が吹き抜けて行く。

「あいつ、本当はすごい奴なのかもな」

 そうだ、それを伝えてやろう。
 すごいには、馬鹿正直すぎるだろうという意味もこめて。

 頭の中も、胸の中も、いつのまにかぐんと明るくなっている。
 誰かに幸せになってほしいと思えば、自分も幸せになれる。

 ――ああ、あの女の子たちに足りなかったのは、これだったのかな。

 さっきより少しだけあげた顔を、穏やかな冬の日差しが照らしていた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6604 / 雪都 / 男性 / 19歳 / 人間(RB)/ 符術師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度のご依頼、誠にありがとうございます。
依頼でご縁をいただいて、このような形でノベルに繋がっていくのは本当に嬉しく、シナリオマスター兼ライター冥利に尽きます。
キャラクター様にとって、今回の出来事が素敵な転機になればと思いながら執筆いたしました。
お気に召しましたら幸いです!
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ファナティックブラッド
2017年02月28日

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